第3章 炎を絶やすことなかれ。(全22話)
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第19話 撤退命令。
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──気配も音もなく現れた天元から、撤退命令が出た。
自分たちの階級が低いから──と落ち込む炭治郎に、伊之助が階級の見方を教えてやる。腕の甲に示されることを知らなかったらしい炭治郎が悄然となるのを、伊之助が慰める。
けれど、それを教えたのはラシードだった。
人の話を聞かない伊之助に、選別が終わったらこういうことがあるから勝手ばかりせずにちゃんと施して貰うんだぞ、とあらかじめ言い含めておいたのだ。
きちんと言いつけ通りにしていたのがわかって龍田は満足する。
「まずは、鬼の移動手段をはっきりさせることが大事だな。伊之助が把握している天井裏や壁向こうってのは、まあ忍者屋敷のように絡繰仕立てならわからなくもないが、荻本屋はそんな作りじゃない」
「なんでそんなことがラシードにわかるんだよ」
「そりゃあ、建てたの俺だもん。荻本屋は結構歴史あんだぞ」
面白くなさそうに牙を剥いてくる伊之助に、しれっと答える。手に職持ってると将来明るいんだぞ。遊女になったのは京都だったけどな。
ぽかーんとなっている二人をよそに、龍田は立ち上がる。
「俺とティアは天元が行動を起こした時、花街の人間たちを逃すことに専念する。お前たちはどうする?」
その問いかけに、炭治郎がすぐに目に光を宿して。「俺は善逸も宇髄さんの奥さんたちも皆生きていると思う」
そのつもりで行動し、必ず助け出す。
伊之助にも、ティアにも龍田にも、そのつもりで行動して欲しい。
そして──絶対に、死なないで欲しい。
炭治郎からの訴えに、伊之助がにやりと笑った。
──鎹烏に導かれた龍田は、一足飛びに炭治郎の肩を押す。
途端に、花街の一角が崩れ落ち、そこかしこで血の匂いが充満した。
「ラシード……お前、また……っ‼︎」
左肩口から袈裟斬りに傷を負った炭治郎が、助け起こそうと手を伸ばしてくる。彼に襲い掛かった一撃をまともに喰らった龍田は真っ二つになってしまったが、すぐに再生し、慌てて起き上がった。
「まだまだ若いんでお構いなく! つか、君のがやばいじゃん。ごめんね、痛いの嫌だなーって一瞬思っちゃったからさ」
「そう思うのが当たり前だろう! もう、ホント心臓に悪い……」
まあ、実際普通なら死んでいたので心臓には悪かったはずだ。悪いことしたなぁ。
袈裟斬りの攻撃を受けた為、着衣が大問題だ。その辺に転がっていた暖簾をうまい具合に装着して痴女回避する。
「とりあえず炭治郎、回復の呼吸、急ぎで最低五十回! それとこれ傷口にぶっかけて。君が来るまであの鬼のこと引き受けるけど、その後は私も救護に回るからな!」
ぶん投げるように特製の傷薬を渡し、龍田は天元のいる方へ向かいかける鬼の前に立ち塞がる。「待ちなよ、鬼の小娘」
肺が破れて動けなくなるわけにはいかないから、昨晩のうちに整理しておいた記憶の償却で“空白になった時間”を前払いする。龍田として生きた時間内での事だが、鍛錬に関しての記憶は消えたところで問題はない。
次に鍛錬するときに、状況に応じて手順を組み立てればいい事だし、次に生まれたときには忘れたはずの記憶も継がれる。前世の記憶は償却して忘れてしまった分も渡せるのだ。
「強い鬼狩りと戦いたいんだろう、もったいない事をするなよ。私と炭治郎を放って行ってしまうなんて、その目はただの飾りか?」
「……お前、厨房方の。目障りだ、消えろ!」
幾重もの帯が八方から伸びてくる。龍田は刀を構え、重心を低く──「雷の呼吸 伍ノ型 熱界雷」
上昇気流に乗って流れる雷の如く迫る激しい斬撃は、まるで鎌鼬のようになって蕨姫に襲い掛かった。
避けずに帯で払おうとしたようだが、防げないと察知した鬼が回避に専念している間に善逸の十八番である霹靂一閃で追い詰める。
熱界雷の威力で切り裂かれた帯が灰となって消え、壱ノ型で両足を断裂された蕨姫が帯を器用に用いながら体勢を整えて喚く。
「どう見たってお前のその体から出せる技じゃないだろう! なんなんだ、お前は! “かつら”の叔母だと聞いたのに、それでは……」
