第3章 炎を絶やすことなかれ。(全22話)
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
第15話 宇髄と煉獄の内緒話。
—————————————————-
夕日が沈んで闇が迫る頃。
伊之助にがっちり抱き抱えられたティアを見つけたラシードは、驚きのあまり思わず足を止めた。
なんだこれ。
「……何しに来たんだよ」
「いや、悪い。お邪魔しました」
「どこ行くんだよ」
ティアの肩口に顔を埋めたままの伊之助。
背後から抱えられている幼女──十歳程度かそこらの体格まで戻っているとか──が、ちょいちょいと小さく手招きしてくる。
「伊之助くんだけなんですよ、貴方が居なくなっても泣かずにいたの」
「親分だから当然だ」
俯いたままの伊之助の横に、着物を汚さないようにしながらラシードは腰を下ろす。
なんだかんだで、最終選別に送り出して以来会っていなかった同士。
人としての情緒が育っていないことを“アテ”にしていたけれど、やはりそうもいかなかったか。
「さすがだな、伊之助」
もごもごと返事があったが、殆ど聞き取れない。恐らくは、当たり前だ馬鹿野郎、あたりかな。
よしよしと頭を撫でてやれば、ぼろぼろ泣いている顔をあげて睨んで来る。
「お前勝手に死んでんじゃねえぞ! ジジイや母ちゃんみたいに土に還らねえとか、びっくりするだろうが!」
「うん。ごめんな、驚いたな」
片手でティアを抱えたまま、もう一方の手を振り上げて喚く少年の頭を、ただただ撫でてやる。
生きものは土に還るんだ。強い奴も弱い奴も。自然界での食物連鎖の末血や肉が他者に脅かされても。
けれど、鬼は違う。ラシードの場合は骨だったけど。
「お前ら、いなくなるな……もう、ごめんだ」
そう言ってわんわん泣く伊之助につられて、ティアも泣き出してしまったから困ったものだ。
炭治郎を追いかけて消えていった鋼鉄塚を見送って──後で助けに行ってやろうとは思っているが──夕餉の準備が整っているのに姿を見せない伊之助を探してくるよう善逸に頼まれたのだけど。
恐らく、善逸は気づいていたのだろうな。
後でようく褒めてやらなければ。
「おーおー、泣け泣け! そんで、いっぱい飯食って怪我直せ。私がちゃんと強くしてやるから」
一際大きな声で泣き出す少年をよしよしと抱きしめてやりながら、ラシードは苦笑いする。
これはもう少し、帰るのに時間がかかりそうだな──。
「よもや、こんな形で再会することになろうとは」
夜となっても、浅草の喧騒はまだ途切れる様子はない。
それが屋根の上ともなれば、少しばかり静けさは増すものだ。
「お前がこんなに早く退場するたぁ思ってなかったからな」
賑やかさを見守るように腰掛けて覗き込んでいる音柱の背後に立ったのは、妖となった煉獄杏寿郎だ。
宇髄天元は振り返ることなく、頬杖をついたまま応じる。
「せっかく竈門少年を継子にしようと思っていたところでの上弦来襲だったからな! 俺はとても悔しい!」
「あの鬼を連れたガキをねぇ。まあ、骨があるのは認めるけどよ──継子ってのはまた派手に出たな」
さすがに驚いた様子で煉獄を見る天元。
二人は互いに目を合わせて、苦笑いだ。
天元は、ティアが妖側に特化した化け物であることを知っていた。
というよりも、鬼殺隊に入るきっかけをくれたのはティアとの出会いが発端であったことも大きい。
彼は抜忍として追われていて、その道中に元水柱と鬼殺隊本部を目指していたティアと縁が出来たのだ。
鬼のことはもちろん知っていた天元は、もちろん妖の存在も知る。
そんな妖に近いし存在に直接接触したことは初めてだったが。
「まさか、同じ事を考えてたとはな。先越されたわ」
「彼女を放って置くのは危なっかしいからな!」
だから、死んだらティアの側にいて、彼女が世代交代するまでは力になってやりたいと思っていた。
自分にはそれができるというのは、妖側に片足を突っ込んでいる──という評価を頂いているから可能だと分かっている。
錆兎や真菰らもそのクチだろう。
杏寿郎が、その可能性を証明している。
「んで、お前がそっちに居る事に、俺らへの利はあんのか?」
「もう少し時間がかかりそうだ。些か問題の多い突破口でな」
「そうかい。そんじゃあ、まあ、それなりに期待してるわ」
立ち上がりながら、後ろ手に手を振って天元は屋根から降りた。
小路には、人影が三つ。
「情報収集を始める。雛鶴、まきを、須磨──仕込みだ」
小さな返事だけを残して、影が三方向へ飛び出して行く。
