第4章 在りし日の夫婦。(全18話)
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第18話 科戸の風。
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「──まあ、あからさまに様子がおかしいからね」
悲鳴嶼行冥の修行を終えた炭治郎に手を引かれながら、龍田は口元をひき結んだ。
雷の呼吸──我妻善逸の兄弟子である少年が鬼になった。その責任を取って、その師であった桑島慈悟郎は腹を切って、死んだ。
桑島慈悟郎の父、藤吉の記憶を持っている龍田も、その知らせを聞いて一晩泣いた。けれど、龍田は藤吉ではないし、慈悟郎とも直接面識がなかったから、その程度で済んだけど。
「龍田は何か知っているのか?」
「教えないよ。善逸が自分で解決すべきだし、炭治郎もやることがあるんでしょ」
善逸の様子がおかしくて心配な様子の炭治郎。
これは、鱗滝たちとも話したのだが、非公開にすべきことだとして柱までで情報を留めている。
鬼殺隊の隊士が鬼になることは、ないわけではなかった。
多くは鬼になる前に死んでしまうけれど、稀に耐えて鬼となる。
けれど外聞は良くない。まず育手は責められるし、下手をすれば同門の隊士にも批難の目は向けられる。
今回は、慈悟郎の決断と動きが早かったこと。そして、獪岳の鬼化を知らせた彼の鎹烏の、最期の意向も汲まれた。
「話してくれてもいいんだぞ。我慢しなくていいんだからな!」
「鼻が効きすぎる人種はほんと面倒だよ! 君も鱗滝さんも!」
方向音痴でなかったらあまり近付いたりしないのに。いや、善逸の耳も厄介だけども。
そうこうしているうちに、目的地である水屋敷に辿り着く。
柱稽古は、天元による耐久や持続性もろもろひっくるめた体力強化、無一郎による高速移動、蜜璃による柔軟、小芭内の太刀筋矯正、実弥の打込み、悲鳴嶼による“力の扱い方”。
そして、義勇のもとでは──見取り稽古だったか。
「見取り稽古って見て学ぶんだよな。これまでの柱たちのところでも基本だったと思うんだけど」
「君、知らないの? 彼は対人でのお喋りは壊滅的だけど、行動だけなら男でも妊娠されられる達人級だよ」
にんし──真っ赤になって固まる炭治郎を他所に、龍田は義勇の稽古の概要を口にする。
まず隊士と隊士が対決する形で技を撃ち合うのだけど、双方の手助けに間髪入れずに義勇が入るというものだ。
対無惨戦や上弦との対決を考えれば、仲間との連携は取れて当然。まず一対一での戦いなど有り得ない。
「そんなことしなくても、今の柱連中はあれで協調性の取れる戦い方が出来てるんだよね。問題は隊士たちの方」
実弥と小芭内も上手いのだけど、義勇ほどではない。
それを聞いた炭治郎は、まるで自分が褒められたかのようににこにこしていた。兄弟子が褒められて嬉しいのだろう。
それとも、錆兎と義勇が、そんなふうに修行していたのかな、とか思っているのかな。
──なんて、平和なことを考えている間に、義勇と実弥の柱同士の手合わせの直後、炭治郎が余計なことを言って昏倒させられた。
「ちょっと! 実弥はいい加減、炭治郎に甘えるのはやめてよね!」
「誤解を招くようなこと言うんじゃねえ‼︎」
顎にグーを入れられて伸びてしまった炭治郎を、義勇が慌てて抱き上げる中、龍田は肩を怒らせて敷地を出る風柱に引っ付いた。ずるずると引き摺られながらも決して手は離さない。
「好物の話を炭治郎がせっかく振ってくれたのに! 好きなもの褒められて恥ずかしくなったの? そういうのそろそろ卒業しないと、実弥はもう青年期なんだよ!」
