地上編
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page001:補充要員
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「──我が艦からアーク・エンジェルへ補充できるのは、残念ながら彼女一人になりそうだ」
呼び出しを受けてブリッジへ顔を出した矢先。
上官に手招きされたティアは、通信中と思われるその男の傍に立った。
通信先の女性に紹介された直後の、転属命令。
事前説明もなかったそれに、ティアは青ざめた。どういうことかと、すぐにでも泣きつきたい気持ちだ。
けれど、相手は──アーク・エンジェルは大変な危機的状況を逃れてきた艦でもある。ティアの個人的な問題は、現状進行の妨げにしかならない。
──中立国オーブ所有のコロニーである“ヘリオポリス”が、スペースコロニー群プラントの武装組織であるザフトによる襲撃を受けたのは先日のことだった。
秘密裏に共同開発していたらしい新型MSの5機のうち、ストライクガンダムを除く4機が奪取された事件は現在も話題となっている。
その開発計画を提唱し進行させてきたのが、現在は地球連合軍第8艦隊司令官であるデュエイン・ハルバートン少将だった。ティアにとっては士官学校時代の教官の一人で、二週間ほど前から直属の上司だ。
いち軍医でしかないティアの事を、わがままでしかない言い分にも関わらずこうして転属させてくれた人物でもあるが。せめて、艦を降ろされる件に関しては、もう少し前置きくらいしてもらいたかった。
「唐突な話ですまないが、君にとってはいい転機になると判断した」
黙って通信が終わるのを待っていたティアが口を開くよりも前に、ハルバートンが重苦しい口調で告げる。
「でも、私はここを離れたくありません。艦長に多大な迷惑をおかけしているのは重々承知していますが、アーク・エンジェルの方々では、権限が──」
「一時的でも構わないのだ。先ほどわかったことだが、ストライクのパイロットは民間人の少年で、それもコーディネイターらしい」
中立国オーブのコロニーなのであれば、コーディネイターもナチュラルと共に過ごしていても可笑しくはない。突然の襲撃に、身を守る為に行動しているうちにMSのところへ辿り着く、こともあるかもしれない。
「君だって、機械には強い。身に覚え だってあるだろう?」
「~~~その話は黒歴史なので言わないでくださいと何度も!」
研修中にやらかした記憶があるティアは、話題にあがっているコーディネイターの少年の経緯については何も言うことが出来なかった。巡り合わせというのは理不尽なのだ。
「艦長のおっしゃることはわかりましたが……」
それでも、頷くことができない。このままでは、すぐに連れ戻されてしまうのは目に見えている。
デュエイン・ハルバートンという人物だから、防波堤となってもらえるのであって、それ以外の人間ではダメなのだ。
「反コーディネイターを掲げるブルーコスモスに近しい軍人ばかりだからな、本部は。であるのに、君の事を抱え込もうとする真意が見えないうちは、簡単には明け渡したりはせんよ」
あくまで下見をしてからだと言ったろう──続けられた言葉に、ティアは目を丸くした。すぐ傍にいた副官のホフマンに視線で尋ねれば、無言で頷かれてしまう。
通信の後半部分は、気が動転して聞いていなかった。
真っ赤になった顔を両手で覆いながら謝罪すれば、司令官に大笑いされてしまう。全ては突然呼び出したハルバートンのせいであることはブリッジメンバーは把握しているのだが。
今のティア・ラードナーには、そんなことに気づく余裕はない。
「──ティア!」
第8艦隊の旗艦メネラオスから、輸送用のシャトルで上官たちと共にアーク・エンジェルへ来訪したティアは、聞き覚えのある声のする方向へ首を巡らせた。
来訪者を迎える士官集団の中──ナタル・バジルール。乗船名簿を見て事前に知っていたティアは、懐かしい気持ちでいっぱいになって、ぴょんと跳ねるようにしてその女性に飛びつく。
「ナタル姉さん!」
「ちょ……お前は、少し落ち着け!」
文句を言いながらも受け止めてくれる女性の、不器用な優しさは相変わらずだ。ティアは半年ぶりに再会する相手を見上げ、頬を紅潮させている女性に笑みを向けた。
