第3章 炎を絶やすことなかれ。(全22話)
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第2話 時と場所と場合。
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「お。ご苦労さん!」
玉砂利の敷き詰められた庭に通されると、すっかり疲れ果てた様子で岩に腰掛けているティアを見つけ、ラシードは労った。
声を掛けられるまで気づかなかったのか、彼女はびっくりしたように飛び上がってこちらに顔を向けた。そして、ラシードと義勇の姿に、ほっとした様子で駆け寄ってくる。
「お二人とも、無理を言ってすみませんでした!」
「いいよいいよ、お前の嫌な予感は外れないし」
な、と背後に促せば、こくりと義勇も肯く。彼はそのままティアの頬に手を伸ばして、そっと撫でた。
「炭治郎が世話になった」
「彼にはとても助けてもらったのです。ね、炭治郎くん強くなったでしょう?」
自分からも頬擦りするようにしながら普通に応じるものだから、見ていたラシードは砂糖を直接口内に打ち込まれるような気持ちになった。
この二人の距離感、いい加減なんとかしなきゃいけない気がする。
そう思ったはラシードだけではなかったようで、後ろについていた“しのぶ”と、炭治郎を背負った隠もなんとも言えないような顔で沈黙していた。
「そこの二人、朝っぱらから目の毒だからやめれ」
「冨岡さんもそういうことができるんですねぇ」
頭痛を覚えながら指摘すると、便乗するように、“しのぶ”が苦笑い。
ティアは彼女に苦手意識でもあるのか、ラシードの影に隠れるようにするが、傷だらけの炭治郎に気付いて口を押さえた。
簡単に状況を説明している間に、“しのぶ”は庭の奥に進んで炭治郎を下ろす場所を指定する。隠を見送りながら、ラシードは声を潜めた。
「状況によって義勇は動け。俺は動かない」
「わかった」
短く告げれば、詳細を尋ねることなく肯定が返ってくる。もとより水の呼吸組は口より先に手が出る勢なので、その時になればお祭りだ。
ティアはこういうことには不慣れなので、基本的にラシードの指示があるまでお祭りに参加はしないし、ラシードは慣れすぎているから最悪な事態に陥る前に動けるし。
「なんだ、ラシードもいたとは思わなかった」
心配そうに炭治郎を見ているティアの肩を、ぽんと叩いたのは炎柱の煉獄杏寿郎だ。その後ろには桃色の髪の女もいる。
彼女はラシードを見て、あっと声を上げた。
「あの時のショートケーキの子ね! あの時はありがとう、とっても美味しかったわ!」
「え──ああ、うん。そりゃよかった!」
ぴょんぴょんと、兎が跳ねるように飛びついてきた女子に気後れしつつ、ラシードは記憶を探る。そんな覚えまったくないのだが、「俺も甘露寺をススメて大正解だった!」なんて杏寿郎が笑っているので言葉にするのはやめた。
これは──どうやら、“しのぶ”同様彼女との時間は使った模様。
厳しい顔をするティアと義勇も今は空気を読んで追求してこない。これはやること終えたらソッコーとんずらこかなければ。
「ティア、大丈夫? さっき別れた後より顔色が悪いわ!」
「本部からの呼び出しを受けたそうだな。何があった?」
思わず師範に言いに行っちゃったわ! とティアの手を両手でぎゅっとやる少女の様子を見て、なるほどこれが恋柱か、と納得。
ラシードは、照れた様子で大丈夫、と応じている相棒の姿に苦笑した。
人付き合いが怖いのはまだ抜けていないようだが、ちゃんとわかってくれる友人を見つけられたようだ。
慈悟郎が見たら絶対泣くなこれ。
「お前たち、早いな! なんだよ、ティア──と、ラシードもここにいるってどういうこった?」
「ティア、思ってたより早く返ってきたね」
そこへ、続々と柱たちが姿を見せる。
音柱の宇随天元と、炭治郎よりも幼そうな少年と。蛇を連れている青年と大男だ。
一人足りないが、柱が全員集合している模様。
「俺たち場違いじゃね?」
「まあな。派手にやらかして見えるぜ。よく分かんねえが、別室待機でいいんじゃねえか?」
詰問するにしたって、主要人物全員の前でする必要はない。
