第3章 炎を絶やすことなかれ。(全22話)
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第6話 渡りと遡り。
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「爺ちゃん──あ、俺の師匠ね。ラシードの子供だったんだよ」
元鳴柱である桑島慈悟郎は、十歳程度で鬼の首を斬るまでになっていたという。そして、ある時に彼は、師である自分の父親に、その首を斬るよう請われた。
「爺ちゃんはさ、自分の父親が鬼みたいな特徴持ってんの知ってたんだって。周りの大人より見た目若いし、熊だって一人で簡単に倒す。みんなに頼られてた人気者。すごい自慢にしてたって」
爺ちゃんが斬ったんだろ──ラシードの訃報を炭治郎から聞いた善逸はすぐに事態を把握していた。
絶句した炭治郎だったが、愕然とした顔をしながらも、じっと善逸の話を聞いている。
突然父親殺しを命じられた慈悟郎少年は、きっぱりとそれを拒否した。
首を斬れと言われる前に、自身がどういう生き物であるか、ラシードになる何世代か前の人物は説明していたらしい。
──自分が必ず鬼舞辻無惨を倒す。だから、父上はもう、鬼殺隊に関わらず新しい人生を歩んでほしい。
普通は、それが人生だ。
何も知らずに、人は生まれて生きて死ぬ。後悔も幸福も、それぞれだ。
なのに、慈悟郎の父親は鬼を倒すことに一途だった。
何が彼をそこまで縛り付けているのか。慈悟郎は父親の人生をこれ以上縛りたくなかった。
「その日の夜、父親の姿がないのに気づいた爺ちゃんはさ。鬼に食い殺される父親を見つけたんだと。つまり、自殺させたようなもんだろ」
悔しかったって言ってたなぁ、と善逸が泣いた。
炭治郎も泣いた。悔しかった。悔しいに決まっている。
先ほど、蝶屋敷まで連れてきてくれた錆兎が言っていた。ラシードは死に方で生まれ方を選択できるということを。
鬼に殺されたり、日輪刀で斬られれば比較的近くにいる、死んだ生まれたばかりの子供に宿れるのだと。
普通に寿命で死ねば、どこで生まれるかわからないし、普通の赤ん坊として生まれる。そうなると家族があるから、下手に動き回ることができない。
つまりは日本に戻って来るまでに時間がかかってしまう。
死んだ子供ならば、いきなり成長して姿をくらましても誰にも迷惑をかけない。
好きに動きまわっても問題ないからと、ラシードは殺されることを甘んじて受け入れるのだと。
それの為に、殺人という酷いことを強いられる身にもなってほしい。
「ごめんな炭治郎! 爺ちゃんのこと許してよ! 爺ちゃんだって本当は嫌だったはずなんだ! 怒るならあのバカにしてよぉ!」
「わかってるぞ善逸! 俺はラシードにお前とおじいさんの分まで頭突きしなければと心に決めた!」
わんわん泣き始める二人を、空いているベッドに腰掛けて眺めていた錆兎と真菰は、大欠伸と嘆息を一つして立ち上がって。
「俺たちはそろそろ帰るぞ」
「錆兎! 真菰も、もう行っちゃうのか?」
慌てて涙を拭った炭治郎に、真菰がひらひらと手を振る。
「墓穴掘る前に消えた方がいいからねぇ。私たちのこと聞かれたらそちらに戻るって聞きましたけど〜とか言って流しておいて」
「待ちなよ、あんたら鹿鳴館の関係者だろ。俺も伊之助も中のことは知ってるからさ。もう暫く問題ないならいてやりなよ」
鼻水をずるりと垂らしながら善逸が引き止めると、真菰はどこか嬉しそうな顔をして、錆兎を手招きした。そうされた青年の方は少し複雑そうな顔をした後で、仕方ないなと苦笑い。
先ほどまで腰を落ち着けていたベットに、戻ってくれる。
「お前たちは下弦の鬼と対決したそうだな。柱が辿り着くまでよく耐えた。初陣から数えていくらも任務をこなしていないだろうに」
「善逸くんは蜘蛛化の毒に耐えながら鬼の首を斬ったんでしょ。私はそういう精神的なところが脆いから、ほんと尊敬しちゃうよ!」
事情を知っているらしい二人からの労いに、炭治郎と善逸は照れた。
ラシードは死んでしまったけど、二人が言うには近いうちにまた姿を表すらしい。本当は別の人生を生きてほしい反面、会えるというならばそれはそれで嬉しかったし、いけないのだろうが安心してしまった。
真菰は善逸の扱いがうまくて、薬を飲むのを渋る彼にうまいこと言ってきちんと飲ませてくれた。
錆兎は、落ち込みまくって影が薄くなっている伊之助に、気持ちを切り替えて進め、男ならば! と励ましてくれた。