それを見送りつつ、天元は眉を寄せて、顎に手をやった。
「俺、善光の方が好きだ」
「わかる。俺も伊之助のこと好きだよ。猪だけど」
炭治郎は、ラシードとの鍛錬から帰ってきた伊之助がひしっと善逸に抱きつくをの見て驚いていた。
二人とも嘘偽りなく、心からそう思っているのがわかる。特に善逸の場合は伊之助よりも前にラシードと鍛錬しに行っており、帰ってきてから伊之助へのあたりが優しくなっていた。
微笑ましい光景なのだが、どこか双方ともにイライラしている匂いを嗅ぎ分けることができて。
「どうしたんだ、二人とも。仲良くしてくれるのは嬉しいんだが」
「「聞いてくれるか」」
鬼気迫る表情でぐりんと顔を向けてくる二人の勢いに、炭治郎は思わずのけぞる。
その様子を見て、けたけたと笑うのはラシードだった。
あれからすぐに鱗滝から送られてきた着物に袴着用だが、蜜璃から貰った着物は鍛錬に参加しない時にきちんと着ている。今時の柄で新鮮だし、時々顔を出す彼女がとても喜ぶのだ。
「善逸の兄弟子も、ティア推薦の霞柱も、なかなか難儀な奴だったなぁ」
「ちょっと待て馬鹿おまえ今なんつった? 獪岳と伊之助の組み合わせとか想像が追いつかないんですけど!」
ラシードの言った事を聞いて飛び上がった後、一息に言い切った善逸は仰天した様子で伊之助の両肩を掴み、心配そうに覗き込んでいる。
対する伊之助はむきゃーっと、全身で不満を訴えた。
「俺の動きについてきやがるくせに……アアアアア! あいつにはお前らみたいに背中預けられねぇ!」
「言葉で表現できない何かがあったんだな……ってか、お前俺らのことそんなに褒めちぎってどうするつもりなの?」
優れた聴覚と嗅覚を持つ二名、絶対の信頼を感じ取って伊之助に抱きついていく。
それをしばらく見守っていたラシードは、ぱんぱんと手を打って。
「それじゃ、明日から炭治郎の番な。期間は一週間。それを終えたらひと月は自主練しながら外周区画の鬼狩りして、また特訓な!」
「「「はい!」」」
元気のいい返事は蝶屋敷中に届く。
炭治郎を見終えたら、次はカナヲ──天元が手を離せないので“しのぶ”から指南を頼まれた──と後が詰まっている。
久々に義勇のことも見てやりたいし。久々に鹿鳴館でも使おうかな。
錆兎と切磋琢磨させるのも、頃合いとしてもいい頃だ。
──お互い、思うことはありそうだが。
—————————————————-
夕日が沈んで闇が迫る頃。
伊之助にがっちり抱き抱えられたティアを見つけたラシードは、驚きのあまり思わず足を止めた。
なんだこれ。
「……何しに来たんだよ」
「いや、悪い。お邪魔しました」
「どこ行くんだよ」
ティアの肩口に顔を埋めたままの伊之助。
背後から抱えられている幼女──十歳程度かそこらの体格まで戻っているとか──が、ちょいちょいと小さく手招きしてくる。
「伊之助くんだけなんですよ、貴方が居なくなっても泣かずにいたの」
「親分だから当然だ」
俯いたままの伊之助の横に、着物を汚さないようにしながらラシードは腰を下ろす。
なんだかんだで、最終選別に送り出して以来会っていなかった同士。
人としての情緒が育っていないことを“アテ”にしていたけれど、やはりそうもいかなかったか。
「さすがだな、伊之助」
もごもごと返事があったが、殆ど聞き取れない。恐らくは、当たり前だ馬鹿野郎、あたりかな。
よしよしと頭を撫でてやれば、ぼろぼろ泣いている顔をあげて睨んで来る。
「お前勝手に死んでんじゃねえぞ! ジジイや母ちゃんみたいに土に還らねえとか、びっくりするだろうが!」
「うん。ごめんな、驚いたな」
片手でティアを抱えたまま、もう一方の手を振り上げて喚く少年の頭を、ただただ撫でてやる。
生きものは土に還るんだ。強い奴も弱い奴も。自然界での食物連鎖の末血や肉が他者に脅かされても。
けれど、鬼は違う。ラシードの場合は骨だったけど。
「お前ら、いなくなるな……もう、ごめんだ」
そう言ってわんわん泣く伊之助につられて、ティアも泣き出してしまったから困ったものだ。
炭治郎を追いかけて消えていった鋼鉄塚を見送って──後で助けに行ってやろうとは思っているが──夕餉の準備が整っているのに姿を見せない伊之助を探してくるよう善逸に頼まれたのだけど。
恐らく、善逸は気づいていたのだろうな。
後でようく褒めてやらなければ。
「おーおー、泣け泣け! そんで、いっぱい飯食って怪我直せ。私がちゃんと強くしてやるから」
一際大きな声で泣き出す少年をよしよしと抱きしめてやりながら、ラシードは苦笑いする。
