第3章 炎を絶やすことなかれ。(全22話)
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第5話 音柱のお説教。
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ぐしゃぐしゃと、片腕を乗せた小さな頭の上──真っ白になっている髪を荒らす。
怒ったように、やめて下さい、と訴えるのは、幼くなったティアだった。
「初めて会った時みてぇだな。またこんな、ちっこくなってよ」
見上げてくる目が丸くなって、天元の無骨な指を小さな手が握ってくる。
夕焼けの中、ティアの事情を一番把握していた宇髄天元は彼女を安静にさせる為に先に中座することを許された。
屋敷に戻って嫁たちに彼女の世話を任せ、寝かせてから戻ればいい。
産屋敷邸では、まだラシードの話とこれからの事に関しての話し合いが進んでいた。
天元もラシードのことはよくわかっていないが、ティアから道すがら話を聞いてだいたい把握したところだ。
それよりも、天元としては力を使ったせいで危うく消えかけたこの少女の方が心配だった。せっかくあそこ迄成長できたのに。
人の願いを叶える代償。ここまでのものなのかと肝が冷える。
「ごめんなさい。そんな顔をさせるつもりじゃなかった」
「全くだぜ、危うくお前まで死ぬのかと思ったわ。二度とすんな」
落ち込んだ様子のティアを、両手で持ち上げて肩に乗せる。
前回抱え上げた時は、年頃で担ぐのにちょうどよかった。けれど、今はこんなに小さくて軽い。
天元が鬼殺隊に来た頃、初めて会った時より幼い。
「ラシードには謝るべきなんだろうが、謝りたくねぇな」
ずっと昔から鬼と戦ってきて。隊在籍時終盤は囮や殿を押し付けられて。
そんな扱われ方をする事に反感を持った者たちによって逃されて、今の今まで陰ながら鬼殺隊を支えてくれていた存在。
「むしろ、謝ったら駄目ですよ。ラシードは自分の人生を軽んじる傾向がありますから、褒めては駄目なのです」
「お前がいうな」
しゅん、と体を強張らせたティア。あんまり虐めすぎると泣かれるなと思い、天元は話は終わりだとばかりに一つ咳払いをした。
かわりに、一つ疑問に思っていたことを口にする。
「んで。竈門炭治郎を昏倒させて連れてった、あの狐面の二人は何者なんだよ。結構な力量の持ち主だろ」
隊服を着てはいない所からして、鬼殺隊に籍を置いている訳ではないだろう。けれど、彼らは水の呼吸を使っていた。冨岡義勇とも面識があるようだった。
そして──ラシードの首を落とした元鳴柱の桑島慈悟郎も、二人と挨拶をしていた。
「あいつらが鬼殺隊に入れば、一気に甲あたりまで上り詰められるんじゃねえかと思うんだがな」
「あの二人は訳あって現在は鹿鳴館の戦力ですからね。先ほどのように派遣程度であれば、可能でしょうが」
妖の類だと知らされて、天元は、ああ、と納得した。
そういえば、自分たちも人外枠に達し始めているとは聞いていた。
つまりは、彼らは何かしらがあって、既に妖として身を置く事になっているのだろう。
「だからいきなり現れたわけだな。まあ、柱が今後欠けた時にでも出向の検討をお願いさせて貰おうかね」
「出向ですか。なるほど……それは、検討の余地がありそうですね」
ふむ、と考え込む幼女を見上げながら、天元は足を止めた。子首を傾げたティアが、見下ろして来る。
力を使い過ぎれば死ぬこともあるとは聞いていた。若返って、若返って、赤子まで。死ぬというのとは違うか。
ティアは死ねない妖である。
彼女は老いる事はあるけれども、人がボケるのと同じようにある時意識を失って、手近な人間の願いを意志とは無関係に叶えて。
その繰り返しをする生き物なのだと。
世代交代をすることがあるそうだが、ティアは世代交代をしたばかりの一世代目で、赤子の頃に願いを叶えまくっていたから長い年月を生きているのにここまで成長できた事は初めてだという、真っ白な存在だった。
桑島たちに養われたから、人のどす黒い部分にまだ意識して触れた事はないだろう。
本当に、いい娘だった。箱入りすぎた。
「嫁入りの頃合いだったろうによ。貰い手つかなかったら貰ってやろうってんのに、俺がジジイになってから娶らせる気じゃねえだろうな」
不思議そうにしていた幼子が、顔を真っ赤にさせて口をぱくぱくさせる。
それからむう、と頬を膨らませるようにして、そっぽ向いてしまった。
「そういう事は私みたいなのに言うことじゃないですよっ! 普通の女の子に言ってあげてください!」
「妖だろうがバケモンだろうが、俺の懐に入ったからにはもう遅いんだよ。せっかく雛鶴がお前に着物選んで待ってたのに、無駄にしやがったんだ謝れよお前!」
歩き出して少しする頃には、ぐすっと、鼻を啜るのが聞こえた。
ああ、やってしまったなと思ったが、天元は謝る気がない。
謝ってはいけないと先ほど彼女から言ったのだから。
普通は人生一度きりなのだ。後悔する機会も、一度きり。
「俺たちがお前に対して怒ったりしてやれるのは、一度きりの人生しかねえんだ。ちゃんと噛みしめろ」