「少しは場を弁えろ、もう18だろう」
「去年も言われました~」
説教じみた事を言うナタルの腕に引っ付きながら言葉を返せば、周囲の視線もあって色々諦めたのか、女性は呆れたようなため息をついた。けれど、振り払われることはない。
「バジルール少尉、彼女を知っていたのですか?」
周囲の視線もそうだが、ハルバートンと挨拶を交わし終えた──アーク・エンジェルの艦長マリュー・ラミアスが目を丸くして問うてくる。ずいぶん驚いた様子だが、どうしてなのかティアにはわからなかった。
「ええ。ティア・ラードナーは士官学校で後輩でしたので」
「士官学校? ですが、彼女は──」
ナタルの返答に、周囲がどよめくのも無理はない。現在ティアは18才だ。現在士官学校に通っているならまだしも、軍医とはいえ士官として常務しているのが現実。
飛び級の制度を使用したとしても、ナタルの後輩という経緯は異常だった。
現在の情勢下であれば、志願兵の低年齢化と経験不足も多少は考慮されるところだが、ティアの場合は戦争が始まっていない頃の話なのだから。
ティアは思わずたじろいだ。これには深くて分厚い理由がある。ハルバートンは全容を勿論把握しているが、普通に考えればおかしい事。ナタルに至っては親戚の事は知られているので、それ関連だろうと思ってはくれているはず。
けれど、あまり公にはしたくない。
「ラードナー君は、教官としては私の最後の教え子だ。最終的には軍医としての道を選びはしたが、非常に優秀な子だよ」
どよめきを威厳と貫禄で制したのはハルバートンだ。彼に手招きされたティアは、ナタルから離れて少将の男の傍に立つ。それでも周囲の視線が痛いから、影に隠れるようにして。
「へえ~すごいじゃないの! 士官学校で軍人として学びながら、医官の試験もパスしたってことだろう?」
気まずい雰囲気を一蹴するような気さくな声に、ティアはびくっとなりながら頷いた。声の主は背の高い金髪の青年だ。彼は人懐っこそうな顔で手をひらひらさせて。
「少将の仰る通り、なかなかの才女ですね。はじめまして、俺は第7機動艦隊所属ムウ・ラ・フラガ大尉だ。よろしく」
そういって片手を差し出してくるムウの手を、上官の背後からじっと伺う。恐る恐る顔を見上げると、にこにこしながら待ってくれていた。周囲の視線も幾分か和らいだようなので、ティアはハルバートンの影から出て、そうっとその手を握り返す。
「第8艦隊所属メネラオスで軍医を務めています、ティア・ラードナー中尉です。あの、ありがとうございました」
彼の言動のおかげで、雰囲気が変わったような気がする。
素直に礼を述べれば、何のことだかわからない、といった顔で笑ってくれる。ああ、この青年はいい人だ。
その後、一通りの士官の紹介を終えて、数名の上位士官だけで今後の流れの打ち合わせに入ることになった。
その前に、とハルバートンが周囲に視線を走らせる。
「それで、我々に協力してくれている少年たちというのが、彼らかな」
明らかに士官としての姿勢がなっていない一団に、優しい眼差しを向けて。
その中にストライクのパイロットがいない事がわかり、どこに行ってしまったのかと尋ねられた少年たちの中から、眼鏡をかけた少年が手を挙げて。
「彼なら、医務室にいると思います。怪我人の手当の為に」
「それならば、ラードナー君が適任だね」
とんとん拍子で、ティアの行き先がハルバートンたちと別れる方向で定まってしまった。
なんてことだ。もう少し気心の知れた人間が傍にいればどうってことはないのだが。周囲にいる人間の素性がわからない状態での単独行動とあっては、人見知りの気が強く表れてしまうというのに。
けれど、誰かが怪我をしていると知ってしまえば、気が落ち着かなくなるというもの。本業に専念すればきっと誰にも迷惑をかけない程度に不快な思いを相手にさせないはず。
「ええと、大変申し訳ないのですが、医務室へ案内していただいてもよろしいですか?」
「ええ、もちろん、いいですけど……俺たちに敬語を使ってくれるんですか?」
びっくりしたように目を丸くしたのは、眼鏡の少年とは別の人物だ。彼の周りの少年たちも同じような反応をしている。
