第4章 在りし日の夫婦。(全18話)
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第11話 無惨の為に。
——————————————————-
「不味い、不味い」
壺の中から出てきた鬼が、食い殺した刀鍛冶を見下ろす。
巧妙に隠されてきた刀鍛冶の里──鬼殺隊の要である武器破壊が始まろうとしていた。
「刀鍛冶の肉など食えたものではないわ。だが、ソレもまタイい……イィい?」
「贅沢言うもんじゃねえな」
上弦の伍の後頭部に片手を埋め込んだのは、鬼化した龍田だった。
びくびくと痙攣する壺の鬼の記憶に触れながら、真っ赤な目は刀鍛冶の里の中心部に向けられる。
「少し“協力”してくれよ。その間、俺はお前たちに手出しできなくなるわけだから──まあ、痛み分けだ」
もしも炭治郎たちが倒されでもした時は致し方ない。
情報収集を切り上げて鬼の首を自分が斬ろう。刀鍛冶を全滅させるわけにはいかないのだから。
鬼舞辻無惨の記憶に忍び込む。あいつがどこまで“進んでいるのか”を探るには、上弦に接触するのが一番手っ取り早い。
上弦の弐は協力的だったけど、その後にだいぶ寿命を持っていかれる事態になったし。記憶の償却だけではどうしようもなかった程に。
あの時──もう少し気付くのが早ければ、“しのぶ”がカナエと死に別れになる必要もなかったかもしれない。未来予知などの能力は残念ながら有していないから、たられば話でしかないが。
引き継いだ記憶に対して後悔を抱きながら、龍田は大きく息をつき、壺の鬼を視界に入れる。
「場合によっては鬼柱を動かさざるを得ないんだよ。あいつは“無惨の為ならなんでもする”からさ」
人間でありながら、鬼舞辻無惨を心酔し、人の血肉を屠って生き、鬼子として蔑まれ、鬼狩りを返り討ちにした“人間離れした身体能力”の持ち主。
鬼舞辻無惨を、“鬼舞辻無惨たらしめる為”に、“産屋敷こや”と手を組んだ、ぶっ飛んだ人物。
壺の鬼の中に潜り込みながら、哀れな人物のことを思う。
「お前は若い鬼だから知らないか──唯一、無惨がどうやっても鬼にすることが出来なかった人間のこと」
──鬼になりたいか。
無感情の声に問われて、少年は大きく頷いた。
食べる物がない時、人は生きる為に選択をする。
ある時は人を襲ってその血肉を。ある時は親族、子、親。
少年にとって、彼の周りの人間たちは食べられることを受け入れている人たちしかいなかった。
新しい世代を生きる者に後を託す。そういう人たちだった。
だから、人を食うことを、悲しいと思いながら、少年は“生きること”を大切に考えていた。
けれど、人は人を食べることを通常のこととしないから、遺されたその少年の“所業”を知ると恐れるばかりで。
生きる為に狩猟をする人々が、他種の生き物を屠る生物が、自分と同じ生き物を食べることを否定している。
少年にとって、自分と人とを線引きする境界だった。
人を食べる生物が“鬼”だというのならば、自分は紛れもなく鬼なんだろう。
自分は人とは違うのだ。
だから、真っ赤な目をしたその男から声をかけられた時。
その男から人の肉片の匂いや、食われた人間一人ひとりを見、音を聞いた時、少年の目からは涙が溢れた。
その言葉が嬉しかったのだ。
──例え叶わない夢物語だとわかっていても。
分裂する鬼達に苦しめられる仲間たち。
足手まといにしかならない無力な人間を守りながら戦う無一郎。
鼓膜を破りながら。
鬼の肉を喰み。
血を燃やし。
各々が、それぞれのやり方で、古から続く思いを研ぎ澄ます──。
「──あの刀鍛冶より先に柱だ」
