第3章 炎を絶やすことなかれ。(全22話)
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第12話 ふり直し。
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「──どうしたの? ティア」
傘の下──茶屋の席で団子を頬張る蜜璃が、真っ青になったティアを覗き込んだ。
姉と妹のような歳の差が見られる外見だけれど、二人の仲は相変わらずだ。
「蜜璃ちゃん……杏寿郎が……」
「師範? ──と、待って。何かしら、伝令?」
鎹烏に気づいた蜜璃が、片手を空へ向けた。
「──てめぇの力なんざ借りねえよぉ、ぶっ殺すぞォッ!」
再び本部に招集された八人の柱たち。
そこには、炎柱を見送った時の格好のままのラシードと、蜜璃と共に緊急招集に応じたティアの姿もあった。特に前者に対して、“しのぶ”の興味が向けられている。痛々しいくらいで、ラシードは居心地悪そうに視線を逸らしているくらい。
状況説明が終わり、現在議題に上がっているのは、炎柱が受け持っていた担当区域の割り振りに関してだ。
ちょうど生まれて出てきたばかりのラシードが、俺が代わりにやろうか? と提案したのだが、速攻、風柱の不死川実弥に却下されてしまった。
それは他の柱たちも同様のようで。“産屋敷こや”の話を聞いていることもあるのだろう。
「貴様の話は聞いたが、俺はそもそも信用していない。何より煉獄の死際を見計ったかのような出現の仕方にも疑問だ」
「悪かったな。生まれてみたら超絶方向音痴だったんだよ。酔っ払い取っ替え引っ替えしながら駅まで行って、列車の線路伝ったの」
小芭内にねちねち文句を言われながら、ラシードはぐぬぬと悔しそうにハンカチを噛む。
生まれた先の個性はその都度違うのだ。今回は鼻が利かない上に特別な能力など持っていない。ちょっと──いや、かなり不便。
「では、担当区画はそれぞれ中央寄りに範囲を伸ばそう。後で地図を作って直しておくから、暫くは──天元と義勇に担当してほしい」
大変だろうけどね──耀哉の決定に、全員が頷く。
この時点では誰も思い至っていなかったろうが、後にその二人の担当区域をラシードたちが手伝ったりするというのはまた別の話。
議題は深刻な育手不足に移る。
柱が一人欠けた今、新たな柱を選出するというのも大事な話だが、残念ながら目ぼしい隊士はいない。早急な戦力の底上げが必要だった。
ラシードが唸る。
「耀哉くん。そこでなんで俺に意見を求めてくるのかな?」
「とある呼吸が絶えかける頃合いになると、後に柱に上り詰めることになる人間が現れることが数度ありましてね。記録、見ますか」
あー、そういう──得心いったという様子で、ラシードはため息をついた。
ようは、育成の担い手になって欲しいと。
日輪刀での斬り合いであればラシードにはなんの負担にもならないし、柱ほどの相手でなければ寿命を縮めるような事にもならない。
随分と配慮してくれているわけだ。
蛇柱や風柱からの文句もない。信用されて見えるのだが本心は如何に。ツンデレ相手は心労がキツすぎる。
「南無──その様子では、鬼殺隊を影で支えていた“時柱”という通称。あながち間違い無かったようですな。御館様」
「はあ、時柱ぁ? なにそれ、私ってそんな風に呼ばれてたの?」
盲目の岩柱、悲鳴嶼行冥の言葉に素っ頓狂な声をあげてしまう。
“しのぶ”と蜜璃が驚いたように顔を見合わせた。ティアが片手で頭を押さえる。
「絶えたはずの呼吸を繋げている存在がいることを察知した御館様たちが、密かにそう呼んでいたんだってさ?」
すいすいと膝を進めてラシードの袖を引いたのは、無一郎だ。
彼は何とも言えない顔でじーっと見つめてくるが、どこか不満そうだ。
接点が何も無かった相手なので、ラシードは対応に詰まる。
「その子は始まりの呼吸──日の呼吸の使い手の血筋です。貴方には懐かしい相手なのではないかと」
「火の呼吸? 炎じゃなくて?」
と続けた時には、耀哉が言葉を失い、岩柱が固まってしまった。
他の柱たちは特に何か知らされていないのか、様子を静かに見守っている。
「驚きました。日輪刀の開発などに携わっていた貴方なら、まず知っているかと思っていましたが」
「私も“なんで隊士たちが呼吸を使うようになってるのか”気になってたけど納得したわ。別の人間が呼吸法を伝えていたわけか」
