第4章 在りし日の夫婦。(全18話)
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
第8話 絡繰人形と笑顔の記憶。
——————————————————-
鬼殺隊から隠れるために、産屋敷の後継を始め、弟子や子供たちを連れて逃れてきた場所は、以前救ったことのある村とは山を挟んで丁度反対側だった。
子供たちを弟子に預け、ことの顛末を見届けた“最後の産屋敷こや”は、傷心のままその村を訪れ──流行病に苦しんでいる混沌とした場に居合わせる。
結局、助けられたのは一人だけだった。
どうか、子供だけでも。心優しい村人たちの願いは、たった一人の生き残りという、絶望と慟哭の体で遺された子供にのし掛かる。
弟子たちの元へ連れて行くこともできた。
けれど、彼女は残ると言って聞かなかった。
“こや”もその時は、帰らなければ弟子たちが下手な行動を起こしかねなかったから、そっとしておくことしかできず。
念の為、門を彼女に手渡して、何かあったら名前を呼ぶよう言付けた。
『“れんごく”さん、私は一人じゃなくなったよ!』
呼ばれて、最初に飛び込んできたのは想定していたものと違っていたな。
長く生きてきた中で、印象に残っている少女は──笑顔がとても、可愛いかった──。
「──伊之助と一緒に行ったんじゃないのか?!」
素っ頓狂な声をあげた炭治郎の目の前には、隊服姿の龍田の姿があった。こうした出立であるとラシードとの見分けはつかない。羽織は鱗滝や炭治郎が最終選別で着ていた着物を羽織っているけれど。
「ちょっと気になることがあってさ。お前は刀の問題解決しに来たんだっけ」
「まあ、最後の手段はお前の角なんだけどな」
あんまり使い過ぎると良くないって言ってたから、と首から下げている角をちょんと触る仕草。
そうだぞ。いつも通りに使おうと思った時に、使えなくなっている可能性があるからやめておいた方がいい。あまり突っ込んだ話をするとはぐらかすのが大変だから言わないけど。
「龍田に言われた通り、ヒノカミ神楽を通しで二時間、毎晩こなしていたんだけどな。それから翌日の調子が良く感じられるんだ!」
「そんじゃ、里から引き上げたら三時間に延ばそう」
わかった! と元気の良い返事。
炭治郎からヒノカミ神楽の存在を知らされたのは、龍田が初めて炭治郎を鍛錬するのに連れ歩いた時だ。どうやって下弦の鬼を前に耐え抜いたのか、という問いかけに対する回答がそれだった。
実際に見せてもらった後、龍田はすぐにそれを再現できた。
驚く炭治郎に、「昔、ある村の神事で舞った神楽に似てるんだよ」と答えたのだけど。
神楽とは色々種類はあるものの、派生はしつつも原型というものはあるものだ。炭治郎の家に伝わるものもその類型だろう。
何より、順序が違うのと攻撃に転じやすい形になっていて理にかなっている。
「寿命って聞くと、ラシードのことを思い出すんだ。俺もヒノカミ神楽を使う上で同じような状況に陥っているということなんだよな?」
「あんま、頷きたくないんだけど」
ヒノカミ神楽の呼吸法が鬼柱と一緒だったから、すぐにわかったことなのだが。体の作りから変えていかなければ。それこそ、世代をかけて。
けれども、龍田はその方法だけは取らなかった。“彼ら”が自分たちで決めて次世代を作っていくならばいいが、化け物である龍田が主導する事は筋違いだと思ったから。
だから、龍田は呼吸を“彼らに合わせる”ことに専念した。まあ、気づけば主流の型の呼吸は既に定番になっていたけれど。それでも、鬼柱の呼吸法に近づく程かかる負荷はやはり大きかった。
──無惨を倒すまでは、この問題には目を瞑らねばならないということなのだろう。人の身でありながら、その任を果たすならば。
「時に炭治郎は、山の中に入って何するんだ? 刀なら鋼鉄塚のとこ行ったほうがいいんじゃね」
「それが、鋼鉄塚さんがどこにも居ないんだよ」
時間を改めるついでに、昨晩蜜璃に聞いたらしい“強くなるための秘密の武器”を探そうと思ったのだという。
