第1章 オニの妹。(全18話)
夢小説設定
この章の夢小説設定男女主人公にて展開しますが、
別に男の子でも女の子でも好きにお読みください。
両者ともに来日した異国人です。
炭治郎たちと肩を並べて戦えるスタイルではない、
予定(それはほかのサイト様に任せたいな)
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第3話 鱗滝の家。
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鱗滝よりも早く、ラシードは家屋に足を踏み入れる。
そして既にここを出立した“相棒”からの書き置きを天狗面に向かって放り投げ、奥の部屋を厳重に戸締り──陽の光が通らないようにした。
「右京、禰豆子を任せても良いか」
「相変わらずせっかちだな、オヤジ」
せっせと部屋の片付けを始める少年に、鱗滝が炭治郎の背から籠を受け取り、差し出してくる。それを受け取りながら、心配そうな顔でこちらを伺ってくる炭治郎に手を振った。
「この部屋、お前が帰ってくるまでにネズと二人で過ごせるようにしといてやるから、心置きなく鍛えられてこい!」
ギョッとなって遠慮──まるまる一部屋与えられる程広くないのは丸わかり──する炭治郎に、鱗滝自身も「責任を持って禰豆子は預かろう」とか決意表明する。
多大な厚意を前に、妹のことを考えれば安堵、居候の身としては申し訳なさそうな感情とで複雑な心境丸出しで、炭治郎は老人とともに夕暮れの山に入っていった。
室内の準備を終えたら、熊の毛皮を前に刀に手をかけた。ティアが出来る範囲で肉を削ぎ、毛皮の方を洗い込んでくれていたから臭みは弱くなっていた。
初期処理の状態なので、腐るものは断ち、陽の光が扉から入るなんて事故が起きないように入り口に吊そう。こういう時、中途半端とはいえ剣技と呼吸を会得しているのは大層楽だ。
パパッと暖簾のように扉に毛皮を打ち付け、よし!と一つ達成感を得たところで、籠から鬼化した少女を抱え上げた。
起きる様子もなく眠っている。そっと敷いておいた布団に横たえて、ラシードはその枕元に腰を下ろした。手を伸ばし、白い額に触れる。
探るように額を撫で、うん、と安堵の息をつく。
「その調子だ、負けるな──禰豆子」
むー、と微かな唸り声が聞こえたような気がして、長い髪を一つ撫でてから、ラシードは腕を引っ込めた。
今の炭治郎に合わせた速度で山を登っているだろう鱗滝。そこから逆算して戻って来るまでに、食事の支度でも整えてやらねば──恐らく、そんなに食べないだろうけど。
炭治郎が摂れていないのに、自分だけがっつり食べるなんてことが出来る人物ではない。かといって、不測の事態に備えて食事を摂らない愚か者でもない。
まあ、あんまりにも残されそうになったら自分で食おう。
そんなことを考えながら、ひとつ長い呼吸。
目に見えるところに炭治郎の怪我の手当てが出来るよう、道具一式を用意しておくことも、忘れない──。
「ティアは、元気にしているのか」
開口一番、天狗面を外した老人が尋ねてきた。
囲炉裏の火を弱めに調整していたラシードは、おう、と返す。
「鬼殺隊の仕事に忙殺されて自分の仕事に手をつけられない程度に、元気にやってるよ。さすがは産屋敷ってとこじゃないかな」
「相変わらずお前は手厳しいな、右京」
そう言われると、人間照れるものだ。むずがゆい感覚を無理やり隅っこに追いやって、ラシードは器を取り出すのに立ち上がった。あとの火加減くらい家主にやらせよう。
「あいつ、藤襲山で仕事だって。どれくらいの期間かは知らないけど、オヤジに会いたがってたからな……気は進まないかもだけどさ」
「うむ……私も、久しく会っていないし、あの地に足を運んでもいないからな」
しかも、どうかしてしまうと炭治郎が足を運ぶかもしれない場所だ。
粗方の経緯を知っているから、ラシードはそれ以上その件については何も言わなかった。
いずれ戻るだろう炭治郎の分の食器と共に、元いた場所に戻る。
思った通り控えめに食事を摂る相手とは対照的に、ラシードはがっつり盛って食い始めた。
「それで──鬼殺隊に入るのか」
口の中いっぱいに頬張っているところへ静かな問いかけ。
ラシードは隊服を着ているのだが、実際は公認されたものではない。鬼に食い散らかされていた亡骸から拝借したものだ。
刀を簡単に下げて歩ける立場が一番お手軽なのだが、警官や軍人のそれは何となく気が引けて手が出せない。
そこで目をつけたのは鬼滅の戦士の隊服だ。非公式のものではあるが、分かるものには認められているものだし、国の中枢の連中ならば把握している。
例えば警官に逮捕されたとしても、あの手この手を使って出してくれる仕組みが整えられているのも知っていた。
だから、都合が良いのだ。
「禰豆子のこと、まだ産屋敷には知らせないんだろ」
恐らく炭治郎は夜明けまでにここへ戻るだろう。鱗滝はどちらに転んでも面倒を見るだろうが──鬼殺の技を授けるかは別──認めてやりたい気持ちはあるはずだ。珍しい相手からの推薦であるし。
「特別な計らいには代償が必要──ってな」
「最終選別も乗り切っていない上、まだ炭治郎は戻ってもいない」
夢物語は希望だが、現実は絶望の色が濃い。
ラシードは自分のことを右京と呼ぶ男に、空になった自分のお椀を差し出す。
「それなら、まだ暫くは俺は自由にさせてもらっていいってこった!」
差し出した腕から腕が離れるまで、少しの間。
呆れと諦めと、どこか安心したようなため息が聞こえた後に、その重みは消えていった。