第3章 炎を絶やすことなかれ。(全22話)
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第10話 まるで兄弟のように。
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姉弟子、兄弟子の現在の状況について思い悩む炭治郎を眺めていたティアは、手を伸ばしてよしよしと頭を撫でてやった。
「問題ないんですよ本当は。“やりようはどうにでも”ありますから」
死んだ人間だとわかっても、二人をこれまで通りに留めることなんて出来ないことではない。
ただ、炭治郎のように迷ってしまったり、失った家族を同じように取り戻したいと願う生者が出てくると、どちらかというと否定的な意思と対立するためにティアが負担を受けてしまう。
それが多いか少ないかの違いなのだ。
それに、例えば炭治郎の家族に同じ事ができるかと言えば“出来ない”。
彼らは彼らで死んだ人間であることを受け入れていて、炭治郎たちを見守ることを望んでいる。
錆兎たちの場合も本来はその通りであったが、それ以上に彼らには“覚悟”があった。生前から続くその覚悟が人並外れていたから、ティアに接触が出来たのだ。
概念レベルの強い意志がなければ、ティアの同意も得ずにわがままを通すなんてことはできないのだから。
「錆兎くんたち──死んでしまった方たちのお願い事なら、私へのしっぺ返しはないんです。私は化物の願いを叶える生き物ですから」
「その言い方はなんか嫌だな」
むう、とむくれる炭治郎に同意するように、禰豆子が両手を上げた。
けれど、辞めろと言ってこないのは、ティアたちの立場と覚悟を尊重してくれているからだろう。
「小さくなっちゃったのだって、善逸のお師匠を全盛期まで戻していたから──だったよな。一瞬のことでもそこまで反動が来るのか?」
「一瞬とは言え、現在の年齢から遡る過程も有りますからね。老化は“普通”だけど“若返り”は異常でしょう?」
禰豆子に視線を向けると、炭治郎はハッとなって少し口を閉ざし、抱き抱えた妹をギュッと抱きしめる。
「まあ、私が幼くなったのはラシード原因が大きいので別問題ですが。そう言えば、ここを出たら杏寿郎に会いに行くそうですね。“しのぶ”ちゃんから聞きましたよ」
「え……ああ。ヒノカミ神楽について、何か知らないか聞こうと思ってるんだ」
ティアと別れてからのことを話しながら、炭治郎は頭の片隅で疑問符を浮かべる。
彼女は錆兎たちや神様、そういう存在の為にいると言っていたのに──同じ枠の存在であるはずのラシードが絡むと副作用を受けるのか?
「前に見せてもらった踊りのことか! 俺はもうできるぞ!」
「せめてその被り物外してやれってんだこの猪頭!」
身振り手振りで説明していたら、伊之助と善逸が話に加わってきた。
ティアはティアで、義勇が迎えにきてしまい──彼女は義勇がいる時は水柱邸で寝泊りする──帰ってしまう。
疑問について尋ねるタイミングを完全に逃した炭治郎は、眠れぬ一夜を過ごすのだった──。
『──相変わらず、責任感が強いね。杏寿郎は』
──炭治郎が全集中・常中の会得の成果を出した頃に遡る。
ティアと恋柱との合同任務を終えて少しした後、杏寿郎は汽車に関わる噂を耳にしていた。
汽車に乗った乗客が消えていると。
彼らが解決した“乗客が意識を失う”怪異に関しての原因である鬼は、間違いなく退治していた。
けれども、今度は乗客が消えた──それも、数人単位だ。
鬼の仕業が濃厚か。杏寿郎は柱として別任務をこなす事に専念しつつ、差し向けられた隊士たちからの情報を待つことにした。
そして、彼は産屋敷の門を叩く。
『汽車には乗らずとも、駅を調べていた。その時に気づかなかった可能性がある。俺の落ち度だ』
『よくよく調べてみたけれど、間違いなくその頃、この事件は発生していなかった。そう自分を責めるのはやめなさい』
対面する耀哉から困ったような笑みを向けられて、杏寿郎はむう、と口元をひき結んだ。言われていることはわかるのだが、悔しいものは悔しいのだ。
それを耀哉もわかっているから、すぐに目を細めて。
『こうやって君のわがままを聞くのは久しぶりな気がするね。正直いうと嬉しいんだ。杏寿郎は私にとっては弟のようなものだから』
昔から炎柱として代々鬼狩りに関わってきた煉獄家だ。鬼殺隊を束ねる産屋敷家とは現在の柱の中でも近しくて、身近である。
杏寿郎にとっても、歳の近い耀哉は幼い頃からの知り合いで、一緒に遊びまわるのは難しくても兄のように慕っていた。
彼をみているからだろうか。杏寿郎は自分の弟が刀の道に囚われずに未来を歩むのも間違っていないと思っている。
