第4章 在りし日の夫婦。(全18話)
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第15話 垣根の前で正座の刑。
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「──何考えてんの!」
龍田の怒鳴り声に、炭治郎を見舞っていた善逸と伊之助は顔を見合わせた。三人で蝶屋敷の外に出ると、蜜璃に貰った着物姿の龍田と、同じく外行きの格好の“しのぶ”、蜜璃、真菰と対峙するように、実弥が対峙していて。
というより、現役の柱たちが集合しているような状況だ。
静観、諦観、困惑の一同とは違い、風柱と龍田は威嚇しあっている。
「炭治郎たちのところまで聞こえちゃったかぁ」
「まあ、大人しくしていろというには大事ですねぇ」
真菰と“しのぶ”が苦笑いで寄ってくる。
これはいったい何事か。問うた先から、蜜璃が真っ青になりながら壊れた水道管の暴走の如く経緯を説明してくれた。
柱たちの元を巡っての柱稽古を始める前に、女子会をしよう! ということで蜜璃たちは甘味処や演劇などへ出掛けることになっていた。
それは、炭治郎たちも聞いていたのだけど。
「不死川さんと悲鳴嶼さんは柱稽古の最後の方だから、龍田ちゃんがしばらく付きっきりで稽古することになっていたんだけど!」
「実弥くんが、必要ねぇ! って出掛けに啖呵きってきてさ」
しかも、実弥に続いて、行冥と無一郎までもが続いた。義勇と小芭内は黙秘を続けているからわからない。
さすがに“しのぶ”たちも突然なんだと尋ねたそうだが、その返答が龍田の怒りを買ったらしい。
「お前は本来ならば部外者だろうがぁ! 自分で生き方を選べねえくせに意見してんじゃねえぞゴラァッ‼︎」
ラシードが死んだ後。
生まれた龍田は、本来であれば首が据わる頃の赤子だ。
鬼の特性を使って、寿命の半分を使って成長し、鬼殺隊に協力してくれていた。
龍田にはラシードを始めとした過去の自分の記憶を有しているから。『一番最初に自分がしたことといえば、泣いたことかな』
生まれたばかりの時、どういう感じなのか龍田に尋ねたことがある。
彼女は刀をくるくると片手で回しながら、少し考え込んで、そういっていた。
鬼と戦うとか、鬼に食われるとか、人に殺されるとか、人を殺すとか。
守られて、守れなくて、失って、奪われて。
大切な人に首を斬らせるとか。
『だって、怖いじゃんねぇ』
そういって、困ったように笑った龍田。
「風のおっさん、一番突いちゃいけないところをっ」
「アイツ、一度めそめそし始めると止まらねえって知らねえんだぜ!」
善逸と伊之助が、炭治郎を支えたままギリっと歯噛みする。
炭治郎も風柱の暴言を許せないが、三人とも揃って声高に反論できないのは、その暴言が的をいてもいるとわかっているからだ。
龍田自身が決めたことではない。龍田は、ラシードたちの記憶を見て、合わせてくれているだけだ。
本当は、危ないことをするのは怖いと思う──普通の女の子だ。それを表向き出さないようにしているし、心から炭治郎たちの力になろうとしてくれるのも本当なのだけど。
「俺たちは俺たちで技を磨く。龍田には、一般隊士たちの方に目を向けてほしい」
今後は総力戦になることが見込まれる。柱だけが生き残る確率を上げるのではなく、全員の生存率を上げる必要だってある。
それは後に柱の負担を減らすことにもつながるはずだ。
悲鳴嶼が不死川の言葉足らずな部分を補った。
龍田は俯いたまま何も言わない。
「龍田が頑張ってるの僕たちもわかってるよ。だからこそ、僕らだって君を当てにばかりしてられないって、話し合ったんだ」
赤猫を抱えた無一郎が、まるで引導を渡すように静かに告げる。
本当は、数百年にわたり、龍田に関わってきた誰もが抱いてきた気持ちなのだと思う。
記憶の化け物である事を知って、実際に死んだところ、生まれた後を見た人間は、同じ事を思ったのだと。
──来世では、どうか平穏で幸多からん事を。
誰もが当たり前に、祈る事なのだから。
「勝手なこと言わないでよ」ぶわっと、感情の高まりそのままに龍田が鬼化した。真っ白な髪に、角。真っ赤な目から、ぼろぼろと涙が溢れ、癇癪を起こした子供のように。「死んで欲しくないんだもん!」
「死んだことないからわからないんだ! すごく痛い時もあれば、目を開けたら別の人生が始まってるくらい呆気ないこともあるんだもん! せめて自分が納得できるくらい死ぬまでに余裕持たせてやりたいって気持ちわかんないかな! 死ぬのは怖いんだもんっそんな当たり前のこと忘れてんじゃないよ!」
