第4章 在りし日の夫婦。(全18話)
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第4話 仲介の鬼。
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「──ねえ、お兄ちゃんお願いだから〜〜〜!」
少年の腰に引っ付いて駄々をこねる少女。
鹿鳴館の一室で、ティアは苦笑いで兄妹のやり取りを見守っていた。
そんなに焦って考える必要はないのに。
「妙な感じだな。一月前に殺し合いした相手だってのによ。まるでガキじゃねえか」
「年はお前らよりずっと上だなぁ。鬼になる前はまあ、お前の弟子らと同じくらいなもんだろうなぁ」
着流し姿で髪を下ろし、完全に武装を解除している元音柱を、肩越しに振り返ったのは上弦の陸──妓夫太郎だった。その腰にひっついているのは、蕨姫を名乗っていた、梅だ。
二人を鬼にした仲介者の細胞が作用したのか、ティアは二人を招くことが出来た。芋づる式に元鬼であったもの達を引っ張りあげることも恐らくは可能だろう。
「地獄の責め苦キツいじゃない! ティアを手伝えば少しは軽減されるって言うんだもの、教えてあげようよ!」
「軽減されていいようなもんじゃねえからなぁ、俺の場合」
「お兄ちゃんの頑固者おおおおおっ」
ティアと天元は顔を見合わせた。
彼らが鬼になった時のことを知りたかっただけなのだが、どうやら梅の方はその辺りの経緯が分からないらしい。縛られて火をつけられて瀕死の状態だったとか。
鬼になる経緯を知るのは、妓夫太郎だけのようだった。
けれど、彼は自分のしたことに関しては責任逃れをするつもりはなく、自業自得と現状を受け入れている。
地獄なども概念なのでティアは干渉することができた。話をつけに行ったところ、実のところ従来の篩のかけ方に反する事例であるとして、“一般的な”扱いとは異なるようだ。
無惨に襲われて薄れた自我で人を食い荒らしているような鬼は、果たして罪に問えるのか、とか。
人を喰うことに悦楽を見いだしてしまえば、それは共犯として成立するのではないか、とか。
とりあえず、ややこしいからこの事例の収束を切実に依頼され──幕末や戦争の関係で地獄は現在特に忙しい──鬼舞辻無惨に関連した鬼の治められた場所への出入りを自由にさせてもらった。
「俺はもとから取り立てるためには何でもやったからなぁ。鬼になってからのことだけじゃないんだ」
「そういうんなら、俺様もそのうち地獄に落ちるんだろうよ」
妓夫太郎の納得したような様子に、天元が手を打った。
忍として過ごしていた時代、彼自身も命じられるままに様々な“任務”についていた。
鬼狩りとして活動する前──抜け忍となるまでは。
「まあ、そん時は仲良くやろうや。とりあえず、お前らを鬼にしたやつについて、話してくれりゃそれでいいんだ。過去を語れとか言わねえよ」
そう言えばお前忍だったなぁ、とぼやく妓夫太郎に、天元は白い歯を見せて笑った。
梅がしゅんとなってティアに飛びついてくる。お兄ちゃんが分からず屋すぎる。つらい。
「……人の弱いところを良く知ってるヤツだったなぁ」
ぽつりと、少年が呟いた。続いたのは、彼が鬼になった経緯。
虹色の虹彩。穏やかな容貌で女を喰らう青年。現在は、上弦の弐。
何かしらの宗教団体に属し、人を喰うのに不自由がないこと。
極楽を求める人間たちを、慈しんでいること。苦しいと泣く信者を、食ってやること。
「俺らはあの人のいる場所はどうも、合わなくてなぁ」
「招かれる事は結構あったけど、育ちの問題かしら。居心地が悪くってね。綺麗なものがいっぱいあっても、長居はしなかった」
所詮平民以下の家畜同様の生活してたからなぁ、と妓夫太郎。
ねえ、と同意した梅が、ティアの様子に気付いて素っ頓狂な悲鳴を上げる。
「どうしたのよティア? 真っ青じゃない、私たちのつまんない話聞いたから!」
「ああ、いえ、梅ちゃんも妓夫太郎さんもつまらない存在では……」
慌てて否定するも、ティアはその場に蹲み込んだ。
ああ、どうしよう。その宗教団体、知ってる。
「そういやあ、お前も昔、宗教に関わってたな。鬼に間違われて鬼殺隊に襲われて、そのまま保護されたって」
「はっは! 世の中せまいなぁ」
天元の話を聞いて、妓夫太郎が笑い出す。流れで上弦の弐が関わる宗教団体の名前が晒された。
日本語がわからなかったが、その名前は何度も耳に入ってきたから知っている。万世なんてついてなかった気もするが。