つまんないことで人をぶん殴る方が恥ずかしいよ! と言ったところで実弥が空いた方の手で龍田の口を塞いできた。
でっかい溜息。なんだよ、私はなにも間違ったことを言ってないと思うんだけどな。大人の余裕だとでもいうのか。得意な棚上げか。
「妹に叱られてる気分になるから、お前は本当に、いい加減勘弁しろ」
妹いるんだ。風柱の様子を伺いながら、龍田は目を輝かせた。
いいなあ、兄弟。玄弥っていう弟もいて、妹もいるのか。わたしにも居たらよかったなぁ。お母さんもお父さんも死んじゃってるから、無理だけど。
騒ぎ立てないことを約束した上で、実弥が口から手を離してくれる。
もう随分水屋敷からも離れてしまったし、来た道を戻るのは実弥に悪いので、龍田は蝶屋敷へ送ってもらうことになって。
「着くのは日が暮れる頃だろうなぁ、飯食ってくぞぉ。仕方ねえから奢ってやる」
「本当? わたし、うどんがいい!」
「遠慮してんじゃねえぞ。それとも馬鹿にしてんのかぁ」
単にうどんが食べたい気分であっただけなのだが。恐ろしい形相で睨まれて、龍田は天ぷらの美味しい座敷でご飯をご馳走してもらった。
最後に出された旬の果物がたくさん乗った皿が一番龍田好みだった。あまりに絶賛してしまったからだろうか、実弥の分も貰ってしまった。
不死川実弥、良い人だ。
「実弥、さねみっ、また行こうね!」
「わかったわかったぁ、だからあんま引っ付くな。突然襲われても守ってやれねえぞぉ」
兄と呼んで欲しいのか。欲しいならば遠慮なく言ってくれ。私は今日この瞬間から、不死川実弥をお兄ちゃんと呼んでやる。
片腕に全力で引っ付いていた龍田だったが、違和感に直様手を解いた。実弥も同じだったのか、すぐ側の茂みに手を突っ込み──吊し上げる。
肆──と刻まれた、目玉だ。
「何その気持ち悪いの。実弥、ほら、エンガチョ!」
「悪りぃな。なんだか厄介ごとを招いた予感がするぜ」
目玉は血鬼術の類なのか、襲いかかる様子もなく崩れていく。手拭いで手を拭った実弥が両の指を突き合わせると、龍田が手刀で真っ二つにそれを切って──。
「緊急招集、緊急招集──産屋敷邸襲撃!」
烏の羽の音がしたと思ったら。
龍田は悲鳴を上げた。「早すぎる!」
実弥に続いて駆け出しかけて──青年に腰を掴まれて引き寄せられる。
怒りの形相で、睨まれた。
「それは何か、“計画通り”ってことか、ゴラァ」
激しい怒気に、龍田は身を竦める。失言だった、失敗した。
産屋敷は自分のところに無惨を引き寄せて死ぬのだ。龍田と共に。
産屋敷こやの死体に刻まれていた“血記術”の印は、柱にお披露目した後に龍田が消した。
その瞬間から、産屋敷邸を含めて鬼殺隊の要所は鬼に見つかりやすくなっていたのだけれど。
「そうだよ計画通り! なのに、私がここに居たらダメなの! 早く耀哉くんのところに飛ばなきゃなの、放してよ!」
「御館様も絡んでるってんなら尚更だ、何しようとしてる!」
早く門を使いたいが、誰かが一緒にいる場合はいろいろ準備がある。自分一人であれば簡単だが、こう密着されて捕まえられているとそうはいかない。
片腕も掴まれて、焦りもあって龍田は喚いた。「私は死ななきゃ!」
鬼舞辻無惨を倒す方法は、“血記術”で伝えられるはずなのに、その情報だけが“わからないように”されてしまっていた。だから、大元の術を解かねばならない。
術を継いでいる龍田は、その術を次へは繋げなくした。今の龍田が死んだら、次の龍田は世代交代をして赤子同然なのかもしれない──でも、次にも龍田が生まれたなら、全ての記憶を取り戻すかもしれない。
「遠寿郎やラシードたちが繋いでくれた想いを、繋がなきゃ──」
そんな使命感に健気な龍田を、一喝したのは実弥だった。
