第2章 逃れもののオニ。(全19話)
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【幕間 とある元柱の回想。】
——————————————-
慈悟郎は困っていた。
長い年月を重ねてきて、それなりに弟子も育ててきたとはいえ、未経験なことというものはあるものだ。
小さな女の子は、涙目で積み上げられた座布団の陰に身を隠している。
言葉もたどたどしく操るようになる頃合いだろう。
けれども、国外から来た女の子には慈悟郎たちの言葉はわからない。
加えて、勘違いとはいえ慈悟郎は首を刎ねかけた。怖いと思われて当然だ。
鱗滝は任務でいないし、他に手助けしてくれる人間はいない。
そろそろ食事にしてやりたいのだが、どうそれを伝えるべきなのか。
ある一定の距離から一歩踏み出そうとすると、小さく悲鳴をあげて更に縮こまってしまうから、結構な時間対峙している。
『いつかは隠か育手になんだから、今のうちから慣れとけ』
アテにしていた人物には、そんな現実的なことを言われてしまい振られた。確かに、このまま鬼に負けたり寿命や病に倒れるまでは間違いなく訪れる未来である。
「……ぁ、う」
先に動いたのは女の子のほう。恐る恐る影から出てきた。
慈悟郎を、どこか探るような目。
そーっと、そーっと、少しずつ近づいてくる──両手で座布団を抱えて握りしめながらだが。
そして、ぽすっと抱えていたものを慈悟郎の足元に置いて、また元いたところへ戻ってしまった。
また影から、伺ってくる。
ずっと、立ちっぱなしの慈悟郎を気遣ってくれたようだ。
──人の望みを叶える小娘がいる。
そんな報せが入った時、たまたま慈悟郎と鱗滝は本部にいた。
人知を超えた現象を引き起こす事象といえば、殆どが鬼絡みだ。情報元は藤の紋筋。
先に任務の入っていた慈悟郎は後から藤紋の家を目指す事になり、鱗滝が現地に向かった。
そこでまとめられた情報──ある小規模な宗教団体で、所属する人間たちは皆幸福そうであること。消えた人間が存在しないこと。加入する人間たちが続出していること。
あんまりにも話しが美味すぎた。消えた人間が存在しない──その根拠が薄い上に、鬼の血鬼術で惑わされている可能性が高い。
小規模とはいえ関わる人間が多すぎる。その事から、慈悟郎と鱗滝で早急に解決の為に乗り込むことになって。
邪気のない、真っ白な幼子という印象が強かった。
人の欲望にまみれ過ぎて、西洋人然とした白い肌だけでなく、透き通るような白磁の髪と目の外観になっていた小娘。
表情も乏しく、刀を目にしながら無関心そうな様子だった。
力のある鬼である可能性から、すぐ様刀を振るったが信者たちによる邪魔が入って姿を見失い、本当に鬼が現れて小娘たちに牙を突き立てる現場に居合わせる。
新たな鬼を斬り伏せた後、白い子供の眼前で刀を振り上げた時、初めて子供が恐怖に表情を歪ませて身を縮こまらせるのを見た──その剣閃は、勘違いに気づいた鱗滝に阻まれたのだが。
その後は、言葉のわからない小娘の面倒はほとんど鱗滝がやり、慈悟郎といえば師匠仕込みの料理の腕を使って食事当番。
無意識に他人の欲を吸ったり叶えてしまう小娘を人里離れたところに引き離しての生活。もちろん合間に任務もこなしながらだが。
それでも、これまで慈悟郎は子供が苦手というのもあるが、怖い思いをさせてしまったことへの罪悪感も少しはあったのか、あまり積極的に接触してこなかった。
そのツケが、今のこの状況を招いていた。
慈悟郎は、静かに座布団に腰を下ろした。安堵の息が漏れる。
あんなに怖い思いをさせてしまったのに、この小娘は、己を律して人を気遣うことができる。
なんだか、いたく感動してしまい、己の不甲斐なさに肩を落とす。
すると、慌てたような様子で女の子は駆け寄ってきて、心配そうな顔で背中をさすり始めた。震えの残る小さな手。
安堵のため息は、彼女には疲労の為と受け入れられまったようだ。
その心遣いと健気さに、思わず慈悟郎は吹き出してしまう。
ありがとうなぁ、と言うと、笑ってくれた。
言葉はそんなに必要なかったようだ。
「桑島さん、お風呂どうぞ!」
生家に戻ったはずの小娘──ティアは、かつての師が転生した少年ラシードと共に日本に戻ってきた。
すっかり年頃の娘に成長して、今ではもう、孫娘のように思っている。
人々が作り出した概念や強い欲望、願いに触れる事でそれを叶えたり、外見の色が変わる異能の持ち主だが、その体質をきちんと制御できるようになっていた。
昔はよく自我を保てずぼんやりしたり、眠っていたりが多かったが。
「ご飯はその間に用意しておきますので、ゆっくりしてきてくださいね」
「ウワアアアン聞いてよティア! じいちゃんったら酷いんだよ!」
情けなく泣きついていく新しい弟子──善逸の首根っこを掴んで、慈悟郎は彼女の名を大事に呼び、礼を言った。
