第3章 炎を絶やすことなかれ。(全22話)
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【幕間 無惨と童磨の駆け引き。】
——————————————————
『──だから、知らないって』
幾度目かもわからない問いかけ。
その度に、彼女や彼は目を閉じて首を横に振る。
無惨に初めて傷をつけた人間の親族かと思った時もあった。
けれど、確実に無惨自身で血筋は絶やしていた。どれも普通の人間で、脅威になるものなどいなかったけど。
それなのに、忘れた頃にひょこっと現れるこの存在との再会は、なんの進展もない退屈な日々に起きるちょっとした変化でもあり、無惨も少しは面白みを覚えている。
『数多の人生の記憶があるのだろう。ならば知っているはずだ。私の探し求めるモノの手がかりを』
『もう少し具体的なことでもわかればね。第一、手がかりをあんたが殺しちゃったのが悪いんでしょ。自業自得──』
苦悶に表情を歪める少女を組み敷きながら、無惨は睨む。知りたいことだけ答えればいいのに、毎度毎度この相手は一言多い。
これで肋骨の何本かが折れた。程度を間違えると潰してしまうということは前々回で覚えたのでそんなヘマはしない。
そう思っているのに、いつも無惨は殺してしまう。人間はとても脆かった。
会う度会う度に彼女や彼は何かしらの策を講じてきて、無惨も油断ができない。中でも“血記術”というものには一番苦しめられた。
だから、彼女を殺した後に、血“鬼”術と自分の能力を呼ぶようにして嫌がらせをした。
そろそろ飽きが出始めた頃、鬼殺の剣士の集合場所を聞き、攻め入った先で“こや”として生きていた彼女と遭遇して。
──首が皮一枚で繋がり一命を取り留めた。
生前の彼女が育てた剣士たちと、“こや”の犠牲の為だった。無惨は急ぎ、この弱点を克服する必要性を見出した。
首から上にあるものや、人間として必要な器官を増設する。もとより配下の鬼たちを統制する為の情報処理能力としてそれらは爆発的に統制過程が向上した。
これで、また一歩目当てへの手掛かりを得ることに近づいた気がした、その矢先。
何度も何度も、“こや”が現れた。鬼の能力を得たくせに、無惨に必要なことを彼女は必要としていない──全く持って面白くない。
やはり“こや”は青い彼岸花のことを知っているのだろう。
無惨は説き伏せるのではなく、“こや”を味方に引き入れることに専念することにした。その為に、わざわざ人間を育てたりもした。
人間と人間を戦わせてしまえば、人間同士で葛藤や憎悪で潰しあってくれる。そうしていれば“こや”の方から交渉してくると思ったのだ。
そういうことを厭うのは長い付き合いで把握していたからだ。
けれど、“こや”の方が上手だった。
というよりも、無惨が手塩にかけて育てた“格別大事にしていた人間”が裏切ったのだ。
彼の邪魔のせいで“こや”を見失うことになり、あれから一度も面と向かって会っていない。上弦の鬼たちは面識のある者もいるようだが、“こや”と遭遇している最中の情報は“無惨には届かない”。
これが一番、気に食わなかった。
さらなる追い討ちは、“花札のような耳飾りを付けた男”の出現だ。
強い鬼狩りを仲間に引き入れられたかと思えば。
あの屈辱は、“こや”にいっぱい食わされた時以上の物だった。
「ところで無惨様〜はぐれ鬼ってご存知ですか?」
上弦の弐、童磨がひょろりと現れてそんなことを言う。
無惨は本を片手に、ある女鬼のことを思い出して舌打ちした。
花札のような耳飾りをつけた男から逃れた際、無残の前から姿を晦ました鬼。あの時に何匹かの鬼を自分の管理下から逃してしまった。
それでも配下たちの働きもあって数は減らしたが、呪いから外れているために、遭遇しない限り生きているのかどうかも把握出来ていない。
「そうか〜それじゃあ、似たような妖の類かな。いやぁねえ、鬼殺の剣士のような技を使う鬼だから気になっていて」
「──鬼殺の?」
一瞬湧き上がりかけた怒りは、だが童磨のような歳若い鬼にはわからなくて仕方がないかと納得する。
不思議なことに、“こや”との関わりに関する情報は、無惨から配下にも伝達できないのだ。アレが記憶を司る妖だからなのかもしれない。
本を閉じてどういった経緯で出会ったのか問えば、歳若い鬼は感心したような顔で報告を始めた。