特にラシードの鬼の特性なんてデリケートな問題だ。柱レベルの連中にいきなり味方に鬼もどきがいます、なんて言ったところで諍いの火種にしかならない。
「今日は父上が不在だ。千寿郎の話し相手にでもなって待ってくれても構わない」
「俺んちでもいいぜ。須磨がお前に料理のことで聞きたいことがあるってちょうど話題になってたんでな」
事情を知らない天元の言う言葉に杏寿郎も便乗する。持つべきものは本当に、友人ですよまったく。
それじゃあお言葉に甘えて──と出て行こうとしたラシードたちを引き止めたのは、ひんやりとした凍てつく笑顔だ。
「ティアさんはともかく、あなたも鬼を庇った事実があるのですからこちらにいて頂かないと困ります」
義勇以外の全員から不審の目を向けられ、ラシードはがっくりと肩を落とした。久しぶりだなーこの感じー。いつの時代もこんなもんですよ。
名指しされたティアは、おろおろしながらラシードの袖を掴んでふるふると首を振った。
「ラシードが残るなら私も残りますっ私も竈門兄妹のことは以前から知っていましたので」
「はあ? お前、鬼怖いってよく泣いてるじゃねえか」
禰豆子ちゃんは怖くないです、と涙目で訴えるティアに、天元は困った顔だ。恋柱も落ち着かない様子で、杏寿郎に至ってはむう、と口をつぐんでしまっている。その他は厳しい匂いをさせて来た。
「義勇、ちょっと落ち着くまでこれ預かってろ。話が進まねえ」
言いながらティアの首根っこを掴み、ぶんと水柱の方に投げるときちんと受け止めてくれる。
「禰豆子ちゃんは添い寝もしてくれる良い子なのですよお」とめそめそしている幼馴染みを、単に元気付けようと思ったのだろう、義勇は抱きしめてよしよしやって宥め始めたので。
ラシードは、玉砂利をひっ掴んで呼吸まで使って投げた。
もちろんティアを抱えてそれを避ける義勇は、心外! という顔でこちらを無言で見やってくるのだが。
笑いをこらえて肩を震わせたり、むむっとなっているのがいたり、口を台形にしたりナムナムいってる奴がいたりする中、ラシードは地を這うような声で二人を指差した。
「お前らいい加減距離感を学べ! 時と場所と場合を弁えろ!」
ずびし、と言い放ったラシードに、“しのぶ”が小気味良い拍手を送ってくれた。
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「お。ご苦労さん!」
玉砂利の敷き詰められた庭に通されると、すっかり疲れ果てた様子で岩に腰掛けているティアを見つけ、ラシードは労った。
声を掛けられるまで気づかなかったのか、彼女はびっくりしたように飛び上がってこちらに顔を向けた。そして、ラシードと義勇の姿に、ほっとした様子で駆け寄ってくる。
「お二人とも、無理を言ってすみませんでした!」
「いいよいいよ、お前の嫌な予感は外れないし」
な、と背後に促せば、こくりと義勇も肯く。彼はそのままティアの頬に手を伸ばして、そっと撫でた。
「炭治郎が世話になった」
「彼にはとても助けてもらったのです。ね、炭治郎くん強くなったでしょう?」
自分からも頬擦りするようにしながら普通に応じるものだから、見ていたラシードは砂糖を直接口内に打ち込まれるような気持ちになった。
この二人の距離感、いい加減なんとかしなきゃいけない気がする。
そう思ったはラシードだけではなかったようで、後ろについていた“しのぶ”と、炭治郎を背負った隠もなんとも言えないような顔で沈黙していた。
「そこの二人、朝っぱらから目の毒だからやめれ」
「冨岡さんもそういうことができるんですねぇ」
頭痛を覚えながら指摘すると、便乗するように、“しのぶ”が苦笑い。
ティアは彼女に苦手意識でもあるのか、ラシードの影に隠れるようにするが、傷だらけの炭治郎に気付いて口を押さえた。
簡単に状況を説明している間に、“しのぶ”は庭の奥に進んで炭治郎を下ろす場所を指定する。隠を見送りながら、ラシードは声を潜めた。
「状況によって義勇は動け。俺は動かない」
「わかった」
短く告げれば、詳細を尋ねることなく肯定が返ってくる。もとより水の呼吸組は口より先に手が出る勢なので、その時になればお祭りだ。
ティアはこういうことには不慣れなので、基本的にラシードの指示があるまでお祭りに参加はしないし、ラシードは慣れすぎているから最悪な事態に陥る前に動けるし。