戦い方など人それぞれだから。
『小さい頃に、一緒に蔵の中を荒らしたのを覚えているかな。お互い親に大目玉を喰らったね』
千寿郎が生まれる頃。杏寿郎は産屋敷邸に預けられていて、二人で屋敷内を探検して回った事がある。
その頃の耀哉は歩き回るくらいなら問題なかったし、勉強を教えてもらっていたくらいだ。
蔵の中は、煉獄家とさして変わったものなどなかったが。
隠れん坊をするのにちょうど良さそうな箱が、異様に目に入って。
『夢かと思っていたが──あれが、目隠しの“血記術”の元か』
鬼殺隊の本部が鬼に見つからないのは、各隊員たちの機転や情報管理の努力の賜物も大きく貢献している。
けれども、ラシード──かつて、“産屋敷こや”として死に、その後は鬼の特性を得てしまった人物の妖の術の影響もあった。
“血記術”とは、字の如く血に術を記して発動させるもので、予めその術を仕込む必要があるという。
代々の“産屋敷こや”は、己の血を“元”に納めに来ており──門を使って空間転移が出来るから知らぬ間に忍び込まれている──半永久的に、本部を鬼の視界から外してくれているというのだ。
ある時から鬼殺隊を離れていたとしても、約束通り最低限の援助だけはしてくれていたのだ。
鬼殺隊は、彼や彼女らに酷い扱いを強いていたのに。
『鬼殺隊は数度壊滅寸前に追いやられていて、記録が一部飛んでいる。恐らく、その時に関わっているんだろうね。始まりの呼吸の初発の頃も含まれるから、是非詳しいことを聞きたいのだけど』
『この時代に再び関わり出したというのは、どういう意図なのか。確かに俺も気になっている。見つけたら必ず捕まえてこよう!』
久々の兄弟のような会話を終えて、杏寿郎は耀哉に背を向けた。
恐らく耀哉は気づいていただろうに、最後まで口に出さなかったのは優しさのためなのだろう。
ずっと鬼狩りを続け、炎柱としてその時代に存在していた炎柱。
つまりは、昔のラシードに殿や足止めを強いて、自分たちの身の安全を絶対のものにしていた時代の作っていた事実から逃げられない。
──俺は、絶対にそんなことはさせたくない。
ラシードに再び会って、真相を聞く。そして、謝罪すべきことは謝罪して、新たに前に進む。
杏寿郎は、傾きかけた太陽を睨みながら、足を踏み出した──。
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姉弟子、兄弟子の現在の状況について思い悩む炭治郎を眺めていたティアは、手を伸ばしてよしよしと頭を撫でてやった。
「問題ないんですよ本当は。“やりようはどうにでも”ありますから」
死んだ人間だとわかっても、二人をこれまで通りに留めることなんて出来ないことではない。
ただ、炭治郎のように迷ってしまったり、失った家族を同じように取り戻したいと願う生者が出てくると、どちらかというと否定的な意思と対立するためにティアが負担を受けてしまう。
それが多いか少ないかの違いなのだ。
それに、例えば炭治郎の家族に同じ事ができるかと言えば“出来ない”。
彼らは彼らで死んだ人間であることを受け入れていて、炭治郎たちを見守ることを望んでいる。
錆兎たちの場合も本来はその通りであったが、それ以上に彼らには“覚悟”があった。生前から続くその覚悟が人並外れていたから、ティアに接触が出来たのだ。
概念レベルの強い意志がなければ、ティアの同意も得ずにわがままを通すなんてことはできないのだから。
「錆兎くんたち──死んでしまった方たちのお願い事なら、私へのしっぺ返しはないんです。私は化物の願いを叶える生き物ですから」
「その言い方はなんか嫌だな」
むう、とむくれる炭治郎に同意するように、禰豆子が両手を上げた。
けれど、辞めろと言ってこないのは、ティアたちの立場と覚悟を尊重してくれているからだろう。
「小さくなっちゃったのだって、善逸のお師匠を全盛期まで戻していたから──だったよな。一瞬のことでもそこまで反動が来るのか?」
「一瞬とは言え、現在の年齢から遡る過程も有りますからね。老化は“普通”だけど“若返り”は異常でしょう?」
禰豆子に視線を向けると、炭治郎はハッとなって少し口を閉ざし、抱き抱えた妹をギュッと抱きしめる。
「まあ、私が幼くなったのはラシード原因が大きいので別問題ですが。そう言えば、ここを出たら杏寿郎に会いに行くそうですね。“しのぶ”ちゃんから聞きましたよ」
「え……ああ。ヒノカミ神楽について、何か知らないか聞こうと思ってるんだ」
ティアと別れてからのことを話しながら、炭治郎は頭の片隅で疑問符を浮かべる。
彼女は錆兎たちや神様、そういう存在の為にいると言っていたのに──同じ枠の存在であるはずのラシードが絡むと副作用を受けるのか?
