第5章 未来の対価。
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第3話 産屋敷家の呪い。
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──首を斬る。
それは刑罰だとか、生贄だとか、正義を手に振るわれるものだと、青年は解釈していた。
人は治らない傷を負えば簡単に死んでしまう。
けれど、鬼は首を斬られない限りは死なない。
平安の時代を生きた鬼の始祖たる鬼舞辻無惨の深層意識の問題なのか。
弱点がどうしてそうなったのか、考えると哀れみが湧いてくる。
鬼柱と名付けたのは無惨だが、青年にだって親につけられた名があった。
そう呼んでくれた人間たちは、青年を生かすために自らの血肉を差し出してもういないけれど。
人が人を殺してはいけない。食べてはいけない。それは人道だ。
けれども、人殺しは存在するし、飢えのために人を食べることもないわけではない。
人道を外れたこと、青年はちゃんと弁えている。
そこは、無惨と青年の考え方の違うところ。
鬼に変容したからか、無惨という生物は生きることならなんでもできる。
自分と人間は違うものだからと、くくってしまえる。
人間を食わなければ死んでしまう事実すら、つきつけてもだからどうしたと意にも介さない。
人がいなくなったら彼は生きていけないのに。
無惨には、未来を見据える思考がなかった。
愚かとも思えるほど、生きることに盲目だった。
だから、例えば太陽を克服したとして、そこから先が用意されていない。
それが彼自身の未来を妨げている事を、受けれてくれなかったから。
太陽を克服した鬼の娘を食べても。
彼が探し求めている青い彼岸花を見つけ出しても。
彼自身という存在は、そこで止まってしまうことを自分自身で定めてしまっていることを。
どんなに指摘しても、彼は今を生きることにしか目を向けられない。
産屋敷家の人間が短命であるのは、鬼舞辻無惨をその血筋から生み出したからだと聞くけれど。
無惨自身が人間の自分に死と隣り合わせの生活をしていたというから、恐らくはたまたまだ。
たまたま、無惨がそうなっただけで、
産屋敷家のだれもがその可能性を秘めていた 。
生きることにどん欲なことは、果たして悪いことだろうか。
子供たちにひもじい思いをさせない為。命を脅かされた時に必死に抵抗する時。
種を守る為だけでなく、人の思いはどこまでも自由だ。制限がない。
“人道”から考えれば、人を食べることは悪いこと。人を殺すのも悪いこと。
鬼柱とてそれはわかっている。人としての名は名乗れない。誰にも口にするつもりもないし、言い訳もしない。
けれど。
どうしても。
──無惨の首を斬らせることは、したくなかった。
「やっこさん、本当に動かなかったな」
庭の一角で空を見上げている青年の後ろ姿を監視しながら、天元がぼやいた。
その隣で茅の輪を握りながらうなづいたティアは、障子を開けながら中を覗き込む。
「龍田はそのまま向かったようなので、私もそろそろ行きます」
「わかった。禰豆子のことは我々に任せなさい」
鱗滝と、人間に戻る為の薬の作用のせいで苦しんでいる禰豆子を交互に見やる。
珠世と“しのぶ”が共同で開発した薬。きっと、上手くいってくれる。
ティアは医療技術に関してはラシードからしっかり教わったけれど、薬学の知識はまだ及ばない。
「天元も、輝利哉くんたちをお願いしますね」
「任せとけ。いいか、ちゃんと、みんなで戻ってきな」
難しい宿題。天元も、自分で言いながら苦笑いをしていた。
長い長い年月を費やして、ここまできたのだ。
すでに、産屋敷前当主と三人の命が失われた直後でもある。
けれど、希望は失いたくない。
頭をなでてくる大きな手の相手に抱き着きながら、行ってきますと口にする。
次の瞬間には、なんだか扉だらけの廊下に景色が切り替わった。
足元にも天井にも障子や襖がある。からくり部屋のよう。
「やだもう、ティアじゃない!」
声とともに抱き着かれて、ティアは思わず笑顔になった。
どこにつくかなと思ったけれど、蜜璃のところだったようだ。
ラシードや龍田と違って、ティアはまだこの“血記術”が使いこなせていない。
もとは記憶のお化けの特性だが、化け物に干渉できるティアもこのくらいなら扱えるのだ。
「いきなり出てくるな、首を飛ばすところだった」
小芭内が柄にから手を放しながらため息をつくものだから、ティアはちょっぴり悪寒を感じてぶるっとなる。
「ティア、龍田ちゃんが無惨に斬られちゃったの! 探しながら動いているのだけど、居場所わからない?」
涙目の蜜璃の状況報告に、ティアは息をのんだ。
恐らくは、どこかで再生していると思う。まだ龍田はそんなに寿命を使っていない。
けれど、気になるのは──“消してしまった血記術”のこと。
記憶の化け物は、死んで次に生まれた時に以前からの記憶を引き継ぐだけの存在だ。
死に際に満足を感じてしまっていた場合、世代交代して、それまでの記憶は消え去って、一から始まる。
