第3章 炎を絶やすことなかれ。(全22話)
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第21話 特別な鬼の存在。
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『──いいか、炭治郎。ヒノカミ神楽は寿命を削る呼吸だ』
ヒノカミ神楽を扱う際は“必ず回復の呼吸をその後に取り入れる”事を龍田と約束していた。
鍛錬の順番が回ってきた当初、まだ炭治郎が全快ではないと判断したのもありそうだが、『ヒノカミ神楽は未熟な体には負担が大きすぎる』からだと。
水の呼吸とて、全集中・常中を習得するまで辛かっただろう──と、痛いところを突かれて、焦る気持ちを叱咤されたものだ。
いま、炭治郎は水の呼吸とヒノカミ神楽を“混ぜた”。
回復の呼吸とヒノカミ神楽の反復訓練が功を奏した形だ。水の呼吸と回復の呼吸を連携させることにおいては、狭霧山でラシードと鍛錬した時に“無意識に出来る様にさせられていた”のだと思う。
水の呼吸を知るより前に、ラシードに教わったのは回復の呼吸だ。
最終餞別から帰ってきた時、彼はへとへとになっている炭治郎を一晩も休ませる事なく普通に鍛錬に連れ出し、初日は自力で下山できないほどだった。
その時に、回復の呼吸をうまく使えと言われた。
当時の炭治郎は、水の呼吸を扱い技を出し、回復の呼吸で体制を整え、技を出すための準備をし、水の呼吸の技を放つ──そういう一つ一つの無駄な動きが大きかった。
けれど、ラシードは一言もその点において文句を言わなかったし、初日以外は炭治郎の調子に合わせて技を出してきたり、時々呼吸困難になりそうなくらいにいじめ倒されたりもしたけれど。
今──回復の呼吸を仲介させる形で二つの呼吸を、とっさに混ぜた事で天元の嫁を救出できた。これは、大きな一歩に違いない。
水の呼吸とヒノカミ神楽を混ぜれば、攻撃力と持久性が上がる。炭治郎にとって二つの呼吸それぞれの短所が、相殺されて調整が取れた。
けれど、天元と炭治郎の共闘も虚しく、人外ならではの避け方をされ絶体絶命の危機が迫る──カリカリと、箱を引っ掻く音が聞こえた。
「──水の呼吸 肆ノ型 打ち潮!」
上弦の血鬼術が発動する中、天元が男鬼を引き連れて離れる瞬間、禰豆子の箱を背負った錆兎が乱入した。血鬼術のみを払った青年は、禰豆子の箱を炭治郎に預ける。
「守ることしか今の俺たちには出来ないが、その分お前たちは動きやすくなるだろう。俺と真菰で音柱を加勢する!」
「炭治郎、後ろ気をつけなね!」
真菰が軽やかに着地したかと思えば、背後から上弦の女鬼と戦う伊之助と善逸が。二人とも鬼の攻撃を避けるのに手一杯で、炭治郎を含めた三人での戦いを強いられた。
錆兎と真菰は、鬼狩りには加勢できない制限を受けながらも、ならば鬼狩りをする者たちを守るという規定の穴をついて来てくれた。
それだけでもありがたいと思わなければ。
「ハナモ! 今回はお前のこと信じてやるからなぁ!」
「やだなあ、いつも信じてよ〜」
突然喚き出した伊之助が、天元に降りかかる毒の刃を払う真菰に刀の鋒を向けた。苦笑いで応じた少女は直ぐに視線を外してしまったが、伊之助は続けて吠える。
「丹吾郎の言う通りなら、二刀流の俺様に任せておけコラ!」
三人なら勝てる──善逸と炭治郎も頷き合って、自分たちを信じて突進をかける伊之助を守ることに全力を尽くした。
そして、飛んでいく女鬼の首を受け止めたのは、元の姿に戻ったティア。
彼女に受け止められた女鬼──蕨姫の、顔が引きつる。
「とりあえず、俺は頸を持って逃げ回るからな! ティアもついでに逃げるぞ、それ捕まえてろ!」
女鬼の首を持ったティアごと抱えた伊之助が、鬼を無力化するために走り出す。大事なものを抱えるようにぎゅうっと蕨姫を抱え込むティアに、女鬼が悲鳴を上げた。
「嫌よっ放してっ! “かつら”の嘘つき、裏切り者! 騙したな、私のことを影で嘲笑っていたんだろう!」
