第4章 在りし日の夫婦。(全18話)
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第7話 三人の任務。
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早朝、指定された時間より早く支度を終えた炭治郎は、ちょうど任務のために出発しようとしていた伊之助を見つけた。
声をかけると、その背後からひょこっと真菰が顔を覗かせる。
「おはよう、炭治郎! 鋼鉄塚さんのところ行くんだってね、刺されないように気をつけてね!」
「さすがに、今は冗談に聞こえないな……」
二人はこれから、龍田とともに外周警護に向かうのだという。当の龍田は寝坊したらしく、今朝食中なのだとか。
だから外で待つ間、軽く鍛錬の稽古しようとしていたそうだ。
「あいつ、近々死ぬんじゃねえか? なんか変だぜ」
「伊之助の言い方は悪いけど……確かに最近なんか本当に、ラシードと全然違うよね。ほんと、別人みたい」
匂いは、変わっていないのだ。禰豆子と同じ、鬼だけどちょっと、違うもの。けれど、鍛錬の前に物怖じするような様子を見せたり、服が破れたりしたら恥ずかしがって動けなくなったり。
年相応の女の子だった。
「でも、あっけらかんと半裸でも気にしない時もあるんだよな」
「あんまりにもな場合は、さすがに私とか“しのぶ”ちゃんたちが止めるけどね」
本来なら赤ちゃんなんだから、そのせいの作用なのかな。そんなことをぼやく真菰を眺めながら、ティアもそんなことを言っていたなと思い出す。
きちんと確認できなかったが、龍田の前、ラシードよりも前の、右京だった時。鱗滝の妻と娘が右京を名乗っていたようなことを言っていた。
鱗滝が首を斬った相手が妻の右京だというならば、その腹に宿っていた子供は死んでしまったはずだ。首を斬られたり鬼に喰われた時は、死んだ子供に宿ると聞いた。
けれど、生まれるには本来決まった期日があるとも聞いている。今回の龍田の場合は、ティアが関与した結果早期に出現できたとは聞いているが。
首を撥ねられた日がたまたま、その日だったのか。いくらなんでもタイミングが良すぎやしないか。
まさか、鱗滝と右京がその為に子を成したとは思いたくない──。
「なあ、ラシードって本当に死んだのか?」
伊之助の問いかけに、炭治郎はハッと顔を上げた。
それは間違いない。治るはずの傷が治らなくなった。寿命だから仕方ないんだと笑っていた。
普通の人なら簡単に傷なんて治らないだろう、と──鬼の要素は寿命を迎えるその時には作用しないということだ。
伊之助と善逸に、またな──と伝えるよう笑って。
首を斬られた瞬間を、炭治郎は見ている。
「言われてみれば不確かではあるな」
「俺も錆兎に賛成。あいつ、“血記術”あるし」
そこへ、錆兎と善逸が加わる。二人はこれから本部へ行き、産屋敷からのお使い事を済ませながら任務に行くと昨晩のうちに聞いていた。
“血記術”──炭治郎は、龍田の使うものを門しか触れたことがない。“血記術”は実際目にしたことがなかった。
「何言ってんの、炭治郎。お前のその鼻で気付かなかったのかよ」
善逸が怪訝そうな顔を向けてくる。炭治郎は見当がつかず、「何のことだ?」と素直に尋ねた。
すると、彼は仕方ないなあと笑って。
「昨日煉獄さん来てたろ。ほら──にゃー」
最後は、両手を肩の辺りにあげて、招き猫のような仕草。
炭治郎はぽかんとなった。禰豆子が追いかけてた、蝶屋敷の敷地内を通り抜けようとしていた赤猫。蜜璃の肩に乗っていた。
そういえば、あの時彼女はなんといって去っていったっけ──。
炭治郎に衝撃が走る。