記憶を辿っていた龍田は、壺の鬼と、無惨の細胞を通して、分裂する鬼の視覚を通し、鬼狩り達の活躍を目視していた。
記憶の化身であるからこういった芸当ができるのだが、自分以外の記憶に入り込む時は同化するようにならなければならないからいけない。
禰豆子から食の記憶を取り上げていた時は、鬼にたりたてということだけでなく、禰豆子が“休眠”体制にあったから可能だった。彼女が覚醒した時には引っ張られかけたけど。
「俺の為に刀を作ってくれて、ありがとう──鉄穴森さん」
ほんの少しだけ離れている間に、随分と凛々しい顔つきをするようになったな無一郎。というより、痣が出ている……出してしまったか。
「随分感覚が鈍いみたいだね。何百年も生きているからだよ」
壺の鬼の首元から血飛沫が上がる。
無一郎の剣技が、上限の鬼を捉えたのだ。
「舐めるなヨ、小僧……ッゾ、こゾォお?」
「熨斗つけて返すわ、その言葉」
するん、と壺の鬼から抜け出ると──無一郎と、その場に居合わせた鉄穴森がぎょっとした顔で凝視してくる。鬼化した姿はあまり知られていないから、特に後者には驚かれた。
「ただいま〜ちょっくら無惨達の情報捕ってきた! あれ、もう用済みだから。やっちゃえ無一郎!」
「相変わらず意味わかんないよラシード。後でちゃんと説明してね」
角を折る龍田の横をすり抜けながら、無一郎が独りごちる。
驚いた。ラシードのことを覚えていたのか。柱合会議の、首を斬られたあの時しか面識はないのに。
ということは、記憶の混濁が解消された? ティアが知ったら喜んで泣き喚く案件勃発。
思わず歓喜のあまり拳を胸高にあげてしまった。
「鉄穴森、後任せたわ。俺は里の方に戻る!」
「ええっ!! 彼を一人にして良いので?!」
「良いから行くんだよ!」
炭治郎たちの方もなんとかなるだろう。それよりも、刀鍛冶達の手当てを始めないと大変なことになる。
恐らく治療できる人間など少ないはずだ。頭の片隅でティアを呼び出すか迷うが、それよりもまず足を動かさないと。
魚人のような壺を背負った鬼を次々と倒しながら、龍田は大きく息を吐く。「アイツも災難なやつだよな」
この数百年、“擬似的な死”によって“一時的な妖の身分”に身を落としてまで、無惨のために手を尽くしてきた人物の一途さには、本当に参る。
無惨の為に、また俺らと共闘しなきゃならないのだから。
これはまた、しばらく各界隈荒れるぞ──眉尻を思い切り下げながら、龍田は大きく技を繰り出し──。
朝日が昇り、禰豆子たちが炭治郎を抱えて戻ってきた。
「お帰りー、ネズは太陽克服できてよかったな! 無一郎はそこにある薬湯飲んで休んでろ、先に炭治郎診る。不死川弟はこれしゃぶっとけ」
近くにいた女性の隠に、蜜璃の手当てを頼む。
禰豆子には瓦礫を退かすのに手を貸してやれと指示すると、角を手渡された玄弥が血相を変えて龍田の肩を掴む。
「お前こいつらの連れだろ! もっとこう、驚かねえのかよ!?」
「あー、間に合ってます」
数日前に文字通り驚愕レベルの驚きを実感したばかりなんで
禰豆子の陽の光の克服に至っては、思いの外早かったな、とは思う。
けれど、珠世とも早い段階から共通認識として見通しはしてあったことだ。記憶の化け物といっても前例として自分だっている。
不死川玄弥は龍田のことを知らないから仕方ないのだろうが。
ポカンとなっている少年の口に、龍田はむぎゅっと角を押し込んだ。
「鬼喰みの能力っていうのは、人としての味覚が麻痺する。食いもん食っても上手くないだろ。暫くそうやってれば味覚くらいは戻してやれるからさ──後で、みんなで飯食おうな!」
あ、その代わり手は貸せよな──びしっと指させば、訳がわからないといった顔をしながらも。