「なんだ、ラシードもいたとは思わなかった」
心配そうに炭治郎を見ているティアの肩を、ぽんと叩いたのは炎柱の煉獄杏寿郎だ。その後ろには桃色の髪の女もいる。
彼女はラシードを見て、あっと声を上げた。
「あの時のショートケーキの子ね! あの時はありがとう、とっても美味しかったわ!」
「え──ああ、うん。そりゃよかった!」
ぴょんぴょんと、兎が跳ねるように飛びついてきた女子に気後れしつつ、ラシードは記憶を探る。そんな覚えまったくないのだが、「俺も甘露寺をススメて大正解だった!」なんて杏寿郎が笑っているので言葉にするのはやめた。
これは──どうやら、“しのぶ”同様彼女との時間は使った模様。
厳しい顔をするティアと義勇も今は空気を読んで追求してこない。これはやること終えたらソッコーとんずらこかなければ。
「ティア、大丈夫? さっき別れた後より顔色が悪いわ!」
「本部からの呼び出しを受けたそうだな。何があった?」
思わず師範に言いに行っちゃったわ! とティアの手を両手でぎゅっとやる少女の様子を見て、なるほどこれが恋柱か、と納得。
ラシードは、照れた様子で大丈夫、と応じている相棒の姿に苦笑した。
人付き合いが怖いのはまだ抜けていないようだが、ちゃんとわかってくれる友人を見つけられたようだ。
慈悟郎が見たら絶対泣くなこれ。
「お前たち、早いな! なんだよ、ティア──と、ラシードもここにいるってどういうこった?」
「ティア、思ってたより早く返ってきたね」
そこへ、続々と柱たちが姿を見せる。
音柱の宇随天元と、炭治郎よりも幼そうな少年と。蛇を連れている青年と大男だ。
一人足りないが、柱が全員集合している模様。
「俺たち場違いじゃね?」
「まあな。派手にやらかして見えるぜ。よく分かんねえが、別室待機でいいんじゃねえか?」
詰問するにしたって、主要人物全員の前でする必要はない。
特にラシードの鬼の特性なんてデリケートな問題だ。柱レベルの連中にいきなり味方に鬼もどきがいます、なんて言ったところで諍いの火種にしかならない。
「今日は父上が不在だ。千寿郎の話し相手にでもなって待ってくれても構わない」
「俺んちでもいいぜ。須磨がお前に料理のことで聞きたいことがあるってちょうど話題になってたんでな」
事情を知らない天元の言う言葉に杏寿郎も便乗する。持つべきものは本当に、友人ですよまったく。
それじゃあお言葉に甘えて──と出て行こうとしたラシードたちを引き止めたのは、ひんやりとした凍てつく笑顔だ。
「ティアさんはともかく、あなたも鬼を庇った事実があるのですからこちらにいて頂かないと困ります」
義勇以外の全員から不審の目を向けられ、ラシードはがっくりと肩を落とした。久しぶりだなーこの感じー。いつの時代もこんなもんですよ。
名指しされたティアは、おろおろしながらラシードの袖を掴んでふるふると首を振った。
「ラシードが残るなら私も残りますっ私も竈門兄妹のことは以前から知っていましたので」
「はあ? お前、鬼怖いってよく泣いてるじゃねえか」
禰豆子ちゃんは怖くないです、と涙目で訴えるティアに、天元は困った顔だ。恋柱も落ち着かない様子で、杏寿郎に至ってはむう、と口をつぐんでしまっている。その他は厳しい匂いをさせて来た。
「義勇、ちょっと落ち着くまでこれ預かってろ。話が進まねえ」
言いながらティアの首根っこを掴み、ぶんと水柱の方に投げるときちんと受け止めてくれる。
「禰豆子ちゃんは添い寝もしてくれる良い子なのですよお」とめそめそしている幼馴染みを、単に元気付けようと思ったのだろう、義勇は抱きしめてよしよしやって宥め始めたので。
ラシードは、玉砂利をひっ掴んで呼吸まで使って投げた。
もちろんティアを抱えてそれを避ける義勇は、心外! という顔でこちらを無言で見やってくるのだが。
笑いをこらえて肩を震わせたり、むむっとなっているのがいたり、口を台形にしたりナムナムいってる奴がいたりする中、ラシードは地を這うような声で二人を指差した。
「お前らいい加減距離感を学べ! 時と場所と場合を弁えろ!」
ずびし、と言い放ったラシードに、“しのぶ”が小気味良い拍手を送ってくれた。