「昨日帰り道にばったり会ってさ。音がまんま煉獄さんなもんだから。俺ビビって走って逃げてきちゃったよ〜」
「ああん? あの赤猫のことか。あいつ見かける時ティアか桜餅女と一緒にいるじゃねえか」
何を今更、と分かっているのかいないのかわからないが、伊之助が不可解そうな口調で腕を組む。善逸は炭治郎の様子を見て笑いがツボにハマっまらしく、膝をついて肩を震わせていた。
驚きすぎて固まっている炭治郎の胸元辺りを、錆兎がとんと拳で叩く。
そうして貰えたことで、止まっていた思考が動き出した。
「“血記術”で姿形を別のものに変えているんだよ。杏寿郎は実体がない分外見の変化に左右はされない」
「炭治郎たちが自分の階級を示す時のなんか、あれもその類だし」
そうだったのか──炭治郎だけでなく、善逸も思わず自身の拳に視線を向けている。結局よくわからないな。
「おはようこざいます、皆さん。伊之助くんと真菰ちゃんは、まだ出発してなかったんですね?」
「龍田がお寝坊しちゃってね〜」
そこへ、義勇と共にティアがやってくる。二人はそれぞれが任務でない限りは水柱邸で同居している。ティアもだいたいこの時間に通ってきてくれることが多かった。
「久しぶりだ、錆兎。真菰も、協力を感謝している」
「困った時はお互い様だよ! 今日は錆兎たち、途中まで一緒に行動するんだってね?」
義勇自身は、真菰とは鱗滝の元で面識はないそうだ。錆兎は炭治郎のように彼女と会っていたようだけど。
義勇が来る前にある山伏が接点となっていたというから、時期が早ければ彼も真菰を見ることが出来ていたかもしれないが。
錆兎は、二人の視線を受けて大きく頷く。
「思えば、義勇とは柱合会議の時しか顔を合わせていなかったからな。こうして背中を預け合うのは数年ぶりか」
「足手まといにならないよう努力する。よろしく頼む」
「それはこちらのセリフだと思うんだが」
思わず破顔する錆兎につられて、義勇も口元を緩ませた。
「すみません──ちょっとティア借ります!!!」
それをにこにこと眺めていたティアの両腕を善逸と炭治郎が、後ろから背負うように伊之助に腰を持ち上げられ、彼女は一向から距離を取ったところに連れて行かれる。
不安定感に変な声が出た。隊服であることが幸いした。そうでなかったら見た目からも恥ずかしかったろう。
「ねえねえねえねえ水柱と錆兎さん、一緒にしてて大丈夫なわけ? てか、俺行先一緒じゃん! 嘘でしょ、あんな音聴きながら仕事するとか切なくなるよ‼︎」
「二人ともなんだか、不安そうな匂いさせているからな」
「“しのぶ”が説教たれる時ににこにこしてる時みたいな変な感じがするぜ!」
炭治郎は、義勇と錆兎が最終餞別で生き別れたことをまだ知らない。
鱗滝さんの元にいた兄弟子たちの一人──程度の認識だろう。
彼は選別へ行くための許可を得るまでに二年かかった。同期といっても選別のタイミングは分かれることだってある。
善逸と伊之助は、二人が死人であるかまでは、思い至っているかもしれないが“決定的なことは知らない”。あくまで推論だけで、現実には彼らの中では確定していないことだ。
それでも、錆兎と義勇の間に浅からぬ因縁があることは感じられたのだろう。
「さて、こればかりは二人の問題でしょうから」
頑張りましょうね、善逸くん──と少年の手を両手で掴んでやる。
やっぱりねえええ知ってた頑張りますけどねえええ、とめそめそする善逸の肩を、それぞれ伊之助と炭治郎が叩いてやる。
「ああ〜! 義勇ってば、ここほつれてるじゃない! 出発前に繕っておきなよだらしない! あの頃に錆兎が甘やかすからだよ」
「それでも今は俺よりも義勇の方が繕うのはうまいぞ。俺はいつも感心していた!」
左右からの訴えに、義勇が肩身狭そうに縮こまる。
