第5章 未来の対価。
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
第2話 ごめんね。
——————————————————-
『──やめおいた方がいいと思うわ』
久しぶりに義勇の元を尋ねた時。
藤の花の家紋の家で療養していた少年と居合わせた少女に、自身の正体がバレてしまった。
言わんこっちゃない、とため息をついた義勇の隣で、それなりに反省して縮こまっていると、彼女──胡蝶カナエは困った顔で笑って。
『あなたが鬼の特性を持っていることや、冨岡さんの兄弟子だとか、記憶の権現だとか、そういうこと。今の柱の多くは苛烈な方々だし、師弟共々処分を下される可能性もあるもの』
『そんなにすごいのか。風の噂程度には聞いてたけど、尾鰭かなと』
九人いる柱の中で、カナエの入隊に関係した人間もいるらしい。代々炎柱を排出している煉獄家は今は不在だというが、後継者は階級を順当に上げているらしい。
『義勇、いま階級どの辺なんだ?』
『俺は鬼を狩るだけだから、階級なんて』
『冨岡さんはそろそろ“丙”になる頃よ。これまでに下弦の鬼を三体も倒しているし、妥当だと思うわ』
今回、義勇とカナエは合同の任務だったという。少年の方が怪我の程度が重いのは、連携する上で引き受け手を務めたからだ。
カナエの方も腹部に傷を受けたようだが、少年よりも早く次の任務につくようになるだろう。
『水の呼吸の手数に比べると、花の呼吸だとちょっと今回の鬼とは相性が悪くて。負担をかけさせて申し訳ないわ』
『呼吸に拘ってるからどん詰まりにハマるんだよ。あくまで“型”があってからの“呼吸”なんだから』
型を正しく使えば呼吸だってそれについてくる。カナエはもう全集中・常中を扱えるようだし、花の呼吸を扱いながら派生の原点である水の呼吸の型に似せた手を繰り出せるはずだ。
カナエが許してくれるなら、傷が治る頃合いにでも手合わせしよう、と提案してみる。
下手に鬼殺隊に近づきすぎるな──と忠告してくれたお礼だ。
彼女には、義勇との鍛錬を見られていた。苦痛で手元を狂わせた義勇の日輪刀で傷を受けたのに、すぐ再生したところをだ。
感覚的に、万が一バレても平気かなと判断していたのは内緒だが。
『ラシードとは、手合わせするだけで得るものがある』
不意に義勇からの殺し文句。思わず軽く握った拳でホッペにグーを叩きつけると心外そうな顔で凝視してくる。
『あらあら、男の子はわんぱくなんだから』
カナエは大きく目を丸くしてその様子を静かに見ていたが、どこか嬉しそうな顔で笑った。
「おやおや、久しぶりだねぇ」
信者たちの亡骸に手を伸ばしかけた手が止まる。
今し方部屋に入ってきた影に目を向けて、にこりと笑った。
「君のおかげで無惨様に怒られたじゃないか」
「地団駄踏んでる時に言ったら怒るだろ、普通。相変わらず本当に、ぶっ飛んでんな」
隊服に、流雲模様の羽織。苦笑いで佇むのは──龍田だ。
向かい入れる形となった上弦の弐、童磨は扇を閉じて首を傾ぐ。
鬼殺隊本部を自ら襲撃に行った鬼舞辻無惨。彼からの情報は上弦全てに共有されている。
鳴女の血鬼術──無限城内に引き込む際、龍田は血を吐いた。
肺が潰れて吐血したのだ。
「不自然 だと思ったんだよね。そんなのわかりきってたろうに、あの場でああする必要って何があったのかな」
「“たま”を助けたかっただけだよ。龍田はそれしか考えてなかった。いつかの母親をずっと助けたかったんだ。健気で可愛いだろ」
「否定はしないけどね……君からは薄寒いものを感じる」
