第4章 在りし日の夫婦。(全18話)
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第6話 いざ、刀鍛冶の里へ。
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「うきゃああっ?!」
可愛らしい悲鳴が蝶屋敷に響き渡る。
二ヶ月間の昏睡から目を覚まし、機能回復訓練中だった炭治郎と顔を見合わせ、道場から飛び出したティアは目を丸くした。
びっくりした様子で両手をあげている蜜璃と、怒った顔で刀を彼女に突き付けている龍田の姿。
けれど緊迫感がないのは、後者が真っ赤な顔と涙目で、刀を持つ手はぶるぶる震えているからだろうか。恥ずかしそう?
「いきなり耳元で喋らないで! 後ろから飛びつかないで!」
「ごっごめんね、そんなに驚くなんて思ってなくて!」
上擦ったような声でぎゃんぎゃん文句を言う龍田に謝りながら、蜜璃は頬を紅潮させてにこにこしている。可愛いわ、龍田ちゃんったら照れ屋さんなんだから。
可愛い言うな! と逃げていく龍田を見送る。
ティアは炭治郎と再び顔を見合わせた。
「私、失礼なやつです。すごくゾッとしました」
「俺たちはラシードのことをよく知ってるからな。それにしても、あれは本気で照れてる匂いだ」
驚いたようにすんすん鼻を鳴らす炭治郎。
まあ、記憶だけが一人歩きするけれど龍田は一人の女の子なのだし。
生まれてからまだ一年も経たず、本来は赤子のはずの存在だ。少しずつ自我というものが出てきているのかもしれない。
「お邪魔しちゃったかしら。ごめんなさいね?」
急いでいるのか、蜜璃は蝶屋敷の中に慌てて飛び込んでいった。
“しのぶ”が在宅しているので、用があるのだろう。
「蜜璃ちゃんはこれから刀鍛冶の里に行くそうです。炭治郎くんは、許可待ちでしたね」
「ティアも行ったことがあるのか?」
「あるといえばあるのですが。まあ、説明は隠の方に譲ります」
不思議そうな炭治郎を促して、道場に戻る。その近くでは禰豆子が薄絹を纏ってくるくると踊っていた。炭治郎のヒノカミ神楽の真似だ。
本当はラシードの為にと作ったのだけど、彼は寿命だったし。禰豆子に使ってもらえてよかった。まだ試作なので安心はできないのだけど。
「ラシードには必要なかっただろう?」
「右京は日中、必要ない限り絶対に外に出ませんでした。結果、鬼の特性を得てから、歴代ダントツで長生きしたんです」
生きるのに支障はないけれど、日に当たっている側から寿命を削っていたのだろう。ラシードもティアと一緒の時は日中は日光を避けていたけど、鱗滝の家に着いてからは“それを辞めた”。
義勇を鍛える為ならば、彼と別れてからは陽光を避けられたろうに。
「鱗滝さんが首を斬ったんだったな。桑島さんのように……」
「奥さんの方はそうらしいですね。私は娘の方としか面識がないんですけど。──ああ、禰豆子ちゃんストップ!」
「え?」ピタッと動きを止める炭治郎を尻目に、禰豆子が赤猫を追いかけ始めたので慌てて抱きとめた。彼女に捕まえられた赤猫は大人しく禰豆子に抱えられている。人懐っこいな。
「ティア、すまない。ちょっと待ってくれ、待ってくれないか」
呼び掛けられて振り返ると、炭治郎が笑顔のままで固まっていた。けれども汗が大量に流れている。代謝異常でも起きたのだろうか。
けれど、そこへ用事を済ませたらしい蜜璃が二人を見つけて駆け寄ってきて。
「竈門炭治郎くんよね? その子は鬼になっちゃった妹ちゃんよね?」
私も抱っこしたいわ、ダメかしら──そう許しを請う蜜璃に、炭治郎は目を瞬かせた後、快く頷いて。
禰豆子は初めて触れる相手をまじまじと見つめていたが、すぐに心を許したのか自分から蜜璃に抱きついていく。
「あ〜もうっ可愛いと思ってたのよ初見から! その竹の装飾もなかなか粋に見えるわ! 君が作ってあげたの?」
「ああ、いえ。これは初対面の時、冨岡さんが」