蜜璃の言っていたというその武器とやらは、もしかすると龍田の目当てと同じなんじゃないだろうか。無一郎が今取りに行っているけど。絡繰人形。持ってこれるような大きさなのに鍛錬になるってどういうこと。
──なんて、思っていたら炭治郎と無一郎の衝突が起きて、前者が速攻で倒された。
相変わらず容赦ないなあ、無一郎は。
近くで気配を殺して様子を伺っていたらしい鋼鉄塚が、慌てた様子で駆け寄ってきた。炭治郎が加勢に入った先の少年と共に、彼を介抱してくれている。
「あれ。龍田いたんだっけ。あ、君より役に立つ人形見にきたんだったね」
「ちょっとした対抗心ってやつだよ。記憶の化け物対絡繰人形。その実力や如何に! って」
鍵を手にした無一郎の手によって、布で覆われていた人形が暴かれる。
えっと言葉を飲む龍田を他所に、無一郎はすぐ様絡繰人形を起動させ、息もつかぬ間に鍛錬が始まった。
腕が六本。それぞれに刀が握られている。
動きはしなやかで、なるほどこれは鍛錬に向いている。錆兎──いや、真菰ならすぐ様対応できそうだが。
絡繰人形だと言われなければ遠目にはわからないかもしれない。それほど精巧な作り。
──けれど、その出立が問題だった。
「あれが、俺の祖先が作った戦闘用絡繰人形「縁壱」零し──え?」
ちょうど後からやってきた、人形の管理者である少年の説明に被せるように、龍田が呻くようにその名を呼ぶ。
日の呼吸の使い手である縁壱という人物を模した絡繰人形と、その末裔だという霞柱。無一郎の鎹烏からの情報を前に、龍田は真っ青になっていた。
ちょっと待て。なんで縁壱なんだ。いや、確かに“こや”の死期が近いことを彼は気づいていたし、伝えてもいた。“あの子”のことを託したのは二人がまだ成人すらしていない歳の頃だ。
お別れの餞別にと二人の前で舞った神楽。“あの子”にとっては、失った家族や村のおぼろげなお祭りの記憶。縁壱にとっては、“あの子”を形作る世界の一部だと捉えたはずだ。
耳飾りを見た時に、縁壱と同じだとは思ったけれど。
竈門家は彼の血筋なのかなとばかり思っていたのに。
「なんでお前が鬼狩りなんか……“あの子”はどうしたんだ……?」
遠く空の彼方から、雷の気配が迫ってくる──。
——————————————————-
鬼殺隊から隠れるために、産屋敷の後継を始め、弟子や子供たちを連れて逃れてきた場所は、以前救ったことのある村とは山を挟んで丁度反対側だった。
子供たちを弟子に預け、ことの顛末を見届けた“最後の産屋敷こや”は、傷心のままその村を訪れ──流行病に苦しんでいる混沌とした場に居合わせる。
結局、助けられたのは一人だけだった。
どうか、子供だけでも。心優しい村人たちの願いは、たった一人の生き残りという、絶望と慟哭の体で遺された子供にのし掛かる。
弟子たちの元へ連れて行くこともできた。
けれど、彼女は残ると言って聞かなかった。
“こや”もその時は、帰らなければ弟子たちが下手な行動を起こしかねなかったから、そっとしておくことしかできず。
念の為、門を彼女に手渡して、何かあったら名前を呼ぶよう言付けた。
『“れんごく”さん、私は一人じゃなくなったよ!』
呼ばれて、最初に飛び込んできたのは想定していたものと違っていたな。
長く生きてきた中で、印象に残っている少女は──笑顔がとても、可愛いかった──。
「──伊之助と一緒に行ったんじゃないのか?!」
素っ頓狂な声をあげた炭治郎の目の前には、隊服姿の龍田の姿があった。こうした出立であるとラシードとの見分けはつかない。羽織は鱗滝や炭治郎が最終選別で着ていた着物を羽織っているけれど。
「ちょっと気になることがあってさ。お前は刀の問題解決しに来たんだっけ」
「まあ、最後の手段はお前の角なんだけどな」
あんまり使い過ぎると良くないって言ってたから、と首から下げている角をちょんと触る仕草。
そうだぞ。いつも通りに使おうと思った時に、使えなくなっている可能性があるからやめておいた方がいい。あまり突っ込んだ話をするとはぐらかすのが大変だから言わないけど。
「龍田に言われた通り、ヒノカミ神楽を通しで二時間、毎晩こなしていたんだけどな。それから翌日の調子が良く感じられるんだ!」
