第3章 炎を絶やすことなかれ。(全22話)
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第3話 我慢の限度。
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「妹は俺と一緒に戦えます!」
柱たちに詰問される炭治郎を、ラシードたちは黙って見ていることしかできなかった。
正確には、炭治郎が起きる少し前に産屋敷の娘たちに促され、二人して広間の屏風の裏で待機しているよう告げられたから、聞いているだけなのだが。
鬼殺隊として人を守るために戦える──禰豆子のことを炭治郎が必死に訴える。
唇を噛んで、今にも泣き出しそうになりながらぎゅっと膝に手をやっているティアの隣。
ラシードはくんと鼻を鳴らして、これから起きる事を予期して小さくため息をつく。
それまで姿を見せなかった最後の一人の柱が、禰豆子の匂いと共にやってきて。
鱗滝特性の木箱に刀を突き立て。
禰豆子の血の匂いがぶわっと広がった。
今にも飛び出していきそうなティアの口を塞ぎ、空いた方の手で動かないよう押さえつける。今ここで自分たちが出ていった方が状況を悪化しかねない。
もちろん最悪の事態に陥りそうならば問題だ。けれど、今はそこまでの必要はないと判断した。
「善良な鬼と悪い鬼の区別もつかないなら、柱なんてやめてしまえ!」
「──いやいや! 区別つく奴なんて圧倒的少数だぞ」
お。
いかん。思わず口が動いてしまった。慌てて口を噤むが遅い。
向こうから炭治郎に名前を呼ばれたので、「また後でなー、とりま自嘲しろー」と声だけで応じる。痛い、気配が痛い。特に禰豆子や炭治郎じゃない新手の血の匂いさせてるヤツなんて殺気ヤバい。
さっきまでもぞもぞやっていたティアなんぞ、まるで自分が場を濁したかのように思ったのか真っ赤になって大人しくなっている。
そうこうしている間に、鬼殺隊を取りまとめている産屋敷家当主が姿を表す。彼は娘に事前に聞いていたのか、ラシードの方に顔を向けて軽い会釈を寄越してきた。
丁寧な奴だな。
「顔ぶれが変わらずに半年に一度の“柱合会議”を迎えられたこと、嬉しく思うよ」
唐突に厳かな空気になったのだが。
ラシードはなんだか鼻がむずむすして仕方がない。なんだろう、花粉症ってやつだろうか。
なったこと、これまでないのだが。
「炭治郎も鬼舞辻と遭遇している。私は初めて鬼舞辻が見せた尻尾を掴んで離したくない」
自身の異変に気を取られている間に話が進んでいた。“炭治郎も”のところで物凄く振り替えられたのを知覚しながら、どんな話が飛んできても墓穴を掘らずに済むように話に集中する。
途端に屏風越し、すごく視線を感じるんですが。
「ラシードも鬼舞辻に遭遇していたとは! 昔から実力の底が見えないとは思っていたが」
「ちなみによ煉獄。お前いつあいつと知り合った? 俺は柱になる前の任務中」
杏寿郎と天元が嫌な話題に触れ始めた。「面白いもの見たさで乱入を繰り返すからですよ」ティアが小声でぼやく。現在進行形で猛省するが時間は止まらない。
おや、という声をあげたのは“しのぶ”だ。
「私が彼を見かけたのは“姉が亡くなった時”です。強い鬼がいた現場だと思います」
「俺は下弦の弐だったな」「参に成り立てだと鬼が自賛していたな」
三人の声が止まる。無言の圧がひどい。
“しのぶ”の件は申し訳ないが、その強い鬼のわがままに付き合った結果“使ってしまったので”覚えていないのだが、後者の二名は覚えている。
二人とも当時はまだ応用戦術がなっていなくて、危なっかしいなと思って介入したのだ。少し助言した程度で必要なかったけど。