「前に見せてもらった踊りのことか! 俺はもうできるぞ!」
「せめてその被り物外してやれってんだこの猪頭!」
身振り手振りで説明していたら、伊之助と善逸が話に加わってきた。
ティアはティアで、義勇が迎えにきてしまい──彼女は義勇がいる時は水柱邸で寝泊りする──帰ってしまう。
疑問について尋ねるタイミングを完全に逃した炭治郎は、眠れぬ一夜を過ごすのだった──。
『──相変わらず、責任感が強いね。杏寿郎は』
──炭治郎が全集中・常中の会得の成果を出した頃に遡る。
ティアと恋柱との合同任務を終えて少しした後、杏寿郎は汽車に関わる噂を耳にしていた。
汽車に乗った乗客が消えていると。
彼らが解決した“乗客が意識を失う”怪異に関しての原因である鬼は、間違いなく退治していた。
けれども、今度は乗客が消えた──それも、数人単位だ。
鬼の仕業が濃厚か。杏寿郎は柱として別任務をこなす事に専念しつつ、差し向けられた隊士たちからの情報を待つことにした。
そして、彼は産屋敷の門を叩く。
『汽車には乗らずとも、駅を調べていた。その時に気づかなかった可能性がある。俺の落ち度だ』
『よくよく調べてみたけれど、間違いなくその頃、この事件は発生していなかった。そう自分を責めるのはやめなさい』
対面する耀哉から困ったような笑みを向けられて、杏寿郎はむう、と口元をひき結んだ。言われていることはわかるのだが、悔しいものは悔しいのだ。
それを耀哉もわかっているから、すぐに目を細めて。
『こうやって君のわがままを聞くのは久しぶりな気がするね。正直いうと嬉しいんだ。杏寿郎は私にとっては弟のようなものだから』
昔から炎柱として代々鬼狩りに関わってきた煉獄家だ。鬼殺隊を束ねる産屋敷家とは現在の柱の中でも近しくて、身近である。
杏寿郎にとっても、歳の近い耀哉は幼い頃からの知り合いで、一緒に遊びまわるのは難しくても兄のように慕っていた。
彼をみているからだろうか。杏寿郎は自分の弟が刀の道に囚われずに未来を歩むのも間違っていないと思っている。
戦い方など人それぞれだから。
『小さい頃に、一緒に蔵の中を荒らしたのを覚えているかな。お互い親に大目玉を喰らったね』
千寿郎が生まれる頃。杏寿郎は産屋敷邸に預けられていて、二人で屋敷内を探検して回った事がある。
その頃の耀哉は歩き回るくらいなら問題なかったし、勉強を教えてもらっていたくらいだ。
蔵の中は、煉獄家とさして変わったものなどなかったが。
隠れん坊をするのにちょうど良さそうな箱が、異様に目に入って。
『夢かと思っていたが──あれが、目隠しの“血記術”の元か』
鬼殺隊の本部が鬼に見つからないのは、各隊員たちの機転や情報管理の努力の賜物も大きく貢献している。
けれども、ラシード──かつて、“産屋敷こや”として死に、その後は鬼の特性を得てしまった人物の妖の術の影響もあった。
“血記術”とは、字の如く血に術を記して発動させるもので、予めその術を仕込む必要があるという。
代々の“産屋敷こや”は、己の血を“元”に納めに来ており──門を使って空間転移が出来るから知らぬ間に忍び込まれている──半永久的に、本部を鬼の視界から外してくれているというのだ。
ある時から鬼殺隊を離れていたとしても、約束通り最低限の援助だけはしてくれていたのだ。
鬼殺隊は、彼や彼女らに酷い扱いを強いていたのに。
『鬼殺隊は数度壊滅寸前に追いやられていて、記録が一部飛んでいる。恐らく、その時に関わっているんだろうね。始まりの呼吸の初発の頃も含まれるから、是非詳しいことを聞きたいのだけど』
『この時代に再び関わり出したというのは、どういう意図なのか。確かに俺も気になっている。見つけたら必ず捕まえてこよう!』
久々の兄弟のような会話を終えて、杏寿郎は耀哉に背を向けた。
恐らく耀哉は気づいていただろうに、最後まで口に出さなかったのは優しさのためなのだろう。
ずっと鬼狩りを続け、炎柱としてその時代に存在していた炎柱。
つまりは、昔のラシードに殿や足止めを強いて、自分たちの身の安全を絶対のものにしていた時代の作っていた事実から逃げられない。
──俺は、絶対にそんなことはさせたくない。
ラシードに再び会って、真相を聞く。そして、謝罪すべきことは謝罪して、新たに前に進む。
杏寿郎は、傾きかけた太陽を睨みながら、足を踏み出した──。