「そんなことさせる為に俺ァ名前をつけてやったんじゃねえ!!」
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「──まあ、あからさまに様子がおかしいからね」
悲鳴嶼行冥の修行を終えた炭治郎に手を引かれながら、龍田は口元をひき結んだ。
雷の呼吸──我妻善逸の兄弟子である少年が鬼になった。その責任を取って、その師であった桑島慈悟郎は腹を切って、死んだ。
桑島慈悟郎の父、藤吉の記憶を持っている龍田も、その知らせを聞いて一晩泣いた。けれど、龍田は藤吉ではないし、慈悟郎とも直接面識がなかったから、その程度で済んだけど。
「龍田は何か知っているのか?」
「教えないよ。善逸が自分で解決すべきだし、炭治郎もやることがあるんでしょ」
善逸の様子がおかしくて心配な様子の炭治郎。
これは、鱗滝たちとも話したのだが、非公開にすべきことだとして柱までで情報を留めている。
鬼殺隊の隊士が鬼になることは、ないわけではなかった。
多くは鬼になる前に死んでしまうけれど、稀に耐えて鬼となる。
けれど外聞は良くない。まず育手は責められるし、下手をすれば同門の隊士にも批難の目は向けられる。
今回は、慈悟郎の決断と動きが早かったこと。そして、獪岳の鬼化を知らせた彼の鎹烏の、最期の意向も汲まれた。
「話してくれてもいいんだぞ。我慢しなくていいんだからな!」
「鼻が効きすぎる人種はほんと面倒だよ! 君も鱗滝さんも!」
方向音痴でなかったらあまり近付いたりしないのに。いや、善逸の耳も厄介だけども。
そうこうしているうちに、目的地である水屋敷に辿り着く。
柱稽古は、天元による耐久や持続性もろもろひっくるめた体力強化、無一郎による高速移動、蜜璃による柔軟、小芭内の太刀筋矯正、実弥の打込み、悲鳴嶼による“力の扱い方”。
そして、義勇のもとでは──見取り稽古だったか。
「見取り稽古って見て学ぶんだよな。これまでの柱たちのところでも基本だったと思うんだけど」
「君、知らないの? 彼は対人でのお喋りは壊滅的だけど、行動だけなら男でも妊娠されられる達人級だよ」
にんし──真っ赤になって固まる炭治郎を他所に、龍田は義勇の稽古の概要を口にする。
まず隊士と隊士が対決する形で技を撃ち合うのだけど、双方の手助けに間髪入れずに義勇が入るというものだ。
対無惨戦や上弦との対決を考えれば、仲間との連携は取れて当然。まず一対一での戦いなど有り得ない。
「そんなことしなくても、今の柱連中はあれで協調性の取れる戦い方が出来てるんだよね。問題は隊士たちの方」
実弥と小芭内も上手いのだけど、義勇ほどではない。
それを聞いた炭治郎は、まるで自分が褒められたかのようににこにこしていた。兄弟子が褒められて嬉しいのだろう。
それとも、錆兎と義勇が、そんなふうに修行していたのかな、とか思っているのかな。
──なんて、平和なことを考えている間に、義勇と実弥の柱同士の手合わせの直後、炭治郎が余計なことを言って昏倒させられた。
「ちょっと! 実弥はいい加減、炭治郎に甘えるのはやめてよね!」
「誤解を招くようなこと言うんじゃねえ‼︎」
顎にグーを入れられて伸びてしまった炭治郎を、義勇が慌てて抱き上げる中、龍田は肩を怒らせて敷地を出る風柱に引っ付いた。ずるずると引き摺られながらも決して手は離さない。
「好物の話を炭治郎がせっかく振ってくれたのに! 好きなもの褒められて恥ずかしくなったの? そういうのそろそろ卒業しないと、実弥はもう青年期なんだよ!」
つまんないことで人をぶん殴る方が恥ずかしいよ! と言ったところで実弥が空いた方の手で龍田の口を塞いできた。