童磨は笑みを消して、招かれざる客を見据えた。
なんだろう。先ほど吐血して無惨の攻撃で血飛沫を上げた娘や、ティアを手放すことを勧めてきた娘とも違う。同じ顔なのに。
『ごめんね……私が、会議で紹介するって、約束、したのに……』
少し前に、女の柱を喰らおうとした時に──乱入してきた少年だ。
怒りもなく悲しみもなく、ただ、真っ直ぐに童磨のことを見据えて牽制して来た、あの深い眼差しだ。「これはどういうことだろう?」
「君は死んだんじゃなかったかい? ええと、ラシード君だっけ?」
不思議だなぁ、と思いながら尋ねると、少年は「死んだよ」と短く答えた。薄く微笑んですら見えるその様に、童磨は笑った。
記憶の化け物だから、死んでもまたすぐに生まれて記憶は引き継がれる。それが龍田という女の子だった。
──それでは、目の前にいるコレ は、何だというのか。
「意味がわからないや。男にはあまり興味湧かないんだけど、ラシード君の不可解さには好奇心が疼くなぁ!」
「俺は“お礼を言いに来た”だけ。化物を辞めた奴 に化物の話なんかしても何の身にもならないだろ」
朗らかに笑った少年は、戦慄した様子で固まる青年に、人差し指と中指を真上に立てた拳を突き出す。
「一つはティアのこと。もう一つは、俺の弟子のことだ」
「君の弟子?」
食べ損ねた柱のことだろうか。罵られるのではなくて礼とは。
目をパチクリさせる青年だったが、ラシード本人がくるりと踵を返すものだから驚いて声を上げた。話の途中で切り上げて退室とか、ちょっと人として不味くないかな!?
「仕方ないだろ。お前とはそんなに接点なかったしさ」
「それにしたって、斬り合いもしないで出て行くとかどうなのかな? 君の寿命を削るのだって俺たち上弦の大切なお仕事なんだよ?」
「真面目だなぁ」と肩を竦めるラシードに、「見習って欲しいくらいだよ」と額に手をやる童磨。ああ、なんだってこんなことに。
花柱を後方に庇いながら、ラシードは童磨の暇つぶしに付き合ってやるからこれ以上彼女を傷つけるな、と言って場所を変えた。
一瞬で見知らぬ山奥に飛ばされた時は、鳴女の血鬼術に似ているなと思ったけれど。
思えば、憎しみだとか怒りだとか、ラシードからは感じなかった。
本当に、義務的に、童磨の暇つぶしに付き合ってくれていたと思う──そこが、不気味だった。
「それは、“同族嫌悪”だよ」
胸元を、拳の甲でこつんを叩かれた。
油断していたとはいえ、童磨の懐近くに迫った少年の表情は、感情の見えない顔だけだ。
「“手放してくれて”ありがとうな」
思わず振り払うように扇を振うと、ラシードはそれをもろに喰らってバラバラになった。きれいに形を保たせて置いたはずの娘たちの亡骸も少し傷ついてしまう程、余裕もなく繰り出した、大雑把な技。
かつて──謝罪を口にし続ける血塗れの少女を抱えて、困ったように笑っていた少年。
切羽詰まった様子で駆け寄ってくる別の、足音。
──今し方肉塊に変えたはずの人物の、骨片が、見当たらない。
「……肉塊に変えて……? あ、あーあーやっちゃったよ!」
童磨は散らかった食事を前に頭を抱えた。
せっかくきれいに食べようとしたのに。これでは掃除が大変だ。
おかしいな。なんで技なんて出してしまったんだろう。
人間相手に必要なかったはずなのになぁ。
踏み出そうとした爪先で、何かを蹴り飛ばしてしまう。
それを見下ろした青年は、いよいよ眉をハの字にさせて困り果てた。
なんでこんなところに──刀が転がっているんだろう。
まだ誰もこの部屋に入って来ていないのに。