「暴れないで下さい、貴女を落としたくないです!」
「このわからずやあっ! もうっなんで敵なのよおおおっ」
ティアの体に巻きつく女鬼の髪。
──天元が地に伏し、伊之助が刺され、善逸は瓦礫の中。
守り手が動けなくなってしまえば、錆兎と真菰も動けない。
炭治郎を痛めつける男鬼を見下ろしながら、ティアのことを吊し上げる蕨姫は、無言だった──その視線を受け止めるティア自身も。
「猪頭と一緒にお兄ちゃんに斬られたのに、どうして“かつら”は何ともないの? 皮膚もただれていないし、苦しそうでもない」
「鬼ではないけど、私も人外ですから。元から毒は効かないんです」
蕨姫の攻撃は、不思議なことにティアには通じなかった。苦しくもないのは、“彼女たちが鬼とは違う性質を帯びているから”だ。
鬼の中に“ティアと同じような化け物”がいる。
この二人は、その化け物に近いのだ。無惨の細胞とは少し違う。
「だから、貴女は私に優しくしてくれたんですよ。私は貴女の優しさに付け込んだずるい奴です。罵られて当然です」
「はあ? 待ってよ、そんなに自分を卑下することないじゃない! それに言っている意味がわからないわ! ちゃんとわかるように言ってよ“かつら”!」
「ティアです」
地団駄を踏むように不満を露わにする女鬼が、きょとんとなった。
それが“かつら”の本当の名前だとわかったのか、彼女はもごもごと口を真一文字に結んで。
それを見て、ティアは目を閉じた。
「霹靂一閃 神速!」
「険しい山で育った俺には毒も効かねえ!」
瓦礫の中から一撃必殺の技を繰り出す善逸と。
持ち前の体の柔らかさを活かして、今この瞬間に加勢に入る伊之助。
「譜面が完成した! 勝ちに行くぞォォ‼︎」
片腕と片目を失いながらも、“勝たせる為”に前に出る天元。
顎を鎌に貫かれながらも、折れずに刀を振り抜く炭治郎──。
一瞬の静けさの後、男鬼の黒い刃が一斉に牙を剥いて鬼狩りたちに襲い掛かる。
「錆兎、真菰も構えろ! 風の呼吸──漆ノ型 勁風・天狗風!」
黒い竜巻が吉原を飲み込む直前、ティアの透き通るようになった髪が風圧でふわりと揺れた。
一瞬で瓦礫の町と化す吉原の街並み。
けれどティアは怪我をしなかった──帯が守ってくれていたから。
月明かりのおかげで傷はたちまち癒えてしまうのは、力が有り余っているから。
錆兎と真菰が龍田に合わせて威力を軽減し、炭治郎たちを守った為に彼らは窮地に一生を得ていたけれど。
「直接的な被害者の出た場所以外は元の通りに直せ。集中したところは暴動と放火被害にあったことにして収集をつけるぞ」
「杏寿郎と俺で“範囲”は固定してあるが、細かいところは──」
捨身で技を放った為に細切れになっていた龍田が直ぐに復活し、指示を飛ばしてくる。錆兎と真菰は、勁風・天狗風の作用のお陰でうまく逃げ切れたようだ。
大きく手を上げた真菰が「細かいのは私が把握済みだよ!」と、龍田の片腕に飛びついて額を肩口に押し付けた。記憶の譲渡だ。
「ティア、お前いま、力有り余ってるんだから気を抜かずに、本当にちゃんとしろよ。吉原の地をメルヘンの世界に変えたりしたら流石にヤバイぞ!」
「ぶっふぉ!?」
指摘されてひっと喉を鳴らすティアと首を傾げる錆兎たちから離れた場所で、思い出し笑いでもしたのか吹き出したのは天元だった。
とはいってもすぐに苦悶の呻きに変わったが、血相を変えて彼を手当てしていた嫁たちも肩をプルプルさせている。
「おま……っ龍田てめぇ、こっち来やがれ。ぶん殴る……」
「お前らは被害にあってんだからもっとティアを責めていいんだぞ、忍の世界に慣れてたお前らにとっちゃ過激すぎたろ」
「「「「ええ、まあ」」」」
めるへんってなあに? と悪気なく尋ねてくる真菰を、空気を読んだ錆兎が止めてくれている。ティアはもう膝を抱えた状態から動けない。
いやほんと、本当にちゃんとやらなければ。
元あった形に戻すということは、いま現在の形を変えるということであって。
