第3章 炎を絶やすことなかれ。(全22話)
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第18話 昔取った杵柄。
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ひょこっと厨房に顔を出したティアが、ぱあっと笑顔になった。
片手を上げて「かつら」と名前を呼んでやると、年嵩の女性が目を丸くして。
「なあに、龍田ちゃん。貴女、かつらちゃんの知り合いなの?」
「兄の娘なんですよ。彼女の扱いについて家族と大揉めして。あったま来て私も家出してきました」
天元に喧嘩を売られる少し前に、すでに厨房方として雇ってもらえないかと交渉し、許可は得ていた。
そういえば──“死んでしまっている女将”への挨拶がまだだったな。
「っ女将は、亡くなったのよ。詳しいことは私らも知らなくてね」
突然あたふたし始めた、短期間だけ同僚となる女性たちがなにかと理由をつけて散っていく。
腰に引っ付いているティアに目を向けると、悲しそうな顔をして。
夢の中で情報共有しているから、龍田はここに鬼がいることを知っている。雛鶴も切見世にやられた。けれど、“監視”があることもわかっている。
ティアと龍田であれば連絡手段はいくらでもあるが、天元たちに夢の中で何かを伝えるためには距離がどうしても近くなくてはダメだった。
だから、ティアに早々に潜入してもらったのだ。
雛鶴のいる場所が危ない──とすぐにあたりがつけられたのは、身内からの情報共有のおかげだ。花街などは権力者の溜まり場だ。
また、番付票を辿ればわかる。載っていたはずなのに突然足抜けした遊女のその後の行方を探るのだ。鬼が潜んでいるというならば“足抜け”は目印なのだから。
「虐められたりはしてなさそうだな」
「みんな優しくしてくれるので。今日は“後輩”が出来たんです!」
久々の再会を装えば、合わせるように受け答えしながら善逸のことを持ち出してきた。
鬼がいるとわかっているのだから、善逸の存在も念頭において行動しなければならない。
なにより、彼は鬼の音がわかるだろう。うまくフォローしてやる必要がある。
「蕨姫花魁にも良くしてもらってますから、私は大丈夫!」
「そうか。私も京極屋は料理も絶品だと評価されるよう腕を振るうよ」
側から見ていれば感動の再会からの健気な娘と叔母の再会の出来上がりだ。ひしっと抱き合ってはいるがティアは笑いを堪えている。
熟れている龍田は頃合いを見て彼女から離れ、とりあえず旦那に挨拶したいと訴えるのだった──。
「ってなわけで、ティアが善逸にしばらくついてるからさ」
「雛鶴どうなった」
定期連絡として屋根の上で報告すれば、天元が物凄い凄みをきかせて睨んでくる。
切見世だとわかっているし、毒だって後遺症などが残らない、ほんの少し口腔内の毛細血管を刺激して吐血にみせかけられるような症状と、体力低下、麻痺といった程度だ。
監視の目がある間は、効果は持続するようにしてある。“血記術”を応用していることは天元にはいえない。嫁第一の相手にそんなこと言ったら計画がパァだ。
すぐに助けてやりたいが、それでは鬼にだって感づかれる。ここはあちら側のテリトリーだし、被害を最小限にする為にはどうしても雛鶴には我慢を強いる必要があった。
「厨房方の俺がすぐ把握できるわけねぇだろ。ティアだって店の花魁に気に入られてあんま自由利かねえってのに」
「っち、龍田も善逸も使えねぇな。んで、お前らの方はどうだい」
善逸と二人で天元を睨んだ。流石に今の酷くない⁈
「今に見てろよあの色男! 今に天下一品の遊女になって見返してやるんだからなぁ!」
「気合入ってんなあ、善子。それなら、いくつか私が教えてやろうか」
店に戻る道中できょとん、となった善逸をそのまま空いている部屋に連れ込んで、舞や歌、三味線や琴の手ほどきをする。
そのうちにティアを始め多くの遊女たちが見に来て、仕舞いには店主にも龍田の実力が知られることになった。
遊郭で生きた経験だって長い人生一度くらいあるのだ。そりゃあ、極めようとだって知識のお化けとしては思ったっていいはず。
「舞は体の硬さの関係でちょっとまだ合格点は出せないが、楽に関しては申し分ないな。今後は舞に時間をかけよう、善子!」
「龍田姐さん、アタイどこまでもついていくわ‼︎」
結局他の遊女たちにも教えて欲しいと──稽古の教手は別にいるのだが常駐ではない──店主に請われ、晴れて龍田も厨房外を堂々と出入りすることが可能となった。
これで明日は天元に文句を言われないはず。
「……なあ、龍田姐さんよ」
突然、夢から醒めたような顔で善逸が顔を上げた。どうやら、天元への怒りを昇華して、現実を受け入れ始めたよう。
「遊女一なんてそもそも無理だろ。俺男だよ、お前も止めろよ」
「教養は大事だぞ。禰豆子が出来る様になりたいって言い出したらお前教えてやれるんだぜ?」
「その点に至っては今後ともよろしくお願いしますお姐様‼︎」
そんなやり取りをしたのが午前中のこと。
異国の人間相手の通訳で、ティアが近隣の店に助っ人として呼ばれていた最中のことで、暴れていた蕨姫を止めた善逸が鬼殺隊員だとバレた。
気を失った善逸を寝かせるのを手伝いながら、門を彼の心臓あたりに配し、万が一の事態に備える。念の為鬼の角は回収した。余計なものがあっては“無惨に気取られる”可能性もある。
“血記術”は発動させない限りは無惨にもわからない。