後で嫁たちから文句の集中砲火だろうなぁと思いながら、天元は小さく返ってきた返事に、バーカ、と口元を緩めるのだった。
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ぐしゃぐしゃと、片腕を乗せた小さな頭の上──真っ白になっている髪を荒らす。
怒ったように、やめて下さい、と訴えるのは、幼くなったティアだった。
「初めて会った時みてぇだな。またこんな、ちっこくなってよ」
見上げてくる目が丸くなって、天元の無骨な指を小さな手が握ってくる。
夕焼けの中、ティアの事情を一番把握していた宇髄天元は彼女を安静にさせる為に先に中座することを許された。
屋敷に戻って嫁たちに彼女の世話を任せ、寝かせてから戻ればいい。
産屋敷邸では、まだラシードの話とこれからの事に関しての話し合いが進んでいた。
天元もラシードのことはよくわかっていないが、ティアから道すがら話を聞いてだいたい把握したところだ。
それよりも、天元としては力を使ったせいで危うく消えかけたこの少女の方が心配だった。せっかくあそこ迄成長できたのに。
人の願いを叶える代償。ここまでのものなのかと肝が冷える。
「ごめんなさい。そんな顔をさせるつもりじゃなかった」
「全くだぜ、危うくお前まで死ぬのかと思ったわ。二度とすんな」
落ち込んだ様子のティアを、両手で持ち上げて肩に乗せる。
前回抱え上げた時は、年頃で担ぐのにちょうどよかった。けれど、今はこんなに小さくて軽い。
天元が鬼殺隊に来た頃、初めて会った時より幼い。
「ラシードには謝るべきなんだろうが、謝りたくねぇな」
ずっと昔から鬼と戦ってきて。隊在籍時終盤は囮や殿を押し付けられて。
そんな扱われ方をする事に反感を持った者たちによって逃されて、今の今まで陰ながら鬼殺隊を支えてくれていた存在。
「むしろ、謝ったら駄目ですよ。ラシードは自分の人生を軽んじる傾向がありますから、褒めては駄目なのです」
「お前がいうな」
しゅん、と体を強張らせたティア。あんまり虐めすぎると泣かれるなと思い、天元は話は終わりだとばかりに一つ咳払いをした。
かわりに、一つ疑問に思っていたことを口にする。
「んで。竈門炭治郎を昏倒させて連れてった、あの狐面の二人は何者なんだよ。結構な力量の持ち主だろ」
隊服を着てはいない所からして、鬼殺隊に籍を置いている訳ではないだろう。けれど、彼らは水の呼吸を使っていた。冨岡義勇とも面識があるようだった。
そして──ラシードの首を落とした元鳴柱の桑島慈悟郎も、二人と挨拶をしていた。
「あいつらが鬼殺隊に入れば、一気に甲あたりまで上り詰められるんじゃねえかと思うんだがな」
「あの二人は訳あって現在は鹿鳴館の戦力ですからね。先ほどのように派遣程度であれば、可能でしょうが」
妖の類だと知らされて、天元は、ああ、と納得した。
そういえば、自分たちも人外枠に達し始めているとは聞いていた。
つまりは、彼らは何かしらがあって、既に妖として身を置く事になっているのだろう。
「だからいきなり現れたわけだな。まあ、柱が今後欠けた時にでも出向の検討をお願いさせて貰おうかね」
「出向ですか。なるほど……それは、検討の余地がありそうですね」
ふむ、と考え込む幼女を見上げながら、天元は足を止めた。子首を傾げたティアが、見下ろして来る。
力を使い過ぎれば死ぬこともあるとは聞いていた。若返って、若返って、赤子まで。死ぬというのとは違うか。
ティアは死ねない妖である。
彼女は老いる事はあるけれども、人がボケるのと同じようにある時意識を失って、手近な人間の願いを意志とは無関係に叶えて。
その繰り返しをする生き物なのだと。
世代交代をすることがあるそうだが、ティアは世代交代をしたばかりの一世代目で、赤子の頃に願いを叶えまくっていたから長い年月を生きているのにここまで成長できた事は初めてだという、真っ白な存在だった。
桑島たちに養われたから、人のどす黒い部分にまだ意識して触れた事はないだろう。
本当に、いい娘だった。箱入りすぎた。
「嫁入りの頃合いだったろうによ。貰い手つかなかったら貰ってやろうってんのに、俺がジジイになってから娶らせる気じゃねえだろうな」
不思議そうにしていた幼子が、顔を真っ赤にさせて口をぱくぱくさせる。
それからむう、と頬を膨らませるようにして、そっぽ向いてしまった。
「そういう事は私みたいなのに言うことじゃないですよっ! 普通の女の子に言ってあげてください!」
「妖だろうがバケモンだろうが、俺の懐に入ったからにはもう遅いんだよ。せっかく雛鶴がお前に着物選んで待ってたのに、無駄にしやがったんだ謝れよお前!」
歩き出して少しする頃には、ぐすっと、鼻を啜るのが聞こえた。
ああ、やってしまったなと思ったが、天元は謝る気がない。
謝ってはいけないと先ほど彼女から言ったのだから。
普通は人生一度きりなのだ。後悔する機会も、一度きり。
「俺たちがお前に対して怒ったりしてやれるのは、一度きりの人生しかねえんだ。ちゃんと噛みしめろ」
後で嫁たちから文句の集中砲火だろうなぁと思いながら、天元は小さく返ってきた返事に、バーカ、と口元を緩めるのだった。