※当サイト始動当初に拍手お礼にて公開していたものを加筆したものです。
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慈悟郎は困っていた。
長い年月を重ねてきて、それなりに弟子も育ててきたとはいえ、未経験なことというものはあるものだ。
小さな女の子は、涙目で積み上げられた座布団の陰に身を隠している。
言葉もたどたどしく操るようになる頃合いだろう。
けれども、国外から来た女の子には慈悟郎たちの言葉はわからない。
加えて、勘違いとはいえ慈悟郎は首を刎ねかけた。怖いと思われて当然だ。
鱗滝は任務でいないし、他に手助けしてくれる人間はいない。
そろそろ食事にしてやりたいのだが、どうそれを伝えるべきなのか。
ある一定の距離から一歩踏み出そうとすると、小さく悲鳴をあげて更に縮こまってしまうから、結構な時間対峙している。
『いつかは隠か育手になんだから、今のうちから慣れとけ』
アテにしていた人物には、そんな現実的なことを言われてしまい振られた。確かに、このまま鬼に負けたり寿命や病に倒れるまでは間違いなく訪れる未来である。
「……ぁ、う」
先に動いたのは女の子のほう。恐る恐る影から出てきた。
慈悟郎を、どこか探るような目。
そーっと、そーっと、少しずつ近づいてくる──両手で座布団を抱えて握りしめながらだが。
そして、ぽすっと抱えていたものを慈悟郎の足元に置いて、また元いたところへ戻ってしまった。
また影から、伺ってくる。
ずっと、立ちっぱなしの慈悟郎を気遣ってくれたようだ。
──人の望みを叶える小娘がいる。
そんな報せが入った時、たまたま慈悟郎と鱗滝は本部にいた。
人知を超えた現象を引き起こす事象といえば、殆どが鬼絡みだ。情報元は藤の紋筋。
先に任務の入っていた慈悟郎は後から藤紋の家を目指す事になり、鱗滝が現地に向かった。
そこでまとめられた情報──ある小規模な宗教団体で、所属する人間たちは皆幸福そうであること。消えた人間が存在しないこと。加入する人間たちが続出していること。
あんまりにも話しが美味すぎた。消えた人間が存在しない──その根拠が薄い上に、鬼の血鬼術で惑わされている可能性が高い。
小規模とはいえ関わる人間が多すぎる。その事から、慈悟郎と鱗滝で早急に解決の為に乗り込むことになって。
邪気のない、真っ白な幼子という印象が強かった。
人の欲望にまみれ過ぎて、西洋人然とした白い肌だけでなく、透き通るような白磁の髪と目の外観になっていた小娘。
表情も乏しく、刀を目にしながら無関心そうな様子だった。
力のある鬼である可能性から、すぐ様刀を振るったが信者たちによる邪魔が入って姿を見失い、本当に鬼が現れて小娘たちに牙を突き立てる現場に居合わせる。
新たな鬼を斬り伏せた後、白い子供の眼前で刀を振り上げた時、初めて子供が恐怖に表情を歪ませて身を縮こまらせるのを見た──その剣閃は、勘違いに気づいた鱗滝に阻まれたのだが。
その後は、言葉のわからない小娘の面倒はほとんど鱗滝がやり、慈悟郎といえば師匠仕込みの料理の腕を使って食事当番。
無意識に他人の欲を吸ったり叶えてしまう小娘を人里離れたところに引き離しての生活。もちろん合間に任務もこなしながらだが。
それでも、これまで慈悟郎は子供が苦手というのもあるが、怖い思いをさせてしまったことへの罪悪感も少しはあったのか、あまり積極的に接触してこなかった。
そのツケが、今のこの状況を招いていた。
慈悟郎は、静かに座布団に腰を下ろした。安堵の息が漏れる。
あんなに怖い思いをさせてしまったのに、この小娘は、己を律して人を気遣うことができる。
なんだか、いたく感動してしまい、己の不甲斐なさに肩を落とす。
すると、慌てたような様子で女の子は駆け寄ってきて、心配そうな顔で背中をさすり始めた。震えの残る小さな手。
安堵のため息は、彼女には疲労の為と受け入れられまったようだ。
その心遣いと健気さに、思わず慈悟郎は吹き出してしまう。
ありがとうなぁ、と言うと、笑ってくれた。
言葉はそんなに必要なかったようだ。
「桑島さん、お風呂どうぞ!」
生家に戻ったはずの小娘──ティアは、かつての師が転生した少年ラシードと共に日本に戻ってきた。
すっかり年頃の娘に成長して、今ではもう、孫娘のように思っている。
人々が作り出した概念や強い欲望、願いに触れる事でそれを叶えたり、外見の色が変わる異能の持ち主だが、その体質をきちんと制御できるようになっていた。
昔はよく自我を保てずぼんやりしたり、眠っていたりが多かったが。
「ご飯はその間に用意しておきますので、ゆっくりしてきてくださいね」
「ウワアアアン聞いてよティア! じいちゃんったら酷いんだよ!」
情けなく泣きついていく新しい弟子──善逸の首根っこを掴んで、慈悟郎は彼女の名を大事に呼び、礼を言った。
※当サイト始動当初に拍手お礼にて公開していたものを加筆したものです。