第4章 在りし日の夫婦。(全18話)
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第14話 善逸のお説教。
——————————————————-
「──俺はさ、錆兎さんが悪かったと思う」
帰宅の途につき暫く。
途切れた会話から、善逸がわざわざ少し前に起きた水柱と義勇の仲違いを持ち出した。
唐突に始まったこともあるが、錆兎が反発心や煩しさを抱かなかったのは、黄金色の瞳が真っ直ぐに見据えてきたからだ。責めるとかではなくただ、彼自身の意思があったから。
「炭治郎から少しだけあんたらの話聞いてるからさ。錆兎さんや真菰さんが鬼殺隊にいない意味とか、あらかた想像ついてる」
錆兎は、もう死んでいること。善逸の聴覚は、最初から把握していたのだろう。
加えて、義勇から聞こえる感情の音。それで、二人が死に別れた間柄だとか、その過程がどんなものだったのかとか。
「ラシードから聞いてはいたが、難儀な能力だな。お前の心根では放って置けないだろう。気を遣わせて悪かった」
「だぁああもう俺のことは今はどうでもいいんだよ!」
くわっと、善逸が青年の羽織の襟首を掴んだ。
いずれ、こういう諍いを起こすことはわかっていた。
錆兎は死んだ。義勇は生きている。
生き抜けなかった事を申し訳なく思う気持ちに対し、隣に立ち続けられなかったことを悔いる義勇の気持ちも理解できた。
──ずっと、見ていたのだ。
甘ったれな部分が抜けきれなかった友人が、自分を痛めつけるように鍛錬しながら、鬼の首を狩り続けるのを。助けた人間から罵られたりするのを。助けられなかった人を、弔う姿も。一人で立ちすくむ姿を。
自身の無力さを呪い、もう少しマシな鬼狩りにならなれけばと謙虚に力をつけていく義勇を──単純に、錆兎は尊敬していたから。
それを、善逸が真っ向からぶった斬った。
「あんた、叱咤するつもりだったんだろうが水柱の覚悟やこれまでの後悔を含めた気持ちを蔑ろにしたんだよ! それはあの人の努力をまるっと否定することそのものだ!」
錆兎は、死んでしまった立場を真面目に受け入れている。
俺のことはもういい。あれは、自分に力が足りなかっただけだ。
何故なら、自分たちの後の最終選別を生き残った鬼狩りは多い。たまたまあの手鬼に遭遇しなかっただけで運が良かっただけなのかもしれないけれど。
義勇は凄い。俺よりもずっと強くなった。鍛え上げたし、これからも伸ばせるものはあるだろう。だから、いい加減もう少しくらい自分のことを褒めてやってくれ。
そんなようなことを言ったところ、義勇がその場でかちんこちんに固まってしまったのだ。
ぼろぼろ涙だけは流しながら。
ぎょっとする錆兎を善逸が、涙腺がぶっ壊れた義勇をティアが引き取りそのまま解散となったわけなのだけど。
錆兎は善逸にはっきりと告げられて、初めて自分が相当やらかしたことに気がついた。久しく生者と関わってこなかったから、意思疎通が言葉しかないというのは面倒だ。
今の錆兎は思念の塊のようなものだから、例えば考えていることと口から出ていることが別々であった場合気をつけなければダダ漏れになる。
そんな時間が長かったから、自分の心からの本心は義勇に勝手に通じていると錯覚してしまっていた。
先日龍田に言われたことが過ぎる。もっと出しゃばればいいのに。
本当に全く、その通りだった。自分が死んでいるからと、生きている相手に“合わせてもらうようなことを強いてしまう”間違いを犯すくらいならば。
「善逸」
「なっなんだよ! 俺は謝らないからな!」
慌てた様子で善逸が訴えてくるが、錆兎は今生最大の自己嫌悪。
憤怒の形相の青年に見据えられて青ざめる善逸。
「兄弟子たちに仕置きしてもらってくる」
「はえ?」あとのことは頼んだ──そう言い残し目の前から姿を消す錆兎に、善逸が思わず気の抜けた声を漏らした。
