第1章 オニの妹。(全18話)
夢小説設定
この章の夢小説設定男女主人公にて展開しますが、
別に男の子でも女の子でも好きにお読みください。
両者ともに来日した異国人です。
炭治郎たちと肩を並べて戦えるスタイルではない、
予定(それはほかのサイト様に任せたいな)
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第5話 藤襲山の神様。
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翌朝、炭治郎を起こしに行くと、彼は心配そうに妹のことを覗き込んでいた。
ここへ運んで来て以来、禰豆子は目を覚まさなかった。一応体は拭いてやっているが身動いすらしない。
「炭治郎、傷の具合どうよ」
「ああ、そういえば……」
挨拶ついでに小声で尋ねると、相手からも同じように挨拶が。
問われた炭治郎は、びっくりしたような顔で体のあちこちを触れて確かめている。思いのほか呼吸法は効果を発揮したらしい。
「オヤジが戻るまでに駆け回れるようになったら、俺がちょっと鍛えてやるよ。今日は昨日教えた呼吸に専念しな──あ、お日様の下でやれ。体も起きる」
痛みが和らいだ分気力も上がったのか、炭治郎は教えた呼吸法を2割程度の習得率で日光浴。
ラシードはせっせと洗濯や掃除に精を出し──手伝おうとした炭治郎を「邪魔」の一言で退散させた──お天道様が西へ傾きかける頃には1日の終わりを迎えた。
その日の夜も禰豆子は目を覚まさず、炭治郎の寝つきは少し悪かったように思う。けれども、日中の呼吸法の為か気付いた時には妹の枕元に座ったまま寝ていた。
きちんとそれを布団に寝かせるまでが仕事だ。
明日はお手玉遊びと、場合によってはケンケンパでもやらせるかな──無理のない範囲で体を動かせるようなものを頭の中で列挙しながら、顔をにまにまさせてしまうラシードだった。
「──鱗滝さんが来てくれて助かりました!」
夜明けの頃、小さな女の子を抱えたティアは、男を背負って歩く天狗面の老人を見上げた。
男はあまりの恐怖に卒倒し、頭を強かに打ち付けていたので安心できないが、安全圏であるここまでくれば病院に担ぎ込むのも簡単だ。
観光目的で藤襲山へやってくる者たちをあの手この手で遠ざけるのがティアたち監視の仕事だったが、冒険者の心を持つ人間というものは時として傍迷惑な不屈の精神を爆発させる。
隠たちの人数や配置も足りていたのだが、疲労がたたってすっ転んだり、逆に観光客同士で乱闘がぼっ発し対処に当たったりと不測の事態が連発。
そんな中で、一個小隊の観光客が“生きていく上で知らずに避けて通った方がよかったろう存在”たちの巣窟に飛び込んでしまったところから蜘蛛の子を散らすように──二人の犠牲が出てしまったが、烏の話では他の観光客も確保できたという。
「山へ集まったのは三十名程度と聞いた。噂話だけではこういった者たちを遠ざける事は難しくなってきたな」
「あ、いえ。そこは私がなんとか出来そうなんです!」
深刻そうな様子の老人に、保護してきた二人を隠に渡してティアは胸を張った。
そして手の空いている隠たちにも協力してもらい、保護した観光客全員を一箇所に集め、落ち着くまで一緒にいた。
「藤襲山には神様がいる。」
「掟を破ると祟られる。」
「恐ろしい。」
「村人に止められたのに立ち入った者は未知の力で千切られた。」
「おじいちゃんが祟られてくずくずになった。」
「恐ろしい。」
「足を持っていかれた。」
「藤襲山には神様がいる。」
一晩経って。
真っ青な顔をして自分たちの目にしたこと、異形のものとの遭遇、恐れといった全てを“隠すことなく”去っていく集団。
ティアは一仕事終えたことで大きく息をついた。あの人たちのおかげで少しずつ事態は沈静化していくだろう。
共同意識というのは時に絶大な暗示、催眠作用を発揮する。
ことに彼らの体験した“鬼に食われる”という常軌を逸した瞬間、被害者の遺体の状況を見れば尚更だ。
獣に食われたと錯覚できるものもあるが、力の強い鬼の場合は勝手が変わる。
自分一人の体験ではなく三十名程度という多くも少なくもない集団が、同じ場所、同じ時間、同じ脅威を味わった。
この事実を肯定して固めて──繋いで、発展させるだけであとは彼らが“藤襲山の神様”を作り出してくれる。
「鬼の所業を神の祟りに仕立て上げるとはな」
鱗滝が感心している側でティアはがっくりと肩を落とした。
隠たちに村人役に徹してもらい──現に、観光客の一部をすれ違いの付近住民のふりをして引き止めていた事実もあった──後付けで信仰を作り上げ、神の領域だから藤が枯れずに、などと色々と都合よく即席でなんちゃって伝承をまとめた。
事が起きたから上手くいったというのは心苦しいところだが、これで一世紀程度は余程の冒険者魂持ちでなければ観光名所となる日は来ないだろう。何よりそんなに知られていないはずだし、足を運ぶにも不便だ。
まだ傷や体調の問題もあって動けない一部の観光客は残っている。そちらの方を振り返りながら、ティアは指先で頬を掻く。
「これでも小さな信仰の象徴にされかけた身なので、ノウハウは心得ておりましてですね……」
「あの時は私も桑島殿も度肝を抜かれたものだな」
「やめてください、忘れてください! 本当に黒歴史なんですっ!」
鬼殺隊と接点を持つきっかけとなった事件を思い出して、ティアは恥ずかしくて真っ赤になった。いくら本人の知らないところで起きていたこととは言え、巻き込んだ上に助けてもらってもいるから頭が上がらない。
「なにやら、楽しそうですね!」
いやあああ、とその場で頭を抱えて小さく呻く少女と、肩を揺らして思い出し笑いをしている老人を遠巻きにしていた隠の集団から、溌剌とした雰囲気をまとう青年が進みでる。
炎のようないでたちのその青年に、鱗滝は一つ咳払いをして。
「炎柱。派遣されてきたのか」
「ご無沙汰しております、元水柱・鱗滝左近次様。鎹烏に請われて参上したのですが、ご対処いただき感謝致します!──それと、」
まだ少し消沈しているティアを覗き込んだ現炎柱・煉獄杏寿郎は、鬱蒼とした雰囲気を吹き飛ばすように笑った。