不死川と悲鳴嶼、無一郎が龍田の髪に吹っ飛ばされて、蝶屋敷の垣根が壊れた。
義勇と小芭内に何もないのは、二人は彼女との鍛錬を辞していなかったからか、表明していなかっただけなのか。
その場にぺたんと座り込んで、龍田が幼子のように泣き出した。
「来世なんてどうでもいいんだもん……今どう生きて、死ぬかなんだもんっ」
お前たちの方こそ考え方改めろよ、バカあああっ。
わーん、と泣き出した龍田に、義勇と蜜璃が慌てて駆け寄って。“しのぶ”が壊れた垣根の前で静かに笑っていたり。
「両成敗、というところか」
ぽかん、と固まっていた炭治郎たちの耳に、小芭内の嘆息が聞こえた。
彼は一部始終を一歩引いたところで眺めていたように思える。
「記憶のお化けだからこその説得力だよねぇ。実弥くんたちも、思うところがあったから避けなかったんでしょ?」
「アイツらに賛同できなかった程度には、俺は龍田を信用している。敬意と遠慮も度が過ぎれば礼を失するというわけだ」
真菰に声をかけられた小芭内は、それだけ言って蜜璃の側に寄って行った。義勇によって角を折られた龍田は、元の姿に戻りながらもまだ泣き止む気配はない。
「死にたくないよ。居なくならないでよ。寿命で死ねよおおお」
「わかったから、龍田。いい加減黙れ、煩い」
「冨岡、お前そういうところだぞ」
相変わらず言葉の足らない義勇に肘で牽制する小芭内。
垣根のそばで無言で悶絶する柱三人は、“しのぶ”の無言の圧力を前に余計に動けず。
「いやあ、派手にやらかしたなぁ!」
「宇髄さん!」「祭の神!」
騒ぎを聞きつけて、ティアと共に姿を現したのは音柱を引退した宇髄。
炭治郎は文通していたが顔を合わせるのは久しぶりのこと。善逸と伊之助は龍田の指示で何度か宇髄の手伝いをしていたようだが。
「お前早く体治せよ! 三人とも、みっちり鍛えてやっから!」
三人の有望な隊士たちを労う宇髄の後ろで、ティアが慌てて垣根を修復していたり。いまだ泣き止まない龍田を義勇がだっこして、小芭内を含めて女子会に参加することになったり。
色々と、処理据置の状態のまま解散することになり。
「女の子らしいこと優先にしていいよって意味だったんだけどなぁ」
僕の場合は──赤猫を抱っこしたまま、無一郎はまるで拗ねるように垣根のそばで横になったまま、唇を尖らせるのだった。
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「──何考えてんの!」
龍田の怒鳴り声に、炭治郎を見舞っていた善逸と伊之助は顔を見合わせた。三人で蝶屋敷の外に出ると、蜜璃に貰った着物姿の龍田と、同じく外行きの格好の“しのぶ”、蜜璃、真菰と対峙するように、実弥が対峙していて。
というより、現役の柱たちが集合しているような状況だ。
静観、諦観、困惑の一同とは違い、風柱と龍田は威嚇しあっている。
「炭治郎たちのところまで聞こえちゃったかぁ」
「まあ、大人しくしていろというには大事ですねぇ」
真菰と“しのぶ”が苦笑いで寄ってくる。
これはいったい何事か。問うた先から、蜜璃が真っ青になりながら壊れた水道管の暴走の如く経緯を説明してくれた。
柱たちの元を巡っての柱稽古を始める前に、女子会をしよう! ということで蜜璃たちは甘味処や演劇などへ出掛けることになっていた。
それは、炭治郎たちも聞いていたのだけど。
「不死川さんと悲鳴嶼さんは柱稽古の最後の方だから、龍田ちゃんがしばらく付きっきりで稽古することになっていたんだけど!」
「実弥くんが、必要ねぇ! って出掛けに啖呵きってきてさ」
しかも、実弥に続いて、行冥と無一郎までもが続いた。義勇と小芭内は黙秘を続けているからわからない。
さすがに“しのぶ”たちも突然なんだと尋ねたそうだが、その返答が龍田の怒りを買ったらしい。
「お前は本来ならば部外者だろうがぁ! 自分で生き方を選べねえくせに意見してんじゃねえぞゴラァッ‼︎」
ラシードが死んだ後。
生まれた龍田は、本来であれば首が据わる頃の赤子だ。
鬼の特性を使って、寿命の半分を使って成長し、鬼殺隊に協力してくれていた。
龍田にはラシードを始めとした過去の自分の記憶を有しているから。『一番最初に自分がしたことといえば、泣いたことかな』
生まれたばかりの時、どういう感じなのか龍田に尋ねたことがある。
彼女は刀をくるくると片手で回しながら、少し考え込んで、そういっていた。
鬼と戦うとか、鬼に食われるとか、人に殺されるとか、人を殺すとか。
守られて、守れなくて、失って、奪われて。