これはもう少し、帰るのに時間がかかりそうだな──。
「よもや、こんな形で再会することになろうとは」
夜となっても、浅草の喧騒はまだ途切れる様子はない。
それが屋根の上ともなれば、少しばかり静けさは増すものだ。
「お前がこんなに早く退場するたぁ思ってなかったからな」
賑やかさを見守るように腰掛けて覗き込んでいる音柱の背後に立ったのは、妖となった煉獄杏寿郎だ。
宇髄天元は振り返ることなく、頬杖をついたまま応じる。
「せっかく竈門少年を継子にしようと思っていたところでの上弦来襲だったからな! 俺はとても悔しい!」
「あの鬼を連れたガキをねぇ。まあ、骨があるのは認めるけどよ──継子ってのはまた派手に出たな」
さすがに驚いた様子で煉獄を見る天元。
二人は互いに目を合わせて、苦笑いだ。
天元は、ティアが妖側に特化した化け物であることを知っていた。
というよりも、鬼殺隊に入るきっかけをくれたのはティアとの出会いが発端であったことも大きい。
彼は抜忍として追われていて、その道中に元水柱と鬼殺隊本部を目指していたティアと縁が出来たのだ。
鬼のことはもちろん知っていた天元は、もちろん妖の存在も知る。
そんな妖に近いし存在に直接接触したことは初めてだったが。
「まさか、同じ事を考えてたとはな。先越されたわ」
「彼女を放って置くのは危なっかしいからな!」
だから、死んだらティアの側にいて、彼女が世代交代するまでは力になってやりたいと思っていた。
自分にはそれができるというのは、妖側に片足を突っ込んでいる──という評価を頂いているから可能だと分かっている。
錆兎や真菰らもそのクチだろう。
杏寿郎が、その可能性を証明している。
「んで、お前がそっちに居る事に、俺らへの利はあんのか?」
「もう少し時間がかかりそうだ。些か問題の多い突破口でな」
「そうかい。そんじゃあ、まあ、それなりに期待してるわ」
立ち上がりながら、後ろ手に手を振って天元は屋根から降りた。
小路には、人影が三つ。
「情報収集を始める。雛鶴、まきを、須磨──仕込みだ」
小さな返事だけを残して、影が三方向へ飛び出して行く。
それを見送りつつ、天元は眉を寄せて、顎に手をやった。
「俺、善光の方が好きだ」
「わかる。俺も伊之助のこと好きだよ。猪だけど」
炭治郎は、ラシードとの鍛錬から帰ってきた伊之助がひしっと善逸に抱きつくをの見て驚いていた。
二人とも嘘偽りなく、心からそう思っているのがわかる。特に善逸の場合は伊之助よりも前にラシードと鍛錬しに行っており、帰ってきてから伊之助へのあたりが優しくなっていた。
微笑ましい光景なのだが、どこか双方ともにイライラしている匂いを嗅ぎ分けることができて。
「どうしたんだ、二人とも。仲良くしてくれるのは嬉しいんだが」
「「聞いてくれるか」」
鬼気迫る表情でぐりんと顔を向けてくる二人の勢いに、炭治郎は思わずのけぞる。
その様子を見て、けたけたと笑うのはラシードだった。
あれからすぐに鱗滝から送られてきた着物に袴着用だが、蜜璃から貰った着物は鍛錬に参加しない時にきちんと着ている。今時の柄で新鮮だし、時々顔を出す彼女がとても喜ぶのだ。
「善逸の兄弟子も、ティア推薦の霞柱も、なかなか難儀な奴だったなぁ」
「ちょっと待て馬鹿おまえ今なんつった? 獪岳と伊之助の組み合わせとか想像が追いつかないんですけど!」
ラシードの言った事を聞いて飛び上がった後、一息に言い切った善逸は仰天した様子で伊之助の両肩を掴み、心配そうに覗き込んでいる。
対する伊之助はむきゃーっと、全身で不満を訴えた。
「俺の動きについてきやがるくせに……アアアアア! あいつにはお前らみたいに背中預けられねぇ!」
「言葉で表現できない何かがあったんだな……ってか、お前俺らのことそんなに褒めちぎってどうするつもりなの?」
優れた聴覚と嗅覚を持つ二名、絶対の信頼を感じ取って伊之助に抱きついていく。
それをしばらく見守っていたラシードは、ぱんぱんと手を打って。
「それじゃ、明日から炭治郎の番な。期間は一週間。それを終えたらひと月は自主練しながら外周区画の鬼狩りして、また特訓な!」
「「「はい!」」」
元気のいい返事は蝶屋敷中に届く。
炭治郎を見終えたら、次はカナヲ──天元が手を離せないので“しのぶ”から指南を頼まれた──と後が詰まっている。
久々に義勇のことも見てやりたいし。久々に鹿鳴館でも使おうかな。
錆兎と切磋琢磨させるのも、頃合いとしてもいい頃だ。
──お互い、思うことはありそうだが。