玄弥はちゃんと、炭治郎の手当ての介助を率先して担ってくれた──。
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「不味い、不味い」
壺の中から出てきた鬼が、食い殺した刀鍛冶を見下ろす。
巧妙に隠されてきた刀鍛冶の里──鬼殺隊の要である武器破壊が始まろうとしていた。
「刀鍛冶の肉など食えたものではないわ。だが、ソレもまタイい……イィい?」
「贅沢言うもんじゃねえな」
上弦の伍の後頭部に片手を埋め込んだのは、鬼化した龍田だった。
びくびくと痙攣する壺の鬼の記憶に触れながら、真っ赤な目は刀鍛冶の里の中心部に向けられる。
「少し“協力”してくれよ。その間、俺はお前たちに手出しできなくなるわけだから──まあ、痛み分けだ」
もしも炭治郎たちが倒されでもした時は致し方ない。
情報収集を切り上げて鬼の首を自分が斬ろう。刀鍛冶を全滅させるわけにはいかないのだから。
鬼舞辻無惨の記憶に忍び込む。あいつがどこまで“進んでいるのか”を探るには、上弦に接触するのが一番手っ取り早い。
上弦の弐は協力的だったけど、その後にだいぶ寿命を持っていかれる事態になったし。記憶の償却だけではどうしようもなかった程に。
あの時──もう少し気付くのが早ければ、“しのぶ”がカナエと死に別れになる必要もなかったかもしれない。未来予知などの能力は残念ながら有していないから、たられば話でしかないが。
引き継いだ記憶に対して後悔を抱きながら、龍田は大きく息をつき、壺の鬼を視界に入れる。
「場合によっては鬼柱を動かさざるを得ないんだよ。あいつは“無惨の為ならなんでもする”からさ」
人間でありながら、鬼舞辻無惨を心酔し、人の血肉を屠って生き、鬼子として蔑まれ、鬼狩りを返り討ちにした“人間離れした身体能力”の持ち主。
鬼舞辻無惨を、“鬼舞辻無惨たらしめる為”に、“産屋敷こや”と手を組んだ、ぶっ飛んだ人物。
壺の鬼の中に潜り込みながら、哀れな人物のことを思う。
「お前は若い鬼だから知らないか──唯一、無惨がどうやっても鬼にすることが出来なかった人間のこと」
──鬼になりたいか。
無感情の声に問われて、少年は大きく頷いた。
食べる物がない時、人は生きる為に選択をする。
ある時は人を襲ってその血肉を。ある時は親族、子、親。
少年にとって、彼の周りの人間たちは食べられることを受け入れている人たちしかいなかった。
新しい世代を生きる者に後を託す。そういう人たちだった。
だから、人を食うことを、悲しいと思いながら、少年は“生きること”を大切に考えていた。
けれど、人は人を食べることを通常のこととしないから、遺されたその少年の“所業”を知ると恐れるばかりで。
生きる為に狩猟をする人々が、他種の生き物を屠る生物が、自分と同じ生き物を食べることを否定している。
少年にとって、自分と人とを線引きする境界だった。
人を食べる生物が“鬼”だというのならば、自分は紛れもなく鬼なんだろう。
自分は人とは違うのだ。
だから、真っ赤な目をしたその男から声をかけられた時。
その男から人の肉片の匂いや、食われた人間一人ひとりを見、音を聞いた時、少年の目からは涙が溢れた。
その言葉が嬉しかったのだ。
──例え叶わない夢物語だとわかっていても。
分裂する鬼達に苦しめられる仲間たち。
足手まといにしかならない無力な人間を守りながら戦う無一郎。
鼓膜を破りながら。
鬼の肉を喰み。
血を燃やし。
各々が、それぞれのやり方で、古から続く思いを研ぎ澄ます──。
「──あの刀鍛冶より先に柱だ」
記憶を辿っていた龍田は、壺の鬼と、無惨の細胞を通して、分裂する鬼の視覚を通し、鬼狩り達の活躍を目視していた。