けれど、自我がはっきりしていなかったティアは、その団体についてほとんど何も知らなかった。
鱗滝や慈悟郎──右京の記憶を有する龍田ならば。
「ねえねえ、お兄ちゃん。私たちもティアのこと手伝おうよ。罰受けるのなんて先でも後でも変わらないんだしさぁ」
「確かになぁ。なんつぅか、こいつらまだまだ弱かったしなぁ」
悪気のない梅と、現実的な妓夫太郎。
言ってくれるじゃねえかこいつら、と青筋を立てる天元が、ティアを抱え上げて椅子に座らせてやった。
「手掛かりは掴んだ、収穫は上々だ。こいつらをどうするかは、また別の問題だがよ」
「手伝うわよ! 私たち曲がりなりにも上弦の末席にいたのよ、普通の鬼くらい相手にすんのわけないわ!」
今すぐにでも飛び出していきそうな梅。残念ながら、いまの彼女は鬼ではなく人の頃であるから、大層な力を持っていない。妓夫太郎も、人に対しては戦力かもしれないが。
錆兎と真菰は、最終選別に行くことを許可される程度の実力を有し、鍛錬の仕方も知っていて、鬼柱の鬼指導で短期間で自分を鍛え上げた。
妓夫太郎ならまだしも、梅にそれが出来るかどうか。
「二人のこと、俺が預かってもいいだろうか!」
そこで初めて声をあげたのは、元炎柱の煉獄杏寿郎だった。
上弦の陸と話をすると聞いて、念のためと付いていてくれたのだ。
兄妹の仲の良さを初っ端から見ていたせいか、危険はないと判断したらしく今まで口を挟まなかったが。
天元が目を丸くする。
「なんか、やることがあるんじゃねえのかよ」
「こちらは時間的な概念がないのでな! 俺自身の鍛錬と並行しつつ二人を見よう。教授できなければ意味を無さないからな!」
とても前向きな杏寿郎に、真面目か──と元音柱がツッコミを入れる。
彼はどうやら、鬼柱かは技を盗もうとしているらしく、ここ最近は錆兎たちと別行動を取っている。
人間に興味をあまり示さない鬼柱も、目障りに思わなければ放置している感はあるので、険悪ではなさそうだ。
ねえねえ、誰あのめらめらしてるヤツ、と服の袖を引いてくる梅に、簡単に紹介をしたティア。
その話をおとなしく聞いていた妓夫太郎は、頭をぽりぽりかきながら思い切り首を傾げた。
「鬼柱ねえ……鬼舞辻のおっさんがなんか、ぽろっと恨み言をぼやいてたようなあ……うーん」
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「──ねえ、お兄ちゃんお願いだから〜〜〜!」
少年の腰に引っ付いて駄々をこねる少女。
鹿鳴館の一室で、ティアは苦笑いで兄妹のやり取りを見守っていた。
そんなに焦って考える必要はないのに。
「妙な感じだな。一月前に殺し合いした相手だってのによ。まるでガキじゃねえか」
「年はお前らよりずっと上だなぁ。鬼になる前はまあ、お前の弟子らと同じくらいなもんだろうなぁ」
着流し姿で髪を下ろし、完全に武装を解除している元音柱を、肩越しに振り返ったのは上弦の陸──妓夫太郎だった。その腰にひっついているのは、蕨姫を名乗っていた、梅だ。
二人を鬼にした仲介者の細胞が作用したのか、ティアは二人を招くことが出来た。芋づる式に元鬼であったもの達を引っ張りあげることも恐らくは可能だろう。
「地獄の責め苦キツいじゃない! ティアを手伝えば少しは軽減されるって言うんだもの、教えてあげようよ!」
「軽減されていいようなもんじゃねえからなぁ、俺の場合」
「お兄ちゃんの頑固者おおおおおっ」
ティアと天元は顔を見合わせた。
彼らが鬼になった時のことを知りたかっただけなのだが、どうやら梅の方はその辺りの経緯が分からないらしい。縛られて火をつけられて瀕死の状態だったとか。
鬼になる経緯を知るのは、妓夫太郎だけのようだった。
けれど、彼は自分のしたことに関しては責任逃れをするつもりはなく、自業自得と現状を受け入れている。
地獄なども概念なのでティアは干渉することができた。話をつけに行ったところ、実のところ従来の篩のかけ方に反する事例であるとして、“一般的な”扱いとは異なるようだ。
無惨に襲われて薄れた自我で人を食い荒らしているような鬼は、果たして罪に問えるのか、とか。
人を喰うことに悦楽を見いだしてしまえば、それは共犯として成立するのではないか、とか。
とりあえず、ややこしいからこの事例の収束を切実に依頼され──幕末や戦争の関係で地獄は現在特に忙しい──鬼舞辻無惨に関連した鬼の治められた場所への出入りを自由にさせてもらった。