柱の一人を食い殺そうとしたところで、食うのだけは勘弁してほしいと交渉されたこと。そのかわり暇つぶしに付き合うと提示されて、夜明けまでの時間殺し合いをしてくれたこと。
間違いなく、“こや”だ──無惨は渇望していた相手の足跡に身を乗り出す。
「さあ、どうかなぁ。なんせ一年……んー、何年前だったかな?」
部下をぐしゃっと潰して、無惨は先ほどまで読んでいた本を再び開いた。
時間の無駄だった。
「そんなに怒らないでくださいよ〜ティア同様、見つけたら捕まえておけばいいんでしょう」
「目障りだ。消えろ」
ああ、腹が立つ。
再生しながら立ち上がってそのまま姿を消していく童磨を振り返ることなく、無惨はやり場のない怒りを花札の耳飾りに向ける。
同じような耳飾りをつけた子供が現れた。
時を同じくして、“こや”の存在も近くにあることがわかった。
かつては、“こや”が姿を隠して、少しの間を置いて“耳飾りの男”が。
この二つの出来事には関連性があるのか。
「鳴女、ティアの居場所はまだ掴めないのか」
人の望みを叶えられる存在。
童磨が面白半分で異国から買った物だが、その能力が本物だとわかったのもソレが消えてからのこと。
“こや”同様の妖のようだが、他者にも影響できる存在だ。食べれば何かしらの副産物を得ることが出来るかもしれない。
運良く、一つ目の女鬼はティアのことを知っている人間だった。世話係として側についていたから、特徴を覚えている。
上手くいけば、欲しいものが全て揃う。
そう考えると、僅かな我慢の時など余興のようなものだろう──。
「あの子の言った通りだったなあ。本当に目の色が変わった!」
無限城から出て、自分の寝ぐらに戻った童磨ははしゃぐ様に笑った。
あの時、“無惨が地団駄を踏んで見えた時”に今日の事を話してご覧──と悪戯を提案してきたのは、ラシードの方だ。
面白いことを言うなぁと思って本気にしていなかったが。
思えば、その前にも似た様な顔の女に、ティアを手放してみると面白いものが観れるよ、と言われた。
両方とも、上手くいった。
「これは楽しいことになってきたぞ〜さて、“次”はどうするんだったかなぁ〜」
七色の目を輝かせながら、その鬼は扇子を戦がせた──。
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『──だから、知らないって』
幾度目かもわからない問いかけ。
その度に、彼女や彼は目を閉じて首を横に振る。
無惨に初めて傷をつけた人間の親族かと思った時もあった。
けれど、確実に無惨自身で血筋は絶やしていた。どれも普通の人間で、脅威になるものなどいなかったけど。
それなのに、忘れた頃にひょこっと現れるこの存在との再会は、なんの進展もない退屈な日々に起きるちょっとした変化でもあり、無惨も少しは面白みを覚えている。
『数多の人生の記憶があるのだろう。ならば知っているはずだ。私の探し求めるモノの手がかりを』
『もう少し具体的なことでもわかればね。第一、手がかりをあんたが殺しちゃったのが悪いんでしょ。自業自得──』
苦悶に表情を歪める少女を組み敷きながら、無惨は睨む。知りたいことだけ答えればいいのに、毎度毎度この相手は一言多い。
これで肋骨の何本かが折れた。程度を間違えると潰してしまうということは前々回で覚えたのでそんなヘマはしない。
そう思っているのに、いつも無惨は殺してしまう。人間はとても脆かった。
会う度会う度に彼女や彼は何かしらの策を講じてきて、無惨も油断ができない。中でも“血記術”というものには一番苦しめられた。
だから、彼女を殺した後に、血“鬼”術と自分の能力を呼ぶようにして嫌がらせをした。
そろそろ飽きが出始めた頃、鬼殺の剣士の集合場所を聞き、攻め入った先で“こや”として生きていた彼女と遭遇して。
──首が皮一枚で繋がり一命を取り留めた。
生前の彼女が育てた剣士たちと、“こや”の犠牲の為だった。無惨は急ぎ、この弱点を克服する必要性を見出した。
首から上にあるものや、人間として必要な器官を増設する。もとより配下の鬼たちを統制する為の情報処理能力としてそれらは爆発的に統制過程が向上した。
これで、また一歩目当てへの手掛かりを得ることに近づいた気がした、その矢先。
何度も何度も、“こや”が現れた。鬼の能力を得たくせに、無惨に必要なことを彼女は必要としていない──全く持って面白くない。