後からこの輪に合流することになる龍田いわく、
どっちが大人なのか混乱する状況だったのだとか──。
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早朝、指定された時間より早く支度を終えた炭治郎は、ちょうど任務のために出発しようとしていた伊之助を見つけた。
声をかけると、その背後からひょこっと真菰が顔を覗かせる。
「おはよう、炭治郎! 鋼鉄塚さんのところ行くんだってね、刺されないように気をつけてね!」
「さすがに、今は冗談に聞こえないな……」
二人はこれから、龍田とともに外周警護に向かうのだという。当の龍田は寝坊したらしく、今朝食中なのだとか。
だから外で待つ間、軽く鍛錬の稽古しようとしていたそうだ。
「あいつ、近々死ぬんじゃねえか? なんか変だぜ」
「伊之助の言い方は悪いけど……確かに最近なんか本当に、ラシードと全然違うよね。ほんと、別人みたい」
匂いは、変わっていないのだ。禰豆子と同じ、鬼だけどちょっと、違うもの。けれど、鍛錬の前に物怖じするような様子を見せたり、服が破れたりしたら恥ずかしがって動けなくなったり。
年相応の女の子だった。
「でも、あっけらかんと半裸でも気にしない時もあるんだよな」
「あんまりにもな場合は、さすがに私とか“しのぶ”ちゃんたちが止めるけどね」
本来なら赤ちゃんなんだから、そのせいの作用なのかな。そんなことをぼやく真菰を眺めながら、ティアもそんなことを言っていたなと思い出す。
きちんと確認できなかったが、龍田の前、ラシードよりも前の、右京だった時。鱗滝の妻と娘が右京を名乗っていたようなことを言っていた。
鱗滝が首を斬った相手が妻の右京だというならば、その腹に宿っていた子供は死んでしまったはずだ。首を斬られたり鬼に喰われた時は、死んだ子供に宿ると聞いた。
けれど、生まれるには本来決まった期日があるとも聞いている。今回の龍田の場合は、ティアが関与した結果早期に出現できたとは聞いているが。
首を撥ねられた日がたまたま、その日だったのか。いくらなんでもタイミングが良すぎやしないか。
まさか、鱗滝と右京がその為に子を成したとは思いたくない──。
「なあ、ラシードって本当に死んだのか?」
伊之助の問いかけに、炭治郎はハッと顔を上げた。
それは間違いない。治るはずの傷が治らなくなった。寿命だから仕方ないんだと笑っていた。
普通の人なら簡単に傷なんて治らないだろう、と──鬼の要素は寿命を迎えるその時には作用しないということだ。
伊之助と善逸に、またな──と伝えるよう笑って。
首を斬られた瞬間を、炭治郎は見ている。
「言われてみれば不確かではあるな」
「俺も錆兎に賛成。あいつ、“血記術”あるし」
そこへ、錆兎と善逸が加わる。二人はこれから本部へ行き、産屋敷からのお使い事を済ませながら任務に行くと昨晩のうちに聞いていた。
“血記術”──炭治郎は、龍田の使うものを門しか触れたことがない。“血記術”は実際目にしたことがなかった。
「何言ってんの、炭治郎。お前のその鼻で気付かなかったのかよ」
善逸が怪訝そうな顔を向けてくる。炭治郎は見当がつかず、「何のことだ?」と素直に尋ねた。
すると、彼は仕方ないなあと笑って。
「昨日煉獄さん来てたろ。ほら──にゃー」
最後は、両手を肩の辺りにあげて、招き猫のような仕草。
炭治郎はぽかんとなった。禰豆子が追いかけてた、蝶屋敷の敷地内を通り抜けようとしていた赤猫。蜜璃の肩に乗っていた。
そういえば、あの時彼女はなんといって去っていったっけ──。
炭治郎に衝撃が走る。
「昨日帰り道にばったり会ってさ。音がまんま煉獄さんなもんだから。俺ビビって走って逃げてきちゃったよ〜」