「そんじゃ、里から引き上げたら三時間に延ばそう」
わかった! と元気の良い返事。
炭治郎からヒノカミ神楽の存在を知らされたのは、龍田が初めて炭治郎を鍛錬するのに連れ歩いた時だ。どうやって下弦の鬼を前に耐え抜いたのか、という問いかけに対する回答がそれだった。
実際に見せてもらった後、龍田はすぐにそれを再現できた。
驚く炭治郎に、「昔、ある村の神事で舞った神楽に似てるんだよ」と答えたのだけど。
神楽とは色々種類はあるものの、派生はしつつも原型というものはあるものだ。炭治郎の家に伝わるものもその類型だろう。
何より、順序が違うのと攻撃に転じやすい形になっていて理にかなっている。
「寿命って聞くと、ラシードのことを思い出すんだ。俺もヒノカミ神楽を使う上で同じような状況に陥っているということなんだよな?」
「あんま、頷きたくないんだけど」
ヒノカミ神楽の呼吸法が鬼柱と一緒だったから、すぐにわかったことなのだが。体の作りから変えていかなければ。それこそ、世代をかけて。
けれども、龍田はその方法だけは取らなかった。“彼ら”が自分たちで決めて次世代を作っていくならばいいが、化け物である龍田が主導する事は筋違いだと思ったから。
だから、龍田は呼吸を“彼らに合わせる”ことに専念した。まあ、気づけば主流の型の呼吸は既に定番になっていたけれど。それでも、鬼柱の呼吸法に近づく程かかる負荷はやはり大きかった。
──無惨を倒すまでは、この問題には目を瞑らねばならないということなのだろう。人の身でありながら、その任を果たすならば。
「時に炭治郎は、山の中に入って何するんだ? 刀なら鋼鉄塚のとこ行ったほうがいいんじゃね」
「それが、鋼鉄塚さんがどこにも居ないんだよ」
時間を改めるついでに、昨晩蜜璃に聞いたらしい“強くなるための秘密の武器”を探そうと思ったのだという。
蜜璃の言っていたというその武器とやらは、もしかすると龍田の目当てと同じなんじゃないだろうか。無一郎が今取りに行っているけど。絡繰人形。持ってこれるような大きさなのに鍛錬になるってどういうこと。
──なんて、思っていたら炭治郎と無一郎の衝突が起きて、前者が速攻で倒された。
相変わらず容赦ないなあ、無一郎は。
近くで気配を殺して様子を伺っていたらしい鋼鉄塚が、慌てた様子で駆け寄ってきた。炭治郎が加勢に入った先の少年と共に、彼を介抱してくれている。
「あれ。龍田いたんだっけ。あ、君より役に立つ人形見にきたんだったね」
「ちょっとした対抗心ってやつだよ。記憶の化け物対絡繰人形。その実力や如何に! って」
鍵を手にした無一郎の手によって、布で覆われていた人形が暴かれる。
えっと言葉を飲む龍田を他所に、無一郎はすぐ様絡繰人形を起動させ、息もつかぬ間に鍛錬が始まった。
腕が六本。それぞれに刀が握られている。
動きはしなやかで、なるほどこれは鍛錬に向いている。錆兎──いや、真菰ならすぐ様対応できそうだが。
絡繰人形だと言われなければ遠目にはわからないかもしれない。それほど精巧な作り。
──けれど、その出立が問題だった。
「あれが、俺の祖先が作った戦闘用絡繰人形「縁壱」零し──え?」
ちょうど後からやってきた、人形の管理者である少年の説明に被せるように、龍田が呻くようにその名を呼ぶ。
日の呼吸の使い手である縁壱という人物を模した絡繰人形と、その末裔だという霞柱。無一郎の鎹烏からの情報を前に、龍田は真っ青になっていた。
ちょっと待て。なんで縁壱なんだ。いや、確かに“こや”の死期が近いことを彼は気づいていたし、伝えてもいた。“あの子”のことを託したのは二人がまだ成人すらしていない歳の頃だ。
お別れの餞別にと二人の前で舞った神楽。“あの子”にとっては、失った家族や村のおぼろげなお祭りの記憶。縁壱にとっては、“あの子”を形作る世界の一部だと捉えたはずだ。
耳飾りを見た時に、縁壱と同じだとは思ったけれど。
竈門家は彼の血筋なのかなとばかり思っていたのに。
「なんでお前が鬼狩りなんか……“あの子”はどうしたんだ……?」
遠く空の彼方から、雷の気配が迫ってくる──。