「俺はもとから取り立てるためには何でもやったからなぁ。鬼になってからのことだけじゃないんだ」
「そういうんなら、俺様もそのうち地獄に落ちるんだろうよ」
妓夫太郎の納得したような様子に、天元が手を打った。
忍として過ごしていた時代、彼自身も命じられるままに様々な“任務”についていた。
鬼狩りとして活動する前──抜け忍となるまでは。
「まあ、そん時は仲良くやろうや。とりあえず、お前らを鬼にしたやつについて、話してくれりゃそれでいいんだ。過去を語れとか言わねえよ」
そう言えばお前忍だったなぁ、とぼやく妓夫太郎に、天元は白い歯を見せて笑った。
梅がしゅんとなってティアに飛びついてくる。お兄ちゃんが分からず屋すぎる。つらい。
「……人の弱いところを良く知ってるヤツだったなぁ」
ぽつりと、少年が呟いた。続いたのは、彼が鬼になった経緯。
虹色の虹彩。穏やかな容貌で女を喰らう青年。現在は、上弦の弐。
何かしらの宗教団体に属し、人を喰うのに不自由がないこと。
極楽を求める人間たちを、慈しんでいること。苦しいと泣く信者を、食ってやること。
「俺らはあの人のいる場所はどうも、合わなくてなぁ」
「招かれる事は結構あったけど、育ちの問題かしら。居心地が悪くってね。綺麗なものがいっぱいあっても、長居はしなかった」
所詮平民以下の家畜同様の生活してたからなぁ、と妓夫太郎。
ねえ、と同意した梅が、ティアの様子に気付いて素っ頓狂な悲鳴を上げる。
「どうしたのよティア? 真っ青じゃない、私たちのつまんない話聞いたから!」
「ああ、いえ、梅ちゃんも妓夫太郎さんもつまらない存在では……」
慌てて否定するも、ティアはその場に蹲み込んだ。
ああ、どうしよう。その宗教団体、知ってる。
「そういやあ、お前も昔、宗教に関わってたな。鬼に間違われて鬼殺隊に襲われて、そのまま保護されたって」
「はっは! 世の中せまいなぁ」
天元の話を聞いて、妓夫太郎が笑い出す。流れで上弦の弐が関わる宗教団体の名前が晒された。
日本語がわからなかったが、その名前は何度も耳に入ってきたから知っている。万世なんてついてなかった気もするが。
けれど、自我がはっきりしていなかったティアは、その団体についてほとんど何も知らなかった。
鱗滝や慈悟郎──右京の記憶を有する龍田ならば。
「ねえねえ、お兄ちゃん。私たちもティアのこと手伝おうよ。罰受けるのなんて先でも後でも変わらないんだしさぁ」
「確かになぁ。なんつぅか、こいつらまだまだ弱かったしなぁ」
悪気のない梅と、現実的な妓夫太郎。
言ってくれるじゃねえかこいつら、と青筋を立てる天元が、ティアを抱え上げて椅子に座らせてやった。
「手掛かりは掴んだ、収穫は上々だ。こいつらをどうするかは、また別の問題だがよ」
「手伝うわよ! 私たち曲がりなりにも上弦の末席にいたのよ、普通の鬼くらい相手にすんのわけないわ!」
今すぐにでも飛び出していきそうな梅。残念ながら、いまの彼女は鬼ではなく人の頃であるから、大層な力を持っていない。妓夫太郎も、人に対しては戦力かもしれないが。
錆兎と真菰は、最終選別に行くことを許可される程度の実力を有し、鍛錬の仕方も知っていて、鬼柱の鬼指導で短期間で自分を鍛え上げた。
妓夫太郎ならまだしも、梅にそれが出来るかどうか。
「二人のこと、俺が預かってもいいだろうか!」
そこで初めて声をあげたのは、元炎柱の煉獄杏寿郎だった。
上弦の陸と話をすると聞いて、念のためと付いていてくれたのだ。
兄妹の仲の良さを初っ端から見ていたせいか、危険はないと判断したらしく今まで口を挟まなかったが。
天元が目を丸くする。
「なんか、やることがあるんじゃねえのかよ」
「こちらは時間的な概念がないのでな! 俺自身の鍛錬と並行しつつ二人を見よう。教授できなければ意味を無さないからな!」
とても前向きな杏寿郎に、真面目か──と元音柱がツッコミを入れる。
彼はどうやら、鬼柱かは技を盗もうとしているらしく、ここ最近は錆兎たちと別行動を取っている。
人間に興味をあまり示さない鬼柱も、目障りに思わなければ放置している感はあるので、険悪ではなさそうだ。
ねえねえ、誰あのめらめらしてるヤツ、と服の袖を引いてくる梅に、簡単に紹介をしたティア。
その話をおとなしく聞いていた妓夫太郎は、頭をぽりぽりかきながら思い切り首を傾げた。
「鬼柱ねえ……鬼舞辻のおっさんがなんか、ぽろっと恨み言をぼやいてたようなあ……うーん」