次に義勇に会う時は、ちゃんと、向き合って話をしなければ。
今を生きている義勇と付き合う覚悟を、錆兎自身がまだ出来ていなかったせいで、善逸たちを巻き込んでしまった。
不甲斐ない自分の両頬をパンっと叩いて、青年は兄弟子たちのもとへ飛ぶのだった──。
「それで、あの壺の鬼からどんな情報を引き出したの?」
まだ包帯を身につけたまま、柱合会議を終えて霞屋敷に戻ってきた無一郎が尋ねてきた。
ならし稽古を所望されたから食事の下ごしらえをしつつ待機していた龍田は、目を丸くする。
壺の鬼とはなんだろう。
無一郎が目を瞬かせる。
「僕が痣を出した時、無惨の情報捕って来たって言ってたじゃないか。後で教えてくれるって約束したのに」
そんなことを言われても覚えていないのだから仕方ないのでは。
そもそも無一郎が痣を出した──ということ自体覚えがないので、恐らく消したんだろう。そんなに重要性を抱かなかったのか。鍛えるための時間を大切にしたかったのかな、自分。
「あー、待って。近々鹿鳴館の部屋に戻るから資料漁ってくる……今後必要だと思ったことは日記の体で残しておいてるからさ」
「御館様たちも知らなかったみたいだから、早めに把握したほうがいいよ。むしろ、報告してないのに驚いた」
はい、すみません──しゅん、としながら謝ると、無一郎はどこか納得したようにぽんと手を打って。
気にしないでいいよ、とにこりと笑って。
「稽古のことなんだけど、今日はまだダメって胡蝶さんに咎められたんだ。だから、龍田はほかの柱の稽古に付き合ってあげてよ」
ご飯ありがとうね、瞑想した後いただきます。
年相応の素直な様子で笑う無一郎に、龍田は背筋をぴんと伸ばした。
──ちょっと待ってよ、記憶を償却する前の自分。何があった。こんなに仲良くなってたの自分たち。何それ、ずるい!
いいの、気にしないで。
と口に出しながらも、自分への怒りで震えそうになる両腕を、龍田は必死で我慢したという。
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「──俺はさ、錆兎さんが悪かったと思う」
帰宅の途につき暫く。
途切れた会話から、善逸がわざわざ少し前に起きた水柱と義勇の仲違いを持ち出した。
唐突に始まったこともあるが、錆兎が反発心や煩しさを抱かなかったのは、黄金色の瞳が真っ直ぐに見据えてきたからだ。責めるとかではなくただ、彼自身の意思があったから。
「炭治郎から少しだけあんたらの話聞いてるからさ。錆兎さんや真菰さんが鬼殺隊にいない意味とか、あらかた想像ついてる」
錆兎は、もう死んでいること。善逸の聴覚は、最初から把握していたのだろう。
加えて、義勇から聞こえる感情の音。それで、二人が死に別れた間柄だとか、その過程がどんなものだったのかとか。
「ラシードから聞いてはいたが、難儀な能力だな。お前の心根では放って置けないだろう。気を遣わせて悪かった」
「だぁああもう俺のことは今はどうでもいいんだよ!」
くわっと、善逸が青年の羽織の襟首を掴んだ。
いずれ、こういう諍いを起こすことはわかっていた。
錆兎は死んだ。義勇は生きている。
生き抜けなかった事を申し訳なく思う気持ちに対し、隣に立ち続けられなかったことを悔いる義勇の気持ちも理解できた。
──ずっと、見ていたのだ。
甘ったれな部分が抜けきれなかった友人が、自分を痛めつけるように鍛錬しながら、鬼の首を狩り続けるのを。助けた人間から罵られたりするのを。助けられなかった人を、弔う姿も。一人で立ちすくむ姿を。
自身の無力さを呪い、もう少しマシな鬼狩りにならなれけばと謙虚に力をつけていく義勇を──単純に、錆兎は尊敬していたから。
それを、善逸が真っ向からぶった斬った。