鞘に手を伸ばして、そのまま水の中に落とす。使う人間の手元を離れて、きっと刀だけここに落ちて来たんだろう。鳴女ちゃんも抜けてるところがありそうだし。
改めて女の腕に手を伸ばし、柱と対決する前の腹ごしらえを始める。
ああ、美味しい──。
——————————————————-
『──やめおいた方がいいと思うわ』
久しぶりに義勇の元を尋ねた時。
藤の花の家紋の家で療養していた少年と居合わせた少女に、自身の正体がバレてしまった。
言わんこっちゃない、とため息をついた義勇の隣で、それなりに反省して縮こまっていると、彼女──胡蝶カナエは困った顔で笑って。
『あなたが鬼の特性を持っていることや、冨岡さんの兄弟子だとか、記憶の権現だとか、そういうこと。今の柱の多くは苛烈な方々だし、師弟共々処分を下される可能性もあるもの』
『そんなにすごいのか。風の噂程度には聞いてたけど、尾鰭かなと』
九人いる柱の中で、カナエの入隊に関係した人間もいるらしい。代々炎柱を排出している煉獄家は今は不在だというが、後継者は階級を順当に上げているらしい。
『義勇、いま階級どの辺なんだ?』
『俺は鬼を狩るだけだから、階級なんて』
『冨岡さんはそろそろ“丙”になる頃よ。これまでに下弦の鬼を三体も倒しているし、妥当だと思うわ』
今回、義勇とカナエは合同の任務だったという。少年の方が怪我の程度が重いのは、連携する上で引き受け手を務めたからだ。
カナエの方も腹部に傷を受けたようだが、少年よりも早く次の任務につくようになるだろう。
『水の呼吸の手数に比べると、花の呼吸だとちょっと今回の鬼とは相性が悪くて。負担をかけさせて申し訳ないわ』
『呼吸に拘ってるからどん詰まりにハマるんだよ。あくまで“型”があってからの“呼吸”なんだから』
型を正しく使えば呼吸だってそれについてくる。カナエはもう全集中・常中を扱えるようだし、花の呼吸を扱いながら派生の原点である水の呼吸の型に似せた手を繰り出せるはずだ。
カナエが許してくれるなら、傷が治る頃合いにでも手合わせしよう、と提案してみる。
下手に鬼殺隊に近づきすぎるな──と忠告してくれたお礼だ。
彼女には、義勇との鍛錬を見られていた。苦痛で手元を狂わせた義勇の日輪刀で傷を受けたのに、すぐ再生したところをだ。
感覚的に、万が一バレても平気かなと判断していたのは内緒だが。
『ラシードとは、手合わせするだけで得るものがある』
不意に義勇からの殺し文句。思わず軽く握った拳でホッペにグーを叩きつけると心外そうな顔で凝視してくる。
『あらあら、男の子はわんぱくなんだから』
カナエは大きく目を丸くしてその様子を静かに見ていたが、どこか嬉しそうな顔で笑った。
「おやおや、久しぶりだねぇ」
信者たちの亡骸に手を伸ばしかけた手が止まる。
今し方部屋に入ってきた影に目を向けて、にこりと笑った。
「君のおかげで無惨様に怒られたじゃないか」
「地団駄踏んでる時に言ったら怒るだろ、普通。相変わらず本当に、ぶっ飛んでんな」
隊服に、流雲模様の羽織。苦笑いで佇むのは──龍田だ。
向かい入れる形となった上弦の弐、童磨は扇を閉じて首を傾ぐ。
鬼殺隊本部を自ら襲撃に行った鬼舞辻無惨。彼からの情報は上弦全てに共有されている。
鳴女の血鬼術──無限城内に引き込む際、龍田は血を吐いた。
肺が潰れて吐血したのだ。
「
「“たま”を助けたかっただけだよ。龍田はそれしか考えてなかった。いつかの母親をずっと助けたかったんだ。健気で可愛いだろ」
「否定はしないけどね……君からは薄寒いものを感じる」
童磨は笑みを消して、招かれざる客を見据えた。