裏切られた。
とても傷ついた様子で言葉に詰まる蕨姫を、龍田は可哀想だとは思わない。
ティア以外の娘たちは酷い目にあっていた。
そんな環境下で、ティアは自分の能力に蓋をして過ごしてきた。蓋をしなければ、彼女の身体は遊女たちの救いを求める純粋な心に触れて、成長してしまうから。
今頃ティアは、ラシードが死んだあの頃に近い姿形に戻ってしまっているだろう。
「失われた命は回帰しない。二度と戻らない」
泣きそうな顔でこの場から逃げようとする、再生したばかりの蕨姫の足を、無遠慮に掴んだのは炭治郎だった。
その凄絶な様子といったら。
思わず、龍田もごくりと唾を飲み込む。
「ヒノカミ神楽 灼骨炎陽」
炭治郎と鬼の再戦が始まる。彼の介入のおかげで記憶の償却分にも余裕がある。彼らの様子に注意しながら、龍田は負傷者たちの手当てに回った。
片腕を切断した程度ならば、鹿鳴館の珠世たちに頼めば繋げてもらえるだろう。応急処置を次々に施しながら、手分けして瓦礫に埋まっている人たちを助け出し、逃げるよう促した。
またあちこちで屋敷が壊れる音がする。怪我人はどんどん出る。薬は作りまくっていたし、門を使って鹿鳴館の貯蔵庫から引っ張り出すから問題ないだろうが。
「うん、手が足りないな。出し惜しみせず最初からそうすりゃよかったわ」
鍵を構えてくるりと鍵穴に刺すように回すと、何にもない空間が扉のように開いて、中から三つの人影が雪崩出てきた。
三人が三人、目をぱちくりさせて身を起こす。錆兎、真菰、そして煉獄杏寿郎だ。
「任務中悪いが怪我人の処置と救出活動に手を貸してくれ。鬼狩りの主力にはなれない制限をまだ解いてないから、守る行動に専念する事」
「ちょっと、せめて通知くらいしてよ、鼻打っちゃったじゃない」
鼻頭を赤くさせた真菰に詫びを入れると、杏寿郎がふむ、と困った顔になる。
「俺は死んだ人間だ。あまり隊士たちに見られたくないな! 目眩しのような術はないだろうか! ないならば仕方ないのだが!」
「なんでもいいならやってやるよ、“血記術”で」
頼む! と頭を下げられたので、錆兎と真菰には先に行ってもらい、注意点をいくつか言い含めて送り出す。
ある意味で煉獄杏寿郎の姿よりインパクトあるだろうけど。
まあ、いっか。
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──気配も音もなく現れた天元から、撤退命令が出た。
自分たちの階級が低いから──と落ち込む炭治郎に、伊之助が階級の見方を教えてやる。腕の甲に示されることを知らなかったらしい炭治郎が悄然となるのを、伊之助が慰める。
けれど、それを教えたのはラシードだった。
人の話を聞かない伊之助に、選別が終わったらこういうことがあるから勝手ばかりせずにちゃんと施して貰うんだぞ、とあらかじめ言い含めておいたのだ。
きちんと言いつけ通りにしていたのがわかって龍田は満足する。
「まずは、鬼の移動手段をはっきりさせることが大事だな。伊之助が把握している天井裏や壁向こうってのは、まあ忍者屋敷のように絡繰仕立てならわからなくもないが、荻本屋はそんな作りじゃない」
「なんでそんなことがラシードにわかるんだよ」
「そりゃあ、建てたの俺だもん。荻本屋は結構歴史あんだぞ」
面白くなさそうに牙を剥いてくる伊之助に、しれっと答える。手に職持ってると将来明るいんだぞ。遊女になったのは京都だったけどな。
ぽかーんとなっている二人をよそに、龍田は立ち上がる。
「俺とティアは天元が行動を起こした時、花街の人間たちを逃すことに専念する。お前たちはどうする?」
その問いかけに、炭治郎がすぐに目に光を宿して。「俺は善逸も宇髄さんの奥さんたちも皆生きていると思う」
そのつもりで行動し、必ず助け出す。
伊之助にも、ティアにも龍田にも、そのつもりで行動して欲しい。
そして──絶対に、死なないで欲しい。
炭治郎からの訴えに、伊之助がにやりと笑った。
──鎹烏に導かれた龍田は、一足飛びに炭治郎の肩を押す。
途端に、花街の一角が崩れ落ち、そこかしこで血の匂いが充満した。
「ラシード……お前、また……っ‼︎」
左肩口から袈裟斬りに傷を負った炭治郎が、助け起こそうと手を伸ばしてくる。彼に襲い掛かった一撃をまともに喰らった龍田は真っ二つになってしまったが、すぐに再生し、慌てて起き上がった。