「彼のことは私から説明しよう。といっても、私も知識でしか触れていない存在なものだから。実は今、かなり興奮しているんだよ」
「ええ……隠しとけって言付けといたはず……」
「隠していたよ。口伝という徹底ぶりさ」
「oh.....」
違う、そういう意味じゃない。おのれ産屋敷耀哉の先祖ども。ああ言えばこう言うの可愛げのある一族め。
いろいろやる気がなくなったラシードは顔面から畳につんのめり、畳の目の関係で頭が滑って屏風からはみ出た。
もういいや。どうにでもしろよ。話進めてください。
「人間なら生かしておいてもいいが、鬼は駄目です。承知できない」
憎悪。悲しい。悔しさ。哀れみ。
全部ないまぜになった怨嗟を口にした風柱、不死川実弥は自身を刀で傷つけて禰豆子の箱にその潜血を撒き散らした。日向では効果が期待できないことから、木箱ごと座敷にあがりこんで。
三度、日輪刀は禰豆子に突き立てられた。
けど、禰豆子は血を流す男を前にも、己を律して動かなかった。
鬼であっても、禰豆子は人を襲わない。
それを少なくとも、現時点で、実証された──のだが。
然うは問屋が卸さない。
「炭治郎の話はこれで終わり。下がっていいよ。ラシードとティアを交えて、そろそろ柱合会議を──」
「ちょっと待て」
あの後すぐ、ティアが引っ張って屏風の奥に引き摺ってくれたとはいえ。その屏風は“変化”の圧のせいで、今、パッタン倒れた。
隠そうとしても手の大きさには限度がある。
頭から伸びる硬いものを、押さえ込むのに専念する為頭にやっていた片手の指先に感じながら、ラシードはでっかい溜息を吐く。
ムズムズを感じていたのは、このせいか。
「濃い稀血だな、そういうの先に言ってよ──諸々まろび出たわ」
ティアに支えられつつ、胡座をかいて不貞腐れるのは。
角が左に一つ、真っ白に変質した髪が畳に散らばるほど伸びた、ラシードだった。
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「妹は俺と一緒に戦えます!」
柱たちに詰問される炭治郎を、ラシードたちは黙って見ていることしかできなかった。
正確には、炭治郎が起きる少し前に産屋敷の娘たちに促され、二人して広間の屏風の裏で待機しているよう告げられたから、聞いているだけなのだが。
鬼殺隊として人を守るために戦える──禰豆子のことを炭治郎が必死に訴える。
唇を噛んで、今にも泣き出しそうになりながらぎゅっと膝に手をやっているティアの隣。
ラシードはくんと鼻を鳴らして、これから起きる事を予期して小さくため息をつく。
それまで姿を見せなかった最後の一人の柱が、禰豆子の匂いと共にやってきて。
鱗滝特性の木箱に刀を突き立て。
禰豆子の血の匂いがぶわっと広がった。
今にも飛び出していきそうなティアの口を塞ぎ、空いた方の手で動かないよう押さえつける。今ここで自分たちが出ていった方が状況を悪化しかねない。
もちろん最悪の事態に陥りそうならば問題だ。けれど、今はそこまでの必要はないと判断した。
「善良な鬼と悪い鬼の区別もつかないなら、柱なんてやめてしまえ!」
「──いやいや! 区別つく奴なんて圧倒的少数だぞ」
お。
いかん。思わず口が動いてしまった。慌てて口を噤むが遅い。
向こうから炭治郎に名前を呼ばれたので、「また後でなー、とりま自嘲しろー」と声だけで応じる。痛い、気配が痛い。特に禰豆子や炭治郎じゃない新手の血の匂いさせてるヤツなんて殺気ヤバい。
さっきまでもぞもぞやっていたティアなんぞ、まるで自分が場を濁したかのように思ったのか真っ赤になって大人しくなっている。