やはり“こや”は青い彼岸花のことを知っているのだろう。
無惨は説き伏せるのではなく、“こや”を味方に引き入れることに専念することにした。その為に、わざわざ人間を育てたりもした。
人間と人間を戦わせてしまえば、人間同士で葛藤や憎悪で潰しあってくれる。そうしていれば“こや”の方から交渉してくると思ったのだ。
そういうことを厭うのは長い付き合いで把握していたからだ。
けれど、“こや”の方が上手だった。
というよりも、無惨が手塩にかけて育てた“格別大事にしていた人間”が裏切ったのだ。
彼の邪魔のせいで“こや”を見失うことになり、あれから一度も面と向かって会っていない。上弦の鬼たちは面識のある者もいるようだが、“こや”と遭遇している最中の情報は“無惨には届かない”。
これが一番、気に食わなかった。
さらなる追い討ちは、“花札のような耳飾りを付けた男”の出現だ。
強い鬼狩りを仲間に引き入れられたかと思えば。
あの屈辱は、“こや”にいっぱい食わされた時以上の物だった。
「ところで無惨様〜はぐれ鬼ってご存知ですか?」
上弦の弐、童磨がひょろりと現れてそんなことを言う。
無惨は本を片手に、ある女鬼のことを思い出して舌打ちした。
花札のような耳飾りをつけた男から逃れた際、無残の前から姿を晦ました鬼。あの時に何匹かの鬼を自分の管理下から逃してしまった。
それでも配下たちの働きもあって数は減らしたが、呪いから外れているために、遭遇しない限り生きているのかどうかも把握出来ていない。
「そうか〜それじゃあ、似たような妖の類かな。いやぁねえ、鬼殺の剣士のような技を使う鬼だから気になっていて」
「──鬼殺の?」
一瞬湧き上がりかけた怒りは、だが童磨のような歳若い鬼にはわからなくて仕方がないかと納得する。
不思議なことに、“こや”との関わりに関する情報は、無惨から配下にも伝達できないのだ。アレが記憶を司る妖だからなのかもしれない。
本を閉じてどういった経緯で出会ったのか問えば、歳若い鬼は感心したような顔で報告を始めた。
柱の一人を食い殺そうとしたところで、食うのだけは勘弁してほしいと交渉されたこと。そのかわり暇つぶしに付き合うと提示されて、夜明けまでの時間殺し合いをしてくれたこと。
間違いなく、“こや”だ──無惨は渇望していた相手の足跡に身を乗り出す。
「さあ、どうかなぁ。なんせ一年……んー、何年前だったかな?」
部下をぐしゃっと潰して、無惨は先ほどまで読んでいた本を再び開いた。
時間の無駄だった。
「そんなに怒らないでくださいよ〜ティア同様、見つけたら捕まえておけばいいんでしょう」
「目障りだ。消えろ」
ああ、腹が立つ。
再生しながら立ち上がってそのまま姿を消していく童磨を振り返ることなく、無惨はやり場のない怒りを花札の耳飾りに向ける。
同じような耳飾りをつけた子供が現れた。
時を同じくして、“こや”の存在も近くにあることがわかった。
かつては、“こや”が姿を隠して、少しの間を置いて“耳飾りの男”が。
この二つの出来事には関連性があるのか。
「鳴女、ティアの居場所はまだ掴めないのか」
人の望みを叶えられる存在。
童磨が面白半分で異国から買った物だが、その能力が本物だとわかったのもソレが消えてからのこと。
“こや”同様の妖のようだが、他者にも影響できる存在だ。食べれば何かしらの副産物を得ることが出来るかもしれない。
運良く、一つ目の女鬼はティアのことを知っている人間だった。世話係として側についていたから、特徴を覚えている。
上手くいけば、欲しいものが全て揃う。
そう考えると、僅かな我慢の時など余興のようなものだろう──。
「あの子の言った通りだったなあ。本当に目の色が変わった!」
無限城から出て、自分の寝ぐらに戻った童磨ははしゃぐ様に笑った。
あの時、“無惨が地団駄を踏んで見えた時”に今日の事を話してご覧──と悪戯を提案してきたのは、ラシードの方だ。
面白いことを言うなぁと思って本気にしていなかったが。
思えば、その前にも似た様な顔の女に、ティアを手放してみると面白いものが観れるよ、と言われた。
両方とも、上手くいった。
「これは楽しいことになってきたぞ〜さて、“次”はどうするんだったかなぁ〜」
七色の目を輝かせながら、その鬼は扇子を戦がせた──。