何もおかしい行動はとっていないはずなのにどうして。早速やらかしてしまったのか、と絶句するティアが思わず「すみません……?」と口にしたものだから、ムウが吹き出して。
「謝る事なんかないだろ、同い年くらいなんだから、まあ仲良くやりなさんな!」
笑いのツボにはまったのか、笑いをこらえながら行ってしまう。マリューやハルバートンたちの肩も震えている辺り、絶対自分は何かやらかしたのだ、とティアは息をのんだ。
「ああ、もう、すみません、私ってばよく言われるんです箱入りが過ぎるって!」
いったい何が変だったのか。年が近いよしみで教えてください、と頭を抱えて少年たちに訴える。彼らはティアの素性を知らないから、きっと遠慮せずに指摘してくれるだろう。
本部では、そういうところがあったから過ごしにくかったのだ。
「やだあ、ラードナー中尉ったら! 変なことしたり言ったんじゃなくて、敬語のことですよ!」
腰が低すぎる軍人を前に、ぽかんとしていた少年たちはそれぞれ顔を見合わせて、やがてくすくすと笑い始めた。その中で、ピンクの軍服姿の少女が笑いをこらえながら教えてくれる。
「バジルール少尉は命令口調だから。艦長やフラガ大尉はそこまでではないけど」
「中尉なのに、思い切り敬語で話しかけられたから驚いちゃって」
なるほど、可笑しい事をしたわけでは本当になかったらしい。ティアはほっとした。
「私の事はティアでいいですよ。敬語なのは癖なので、気にしないでください。身内にもこんなですし」
「気持ちは嬉しいんですけど、怒られるので」
残念そうな顔で固辞してくる少年たちに、そうですか、とティアは引き下がる。無理強いをしては上官命令のようになってしまうだろうから、この辺が潮時だろう。
一つ大きく息をついて、改めてティアは彼らに向かった。
「それでは……お手数ですが医務室までよろしいですか? サイさん、カズイさん、トールさんと、ミリアリアさんですよね」
乗船名簿で、志願兵扱いとなっている少年たちの名前は把握済みだ。
驚いた顔で固まった少年たちは、すぐに破顔して。「怒られたらティアさんのせいですからね」とミリアリアが手を差し伸べてくれる。
その手を握り返しながら、ティアも笑みを返すのだった。
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「──我が艦からアーク・エンジェルへ補充できるのは、残念ながら彼女一人になりそうだ」
呼び出しを受けてブリッジへ顔を出した矢先。
上官に手招きされたティアは、通信中と思われるその男の傍に立った。
通信先の女性に紹介された直後の、転属命令。
事前説明もなかったそれに、ティアは青ざめた。どういうことかと、すぐにでも泣きつきたい気持ちだ。
けれど、相手は──アーク・エンジェルは大変な危機的状況を逃れてきた艦でもある。ティアの個人的な問題は、現状進行の妨げにしかならない。
──中立国オーブ所有のコロニーである“ヘリオポリス”が、スペースコロニー群プラントの武装組織であるザフトによる襲撃を受けたのは先日のことだった。
秘密裏に共同開発していたらしい新型MSの5機のうち、ストライクガンダムを除く4機が奪取された事件は現在も話題となっている。
その開発計画を提唱し進行させてきたのが、現在は地球連合軍第8艦隊司令官であるデュエイン・ハルバートン少将だった。ティアにとっては士官学校時代の教官の一人で、二週間ほど前から直属の上司だ。
いち軍医でしかないティアの事を、わがままでしかない言い分にも関わらずこうして転属させてくれた人物でもあるが。せめて、艦を降ろされる件に関しては、もう少し前置きくらいしてもらいたかった。
「唐突な話ですまないが、君にとってはいい転機になると判断した」
黙って通信が終わるのを待っていたティアが口を開くよりも前に、ハルバートンが重苦しい口調で告げる。
「でも、私はここを離れたくありません。艦長に多大な迷惑をおかけしているのは重々承知していますが、アーク・エンジェルの方々では、権限が──」
「一時的でも構わないのだ。先ほどわかったことだが、ストライクのパイロットは民間人の少年で、それもコーディネイターらしい」
中立国オーブのコロニーなのであれば、コーディネイターもナチュラルと共に過ごしていても可笑しくはない。突然の襲撃に、身を守る為に行動しているうちにMSのところへ辿り着く、こともあるかもしれない。