まあ、冨岡さんって器用なのね、素敵! 屈託のない笑顔で禰豆子と戯れる蜜璃をみていると、本当に奇跡を見ているように思えてしまう。
お日様の元、鬼である禰豆子が動き回れること。ティアの力を借りなくても、実現できる可能性。
信じたくなってしまう、希望の形。
「ごめんなさい、訓練の途中だったんでしょう? 呼び止めて邪魔をしてしまったわ」
「そんなことありません、禰豆子のことを大事にしてくださって嬉しかった!」
ありがとう、という炭治郎の言葉に、禰豆子から離れた赤猫を肩に乗せた状態で蜜璃は一瞬きょとん、としてからふわりと笑う。「師匠からの伝言なの」
「貴方達を信じると決めた自分を、どうか信じて欲しいって!」
それじゃ、行ってきますね師匠──大きく手を振って帰っていく蜜璃を見送る。ティアは、蜜璃が杏寿郎の継子であった時期があるのだと炭治郎に明かした。
少年の表情が、一瞬ひきつる。
炭治郎は炎柱の最期に立ち会った。
直接、兄妹への言葉を聞いているはずだ。
もともと蜜璃は竈門兄妹に敵意を向けていなかった。同情や哀れみを抱く程度で、嫌悪感など抱いてもいなかった。
そんな彼女だから、ほかの柱達に比べれば受け入れる事は簡単だったのかもしれない。
炭治郎は、少し沈んだ様子で視線を落とした。その視線の先には赤猫がお行儀良く座っていて、ふんす、と鼻息を荒くして彼を見上げひと鳴き。そのまま蝶屋敷の敷地から駆け去って行く。
「カアアアッ! 明朝、刀鍛冶ノ里へ出発スル! 準備急ゲェエ!」
「こんなにすぐに許可って降りるのか!」
鎹烏からの指令に、落ち込む間も無く炭治郎は慌てた様子で支度に取り掛かりにいった。
既に昼を回っているから、入用なものを手に入れる為には時間が足りない可能性がある。
まあ、一応ティアで一通り揃えてあるのだが。これも訓練の一環だ。
そういえば、炭治郎が何か言いかけていたことがあったような気もするが、そんなに重要なことでもなかったのだろう。
禰豆子の手を引いて屋敷の中に入ったティアは、ボロボロになって帰還した善逸に気づいて、苦笑いで名前を呼んでやるのだった。
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「うきゃああっ?!」
可愛らしい悲鳴が蝶屋敷に響き渡る。
二ヶ月間の昏睡から目を覚まし、機能回復訓練中だった炭治郎と顔を見合わせ、道場から飛び出したティアは目を丸くした。
びっくりした様子で両手をあげている蜜璃と、怒った顔で刀を彼女に突き付けている龍田の姿。
けれど緊迫感がないのは、後者が真っ赤な顔と涙目で、刀を持つ手はぶるぶる震えているからだろうか。恥ずかしそう?
「いきなり耳元で喋らないで! 後ろから飛びつかないで!」
「ごっごめんね、そんなに驚くなんて思ってなくて!」
上擦ったような声でぎゃんぎゃん文句を言う龍田に謝りながら、蜜璃は頬を紅潮させてにこにこしている。可愛いわ、龍田ちゃんったら照れ屋さんなんだから。
可愛い言うな! と逃げていく龍田を見送る。
ティアは炭治郎と再び顔を見合わせた。
「私、失礼なやつです。すごくゾッとしました」
「俺たちはラシードのことをよく知ってるからな。それにしても、あれは本気で照れてる匂いだ」
驚いたようにすんすん鼻を鳴らす炭治郎。
まあ、記憶だけが一人歩きするけれど龍田は一人の女の子なのだし。
生まれてからまだ一年も経たず、本来は赤子のはずの存在だ。少しずつ自我というものが出てきているのかもしれない。
「お邪魔しちゃったかしら。ごめんなさいね?」
急いでいるのか、蜜璃は蝶屋敷の中に慌てて飛び込んでいった。
“しのぶ”が在宅しているので、用があるのだろう。
「蜜璃ちゃんはこれから刀鍛冶の里に行くそうです。炭治郎くんは、許可待ちでしたね」
「ティアも行ったことがあるのか?」
「あるといえばあるのですが。まあ、説明は隠の方に譲ります」
不思議そうな炭治郎を促して、道場に戻る。その近くでは禰豆子が薄絹を纏ってくるくると踊っていた。炭治郎のヒノカミ神楽の真似だ。