「まだまだ若いんでお構いなく! つか、君のがやばいじゃん。ごめんね、痛いの嫌だなーって一瞬思っちゃったからさ」
「そう思うのが当たり前だろう! もう、ホント心臓に悪い……」
まあ、実際普通なら死んでいたので心臓には悪かったはずだ。悪いことしたなぁ。
袈裟斬りの攻撃を受けた為、着衣が大問題だ。その辺に転がっていた暖簾をうまい具合に装着して痴女回避する。
「とりあえず炭治郎、回復の呼吸、急ぎで最低五十回! それとこれ傷口にぶっかけて。君が来るまであの鬼のこと引き受けるけど、その後は私も救護に回るからな!」
ぶん投げるように特製の傷薬を渡し、龍田は天元のいる方へ向かいかける鬼の前に立ち塞がる。「待ちなよ、鬼の小娘」
肺が破れて動けなくなるわけにはいかないから、昨晩のうちに整理しておいた記憶の償却で“空白になった時間”を前払いする。龍田として生きた時間内での事だが、鍛錬に関しての記憶は消えたところで問題はない。
次に鍛錬するときに、状況に応じて手順を組み立てればいい事だし、次に生まれたときには忘れたはずの記憶も継がれる。前世の記憶は償却して忘れてしまった分も渡せるのだ。
「強い鬼狩りと戦いたいんだろう、もったいない事をするなよ。私と炭治郎を放って行ってしまうなんて、その目はただの飾りか?」
「……お前、厨房方の。目障りだ、消えろ!」
幾重もの帯が八方から伸びてくる。龍田は刀を構え、重心を低く──「雷の呼吸 伍ノ型 熱界雷」
上昇気流に乗って流れる雷の如く迫る激しい斬撃は、まるで鎌鼬のようになって蕨姫に襲い掛かった。
避けずに帯で払おうとしたようだが、防げないと察知した鬼が回避に専念している間に善逸の十八番である霹靂一閃で追い詰める。
熱界雷の威力で切り裂かれた帯が灰となって消え、壱ノ型で両足を断裂された蕨姫が帯を器用に用いながら体勢を整えて喚く。
「どう見たってお前のその体から出せる技じゃないだろう! なんなんだ、お前は! “かつら”の叔母だと聞いたのに、それでは……」
裏切られた。
とても傷ついた様子で言葉に詰まる蕨姫を、龍田は可哀想だとは思わない。
ティア以外の娘たちは酷い目にあっていた。
そんな環境下で、ティアは自分の能力に蓋をして過ごしてきた。蓋をしなければ、彼女の身体は遊女たちの救いを求める純粋な心に触れて、成長してしまうから。
今頃ティアは、ラシードが死んだあの頃に近い姿形に戻ってしまっているだろう。
「失われた命は回帰しない。二度と戻らない」
泣きそうな顔でこの場から逃げようとする、再生したばかりの蕨姫の足を、無遠慮に掴んだのは炭治郎だった。
その凄絶な様子といったら。
思わず、龍田もごくりと唾を飲み込む。
「ヒノカミ神楽 灼骨炎陽」
炭治郎と鬼の再戦が始まる。彼の介入のおかげで記憶の償却分にも余裕がある。彼らの様子に注意しながら、龍田は負傷者たちの手当てに回った。
片腕を切断した程度ならば、鹿鳴館の珠世たちに頼めば繋げてもらえるだろう。応急処置を次々に施しながら、手分けして瓦礫に埋まっている人たちを助け出し、逃げるよう促した。
またあちこちで屋敷が壊れる音がする。怪我人はどんどん出る。薬は作りまくっていたし、門を使って鹿鳴館の貯蔵庫から引っ張り出すから問題ないだろうが。
「うん、手が足りないな。出し惜しみせず最初からそうすりゃよかったわ」
鍵を構えてくるりと鍵穴に刺すように回すと、何にもない空間が扉のように開いて、中から三つの人影が雪崩出てきた。
三人が三人、目をぱちくりさせて身を起こす。錆兎、真菰、そして煉獄杏寿郎だ。
「任務中悪いが怪我人の処置と救出活動に手を貸してくれ。鬼狩りの主力にはなれない制限をまだ解いてないから、守る行動に専念する事」
「ちょっと、せめて通知くらいしてよ、鼻打っちゃったじゃない」
鼻頭を赤くさせた真菰に詫びを入れると、杏寿郎がふむ、と困った顔になる。
「俺は死んだ人間だ。あまり隊士たちに見られたくないな! 目眩しのような術はないだろうか! ないならば仕方ないのだが!」
「なんでもいいならやってやるよ、“血記術”で」
頼む! と頭を下げられたので、錆兎と真菰には先に行ってもらい、注意点をいくつか言い含めて送り出す。
ある意味で煉獄杏寿郎の姿よりインパクトあるだろうけど。
まあ、いっか。