第4章 在りし日の夫婦。(全18話)
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第3話 意外と優しい。
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「──おい、その頭どうした?」
待ち合わせ場所で待っていると、足音と共に現れたのは風柱の不死川実弥だった。その後ろには蛇柱の伊黒小芭内も。
羽を休める為にティアの肩に止まっていた小鳥たちは、急ぐこともなくのんびりしている。
現在の彼女の髪の色は紅色だ。龍田に請われて耀哉と話が出来るよう力を使っている。化け物のお願い事によるものなので負担は少ない。任務が終わったら一日ほど伏せるだろうが、その程度で済む。
「本当に都合の良いことだな。やろうと思えばやりたい放題やれるような力だろうに」
小芭内が色々放り投げるようなため息をついた。こくりと頷きながら、実弥がしげしげと見下ろしてくる。
「悪用とかせず、適度に扱うよう徹底してやがる。結構なこったな」
「その辺りの選別については、鱗滝さんたちによく叩き込んで頂きましたからね」
ふうん、と首を傾げた実弥が歩き出すと、小芭内が行くぞと一言。
音もなく歩けるだろうに、普通に先行してくれるところは優しい。
先日の柱合会議からの付き合いだけれど。
吉原にて上弦の陸を撃退後。
音柱である宇髄天元の引退による宣戦離脱から、新しい柱を立てるかどうかの課題が立った。
筆頭に上がったのは龍田なのだが、彼女には育手として隊士たちの戦力の底上げに専念してもらいたい。つまり、却下。
竈門炭治郎、我妻善逸、嘴平伊之助、栗花落カナヲらの活躍は目立つが今ひとつ柱としては物足りなさが目立つ。
柱は七人のままの体制で続行せざるを得なかった。
だが──柱に負担がかかり過ぎてしまうのもまた問題だ。
「それで、突然呼び出された上に斬りかかられたってわけね?」
真菰がちょっぴり不機嫌そうにしているのは、力負けしてお尻をついてしまったからだろうか。
一通り説明を終えたところで、大きなため息をついたのは錆兎だった。
「試すのであれば、抜き打ちは最適解なのだろうが。こちらも不調のところでの対応で、正直不完全燃焼だ」
「え……? あなた方には途中だった任務を終えたら待機して貰えるように、鬼柱さんにも言付けておいたのですが」
驚いてティアが悲鳴のような声を上げる。
それでか──げっそりとした様子で不服そうな眼差しを向けて来た二人にたじろいだ。
あれ、もしかして鬼柱になんかされたのかな。珍しい。
「鬼狩り解禁だからって、特別訓練部屋作ったから試してみろって突っ込まれてたの! 炭治郎たち三人が過去に倒した鬼と戦わされて!」
「下弦の鬼までは余裕があったんだが、上弦の陸二人は骨が折れた」
新入社員が出向先で粗相をしないようにという、人事のお節介か。
上弦の陸相手はさすがに酷い。天元たちが必死で対処したのに。
「おいおい、ちょっと待て」そこで介入したのは、先ほど真菰と手合わせして勝利した実弥だ。
「お前ら……上弦の陸に二人だけで勝ったってことか?」
「もう一人いたけどね。途中で時間切れになったから中断したの!」
その後に不死川くんに斬りかかられるとか無理過ぎ、と真菰が喚いた。
感心した様子で、そりゃあ悪かったなぁ、と実弥が彼女の頭をよしよししている。完全に妹分の扱いだ。
小芭内も錆兎から訓練部屋の話を聴取している。
炭治郎のように険悪な感じにならなくてよかった。ラシードを守る為に召喚してもらった時のことを考えると、二人への当たりも強いのではないかと思っていたのだが。
「不死川。宇髄が推薦したように、この二人ならば柱と称すのは難しくとも見廻役としては申し分ないだろう」
「──? 見廻りならば、もう……」
小芭内の意向を聞いて、錆兎が驚いた様子で声を上げかけた。すぐ様反応したティアが慌てて両手でバツ印。すぐに口を噤んでくれる。
杏寿郎が亡くなった後、天元と義勇がしばらく炎柱の担当区域を見回っていた時。天元の要請で、錆兎と真菰に補助を頼んでいたのだ。
正式に割振が決まった後も、天元が吉原に専念している間なんてだいたい二人が音柱の区域を見てくれていた。
──けれど、それは内緒なのである。耀哉にも許可を取っていない。
龍田の提案で、錆兎や真菰が対処している姿は他の人間には天元に見えるような“血記術”も使っていた。
だから、まだバレてないのだ。ややこしいから言っちゃダメ!