本当はラシードの為にと作ったのだけど、彼は寿命だったし。禰豆子に使ってもらえてよかった。まだ試作なので安心はできないのだけど。
「ラシードには必要なかっただろう?」
「右京は日中、必要ない限り絶対に外に出ませんでした。結果、鬼の特性を得てから、歴代ダントツで長生きしたんです」
生きるのに支障はないけれど、日に当たっている側から寿命を削っていたのだろう。ラシードもティアと一緒の時は日中は日光を避けていたけど、鱗滝の家に着いてからは“それを辞めた”。
義勇を鍛える為ならば、彼と別れてからは陽光を避けられたろうに。
「鱗滝さんが首を斬ったんだったな。桑島さんのように……」
「奥さんの方はそうらしいですね。私は娘の方としか面識がないんですけど。──ああ、禰豆子ちゃんストップ!」
「え?」ピタッと動きを止める炭治郎を尻目に、禰豆子が赤猫を追いかけ始めたので慌てて抱きとめた。彼女に捕まえられた赤猫は大人しく禰豆子に抱えられている。人懐っこいな。
「ティア、すまない。ちょっと待ってくれ、待ってくれないか」
呼び掛けられて振り返ると、炭治郎が笑顔のままで固まっていた。けれども汗が大量に流れている。代謝異常でも起きたのだろうか。
けれど、そこへ用事を済ませたらしい蜜璃が二人を見つけて駆け寄ってきて。
「竈門炭治郎くんよね? その子は鬼になっちゃった妹ちゃんよね?」
私も抱っこしたいわ、ダメかしら──そう許しを請う蜜璃に、炭治郎は目を瞬かせた後、快く頷いて。
禰豆子は初めて触れる相手をまじまじと見つめていたが、すぐに心を許したのか自分から蜜璃に抱きついていく。
「あ〜もうっ可愛いと思ってたのよ初見から! その竹の装飾もなかなか粋に見えるわ! 君が作ってあげたの?」
「ああ、いえ。これは初対面の時、冨岡さんが」
まあ、冨岡さんって器用なのね、素敵! 屈託のない笑顔で禰豆子と戯れる蜜璃をみていると、本当に奇跡を見ているように思えてしまう。
お日様の元、鬼である禰豆子が動き回れること。ティアの力を借りなくても、実現できる可能性。
信じたくなってしまう、希望の形。
「ごめんなさい、訓練の途中だったんでしょう? 呼び止めて邪魔をしてしまったわ」
「そんなことありません、禰豆子のことを大事にしてくださって嬉しかった!」
ありがとう、という炭治郎の言葉に、禰豆子から離れた赤猫を肩に乗せた状態で蜜璃は一瞬きょとん、としてからふわりと笑う。「師匠からの伝言なの」
「貴方達を信じると決めた自分を、どうか信じて欲しいって!」
それじゃ、行ってきますね師匠──大きく手を振って帰っていく蜜璃を見送る。ティアは、蜜璃が杏寿郎の継子であった時期があるのだと炭治郎に明かした。
少年の表情が、一瞬ひきつる。
炭治郎は炎柱の最期に立ち会った。
直接、兄妹への言葉を聞いているはずだ。
もともと蜜璃は竈門兄妹に敵意を向けていなかった。同情や哀れみを抱く程度で、嫌悪感など抱いてもいなかった。
そんな彼女だから、ほかの柱達に比べれば受け入れる事は簡単だったのかもしれない。
炭治郎は、少し沈んだ様子で視線を落とした。その視線の先には赤猫がお行儀良く座っていて、ふんす、と鼻息を荒くして彼を見上げひと鳴き。そのまま蝶屋敷の敷地から駆け去って行く。
「カアアアッ! 明朝、刀鍛冶ノ里へ出発スル! 準備急ゲェエ!」
「こんなにすぐに許可って降りるのか!」
鎹烏からの指令に、落ち込む間も無く炭治郎は慌てた様子で支度に取り掛かりにいった。
既に昼を回っているから、入用なものを手に入れる為には時間が足りない可能性がある。
まあ、一応ティアで一通り揃えてあるのだが。これも訓練の一環だ。
そういえば、炭治郎が何か言いかけていたことがあったような気もするが、そんなに重要なことでもなかったのだろう。
禰豆子の手を引いて屋敷の中に入ったティアは、ボロボロになって帰還した善逸に気づいて、苦笑いで名前を呼んでやるのだった。