「君だって、機械には強い。
「~~~その話は黒歴史なので言わないでくださいと何度も!」
研修中にやらかした記憶があるティアは、話題にあがっているコーディネイターの少年の経緯については何も言うことが出来なかった。巡り合わせというのは理不尽なのだ。
「艦長のおっしゃることはわかりましたが……」
それでも、頷くことができない。このままでは、すぐに連れ戻されてしまうのは目に見えている。
デュエイン・ハルバートンという人物だから、防波堤となってもらえるのであって、それ以外の人間ではダメなのだ。
「反コーディネイターを掲げるブルーコスモスに近しい軍人ばかりだからな、本部は。であるのに、君の事を抱え込もうとする真意が見えないうちは、簡単には明け渡したりはせんよ」
あくまで下見をしてからだと言ったろう──続けられた言葉に、ティアは目を丸くした。すぐ傍にいた副官のホフマンに視線で尋ねれば、無言で頷かれてしまう。
通信の後半部分は、気が動転して聞いていなかった。
真っ赤になった顔を両手で覆いながら謝罪すれば、司令官に大笑いされてしまう。全ては突然呼び出したハルバートンのせいであることはブリッジメンバーは把握しているのだが。
今のティア・ラードナーには、そんなことに気づく余裕はない。
「──ティア!」
第8艦隊の旗艦メネラオスから、輸送用のシャトルで上官たちと共にアーク・エンジェルへ来訪したティアは、聞き覚えのある声のする方向へ首を巡らせた。
来訪者を迎える士官集団の中──ナタル・バジルール。乗船名簿を見て事前に知っていたティアは、懐かしい気持ちでいっぱいになって、ぴょんと跳ねるようにしてその女性に飛びつく。
「ナタル姉さん!」
「ちょ……お前は、少し落ち着け!」
文句を言いながらも受け止めてくれる女性の、不器用な優しさは相変わらずだ。ティアは半年ぶりに再会する相手を見上げ、頬を紅潮させている女性に笑みを向けた。
「少しは場を弁えろ、もう18だろう」
「去年も言われました~」
説教じみた事を言うナタルの腕に引っ付きながら言葉を返せば、周囲の視線もあって色々諦めたのか、女性は呆れたようなため息をついた。けれど、振り払われることはない。
「バジルール少尉、彼女を知っていたのですか?」
周囲の視線もそうだが、ハルバートンと挨拶を交わし終えた──アーク・エンジェルの艦長マリュー・ラミアスが目を丸くして問うてくる。ずいぶん驚いた様子だが、どうしてなのかティアにはわからなかった。
「ええ。ティア・ラードナーは士官学校で後輩でしたので」
「士官学校? ですが、彼女は──」
ナタルの返答に、周囲がどよめくのも無理はない。現在ティアは18才だ。現在士官学校に通っているならまだしも、軍医とはいえ士官として常務しているのが現実。
飛び級の制度を使用したとしても、ナタルの後輩という経緯は異常だった。
現在の情勢下であれば、志願兵の低年齢化と経験不足も多少は考慮されるところだが、ティアの場合は戦争が始まっていない頃の話なのだから。
ティアは思わずたじろいだ。これには深くて分厚い理由がある。ハルバートンは全容を勿論把握しているが、普通に考えればおかしい事。ナタルに至っては親戚の事は知られているので、それ関連だろうと思ってはくれているはず。
けれど、あまり公にはしたくない。
「ラードナー君は、教官としては私の最後の教え子だ。最終的には軍医としての道を選びはしたが、非常に優秀な子だよ」
どよめきを威厳と貫禄で制したのはハルバートンだ。彼に手招きされたティアは、ナタルから離れて少将の男の傍に立つ。それでも周囲の視線が痛いから、影に隠れるようにして。
「へえ~すごいじゃないの! 士官学校で軍人として学びながら、医官の試験もパスしたってことだろう?」
気まずい雰囲気を一蹴するような気さくな声に、ティアはびくっとなりながら頷いた。声の主は背の高い金髪の青年だ。彼は人懐っこそうな顔で手をひらひらさせて。
「少将の仰る通り、なかなかの才女ですね。はじめまして、俺は第7機動艦隊所属ムウ・ラ・フラガ大尉だ。よろしく」