でっかい溜息。なんだよ、私はなにも間違ったことを言ってないと思うんだけどな。大人の余裕だとでもいうのか。得意な棚上げか。
「妹に叱られてる気分になるから、お前は本当に、いい加減勘弁しろ」
妹いるんだ。風柱の様子を伺いながら、龍田は目を輝かせた。
いいなあ、兄弟。玄弥っていう弟もいて、妹もいるのか。わたしにも居たらよかったなぁ。お母さんもお父さんも死んじゃってるから、無理だけど。
騒ぎ立てないことを約束した上で、実弥が口から手を離してくれる。
もう随分水屋敷からも離れてしまったし、来た道を戻るのは実弥に悪いので、龍田は蝶屋敷へ送ってもらうことになって。
「着くのは日が暮れる頃だろうなぁ、飯食ってくぞぉ。仕方ねえから奢ってやる」
「本当? わたし、うどんがいい!」
「遠慮してんじゃねえぞ。それとも馬鹿にしてんのかぁ」
単にうどんが食べたい気分であっただけなのだが。恐ろしい形相で睨まれて、龍田は天ぷらの美味しい座敷でご飯をご馳走してもらった。
最後に出された旬の果物がたくさん乗った皿が一番龍田好みだった。あまりに絶賛してしまったからだろうか、実弥の分も貰ってしまった。
不死川実弥、良い人だ。
「実弥、さねみっ、また行こうね!」
「わかったわかったぁ、だからあんま引っ付くな。突然襲われても守ってやれねえぞぉ」
兄と呼んで欲しいのか。欲しいならば遠慮なく言ってくれ。私は今日この瞬間から、不死川実弥をお兄ちゃんと呼んでやる。
片腕に全力で引っ付いていた龍田だったが、違和感に直様手を解いた。実弥も同じだったのか、すぐ側の茂みに手を突っ込み──吊し上げる。
肆──と刻まれた、目玉だ。
「何その気持ち悪いの。実弥、ほら、エンガチョ!」
「悪りぃな。なんだか厄介ごとを招いた予感がするぜ」
目玉は血鬼術の類なのか、襲いかかる様子もなく崩れていく。手拭いで手を拭った実弥が両の指を突き合わせると、龍田が手刀で真っ二つにそれを切って──。
「緊急招集、緊急招集──産屋敷邸襲撃!」
烏の羽の音がしたと思ったら。
龍田は悲鳴を上げた。「早すぎる!」
実弥に続いて駆け出しかけて──青年に腰を掴まれて引き寄せられる。
怒りの形相で、睨まれた。
「それは何か、“計画通り”ってことか、ゴラァ」
激しい怒気に、龍田は身を竦める。失言だった、失敗した。
産屋敷は自分のところに無惨を引き寄せて死ぬのだ。龍田と共に。
産屋敷こやの死体に刻まれていた“血記術”の印は、柱にお披露目した後に龍田が消した。
その瞬間から、産屋敷邸を含めて鬼殺隊の要所は鬼に見つかりやすくなっていたのだけれど。
「そうだよ計画通り! なのに、私がここに居たらダメなの! 早く耀哉くんのところに飛ばなきゃなの、放してよ!」
「御館様も絡んでるってんなら尚更だ、何しようとしてる!」
早く門を使いたいが、誰かが一緒にいる場合はいろいろ準備がある。自分一人であれば簡単だが、こう密着されて捕まえられているとそうはいかない。
片腕も掴まれて、焦りもあって龍田は喚いた。「私は死ななきゃ!」
鬼舞辻無惨を倒す方法は、“血記術”で伝えられるはずなのに、その情報だけが“わからないように”されてしまっていた。だから、大元の術を解かねばならない。
術を継いでいる龍田は、その術を次へは繋げなくした。今の龍田が死んだら、次の龍田は世代交代をして赤子同然なのかもしれない──でも、次にも龍田が生まれたなら、全ての記憶を取り戻すかもしれない。
「遠寿郎やラシードたちが繋いでくれた想いを、繋がなきゃ──」
そんな使命感に健気な龍田を、一喝したのは実弥だった。
「そんなことさせる為に俺ァ名前をつけてやったんじゃねえ!!」