「お前ら二人セットでいいからよ、宇髄の担当区域頼めねぇか」
「俺たちの力が及ぶ限り全力を尽くそう。任せてもらいたい」
最終的な判断は、風柱と蛇柱のお墨付きを得られるかに掛かっていたのだろう。直前に上弦の陸との戦いを演じていたと聞く前から、妥協も手伝いながらも二人のことを認めていたとは思う。
恐らくは、あの柱合会議において岩柱の武器を破壊したこと。そして、伊黒自身は真菰に技を捌かれている。
今回は相対する相手を変えていたとはいえ、評価はしていたはずだ。
「風柱の不死川実弥だ。胡蝶の話だと、錆兎は冨岡と同じ年だってな」
互いに自己紹介する彼らを見つめながら、ティアは紅になった髪を一房手に取る。
今頃、耀哉は龍田に困らされていないだろうか。
ティアは、右京とラシード、龍田にしか会ったことはないけれど、龍田は前者2名とは何か違う。うまく言えないのだが、天元が言うには“地に足がついていない”ようだ。
生まれて間もない子供が、得た知識に振り回されているような。勿論、個々と対面しているときには問題はないように思う。
とにかく、危ういのだ。
けれど、右京が死んでラシードが生まれた時。ティアを迎えに来てくれた時も今の龍田と同じような頃合いだったのに。
ラシードにあって、龍田にないものがあるような気がしてならない。「おい、お前」
突然耳元で不機嫌そうな声がして、ティアはしゃっきりと返事をした。
完全に自分の世界だった。話しかけられていたのならば無視をしていたかも。申し訳ない。
蛇柱が見下すような目で、指をティアに差し向ける。
「お前がそうやって落ち込んでいると甘露寺の笑顔が曇る。俺は断じて許す事はできん。この後甘味処へ共に行くそうだな」
ねちねちねちねちと言い募られて、ティアは頭が真っ白になった。
蜜璃が絶対の基準になる時があるから気をつけろ──と天元に言われていたけど、これがそうなのかな。
それとも蜜璃ちゃんと約束したことを僻まれてる? どうしよう。
おろおろしていると、実弥がその場に腰を下ろして、お前らも座れと促して来た。
「人の話を左から右に聞き流すような悩みでもあんなら話しちまえって言ってんだよ。お前の話はなかなか重要そうだからな」
「どうせ龍田のことでしょ? 私たちも思うことあるから共有しよ?」
錆兎と小芭内も円を描くように座る中、感極まってプルプルし始めたティアの手を取って、真菰が背中を押してくれた。
わかった。この面子、みんな見た目に反して広い視野を持った大人なのだ。
真菰は世代がまた違うのだけど、実弥も小芭内も分かりづらいけれど、ちゃんと周囲を見ている。自分の立ち位置と役目をきちんとわかっているのだ。
厳しさと激しさと、苛烈さと豪快さを。
「話してみなァ。これからの自分らの在り方を見極める為にもよぉ!」
風柱の号令は、ティアが腰を下ろすのを待ったところで、響き渡った。
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「──おい、その頭どうした?」
待ち合わせ場所で待っていると、足音と共に現れたのは風柱の不死川実弥だった。その後ろには蛇柱の伊黒小芭内も。
羽を休める為にティアの肩に止まっていた小鳥たちは、急ぐこともなくのんびりしている。
現在の彼女の髪の色は紅色だ。龍田に請われて耀哉と話が出来るよう力を使っている。化け物のお願い事によるものなので負担は少ない。任務が終わったら一日ほど伏せるだろうが、その程度で済む。
「本当に都合の良いことだな。やろうと思えばやりたい放題やれるような力だろうに」
小芭内が色々放り投げるようなため息をついた。こくりと頷きながら、実弥がしげしげと見下ろしてくる。
「悪用とかせず、適度に扱うよう徹底してやがる。結構なこったな」
「その辺りの選別については、鱗滝さんたちによく叩き込んで頂きましたからね」
ふうん、と首を傾げた実弥が歩き出すと、小芭内が行くぞと一言。
音もなく歩けるだろうに、普通に先行してくれるところは優しい。
先日の柱合会議からの付き合いだけれど。
吉原にて上弦の陸を撃退後。
音柱である宇髄天元の引退による宣戦離脱から、新しい柱を立てるかどうかの課題が立った。
筆頭に上がったのは龍田なのだが、彼女には育手として隊士たちの戦力の底上げに専念してもらいたい。つまり、却下。
竈門炭治郎、我妻善逸、嘴平伊之助、栗花落カナヲらの活躍は目立つが今ひとつ柱としては物足りなさが目立つ。
柱は七人のままの体制で続行せざるを得なかった。
だが──柱に負担がかかり過ぎてしまうのもまた問題だ。
「それで、突然呼び出された上に斬りかかられたってわけね?」
真菰がちょっぴり不機嫌そうにしているのは、力負けしてお尻をついてしまったからだろうか。
一通り説明を終えたところで、大きなため息をついたのは錆兎だった。
「試すのであれば、抜き打ちは最適解なのだろうが。こちらも不調のところでの対応で、正直不完全燃焼だ」
「え……? あなた方には途中だった任務を終えたら待機して貰えるように、鬼柱さんにも言付けておいたのですが」
