第5章 未来の対価。
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第5話 花柱の夢
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──鬼と仲良くするにはどうしたらいいか。
真面目な顔で問われて、ラシードは言葉を失ったものだ。
理想論で語る者は時々いたけれど、鬼狩りを続ける中で鬼に食われ、または幻想であったと諦めた者は多かった。
17歳という若さで命を落とした胡蝶カナエは、現在蟲柱として活躍している“しのぶ”の実の姉だ。彼女が命を落とした時、“しのぶ”はまだ柱ではなかった。
義勇よりも二つ程度離れていたカナエ。彼女と親しくなってから、どのくらいたった頃か、意を決したように問われた。
家族を目の前で殺されたはずなのに、カナエは希望を失っていなかったのだ。
「胡蝶さんのお姉さんとも会っていたんだね」
「死ぬ前は記憶を消してたから覚えてなかったんだけどな。蜜璃と“しのぶ”を足して割った、おっとりした娘だったよ」
無限城の中を駆けながら、時々飛び出してくる鬼を退治しつつ進む。
前をいく悲鳴嶼は、口を閉ざしたままだ。姉妹二人にせがまれたとはいえ、鬼殺隊へ入隊するきっかけとなった事実は、彼女らを尊重すると同時になんとも言えぬやるせ無さもあるのだろう。
生前のカナエ自身も言っていたことだ。悲鳴嶼さんにはその優しさにつけ込んで無理をお願いしてしまい、ちょっぴり申し訳ないなと思っている、と。
「その元花柱が、ラシードと龍田っていう記憶のお化けの同時に存在していることと、どう関係があるのさ」
「あいつが殺される前にさ、ある鬼を紹介したんだよ。少しでもアイツが生き残れる確率上げんのに。これがまた、すぐに意気投合してさぁ」
“神隠し”と呼ばれる怪現象がある。現実的には、単に攫われたとか殺されたとか迷子や遭難、事故が明るみに出ずに行方不明となる事が多い。
けれど、稀に“ちょっとしたズレ”で妖の世界や、少し先の未来に時間軸だけズレてしまったりすることがある。
これは人間の認識のズレが時々生じるように、現実的な社会も些細なきっかけで亀裂なようなものが生じていて、たまたまそこに居合わせたばかりに消えてしまったりするものだ。
そんな神隠しのような血鬼術を使って、無惨からずっと隠れていた鬼。空腹というものからも切り離され、ほとんど人を食べてもいない。禰豆子と違うのは、自分の世界にこもっているから時間を停滞させている為にあまり食わずに済んでいる、という事実だ。
「そいつは元は巫女でな。無惨に無理やり鬼にされてからも、自我をちゃんと保ってた。人を襲う前に死体を食べるようにしててな。何度か陽の光で自殺もしたかったみたいだけど、お日様はいつも雲に隠れちゃうんだと」
「南無……そのようなことが」
あり得るのか──と言いかけて、悲鳴嶼たちが黙る。
ティアという生き証人を知っている為、似たような作用を持っていた鬼なんだろうな、と納得したんだろう。ティア、相変わらず便利なやつ。
当時、カナエは童磨の根城としている万世極楽教に注目していた。もちろんラシードはそこに何が潜んでいるか知っていたが、止めたりすれば当たりだと踏まれて鬼殺隊の精鋭が失われる可能性がある。
かといって、知らないフリをするわけにもいかない。
苦肉の策として、カナエを守る為にその鬼に協力を仰いだのだ。もちろん、二つ返事で女鬼は了承してくれた。
そして、最終的には“カナエの最期のお願いを叶えて”くれた。
「臨月の娘がな、宗教に入れ込んで困ってるって情報があった。カナエはその娘から赤子を託されたんだ。そして、その赤子を守ってほしいと女鬼に託して、自分はその場に留まった」
もちろん女鬼もただでは済まなかった。その赤子も“ほとんど死にかけて”いた。
最期の力を振り絞って、神隠しの血鬼術を発動させた。
鬼の首を斬り終えた無一郎が、なるほど、と嘆息する。
「それが、龍田だったわけか」
死んだ子供にラシードは生まれることが出来る。子供は生死の境界が幼いほど曖昧だとも言われている。無一郎たちは、龍田は餓死した母から生まれたと聞いていた。
カナエを助けて、死ぬ前に童磨から逃れて、ラシードは力尽きかけていた女鬼を見つけて、状況を知った。
そこまでわかれば、あとは“血記術”の出番だ。
ラシードが死んだら、生まれる先を龍田に指定する。神隠しの血鬼術を、ラシードが生まれる頃まで“血記術”で固定。
あとは、ティアの采配に任せて、ラシードはカナエと巫女鬼の記憶を消して寿命を延ばし、次の生まれる先だけ決定してあることだけを書き置きなりに残して把握していた。
記憶を償却して寿命を延ばしたところで、技を繰り出そうとした時の動きにくさなどで五年ももたないのはわかっていた。再生能力を使った分の負荷は取り戻せないから。
「カナエたちは龍田を助けようとしてた。赤子を生かす為には、記憶の権化でしか無い俺にはこういう裏技を使うしかなかった。あとは、龍田がどう生きたいか、選ばせてやろうと思った」
血鬼術と“血記術”の合わせ技だ。