そういって片手を差し出してくるムウの手を、上官の背後からじっと伺う。恐る恐る顔を見上げると、にこにこしながら待ってくれていた。周囲の視線も幾分か和らいだようなので、ティアはハルバートンの影から出て、そうっとその手を握り返す。
「第8艦隊所属メネラオスで軍医を務めています、ティア・ラードナー中尉です。あの、ありがとうございました」
彼の言動のおかげで、雰囲気が変わったような気がする。
素直に礼を述べれば、何のことだかわからない、といった顔で笑ってくれる。ああ、この青年はいい人だ。
その後、一通りの士官の紹介を終えて、数名の上位士官だけで今後の流れの打ち合わせに入ることになった。
その前に、とハルバートンが周囲に視線を走らせる。
「それで、我々に協力してくれている少年たちというのが、彼らかな」
明らかに士官としての姿勢がなっていない一団に、優しい眼差しを向けて。
その中にストライクのパイロットがいない事がわかり、どこに行ってしまったのかと尋ねられた少年たちの中から、眼鏡をかけた少年が手を挙げて。
「彼なら、医務室にいると思います。怪我人の手当の為に」
「それならば、ラードナー君が適任だね」
とんとん拍子で、ティアの行き先がハルバートンたちと別れる方向で定まってしまった。
なんてことだ。もう少し気心の知れた人間が傍にいればどうってことはないのだが。周囲にいる人間の素性がわからない状態での単独行動とあっては、人見知りの気が強く表れてしまうというのに。
けれど、誰かが怪我をしていると知ってしまえば、気が落ち着かなくなるというもの。本業に専念すればきっと誰にも迷惑をかけない程度に不快な思いを相手にさせないはず。
「ええと、大変申し訳ないのですが、医務室へ案内していただいてもよろしいですか?」
「ええ、もちろん、いいですけど……俺たちに敬語を使ってくれるんですか?」
びっくりしたように目を丸くしたのは、眼鏡の少年とは別の人物だ。彼の周りの少年たちも同じような反応をしている。
何もおかしい行動はとっていないはずなのにどうして。早速やらかしてしまったのか、と絶句するティアが思わず「すみません……?」と口にしたものだから、ムウが吹き出して。
「謝る事なんかないだろ、同い年くらいなんだから、まあ仲良くやりなさんな!」
笑いのツボにはまったのか、笑いをこらえながら行ってしまう。マリューやハルバートンたちの肩も震えている辺り、絶対自分は何かやらかしたのだ、とティアは息をのんだ。
「ああ、もう、すみません、私ってばよく言われるんです箱入りが過ぎるって!」
いったい何が変だったのか。年が近いよしみで教えてください、と頭を抱えて少年たちに訴える。彼らはティアの素性を知らないから、きっと遠慮せずに指摘してくれるだろう。
本部では、そういうところがあったから過ごしにくかったのだ。
「やだあ、ラードナー中尉ったら! 変なことしたり言ったんじゃなくて、敬語のことですよ!」
腰が低すぎる軍人を前に、ぽかんとしていた少年たちはそれぞれ顔を見合わせて、やがてくすくすと笑い始めた。その中で、ピンクの軍服姿の少女が笑いをこらえながら教えてくれる。
「バジルール少尉は命令口調だから。艦長やフラガ大尉はそこまでではないけど」
「中尉なのに、思い切り敬語で話しかけられたから驚いちゃって」
なるほど、可笑しい事をしたわけでは本当になかったらしい。ティアはほっとした。
「私の事はティアでいいですよ。敬語なのは癖なので、気にしないでください。身内にもこんなですし」
「気持ちは嬉しいんですけど、怒られるので」
残念そうな顔で固辞してくる少年たちに、そうですか、とティアは引き下がる。無理強いをしては上官命令のようになってしまうだろうから、この辺が潮時だろう。
一つ大きく息をついて、改めてティアは彼らに向かった。
「それでは……お手数ですが医務室までよろしいですか? サイさん、カズイさん、トールさんと、ミリアリアさんですよね」
乗船名簿で、志願兵扱いとなっている少年たちの名前は把握済みだ。
驚いた顔で固まった少年たちは、すぐに破顔して。「怒られたらティアさんのせいですからね」とミリアリアが手を差し伸べてくれる。
その手を握り返しながら、ティアも笑みを返すのだった。
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