つまりは集中力が少しでも途切れると──別世界になることだってあるのだから──。
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『──いいか、炭治郎。ヒノカミ神楽は寿命を削る呼吸だ』
ヒノカミ神楽を扱う際は“必ず回復の呼吸をその後に取り入れる”事を龍田と約束していた。
鍛錬の順番が回ってきた当初、まだ炭治郎が全快ではないと判断したのもありそうだが、『ヒノカミ神楽は未熟な体には負担が大きすぎる』からだと。
水の呼吸とて、全集中・常中を習得するまで辛かっただろう──と、痛いところを突かれて、焦る気持ちを叱咤されたものだ。
いま、炭治郎は水の呼吸とヒノカミ神楽を“混ぜた”。
回復の呼吸とヒノカミ神楽の反復訓練が功を奏した形だ。水の呼吸と回復の呼吸を連携させることにおいては、狭霧山でラシードと鍛錬した時に“無意識に出来る様にさせられていた”のだと思う。
水の呼吸を知るより前に、ラシードに教わったのは回復の呼吸だ。
最終餞別から帰ってきた時、彼はへとへとになっている炭治郎を一晩も休ませる事なく普通に鍛錬に連れ出し、初日は自力で下山できないほどだった。
その時に、回復の呼吸をうまく使えと言われた。
当時の炭治郎は、水の呼吸を扱い技を出し、回復の呼吸で体制を整え、技を出すための準備をし、水の呼吸の技を放つ──そういう一つ一つの無駄な動きが大きかった。
けれど、ラシードは一言もその点において文句を言わなかったし、初日以外は炭治郎の調子に合わせて技を出してきたり、時々呼吸困難になりそうなくらいにいじめ倒されたりもしたけれど。
今──回復の呼吸を仲介させる形で二つの呼吸を、とっさに混ぜた事で天元の嫁を救出できた。これは、大きな一歩に違いない。
水の呼吸とヒノカミ神楽を混ぜれば、攻撃力と持久性が上がる。炭治郎にとって二つの呼吸それぞれの短所が、相殺されて調整が取れた。
けれど、天元と炭治郎の共闘も虚しく、人外ならではの避け方をされ絶体絶命の危機が迫る──カリカリと、箱を引っ掻く音が聞こえた。
「──水の呼吸 肆ノ型 打ち潮!」
上弦の血鬼術が発動する中、天元が男鬼を引き連れて離れる瞬間、禰豆子の箱を背負った錆兎が乱入した。血鬼術のみを払った青年は、禰豆子の箱を炭治郎に預ける。
「守ることしか今の俺たちには出来ないが、その分お前たちは動きやすくなるだろう。俺と真菰で音柱を加勢する!」
「炭治郎、後ろ気をつけなね!」
真菰が軽やかに着地したかと思えば、背後から上弦の女鬼と戦う伊之助と善逸が。二人とも鬼の攻撃を避けるのに手一杯で、炭治郎を含めた三人での戦いを強いられた。
錆兎と真菰は、鬼狩りには加勢できない制限を受けながらも、ならば鬼狩りをする者たちを守るという規定の穴をついて来てくれた。
それだけでもありがたいと思わなければ。
「ハナモ! 今回はお前のこと信じてやるからなぁ!」
「やだなあ、いつも信じてよ〜」
突然喚き出した伊之助が、天元に降りかかる毒の刃を払う真菰に刀の鋒を向けた。苦笑いで応じた少女は直ぐに視線を外してしまったが、伊之助は続けて吠える。
「丹吾郎の言う通りなら、二刀流の俺様に任せておけコラ!」
三人なら勝てる──善逸と炭治郎も頷き合って、自分たちを信じて突進をかける伊之助を守ることに全力を尽くした。
そして、飛んでいく女鬼の首を受け止めたのは、元の姿に戻ったティア。
彼女に受け止められた女鬼──蕨姫の、顔が引きつる。
「とりあえず、俺は頸を持って逃げ回るからな! ティアもついでに逃げるぞ、それ捕まえてろ!」
女鬼の首を持ったティアごと抱えた伊之助が、鬼を無力化するために走り出す。大事なものを抱えるようにぎゅうっと蕨姫を抱え込むティアに、女鬼が悲鳴を上げた。
「嫌よっ放してっ! “かつら”の嘘つき、裏切り者! 騙したな、私のことを影で嘲笑っていたんだろう!」
「暴れないで下さい、貴女を落としたくないです!」