驚いてティアが悲鳴のような声を上げる。
それでか──げっそりとした様子で不服そうな眼差しを向けて来た二人にたじろいだ。
あれ、もしかして鬼柱になんかされたのかな。珍しい。
「鬼狩り解禁だからって、特別訓練部屋作ったから試してみろって突っ込まれてたの! 炭治郎たち三人が過去に倒した鬼と戦わされて!」
「下弦の鬼までは余裕があったんだが、上弦の陸二人は骨が折れた」
新入社員が出向先で粗相をしないようにという、人事のお節介か。
上弦の陸相手はさすがに酷い。天元たちが必死で対処したのに。
「おいおい、ちょっと待て」そこで介入したのは、先ほど真菰と手合わせして勝利した実弥だ。
「お前ら……上弦の陸に二人だけで勝ったってことか?」
「もう一人いたけどね。途中で時間切れになったから中断したの!」
その後に不死川くんに斬りかかられるとか無理過ぎ、と真菰が喚いた。
感心した様子で、そりゃあ悪かったなぁ、と実弥が彼女の頭をよしよししている。完全に妹分の扱いだ。
小芭内も錆兎から訓練部屋の話を聴取している。
炭治郎のように険悪な感じにならなくてよかった。ラシードを守る為に召喚してもらった時のことを考えると、二人への当たりも強いのではないかと思っていたのだが。
「不死川。宇髄が推薦したように、この二人ならば柱と称すのは難しくとも見廻役としては申し分ないだろう」
「──? 見廻りならば、もう……」
小芭内の意向を聞いて、錆兎が驚いた様子で声を上げかけた。すぐ様反応したティアが慌てて両手でバツ印。すぐに口を噤んでくれる。
杏寿郎が亡くなった後、天元と義勇がしばらく炎柱の担当区域を見回っていた時。天元の要請で、錆兎と真菰に補助を頼んでいたのだ。
正式に割振が決まった後も、天元が吉原に専念している間なんてだいたい二人が音柱の区域を見てくれていた。
──けれど、それは内緒なのである。耀哉にも許可を取っていない。
龍田の提案で、錆兎や真菰が対処している姿は他の人間には天元に見えるような“血記術”も使っていた。
だから、まだバレてないのだ。ややこしいから言っちゃダメ!
「お前ら二人セットでいいからよ、宇髄の担当区域頼めねぇか」
「俺たちの力が及ぶ限り全力を尽くそう。任せてもらいたい」
最終的な判断は、風柱と蛇柱のお墨付きを得られるかに掛かっていたのだろう。直前に上弦の陸との戦いを演じていたと聞く前から、妥協も手伝いながらも二人のことを認めていたとは思う。
恐らくは、あの柱合会議において岩柱の武器を破壊したこと。そして、伊黒自身は真菰に技を捌かれている。
今回は相対する相手を変えていたとはいえ、評価はしていたはずだ。
「風柱の不死川実弥だ。胡蝶の話だと、錆兎は冨岡と同じ年だってな」
互いに自己紹介する彼らを見つめながら、ティアは紅になった髪を一房手に取る。
今頃、耀哉は龍田に困らされていないだろうか。
ティアは、右京とラシード、龍田にしか会ったことはないけれど、龍田は前者2名とは何か違う。うまく言えないのだが、天元が言うには“地に足がついていない”ようだ。
生まれて間もない子供が、得た知識に振り回されているような。勿論、個々と対面しているときには問題はないように思う。
とにかく、危ういのだ。
けれど、右京が死んでラシードが生まれた時。ティアを迎えに来てくれた時も今の龍田と同じような頃合いだったのに。
ラシードにあって、龍田にないものがあるような気がしてならない。「おい、お前」
突然耳元で不機嫌そうな声がして、ティアはしゃっきりと返事をした。
完全に自分の世界だった。話しかけられていたのならば無視をしていたかも。申し訳ない。
蛇柱が見下すような目で、指をティアに差し向ける。
「お前がそうやって落ち込んでいると甘露寺の笑顔が曇る。俺は断じて許す事はできん。この後甘味処へ共に行くそうだな」
ねちねちねちねちと言い募られて、ティアは頭が真っ白になった。
蜜璃が絶対の基準になる時があるから気をつけろ──と天元に言われていたけど、これがそうなのかな。
それとも蜜璃ちゃんと約束したことを僻まれてる? どうしよう。
おろおろしていると、実弥がその場に腰を下ろして、お前らも座れと促して来た。
「人の話を左から右に聞き流すような悩みでもあんなら話しちまえって言ってんだよ。お前の話はなかなか重要そうだからな」
「どうせ龍田のことでしょ? 私たちも思うことあるから共有しよ?」
錆兎と小芭内も円を描くように座る中、感極まってプルプルし始めたティアの手を取って、真菰が背中を押してくれた。
わかった。この面子、みんな見た目に反して広い視野を持った大人なのだ。
真菰は世代がまた違うのだけど、実弥も小芭内も分かりづらいけれど、ちゃんと周囲を見ている。自分の立ち位置と役目をきちんとわかっているのだ。
厳しさと激しさと、苛烈さと豪快さを。
「話してみなァ。これからの自分らの在り方を見極める為にもよぉ!」
風柱の号令は、ティアが腰を下ろすのを待ったところで、響き渡った。