ラシードの知っている“呼吸の使い手”は無惨に育てられた人物だけだ。彼は、“こや”を逃した際に、当時の炎柱たちと共に粛清された。
財政問題などの関係で傀儡政権下していた当時の鬼殺隊は、その後鬼の襲撃を受けて壊滅──したかに見えたが、“こや”と共に逃げていた遺された幼い弟子たちや幼い産屋敷の跡取りたちで立て直し。
彼らの独り立ちの後に完全に鬼殺隊を離れたから、特にその直後のことは把握できていない。
日本で生まれたり、比較的近くの国に生まれたりした時は様子を見に来ていた。勿論、他国で生まれても“血記術”の維持のために最低でも滞在時間分単位で訪れたりはしていたけれど。
呼吸が途切れる兆候を察知すれば、次世代の為に育成するのは“覚悟を知る者”としては当然の責務だ。
蜜璃が盛大な話に感嘆のため息をつく。
「そうよねぇ。長い歴史がある分、そういう暗黒時代が鬼殺隊にあってもおかしくないわよねぇ」
「そう言ってくれると正直気が楽になるよ。ありがとう、蜜璃」
現在、鬼殺隊が政府非公認の立場にあるのは、当時の苦い経験からというのもある。
非公認とはいっても完全に無関係というわけではないのだが、その辺りの牽制にラシードも時間と労力をかけてきたし、向こうも機嫌を損ねたくはないから心配は無用だろう。
「まあ、いいや。育手の件はこっちから言うつもりだったし」
「なんだよ、派手に乗り気じゃねえか」
「お気に入りを優先的に叩き上げようと思っててさ。先代はそれやってから死ぬ気だったみたいだし」
その場に立ち上がったラシードは、けらけら笑う天元に笑いかけながらさらっと言った。
むう、と面白くなさそうな顔をする一部の柱たちのことは気にせずに、にっこりと笑って続ける。
「この子らの外周区画、炭治郎たち鍛えながら俺が担当するから。その辺り考慮して地域配分かけるんだよ耀哉くん!」
俺ら門使えば行き来は簡単だからさ──文句が来る前に耀哉に視線を飛ばしたラシードが許可を得たため、八人分の外周区画がまるっと柱の負担から外れた。移動に要する時間が狭まる上、彼らは中央区画にだけ専念ができる。
「チッ、食えねえ野郎ダナァ」
ラシードの意図が、初めからこれだったのだ──ということにいち早く気づいた実弥が、面白くなさそうに舌打した。
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「──どうしたの? ティア」
傘の下──茶屋の席で団子を頬張る蜜璃が、真っ青になったティアを覗き込んだ。
姉と妹のような歳の差が見られる外見だけれど、二人の仲は相変わらずだ。
「蜜璃ちゃん……杏寿郎が……」
「師範? ──と、待って。何かしら、伝令?」
鎹烏に気づいた蜜璃が、片手を空へ向けた。
「──てめぇの力なんざ借りねえよぉ、ぶっ殺すぞォッ!」
再び本部に招集された八人の柱たち。
そこには、炎柱を見送った時の格好のままのラシードと、蜜璃と共に緊急招集に応じたティアの姿もあった。特に前者に対して、“しのぶ”の興味が向けられている。痛々しいくらいで、ラシードは居心地悪そうに視線を逸らしているくらい。
状況説明が終わり、現在議題に上がっているのは、炎柱が受け持っていた担当区域の割り振りに関してだ。
ちょうど生まれて出てきたばかりのラシードが、俺が代わりにやろうか? と提案したのだが、速攻、風柱の不死川実弥に却下されてしまった。
それは他の柱たちも同様のようで。“産屋敷こや”の話を聞いていることもあるのだろう。
「貴様の話は聞いたが、俺はそもそも信用していない。何より煉獄の死際を見計ったかのような出現の仕方にも疑問だ」
「悪かったな。生まれてみたら超絶方向音痴だったんだよ。酔っ払い取っ替え引っ替えしながら駅まで行って、列車の線路伝ったの」
小芭内にねちねち文句を言われながら、ラシードはぐぬぬと悔しそうにハンカチを噛む。
生まれた先の個性はその都度違うのだ。今回は鼻が利かない上に特別な能力など持っていない。ちょっと──いや、かなり不便。
「では、担当区画はそれぞれ中央寄りに範囲を伸ばそう。後で地図を作って直しておくから、暫くは──天元と義勇に担当してほしい」
大変だろうけどね──耀哉の決定に、全員が頷く。
この時点では誰も思い至っていなかったろうが、後にその二人の担当区域をラシードたちが手伝ったりするというのはまた別の話。