──そして、ティアが呼び戻される頃には、善逸の姿は消えていた──。
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ひょこっと厨房に顔を出したティアが、ぱあっと笑顔になった。
片手を上げて「かつら」と名前を呼んでやると、年嵩の女性が目を丸くして。
「なあに、龍田ちゃん。貴女、かつらちゃんの知り合いなの?」
「兄の娘なんですよ。彼女の扱いについて家族と大揉めして。あったま来て私も家出してきました」
天元に喧嘩を売られる少し前に、すでに厨房方として雇ってもらえないかと交渉し、許可は得ていた。
そういえば──“死んでしまっている女将”への挨拶がまだだったな。
「っ女将は、亡くなったのよ。詳しいことは私らも知らなくてね」
突然あたふたし始めた、短期間だけ同僚となる女性たちがなにかと理由をつけて散っていく。
腰に引っ付いているティアに目を向けると、悲しそうな顔をして。
夢の中で情報共有しているから、龍田はここに鬼がいることを知っている。雛鶴も切見世にやられた。けれど、“監視”があることもわかっている。
ティアと龍田であれば連絡手段はいくらでもあるが、天元たちに夢の中で何かを伝えるためには距離がどうしても近くなくてはダメだった。
だから、ティアに早々に潜入してもらったのだ。
雛鶴のいる場所が危ない──とすぐにあたりがつけられたのは、身内からの情報共有のおかげだ。花街などは権力者の溜まり場だ。
また、番付票を辿ればわかる。載っていたはずなのに突然足抜けした遊女のその後の行方を探るのだ。鬼が潜んでいるというならば“足抜け”は目印なのだから。
「虐められたりはしてなさそうだな」
「みんな優しくしてくれるので。今日は“後輩”が出来たんです!」
久々の再会を装えば、合わせるように受け答えしながら善逸のことを持ち出してきた。
鬼がいるとわかっているのだから、善逸の存在も念頭において行動しなければならない。
なにより、彼は鬼の音がわかるだろう。うまくフォローしてやる必要がある。
「蕨姫花魁にも良くしてもらってますから、私は大丈夫!」
「そうか。私も京極屋は料理も絶品だと評価されるよう腕を振るうよ」
側から見ていれば感動の再会からの健気な娘と叔母の再会の出来上がりだ。ひしっと抱き合ってはいるがティアは笑いを堪えている。
熟れている龍田は頃合いを見て彼女から離れ、とりあえず旦那に挨拶したいと訴えるのだった──。
「ってなわけで、ティアが善逸にしばらくついてるからさ」
「雛鶴どうなった」
定期連絡として屋根の上で報告すれば、天元が物凄い凄みをきかせて睨んでくる。
切見世だとわかっているし、毒だって後遺症などが残らない、ほんの少し口腔内の毛細血管を刺激して吐血にみせかけられるような症状と、体力低下、麻痺といった程度だ。
監視の目がある間は、効果は持続するようにしてある。“血記術”を応用していることは天元にはいえない。嫁第一の相手にそんなこと言ったら計画がパァだ。
すぐに助けてやりたいが、それでは鬼にだって感づかれる。ここはあちら側のテリトリーだし、被害を最小限にする為にはどうしても雛鶴には我慢を強いる必要があった。
「厨房方の俺がすぐ把握できるわけねぇだろ。ティアだって店の花魁に気に入られてあんま自由利かねえってのに」
「っち、龍田も善逸も使えねぇな。んで、お前らの方はどうだい」
善逸と二人で天元を睨んだ。流石に今の酷くない⁈
「今に見てろよあの色男! 今に天下一品の遊女になって見返してやるんだからなぁ!」
「気合入ってんなあ、善子。それなら、いくつか私が教えてやろうか」
店に戻る道中できょとん、となった善逸をそのまま空いている部屋に連れ込んで、舞や歌、三味線や琴の手ほどきをする。
そのうちにティアを始め多くの遊女たちが見に来て、仕舞いには店主にも龍田の実力が知られることになった。
遊郭で生きた経験だって長い人生一度くらいあるのだ。そりゃあ、極めようとだって知識のお化けとしては思ったっていいはず。
「舞は体の硬さの関係でちょっとまだ合格点は出せないが、楽に関しては申し分ないな。今後は舞に時間をかけよう、善子!」
「龍田姐さん、アタイどこまでもついていくわ‼︎」
結局他の遊女たちにも教えて欲しいと──稽古の教手は別にいるのだが常駐ではない──店主に請われ、晴れて龍田も厨房外を堂々と出入りすることが可能となった。
これで明日は天元に文句を言われないはず。
「……なあ、龍田姐さんよ」
突然、夢から醒めたような顔で善逸が顔を上げた。どうやら、天元への怒りを昇華して、現実を受け入れ始めたよう。
「遊女一なんてそもそも無理だろ。俺男だよ、お前も止めろよ」
「教養は大事だぞ。禰豆子が出来る様になりたいって言い出したらお前教えてやれるんだぜ?」
「その点に至っては今後ともよろしくお願いしますお姐様‼︎」
そんなやり取りをしたのが午前中のこと。
異国の人間相手の通訳で、ティアが近隣の店に助っ人として呼ばれていた最中のことで、暴れていた蕨姫を止めた善逸が鬼殺隊員だとバレた。
気を失った善逸を寝かせるのを手伝いながら、門を彼の心臓あたりに配し、万が一の事態に備える。念の為鬼の角は回収した。余計なものがあっては“無惨に気取られる”可能性もある。
“血記術”は発動させない限りは無惨にもわからない。
──そして、ティアが呼び戻される頃には、善逸の姿は消えていた──。