ぶっつけ本番だったが、血鬼術を“血記術”で引き伸ばす実験は桑島藤吉の時に終えていたから、ほぼ見当通りではあったが。
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──鬼と仲良くするにはどうしたらいいか。
真面目な顔で問われて、ラシードは言葉を失ったものだ。
理想論で語る者は時々いたけれど、鬼狩りを続ける中で鬼に食われ、または幻想であったと諦めた者は多かった。
17歳という若さで命を落とした胡蝶カナエは、現在蟲柱として活躍している“しのぶ”の実の姉だ。彼女が命を落とした時、“しのぶ”はまだ柱ではなかった。
義勇よりも二つ程度離れていたカナエ。彼女と親しくなってから、どのくらいたった頃か、意を決したように問われた。
家族を目の前で殺されたはずなのに、カナエは希望を失っていなかったのだ。
「胡蝶さんのお姉さんとも会っていたんだね」
「死ぬ前は記憶を消してたから覚えてなかったんだけどな。蜜璃と“しのぶ”を足して割った、おっとりした娘だったよ」
無限城の中を駆けながら、時々飛び出してくる鬼を退治しつつ進む。
前をいく悲鳴嶼は、口を閉ざしたままだ。姉妹二人にせがまれたとはいえ、鬼殺隊へ入隊するきっかけとなった事実は、彼女らを尊重すると同時になんとも言えぬやるせ無さもあるのだろう。
生前のカナエ自身も言っていたことだ。悲鳴嶼さんにはその優しさにつけ込んで無理をお願いしてしまい、ちょっぴり申し訳ないなと思っている、と。
「その元花柱が、ラシードと龍田っていう記憶のお化けの同時に存在していることと、どう関係があるのさ」
「あいつが殺される前にさ、ある鬼を紹介したんだよ。少しでもアイツが生き残れる確率上げんのに。これがまた、すぐに意気投合してさぁ」
“神隠し”と呼ばれる怪現象がある。現実的には、単に攫われたとか殺されたとか迷子や遭難、事故が明るみに出ずに行方不明となる事が多い。
けれど、稀に“ちょっとしたズレ”で妖の世界や、少し先の未来に時間軸だけズレてしまったりすることがある。
これは人間の認識のズレが時々生じるように、現実的な社会も些細なきっかけで亀裂なようなものが生じていて、たまたまそこに居合わせたばかりに消えてしまったりするものだ。
そんな神隠しのような血鬼術を使って、無惨からずっと隠れていた鬼。空腹というものからも切り離され、ほとんど人を食べてもいない。禰豆子と違うのは、自分の世界にこもっているから時間を停滞させている為にあまり食わずに済んでいる、という事実だ。
「そいつは元は巫女でな。無惨に無理やり鬼にされてからも、自我をちゃんと保ってた。人を襲う前に死体を食べるようにしててな。何度か陽の光で自殺もしたかったみたいだけど、お日様はいつも雲に隠れちゃうんだと」
「南無……そのようなことが」
あり得るのか──と言いかけて、悲鳴嶼たちが黙る。
ティアという生き証人を知っている為、似たような作用を持っていた鬼なんだろうな、と納得したんだろう。ティア、相変わらず便利なやつ。
当時、カナエは童磨の根城としている万世極楽教に注目していた。もちろんラシードはそこに何が潜んでいるか知っていたが、止めたりすれば当たりだと踏まれて鬼殺隊の精鋭が失われる可能性がある。
かといって、知らないフリをするわけにもいかない。
苦肉の策として、カナエを守る為にその鬼に協力を仰いだのだ。もちろん、二つ返事で女鬼は了承してくれた。
そして、最終的には“カナエの最期のお願いを叶えて”くれた。
「臨月の娘がな、宗教に入れ込んで困ってるって情報があった。カナエはその娘から赤子を託されたんだ。そして、その赤子を守ってほしいと女鬼に託して、自分はその場に留まった」
もちろん女鬼もただでは済まなかった。その赤子も“ほとんど死にかけて”いた。
最期の力を振り絞って、神隠しの血鬼術を発動させた。
鬼の首を斬り終えた無一郎が、なるほど、と嘆息する。
「それが、龍田だったわけか」
死んだ子供にラシードは生まれることが出来る。子供は生死の境界が幼いほど曖昧だとも言われている。無一郎たちは、龍田は餓死した母から生まれたと聞いていた。
カナエを助けて、死ぬ前に童磨から逃れて、ラシードは力尽きかけていた女鬼を見つけて、状況を知った。
そこまでわかれば、あとは“血記術”の出番だ。
ラシードが死んだら、生まれる先を龍田に指定する。神隠しの血鬼術を、ラシードが生まれる頃まで“血記術”で固定。
あとは、ティアの采配に任せて、ラシードはカナエと巫女鬼の記憶を消して寿命を延ばし、次の生まれる先だけ決定してあることだけを書き置きなりに残して把握していた。
記憶を償却して寿命を延ばしたところで、技を繰り出そうとした時の動きにくさなどで五年ももたないのはわかっていた。再生能力を使った分の負荷は取り戻せないから。
「カナエたちは龍田を助けようとしてた。赤子を生かす為には、記憶の権化でしか無い俺にはこういう裏技を使うしかなかった。あとは、龍田がどう生きたいか、選ばせてやろうと思った」
血鬼術と“血記術”の合わせ技だ。
ぶっつけ本番だったが、血鬼術を“血記術”で引き伸ばす実験は桑島藤吉の時に終えていたから、ほぼ見当通りではあったが。