議題は深刻な育手不足に移る。
柱が一人欠けた今、新たな柱を選出するというのも大事な話だが、残念ながら目ぼしい隊士はいない。早急な戦力の底上げが必要だった。
ラシードが唸る。
「耀哉くん。そこでなんで俺に意見を求めてくるのかな?」
「とある呼吸が絶えかける頃合いになると、後に柱に上り詰めることになる人間が現れることが数度ありましてね。記録、見ますか」
あー、そういう──得心いったという様子で、ラシードはため息をついた。
ようは、育成の担い手になって欲しいと。
日輪刀での斬り合いであればラシードにはなんの負担にもならないし、柱ほどの相手でなければ寿命を縮めるような事にもならない。
随分と配慮してくれているわけだ。
蛇柱や風柱からの文句もない。信用されて見えるのだが本心は如何に。ツンデレ相手は心労がキツすぎる。
「南無──その様子では、鬼殺隊を影で支えていた“時柱”という通称。あながち間違い無かったようですな。御館様」
「はあ、時柱ぁ? なにそれ、私ってそんな風に呼ばれてたの?」
盲目の岩柱、悲鳴嶼行冥の言葉に素っ頓狂な声をあげてしまう。
“しのぶ”と蜜璃が驚いたように顔を見合わせた。ティアが片手で頭を押さえる。
「絶えたはずの呼吸を繋げている存在がいることを察知した御館様たちが、密かにそう呼んでいたんだってさ?」
すいすいと膝を進めてラシードの袖を引いたのは、無一郎だ。
彼は何とも言えない顔でじーっと見つめてくるが、どこか不満そうだ。
接点が何も無かった相手なので、ラシードは対応に詰まる。
「その子は始まりの呼吸──日の呼吸の使い手の血筋です。貴方には懐かしい相手なのではないかと」
「火の呼吸? 炎じゃなくて?」
と続けた時には、耀哉が言葉を失い、岩柱が固まってしまった。
他の柱たちは特に何か知らされていないのか、様子を静かに見守っている。
「驚きました。日輪刀の開発などに携わっていた貴方なら、まず知っているかと思っていましたが」
「私も“なんで隊士たちが呼吸を使うようになってるのか”気になってたけど納得したわ。別の人間が呼吸法を伝えていたわけか」
ラシードの知っている“呼吸の使い手”は無惨に育てられた人物だけだ。彼は、“こや”を逃した際に、当時の炎柱たちと共に粛清された。
財政問題などの関係で傀儡政権下していた当時の鬼殺隊は、その後鬼の襲撃を受けて壊滅──したかに見えたが、“こや”と共に逃げていた遺された幼い弟子たちや幼い産屋敷の跡取りたちで立て直し。
彼らの独り立ちの後に完全に鬼殺隊を離れたから、特にその直後のことは把握できていない。
日本で生まれたり、比較的近くの国に生まれたりした時は様子を見に来ていた。勿論、他国で生まれても“血記術”の維持のために最低でも滞在時間分単位で訪れたりはしていたけれど。
呼吸が途切れる兆候を察知すれば、次世代の為に育成するのは“覚悟を知る者”としては当然の責務だ。
蜜璃が盛大な話に感嘆のため息をつく。
「そうよねぇ。長い歴史がある分、そういう暗黒時代が鬼殺隊にあってもおかしくないわよねぇ」
「そう言ってくれると正直気が楽になるよ。ありがとう、蜜璃」
現在、鬼殺隊が政府非公認の立場にあるのは、当時の苦い経験からというのもある。
非公認とはいっても完全に無関係というわけではないのだが、その辺りの牽制にラシードも時間と労力をかけてきたし、向こうも機嫌を損ねたくはないから心配は無用だろう。
「まあ、いいや。育手の件はこっちから言うつもりだったし」
「なんだよ、派手に乗り気じゃねえか」
「お気に入りを優先的に叩き上げようと思っててさ。先代はそれやってから死ぬ気だったみたいだし」
その場に立ち上がったラシードは、けらけら笑う天元に笑いかけながらさらっと言った。
むう、と面白くなさそうな顔をする一部の柱たちのことは気にせずに、にっこりと笑って続ける。
「この子らの外周区画、炭治郎たち鍛えながら俺が担当するから。その辺り考慮して地域配分かけるんだよ耀哉くん!」
俺ら門使えば行き来は簡単だからさ──文句が来る前に耀哉に視線を飛ばしたラシードが許可を得たため、八人分の外周区画がまるっと柱の負担から外れた。移動に要する時間が狭まる上、彼らは中央区画にだけ専念ができる。
「チッ、食えねえ野郎ダナァ」
ラシードの意図が、初めからこれだったのだ──ということにいち早く気づいた実弥が、面白くなさそうに舌打した。