なんだろう。先ほど吐血して無惨の攻撃で血飛沫を上げた娘や、ティアを手放すことを勧めてきた娘とも違う。同じ顔なのに。
『ごめんね……私が、会議で紹介するって、約束、したのに……』
少し前に、女の柱を喰らおうとした時に──乱入してきた少年だ。
怒りもなく悲しみもなく、ただ、真っ直ぐに童磨のことを見据えて牽制して来た、あの深い眼差しだ。「これはどういうことだろう?」
「君は死んだんじゃなかったかい? ええと、ラシード君だっけ?」
不思議だなぁ、と思いながら尋ねると、少年は「死んだよ」と短く答えた。薄く微笑んですら見えるその様に、童磨は笑った。
記憶の化け物だから、死んでもまたすぐに生まれて記憶は引き継がれる。それが龍田という女の子だった。
──それでは、
「意味がわからないや。男にはあまり興味湧かないんだけど、ラシード君の不可解さには好奇心が疼くなぁ!」
「俺は“お礼を言いに来た”だけ。
朗らかに笑った少年は、戦慄した様子で固まる青年に、人差し指と中指を真上に立てた拳を突き出す。
「一つはティアのこと。もう一つは、俺の弟子のことだ」
「君の弟子?」
食べ損ねた柱のことだろうか。罵られるのではなくて礼とは。
目をパチクリさせる青年だったが、ラシード本人がくるりと踵を返すものだから驚いて声を上げた。話の途中で切り上げて退室とか、ちょっと人として不味くないかな!?
「仕方ないだろ。お前とはそんなに接点なかったしさ」
「それにしたって、斬り合いもしないで出て行くとかどうなのかな? 君の寿命を削るのだって俺たち上弦の大切なお仕事なんだよ?」
「真面目だなぁ」と肩を竦めるラシードに、「見習って欲しいくらいだよ」と額に手をやる童磨。ああ、なんだってこんなことに。
花柱を後方に庇いながら、ラシードは童磨の暇つぶしに付き合ってやるからこれ以上彼女を傷つけるな、と言って場所を変えた。
一瞬で見知らぬ山奥に飛ばされた時は、鳴女の血鬼術に似ているなと思ったけれど。
思えば、憎しみだとか怒りだとか、ラシードからは感じなかった。
本当に、義務的に、童磨の暇つぶしに付き合ってくれていたと思う──そこが、不気味だった。
「それは、“同族嫌悪”だよ」
胸元を、拳の甲でこつんを叩かれた。
油断していたとはいえ、童磨の懐近くに迫った少年の表情は、感情の見えない顔だけだ。
「“手放してくれて”ありがとうな」
思わず振り払うように扇を振うと、ラシードはそれをもろに喰らってバラバラになった。きれいに形を保たせて置いたはずの娘たちの亡骸も少し傷ついてしまう程、余裕もなく繰り出した、大雑把な技。
かつて──謝罪を口にし続ける血塗れの少女を抱えて、困ったように笑っていた少年。
切羽詰まった様子で駆け寄ってくる別の、足音。
──今し方肉塊に変えたはずの人物の、骨片が、見当たらない。
「……肉塊に変えて……? あ、あーあーやっちゃったよ!」
童磨は散らかった食事を前に頭を抱えた。
せっかくきれいに食べようとしたのに。これでは掃除が大変だ。
おかしいな。なんで技なんて出してしまったんだろう。
人間相手に必要なかったはずなのになぁ。
踏み出そうとした爪先で、何かを蹴り飛ばしてしまう。
それを見下ろした青年は、いよいよ眉をハの字にさせて困り果てた。
なんでこんなところに──刀が転がっているんだろう。
まだ誰もこの部屋に入って来ていないのに。
鞘に手を伸ばして、そのまま水の中に落とす。使う人間の手元を離れて、きっと刀だけここに落ちて来たんだろう。鳴女ちゃんも抜けてるところがありそうだし。
改めて女の腕に手を伸ばし、柱と対決する前の腹ごしらえを始める。
ああ、美味しい──。