そして、それぞれに二人が気づいた直した方がいいところを指摘、助言してくれる。二人で実演してくれたりもした。
それは日が暮れる頃まで続いて、日が陰る頃。
今度こそ、二人はすっと消えてしまった。
まるで、最初からそこにいなかったのように。
それを見送った炭治郎たちは、まるで倒れ込むように寝て、休息に励んだ。錆兎と真菰が何者なのか、善逸と伊之助は具体的なことを知らないのに、その出会いが奇跡的なものであることを察知したかのようで。
炭治郎は、ただただ、そのことに感謝した。
「おはようございます。良かった、よく眠れたみたいですね」
物音に目を開けると、幼くなってしまっているティアがほっとしたような顔で扉を開けて入ってくるところだった。
善逸と伊之助が思わずわっと泣き出しながら飛びついていく。
炭治郎は気づいた。しまった。ティアが小さくなってしまったことを伝え忘れていた‼︎
「何なのこんなに小さくなっちゃって! 何があったのさ実はもともと幼女だったの? 変化でも出来るの? どこの神様の趣味なの? うわああんティアの胸がぺったんこだよおおおお」
善逸言ってることがなんか変態だぞ、と思わず突っ込む炭治郎。
苦笑いするティアに対し、伊之助がかすれるような声で怒鳴る。
「よわくて! ごめんね!」
「ラシードから話には聞いてましたが、本当に打たれすぎると弱るんですね伊之助くん」
それから二人が落ち着くまで炭治郎とティアで慰めて。
『──申し訳ありません、桑島さん』
本当は自分の役目だったのに──義勇が声をかけると、元鳴柱の老人は困ったように笑って首を振っていた。
そしてティアに、負担をかけて済まないな、と言った。
その頃には、彼女は幼くなっていて、着ていた衣類はだぼだぼ。
騒然となる中、耀哉に促されて娘たちの着物に着替えさせられて。
「ラシードは力を使うと寿命が縮むのに、ティアとは逆なんだな」
「何度かティアさんとお仕事をしたことはありましたが、正直今回のこの有様には私たちも驚きました」
消沈している伊之助に抱えられたティアを、炭治郎に抑えられた善逸が羨ましげに睨んでいる。
状況説明を終えたところで、ひょこっと顔を見せたのは“しのぶ”だった。
彼女はいつも通りのにこやかな笑顔で、ティアを手招きする。
ちょっとだけ、女の子同士の会話をしませんか──と。
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「爺ちゃん──あ、俺の師匠ね。ラシードの子供だったんだよ」
元鳴柱である桑島慈悟郎は、十歳程度で鬼の首を斬るまでになっていたという。そして、ある時に彼は、師である自分の父親に、その首を斬るよう請われた。
「爺ちゃんはさ、自分の父親が鬼みたいな特徴持ってんの知ってたんだって。周りの大人より見た目若いし、熊だって一人で簡単に倒す。みんなに頼られてた人気者。すごい自慢にしてたって」
爺ちゃんが斬ったんだろ──ラシードの訃報を炭治郎から聞いた善逸はすぐに事態を把握していた。
絶句した炭治郎だったが、愕然とした顔をしながらも、じっと善逸の話を聞いている。
突然父親殺しを命じられた慈悟郎少年は、きっぱりとそれを拒否した。
首を斬れと言われる前に、自身がどういう生き物であるか、ラシードになる何世代か前の人物は説明していたらしい。
──自分が必ず鬼舞辻無惨を倒す。だから、父上はもう、鬼殺隊に関わらず新しい人生を歩んでほしい。
普通は、それが人生だ。
何も知らずに、人は生まれて生きて死ぬ。後悔も幸福も、それぞれだ。
なのに、慈悟郎の父親は鬼を倒すことに一途だった。
何が彼をそこまで縛り付けているのか。慈悟郎は父親の人生をこれ以上縛りたくなかった。
「その日の夜、父親の姿がないのに気づいた爺ちゃんはさ。鬼に食い殺される父親を見つけたんだと。つまり、自殺させたようなもんだろ」
悔しかったって言ってたなぁ、と善逸が泣いた。
炭治郎も泣いた。悔しかった。悔しいに決まっている。
先ほど、蝶屋敷まで連れてきてくれた錆兎が言っていた。ラシードは死に方で生まれ方を選択できるということを。
鬼に殺されたり、日輪刀で斬られれば比較的近くにいる、死んだ生まれたばかりの子供に宿れるのだと。
普通に寿命で死ねば、どこで生まれるかわからないし、普通の赤ん坊として生まれる。そうなると家族があるから、下手に動き回ることができない。
つまりは日本に戻って来るまでに時間がかかってしまう。