大切な人に首を斬らせるとか。
『だって、怖いじゃんねぇ』
そういって、困ったように笑った龍田。
「風のおっさん、一番突いちゃいけないところをっ」
「アイツ、一度めそめそし始めると止まらねえって知らねえんだぜ!」
善逸と伊之助が、炭治郎を支えたままギリっと歯噛みする。
炭治郎も風柱の暴言を許せないが、三人とも揃って声高に反論できないのは、その暴言が的をいてもいるとわかっているからだ。
龍田自身が決めたことではない。龍田は、ラシードたちの記憶を見て、合わせてくれているだけだ。
本当は、危ないことをするのは怖いと思う──普通の女の子だ。それを表向き出さないようにしているし、心から炭治郎たちの力になろうとしてくれるのも本当なのだけど。
「俺たちは俺たちで技を磨く。龍田には、一般隊士たちの方に目を向けてほしい」
今後は総力戦になることが見込まれる。柱だけが生き残る確率を上げるのではなく、全員の生存率を上げる必要だってある。
それは後に柱の負担を減らすことにもつながるはずだ。
悲鳴嶼が不死川の言葉足らずな部分を補った。
龍田は俯いたまま何も言わない。
「龍田が頑張ってるの僕たちもわかってるよ。だからこそ、僕らだって君を当てにばかりしてられないって、話し合ったんだ」
赤猫を抱えた無一郎が、まるで引導を渡すように静かに告げる。
本当は、数百年にわたり、龍田に関わってきた誰もが抱いてきた気持ちなのだと思う。
記憶の化け物である事を知って、実際に死んだところ、生まれた後を見た人間は、同じ事を思ったのだと。
──来世では、どうか平穏で幸多からん事を。
誰もが当たり前に、祈る事なのだから。
「勝手なこと言わないでよ」ぶわっと、感情の高まりそのままに龍田が鬼化した。真っ白な髪に、角。真っ赤な目から、ぼろぼろと涙が溢れ、癇癪を起こした子供のように。「死んで欲しくないんだもん!」
「死んだことないからわからないんだ! すごく痛い時もあれば、目を開けたら別の人生が始まってるくらい呆気ないこともあるんだもん! せめて自分が納得できるくらい死ぬまでに余裕持たせてやりたいって気持ちわかんないかな! 死ぬのは怖いんだもんっそんな当たり前のこと忘れてんじゃないよ!」
不死川と悲鳴嶼、無一郎が龍田の髪に吹っ飛ばされて、蝶屋敷の垣根が壊れた。
義勇と小芭内に何もないのは、二人は彼女との鍛錬を辞していなかったからか、表明していなかっただけなのか。
その場にぺたんと座り込んで、龍田が幼子のように泣き出した。
「来世なんてどうでもいいんだもん……今どう生きて、死ぬかなんだもんっ」
お前たちの方こそ考え方改めろよ、バカあああっ。
わーん、と泣き出した龍田に、義勇と蜜璃が慌てて駆け寄って。“しのぶ”が壊れた垣根の前で静かに笑っていたり。
「両成敗、というところか」
ぽかん、と固まっていた炭治郎たちの耳に、小芭内の嘆息が聞こえた。
彼は一部始終を一歩引いたところで眺めていたように思える。
「記憶のお化けだからこその説得力だよねぇ。実弥くんたちも、思うところがあったから避けなかったんでしょ?」
「アイツらに賛同できなかった程度には、俺は龍田を信用している。敬意と遠慮も度が過ぎれば礼を失するというわけだ」
真菰に声をかけられた小芭内は、それだけ言って蜜璃の側に寄って行った。義勇によって角を折られた龍田は、元の姿に戻りながらもまだ泣き止む気配はない。
「死にたくないよ。居なくならないでよ。寿命で死ねよおおお」
「わかったから、龍田。いい加減黙れ、煩い」
「冨岡、お前そういうところだぞ」
相変わらず言葉の足らない義勇に肘で牽制する小芭内。
垣根のそばで無言で悶絶する柱三人は、“しのぶ”の無言の圧力を前に余計に動けず。
「いやあ、派手にやらかしたなぁ!」
「宇髄さん!」「祭の神!」
騒ぎを聞きつけて、ティアと共に姿を現したのは音柱を引退した宇髄。
炭治郎は文通していたが顔を合わせるのは久しぶりのこと。善逸と伊之助は龍田の指示で何度か宇髄の手伝いをしていたようだが。
「お前早く体治せよ! 三人とも、みっちり鍛えてやっから!」
三人の有望な隊士たちを労う宇髄の後ろで、ティアが慌てて垣根を修復していたり。いまだ泣き止まない龍田を義勇がだっこして、小芭内を含めて女子会に参加することになったり。
色々と、処理据置の状態のまま解散することになり。
「女の子らしいこと優先にしていいよって意味だったんだけどなぁ」
僕の場合は──赤猫を抱っこしたまま、無一郎はまるで拗ねるように垣根のそばで横になったまま、唇を尖らせるのだった。