「このわからずやあっ! もうっなんで敵なのよおおおっ」
ティアの体に巻きつく女鬼の髪。
──天元が地に伏し、伊之助が刺され、善逸は瓦礫の中。
守り手が動けなくなってしまえば、錆兎と真菰も動けない。
炭治郎を痛めつける男鬼を見下ろしながら、ティアのことを吊し上げる蕨姫は、無言だった──その視線を受け止めるティア自身も。
「猪頭と一緒にお兄ちゃんに斬られたのに、どうして“かつら”は何ともないの? 皮膚もただれていないし、苦しそうでもない」
「鬼ではないけど、私も人外ですから。元から毒は効かないんです」
蕨姫の攻撃は、不思議なことにティアには通じなかった。苦しくもないのは、“彼女たちが鬼とは違う性質を帯びているから”だ。
鬼の中に“ティアと同じような化け物”がいる。
この二人は、その化け物に近いのだ。無惨の細胞とは少し違う。
「だから、貴女は私に優しくしてくれたんですよ。私は貴女の優しさに付け込んだずるい奴です。罵られて当然です」
「はあ? 待ってよ、そんなに自分を卑下することないじゃない! それに言っている意味がわからないわ! ちゃんとわかるように言ってよ“かつら”!」
「ティアです」
地団駄を踏むように不満を露わにする女鬼が、きょとんとなった。
それが“かつら”の本当の名前だとわかったのか、彼女はもごもごと口を真一文字に結んで。
それを見て、ティアは目を閉じた。
「霹靂一閃 神速!」
「険しい山で育った俺には毒も効かねえ!」
瓦礫の中から一撃必殺の技を繰り出す善逸と。
持ち前の体の柔らかさを活かして、今この瞬間に加勢に入る伊之助。
「譜面が完成した! 勝ちに行くぞォォ‼︎」
片腕と片目を失いながらも、“勝たせる為”に前に出る天元。
顎を鎌に貫かれながらも、折れずに刀を振り抜く炭治郎──。
一瞬の静けさの後、男鬼の黒い刃が一斉に牙を剥いて鬼狩りたちに襲い掛かる。
「錆兎、真菰も構えろ! 風の呼吸──漆ノ型 勁風・天狗風!」
黒い竜巻が吉原を飲み込む直前、ティアの透き通るようになった髪が風圧でふわりと揺れた。
一瞬で瓦礫の町と化す吉原の街並み。
けれどティアは怪我をしなかった──帯が守ってくれていたから。
月明かりのおかげで傷はたちまち癒えてしまうのは、力が有り余っているから。
錆兎と真菰が龍田に合わせて威力を軽減し、炭治郎たちを守った為に彼らは窮地に一生を得ていたけれど。
「直接的な被害者の出た場所以外は元の通りに直せ。集中したところは暴動と放火被害にあったことにして収集をつけるぞ」
「杏寿郎と俺で“範囲”は固定してあるが、細かいところは──」
捨身で技を放った為に細切れになっていた龍田が直ぐに復活し、指示を飛ばしてくる。錆兎と真菰は、勁風・天狗風の作用のお陰でうまく逃げ切れたようだ。
大きく手を上げた真菰が「細かいのは私が把握済みだよ!」と、龍田の片腕に飛びついて額を肩口に押し付けた。記憶の譲渡だ。
「ティア、お前いま、力有り余ってるんだから気を抜かずに、本当にちゃんとしろよ。吉原の地をメルヘンの世界に変えたりしたら流石にヤバイぞ!」
「ぶっふぉ!?」
指摘されてひっと喉を鳴らすティアと首を傾げる錆兎たちから離れた場所で、思い出し笑いでもしたのか吹き出したのは天元だった。
とはいってもすぐに苦悶の呻きに変わったが、血相を変えて彼を手当てしていた嫁たちも肩をプルプルさせている。
「おま……っ龍田てめぇ、こっち来やがれ。ぶん殴る……」
「お前らは被害にあってんだからもっとティアを責めていいんだぞ、忍の世界に慣れてたお前らにとっちゃ過激すぎたろ」
「「「「ええ、まあ」」」」
めるへんってなあに? と悪気なく尋ねてくる真菰を、空気を読んだ錆兎が止めてくれている。ティアはもう膝を抱えた状態から動けない。
いやほんと、本当にちゃんとやらなければ。
元あった形に戻すということは、いま現在の形を変えるということであって。
つまりは集中力が少しでも途切れると──別世界になることだってあるのだから──。