死んだ子供ならば、いきなり成長して姿をくらましても誰にも迷惑をかけない。
好きに動きまわっても問題ないからと、ラシードは殺されることを甘んじて受け入れるのだと。
それの為に、殺人という酷いことを強いられる身にもなってほしい。
「ごめんな炭治郎! 爺ちゃんのこと許してよ! 爺ちゃんだって本当は嫌だったはずなんだ! 怒るならあのバカにしてよぉ!」
「わかってるぞ善逸! 俺はラシードにお前とおじいさんの分まで頭突きしなければと心に決めた!」
わんわん泣き始める二人を、空いているベッドに腰掛けて眺めていた錆兎と真菰は、大欠伸と嘆息を一つして立ち上がって。
「俺たちはそろそろ帰るぞ」
「錆兎! 真菰も、もう行っちゃうのか?」
慌てて涙を拭った炭治郎に、真菰がひらひらと手を振る。
「墓穴掘る前に消えた方がいいからねぇ。私たちのこと聞かれたらそちらに戻るって聞きましたけど〜とか言って流しておいて」
「待ちなよ、あんたら鹿鳴館の関係者だろ。俺も伊之助も中のことは知ってるからさ。もう暫く問題ないならいてやりなよ」
鼻水をずるりと垂らしながら善逸が引き止めると、真菰はどこか嬉しそうな顔をして、錆兎を手招きした。そうされた青年の方は少し複雑そうな顔をした後で、仕方ないなと苦笑い。
先ほどまで腰を落ち着けていたベットに、戻ってくれる。
「お前たちは下弦の鬼と対決したそうだな。柱が辿り着くまでよく耐えた。初陣から数えていくらも任務をこなしていないだろうに」
「善逸くんは蜘蛛化の毒に耐えながら鬼の首を斬ったんでしょ。私はそういう精神的なところが脆いから、ほんと尊敬しちゃうよ!」
事情を知っているらしい二人からの労いに、炭治郎と善逸は照れた。
ラシードは死んでしまったけど、二人が言うには近いうちにまた姿を表すらしい。本当は別の人生を生きてほしい反面、会えるというならばそれはそれで嬉しかったし、いけないのだろうが安心してしまった。
真菰は善逸の扱いがうまくて、薬を飲むのを渋る彼にうまいこと言ってきちんと飲ませてくれた。
錆兎は、落ち込みまくって影が薄くなっている伊之助に、気持ちを切り替えて進め、男ならば! と励ましてくれた。
そして、それぞれに二人が気づいた直した方がいいところを指摘、助言してくれる。二人で実演してくれたりもした。
それは日が暮れる頃まで続いて、日が陰る頃。
今度こそ、二人はすっと消えてしまった。
まるで、最初からそこにいなかったのように。
それを見送った炭治郎たちは、まるで倒れ込むように寝て、休息に励んだ。錆兎と真菰が何者なのか、善逸と伊之助は具体的なことを知らないのに、その出会いが奇跡的なものであることを察知したかのようで。
炭治郎は、ただただ、そのことに感謝した。
「おはようございます。良かった、よく眠れたみたいですね」
物音に目を開けると、幼くなってしまっているティアがほっとしたような顔で扉を開けて入ってくるところだった。
善逸と伊之助が思わずわっと泣き出しながら飛びついていく。
炭治郎は気づいた。しまった。ティアが小さくなってしまったことを伝え忘れていた‼︎
「何なのこんなに小さくなっちゃって! 何があったのさ実はもともと幼女だったの? 変化でも出来るの? どこの神様の趣味なの? うわああんティアの胸がぺったんこだよおおおお」
善逸言ってることがなんか変態だぞ、と思わず突っ込む炭治郎。
苦笑いするティアに対し、伊之助がかすれるような声で怒鳴る。
「よわくて! ごめんね!」
「ラシードから話には聞いてましたが、本当に打たれすぎると弱るんですね伊之助くん」
それから二人が落ち着くまで炭治郎とティアで慰めて。
『──申し訳ありません、桑島さん』
本当は自分の役目だったのに──義勇が声をかけると、元鳴柱の老人は困ったように笑って首を振っていた。
そしてティアに、負担をかけて済まないな、と言った。
その頃には、彼女は幼くなっていて、着ていた衣類はだぼだぼ。
騒然となる中、耀哉に促されて娘たちの着物に着替えさせられて。
「ラシードは力を使うと寿命が縮むのに、ティアとは逆なんだな」
「何度かティアさんとお仕事をしたことはありましたが、正直今回のこの有様には私たちも驚きました」
消沈している伊之助に抱えられたティアを、炭治郎に抑えられた善逸が羨ましげに睨んでいる。
状況説明を終えたところで、ひょこっと顔を見せたのは“しのぶ”だった。
彼女はいつも通りのにこやかな笑顔で、ティアを手招きする。
ちょっとだけ、女の子同士の会話をしませんか──と。