これは世代交代と銘打っているけれど便宜上なだけで、恐らくは一体のみの存在なのだと思う。
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──首を斬る。
それは刑罰だとか、生贄だとか、正義を手に振るわれるものだと、青年は解釈していた。
人は治らない傷を負えば簡単に死んでしまう。
けれど、鬼は首を斬られない限りは死なない。
平安の時代を生きた鬼の始祖たる鬼舞辻無惨の深層意識の問題なのか。
弱点がどうしてそうなったのか、考えると哀れみが湧いてくる。
鬼柱と名付けたのは無惨だが、青年にだって親につけられた名があった。
そう呼んでくれた人間たちは、青年を生かすために自らの血肉を差し出してもういないけれど。
人が人を殺してはいけない。食べてはいけない。それは人道だ。
けれども、人殺しは存在するし、飢えのために人を食べることもないわけではない。
人道を外れたこと、青年はちゃんと弁えている。
そこは、無惨と青年の考え方の違うところ。
鬼に変容したからか、無惨という生物は生きることならなんでもできる。
自分と人間は違うものだからと、くくってしまえる。
人間を食わなければ死んでしまう事実すら、つきつけてもだからどうしたと意にも介さない。
人がいなくなったら彼は生きていけないのに。
無惨には、未来を見据える思考がなかった。
愚かとも思えるほど、生きることに盲目だった。
だから、例えば太陽を克服したとして、そこから先が用意されていない。
それが彼自身の未来を妨げている事を、受けれてくれなかったから。
太陽を克服した鬼の娘を食べても。
彼が探し求めている青い彼岸花を見つけ出しても。
彼自身という存在は、そこで止まってしまうことを自分自身で定めてしまっていることを。
どんなに指摘しても、彼は今を生きることにしか目を向けられない。
産屋敷家の人間が短命であるのは、鬼舞辻無惨をその血筋から生み出したからだと聞くけれど。
無惨自身が人間の自分に死と隣り合わせの生活をしていたというから、恐らくはたまたまだ。
たまたま、無惨がそうなっただけで、
生きることにどん欲なことは、果たして悪いことだろうか。
子供たちにひもじい思いをさせない為。命を脅かされた時に必死に抵抗する時。
種を守る為だけでなく、人の思いはどこまでも自由だ。制限がない。
“人道”から考えれば、人を食べることは悪いこと。人を殺すのも悪いこと。
鬼柱とてそれはわかっている。人としての名は名乗れない。誰にも口にするつもりもないし、言い訳もしない。
けれど。
どうしても。
──無惨の首を斬らせることは、したくなかった。
「やっこさん、本当に動かなかったな」
庭の一角で空を見上げている青年の後ろ姿を監視しながら、天元がぼやいた。
その隣で茅の輪を握りながらうなづいたティアは、障子を開けながら中を覗き込む。
「龍田はそのまま向かったようなので、私もそろそろ行きます」
「わかった。禰豆子のことは我々に任せなさい」
鱗滝と、人間に戻る為の薬の作用のせいで苦しんでいる禰豆子を交互に見やる。
珠世と“しのぶ”が共同で開発した薬。きっと、上手くいってくれる。
ティアは医療技術に関してはラシードからしっかり教わったけれど、薬学の知識はまだ及ばない。
「天元も、輝利哉くんたちをお願いしますね」
「任せとけ。いいか、ちゃんと、みんなで戻ってきな」
難しい宿題。天元も、自分で言いながら苦笑いをしていた。
長い長い年月を費やして、ここまできたのだ。
すでに、産屋敷前当主と三人の命が失われた直後でもある。
けれど、希望は失いたくない。
頭をなでてくる大きな手の相手に抱き着きながら、行ってきますと口にする。
次の瞬間には、なんだか扉だらけの廊下に景色が切り替わった。
足元にも天井にも障子や襖がある。からくり部屋のよう。
「やだもう、ティアじゃない!」
声とともに抱き着かれて、ティアは思わず笑顔になった。
どこにつくかなと思ったけれど、蜜璃のところだったようだ。
ラシードや龍田と違って、ティアはまだこの“血記術”が使いこなせていない。
もとは記憶のお化けの特性だが、化け物に干渉できるティアもこのくらいなら扱えるのだ。
「いきなり出てくるな、首を飛ばすところだった」
小芭内が柄にから手を放しながらため息をつくものだから、ティアはちょっぴり悪寒を感じてぶるっとなる。
「ティア、龍田ちゃんが無惨に斬られちゃったの! 探しながら動いているのだけど、居場所わからない?」
涙目の蜜璃の状況報告に、ティアは息をのんだ。
恐らくは、どこかで再生していると思う。まだ龍田はそんなに寿命を使っていない。
けれど、気になるのは──“消してしまった血記術”のこと。
記憶の化け物は、死んで次に生まれた時に以前からの記憶を引き継ぐだけの存在だ。
死に際に満足を感じてしまっていた場合、世代交代して、それまでの記憶は消え去って、一から始まる。
これは世代交代と銘打っているけれど便宜上なだけで、恐らくは一体のみの存在なのだと思う。