記憶の化身であるからこういった芸当ができるのだが、自分以外の記憶に入り込む時は同化するようにならなければならないからいけない。
禰豆子から食の記憶を取り上げていた時は、鬼にたりたてということだけでなく、禰豆子が“休眠”体制にあったから可能だった。彼女が覚醒した時には引っ張られかけたけど。
「俺の為に刀を作ってくれて、ありがとう──鉄穴森さん」
ほんの少しだけ離れている間に、随分と凛々しい顔つきをするようになったな無一郎。というより、痣が出ている……出してしまったか。
「随分感覚が鈍いみたいだね。何百年も生きているからだよ」
壺の鬼の首元から血飛沫が上がる。
無一郎の剣技が、上限の鬼を捉えたのだ。
「舐めるなヨ、小僧……ッゾ、こゾォお?」
「熨斗つけて返すわ、その言葉」
するん、と壺の鬼から抜け出ると──無一郎と、その場に居合わせた鉄穴森がぎょっとした顔で凝視してくる。鬼化した姿はあまり知られていないから、特に後者には驚かれた。
「ただいま〜ちょっくら無惨達の情報捕ってきた! あれ、もう用済みだから。やっちゃえ無一郎!」
「相変わらず意味わかんないよラシード。後でちゃんと説明してね」
角を折る龍田の横をすり抜けながら、無一郎が独りごちる。
驚いた。ラシードのことを覚えていたのか。柱合会議の、首を斬られたあの時しか面識はないのに。
ということは、記憶の混濁が解消された? ティアが知ったら喜んで泣き喚く案件勃発。
思わず歓喜のあまり拳を胸高にあげてしまった。
「鉄穴森、後任せたわ。俺は里の方に戻る!」
「ええっ!! 彼を一人にして良いので?!」
「良いから行くんだよ!」
炭治郎たちの方もなんとかなるだろう。それよりも、刀鍛冶達の手当てを始めないと大変なことになる。
恐らく治療できる人間など少ないはずだ。頭の片隅でティアを呼び出すか迷うが、それよりもまず足を動かさないと。
魚人のような壺を背負った鬼を次々と倒しながら、龍田は大きく息を吐く。「アイツも災難なやつだよな」
この数百年、“擬似的な死”によって“一時的な妖の身分”に身を落としてまで、無惨のために手を尽くしてきた人物の一途さには、本当に参る。
無惨の為に、また俺らと共闘しなきゃならないのだから。
これはまた、しばらく各界隈荒れるぞ──眉尻を思い切り下げながら、龍田は大きく技を繰り出し──。
朝日が昇り、禰豆子たちが炭治郎を抱えて戻ってきた。
「お帰りー、ネズは太陽克服できてよかったな! 無一郎はそこにある薬湯飲んで休んでろ、先に炭治郎診る。不死川弟はこれしゃぶっとけ」
近くにいた女性の隠に、蜜璃の手当てを頼む。
禰豆子には瓦礫を退かすのに手を貸してやれと指示すると、角を手渡された玄弥が血相を変えて龍田の肩を掴む。
「お前こいつらの連れだろ! もっとこう、驚かねえのかよ!?」
「あー、間に合ってます」
数日前に文字通り驚愕レベルの驚きを実感したばかりなんで
禰豆子の陽の光の克服に至っては、思いの外早かったな、とは思う。
けれど、珠世とも早い段階から共通認識として見通しはしてあったことだ。記憶の化け物といっても前例として自分だっている。
不死川玄弥は龍田のことを知らないから仕方ないのだろうが。
ポカンとなっている少年の口に、龍田はむぎゅっと角を押し込んだ。
「鬼喰みの能力っていうのは、人としての味覚が麻痺する。食いもん食っても上手くないだろ。暫くそうやってれば味覚くらいは戻してやれるからさ──後で、みんなで飯食おうな!」
あ、その代わり手は貸せよな──びしっと指させば、訳がわからないといった顔をしながらも。
玄弥はちゃんと、炭治郎の手当ての介助を率先して担ってくれた──。