「ああん? あの赤猫のことか。あいつ見かける時ティアか桜餅女と一緒にいるじゃねえか」
何を今更、と分かっているのかいないのかわからないが、伊之助が不可解そうな口調で腕を組む。善逸は炭治郎の様子を見て笑いがツボにハマっまらしく、膝をついて肩を震わせていた。
驚きすぎて固まっている炭治郎の胸元辺りを、錆兎がとんと拳で叩く。
そうして貰えたことで、止まっていた思考が動き出した。
「“血記術”で姿形を別のものに変えているんだよ。杏寿郎は実体がない分外見の変化に左右はされない」
「炭治郎たちが自分の階級を示す時のなんか、あれもその類だし」
そうだったのか──炭治郎だけでなく、善逸も思わず自身の拳に視線を向けている。結局よくわからないな。
「おはようこざいます、皆さん。伊之助くんと真菰ちゃんは、まだ出発してなかったんですね?」
「龍田がお寝坊しちゃってね〜」
そこへ、義勇と共にティアがやってくる。二人はそれぞれが任務でない限りは水柱邸で同居している。ティアもだいたいこの時間に通ってきてくれることが多かった。
「久しぶりだ、錆兎。真菰も、協力を感謝している」
「困った時はお互い様だよ! 今日は錆兎たち、途中まで一緒に行動するんだってね?」
義勇自身は、真菰とは鱗滝の元で面識はないそうだ。錆兎は炭治郎のように彼女と会っていたようだけど。
義勇が来る前にある山伏が接点となっていたというから、時期が早ければ彼も真菰を見ることが出来ていたかもしれないが。
錆兎は、二人の視線を受けて大きく頷く。
「思えば、義勇とは柱合会議の時しか顔を合わせていなかったからな。こうして背中を預け合うのは数年ぶりか」
「足手まといにならないよう努力する。よろしく頼む」
「それはこちらのセリフだと思うんだが」
思わず破顔する錆兎につられて、義勇も口元を緩ませた。
「すみません──ちょっとティア借ります!!!」
それをにこにこと眺めていたティアの両腕を善逸と炭治郎が、後ろから背負うように伊之助に腰を持ち上げられ、彼女は一向から距離を取ったところに連れて行かれる。
不安定感に変な声が出た。隊服であることが幸いした。そうでなかったら見た目からも恥ずかしかったろう。
「ねえねえねえねえ水柱と錆兎さん、一緒にしてて大丈夫なわけ? てか、俺行先一緒じゃん! 嘘でしょ、あんな音聴きながら仕事するとか切なくなるよ‼︎」
「二人ともなんだか、不安そうな匂いさせているからな」
「“しのぶ”が説教たれる時ににこにこしてる時みたいな変な感じがするぜ!」
炭治郎は、義勇と錆兎が最終餞別で生き別れたことをまだ知らない。
鱗滝さんの元にいた兄弟子たちの一人──程度の認識だろう。
彼は選別へ行くための許可を得るまでに二年かかった。同期といっても選別のタイミングは分かれることだってある。
善逸と伊之助は、二人が死人であるかまでは、思い至っているかもしれないが“決定的なことは知らない”。あくまで推論だけで、現実には彼らの中では確定していないことだ。
それでも、錆兎と義勇の間に浅からぬ因縁があることは感じられたのだろう。
「さて、こればかりは二人の問題でしょうから」
頑張りましょうね、善逸くん──と少年の手を両手で掴んでやる。
やっぱりねえええ知ってた頑張りますけどねえええ、とめそめそする善逸の肩を、それぞれ伊之助と炭治郎が叩いてやる。
「ああ〜! 義勇ってば、ここほつれてるじゃない! 出発前に繕っておきなよだらしない! あの頃に錆兎が甘やかすからだよ」
「それでも今は俺よりも義勇の方が繕うのはうまいぞ。俺はいつも感心していた!」
左右からの訴えに、義勇が肩身狭そうに縮こまる。
後からこの輪に合流することになる龍田いわく、
どっちが大人なのか混乱する状況だったのだとか──。