「あんた、叱咤するつもりだったんだろうが水柱の覚悟やこれまでの後悔を含めた気持ちを蔑ろにしたんだよ! それはあの人の努力をまるっと否定することそのものだ!」
錆兎は、死んでしまった立場を真面目に受け入れている。
俺のことはもういい。あれは、自分に力が足りなかっただけだ。
何故なら、自分たちの後の最終選別を生き残った鬼狩りは多い。たまたまあの手鬼に遭遇しなかっただけで運が良かっただけなのかもしれないけれど。
義勇は凄い。俺よりもずっと強くなった。鍛え上げたし、これからも伸ばせるものはあるだろう。だから、いい加減もう少しくらい自分のことを褒めてやってくれ。
そんなようなことを言ったところ、義勇がその場でかちんこちんに固まってしまったのだ。
ぼろぼろ涙だけは流しながら。
ぎょっとする錆兎を善逸が、涙腺がぶっ壊れた義勇をティアが引き取りそのまま解散となったわけなのだけど。
錆兎は善逸にはっきりと告げられて、初めて自分が相当やらかしたことに気がついた。久しく生者と関わってこなかったから、意思疎通が言葉しかないというのは面倒だ。
今の錆兎は思念の塊のようなものだから、例えば考えていることと口から出ていることが別々であった場合気をつけなければダダ漏れになる。
そんな時間が長かったから、自分の心からの本心は義勇に勝手に通じていると錯覚してしまっていた。
先日龍田に言われたことが過ぎる。もっと出しゃばればいいのに。
本当に全く、その通りだった。自分が死んでいるからと、生きている相手に“合わせてもらうようなことを強いてしまう”間違いを犯すくらいならば。
「善逸」
「なっなんだよ! 俺は謝らないからな!」
慌てた様子で善逸が訴えてくるが、錆兎は今生最大の自己嫌悪。
憤怒の形相の青年に見据えられて青ざめる善逸。
「兄弟子たちに仕置きしてもらってくる」
「はえ?」あとのことは頼んだ──そう言い残し目の前から姿を消す錆兎に、善逸が思わず気の抜けた声を漏らした。
次に義勇に会う時は、ちゃんと、向き合って話をしなければ。
今を生きている義勇と付き合う覚悟を、錆兎自身がまだ出来ていなかったせいで、善逸たちを巻き込んでしまった。
不甲斐ない自分の両頬をパンっと叩いて、青年は兄弟子たちのもとへ飛ぶのだった──。
「それで、あの壺の鬼からどんな情報を引き出したの?」
まだ包帯を身につけたまま、柱合会議を終えて霞屋敷に戻ってきた無一郎が尋ねてきた。
ならし稽古を所望されたから食事の下ごしらえをしつつ待機していた龍田は、目を丸くする。
壺の鬼とはなんだろう。
無一郎が目を瞬かせる。
「僕が痣を出した時、無惨の情報捕って来たって言ってたじゃないか。後で教えてくれるって約束したのに」
そんなことを言われても覚えていないのだから仕方ないのでは。
そもそも無一郎が痣を出した──ということ自体覚えがないので、恐らく消したんだろう。そんなに重要性を抱かなかったのか。鍛えるための時間を大切にしたかったのかな、自分。
「あー、待って。近々鹿鳴館の部屋に戻るから資料漁ってくる……今後必要だと思ったことは日記の体で残しておいてるからさ」
「御館様たちも知らなかったみたいだから、早めに把握したほうがいいよ。むしろ、報告してないのに驚いた」
はい、すみません──しゅん、としながら謝ると、無一郎はどこか納得したようにぽんと手を打って。
気にしないでいいよ、とにこりと笑って。
「稽古のことなんだけど、今日はまだダメって胡蝶さんに咎められたんだ。だから、龍田はほかの柱の稽古に付き合ってあげてよ」
ご飯ありがとうね、瞑想した後いただきます。
年相応の素直な様子で笑う無一郎に、龍田は背筋をぴんと伸ばした。
──ちょっと待ってよ、記憶を償却する前の自分。何があった。こんなに仲良くなってたの自分たち。何それ、ずるい!
いいの、気にしないで。
と口に出しながらも、自分への怒りで震えそうになる両腕を、龍田は必死で我慢したという。