そうこうしている間に、鬼殺隊を取りまとめている産屋敷家当主が姿を表す。彼は娘に事前に聞いていたのか、ラシードの方に顔を向けて軽い会釈を寄越してきた。
丁寧な奴だな。
「顔ぶれが変わらずに半年に一度の“柱合会議”を迎えられたこと、嬉しく思うよ」
唐突に厳かな空気になったのだが。
ラシードはなんだか鼻がむずむすして仕方がない。なんだろう、花粉症ってやつだろうか。
なったこと、これまでないのだが。
「炭治郎も鬼舞辻と遭遇している。私は初めて鬼舞辻が見せた尻尾を掴んで離したくない」
自身の異変に気を取られている間に話が進んでいた。“炭治郎も”のところで物凄く振り替えられたのを知覚しながら、どんな話が飛んできても墓穴を掘らずに済むように話に集中する。
途端に屏風越し、すごく視線を感じるんですが。
「ラシードも鬼舞辻に遭遇していたとは! 昔から実力の底が見えないとは思っていたが」
「ちなみによ煉獄。お前いつあいつと知り合った? 俺は柱になる前の任務中」
杏寿郎と天元が嫌な話題に触れ始めた。「面白いもの見たさで乱入を繰り返すからですよ」ティアが小声でぼやく。現在進行形で猛省するが時間は止まらない。
おや、という声をあげたのは“しのぶ”だ。
「私が彼を見かけたのは“姉が亡くなった時”です。強い鬼がいた現場だと思います」
「俺は下弦の弐だったな」「参に成り立てだと鬼が自賛していたな」
三人の声が止まる。無言の圧がひどい。
“しのぶ”の件は申し訳ないが、その強い鬼のわがままに付き合った結果“使ってしまったので”覚えていないのだが、後者の二名は覚えている。
二人とも当時はまだ応用戦術がなっていなくて、危なっかしいなと思って介入したのだ。少し助言した程度で必要なかったけど。
「彼のことは私から説明しよう。といっても、私も知識でしか触れていない存在なものだから。実は今、かなり興奮しているんだよ」
「ええ……隠しとけって言付けといたはず……」
「隠していたよ。口伝という徹底ぶりさ」
「oh.....」
違う、そういう意味じゃない。おのれ産屋敷耀哉の先祖ども。ああ言えばこう言うの可愛げのある一族め。
いろいろやる気がなくなったラシードは顔面から畳につんのめり、畳の目の関係で頭が滑って屏風からはみ出た。
もういいや。どうにでもしろよ。話進めてください。
「人間なら生かしておいてもいいが、鬼は駄目です。承知できない」
憎悪。悲しい。悔しさ。哀れみ。
全部ないまぜになった怨嗟を口にした風柱、不死川実弥は自身を刀で傷つけて禰豆子の箱にその潜血を撒き散らした。日向では効果が期待できないことから、木箱ごと座敷にあがりこんで。
三度、日輪刀は禰豆子に突き立てられた。
けど、禰豆子は血を流す男を前にも、己を律して動かなかった。
鬼であっても、禰豆子は人を襲わない。
それを少なくとも、現時点で、実証された──のだが。
然うは問屋が卸さない。
「炭治郎の話はこれで終わり。下がっていいよ。ラシードとティアを交えて、そろそろ柱合会議を──」
「ちょっと待て」
あの後すぐ、ティアが引っ張って屏風の奥に引き摺ってくれたとはいえ。その屏風は“変化”の圧のせいで、今、パッタン倒れた。
隠そうとしても手の大きさには限度がある。
頭から伸びる硬いものを、押さえ込むのに専念する為頭にやっていた片手の指先に感じながら、ラシードはでっかい溜息を吐く。
ムズムズを感じていたのは、このせいか。
「濃い稀血だな、そういうの先に言ってよ──諸々まろび出たわ」
ティアに支えられつつ、胡座をかいて不貞腐れるのは。
角が左に一つ、真っ白に変質した髪が畳に散らばるほど伸びた、ラシードだった。