第2章 逃れもののオニ。(全19話)
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「では、行きます! お世話になりました!」
炭治郎、善逸、伊之助に緊急招集がかかった。
三人の具合を尋ねる文が届き、骨折完治の頃合いを答えた期日と同じ頃間。
ティアには、恋柱と合流するよう要請があったので、ここで三人とはお別れになる。
ひさの切り火を受けたのち、分かれ道まで四人で歩く。
「うあ、うあああっ何で三人合同なんだよぉ、なんか大変な任務なんじゃないだろうな、俺もティアと一緒に行きたいよおお!」
「善逸くん、落ち着いてください。お呪いをしますから」
ひしっと抱きついて離れない善逸を宥めて、ティアは自分の髪の毛を編んで作った輪を三人に渡す。
「なんか、茅の輪みたいだな」
「厄災避けとまではいいませんが……守り神に見つけてもらいやすくするものです。何事もなければなんの役にも立ちませんが」
炭治郎に答えて、ティアは三人の背中を見送った。
駄々をこねていた善逸も、最後にぎゅうっと名残惜しそうに抱きついてきたのを最後に大人しく離れていったし──ちょっと、寂しいけど。
那田蜘蛛山がどこにあるのかわからないが、三人の向かう方角から、近づいてくれるなという圧力が来る。
少し考えてから、ティアは片手を高く掲げた。すぐに、大きなキジが降りてきて。
「義勇くんを探してください。任務中ならば急かして那田蜘蛛山へ。本部ならばそこから動かないよう」
ばさばさと飛び去っていくキジを見上げ、ティアは不穏な空気のする那田蜘蛛山の方角を見据える。
こう拒まれては、介入したとしてもかえって炭治郎たちの行動を制限することになるかもしれない。
この任務へのティアの手助けは難しそうだ。
「──ははあ、こりゃあくっさいなぁ」
ティアから連絡を受けたラシードは、慌てて仕事を一区切りつけて那田蜘蛛山へやってきた。
久々の火急連絡とあって、裏技を使ったが、大正解だったなとその場にしゃがむ。
ティアの髪で出来た輪だ。
「一番入り口側に近い奴のとこに出たか。こう臭いと鼻が……」
不満のせいで独り言がひどい。これ絶対十二鬼月だよ。下弦だといいんだけどどうなんだろう。体持つかなぁ。
まあ、足止めができればいいし、義勇か誰かしらが派遣でもされてくるだろう。いや、もう来てるかな。割と時間食ったし。
一先ず、先ほどからちょろちょろしている人面蜘蛛に親近感が湧いたのでそれが発している臭いと似た、強い方へ向かう。
開けた場所に、空中に浮く家屋があった。蜘蛛の巣──に釣られている鬼殺隊員や、蜘蛛になり掛けの様が。
「あらら……これはまた」
とんとんと地を蹴って、高く飛び上がる。
宙吊りの家屋の壁に──金髪の少年が四肢を投げ出して倒れていた。
「善逸。頑張ってるな、よしよし!」
「……きしょい」
「泣くぞ」
ブルブルしながら呟かれたそれに涙ぐみつつ、ラシードは善逸の様子を伺った。手足が短くなっている。あの人面蜘蛛が最終形態ということだろう。
すっと取り出した注射器を善逸の腕にパパッと刺して、ラシードは立ち上がった。
「気を抜かずに呼吸続けろよ。それは友達が持たせてくれた特性の血鬼止めだが、諦めたら効き目ガクッと下がるからさ!」
「お前何しにきたし」
真っ青になりながらも、再び呼吸を始める善逸を撫でてやって、ラシードはそこから麓を見遣る。
通常ならば柱は一人だろうが、これだけの被害とあっては二人くらい来るだろうか。
現在の当主は隊員に対しても情が厚いという。精神的な繋がりも大切にされているようだし、ラシードが来る必要な本来なかったのかもしれない。
ティアの心配性に付き合ってやろうと思ったのは、彼女が義勇にキジを飛ばしていたから。ここに変な鬼がいたとして義勇が応じなければならなかったら何だか嫌だし、鱗滝だって悲しむ。
どうにもあのオヤジのそういう姿は見たくない。もちろん、慈悟郎にもさせたくないけれども。
「俺はもうちょい奥に行く。ちゃんと連れ帰ってやるから」
「……うん、わかった」
目と目を合わせてから、ラシードはぴょんと飛び降りた。
明日にでも、ようくこねくり回してやらなければ。
そういえば、伊之助もいるんだったな。炭治郎と上手くやれているだろうか。面倒見のいい炭治郎ならば問題ないか。伊之助だって根っこはいい子だ。基本的には間違ったことはしない。
そこかしこで糸に吊るされて絶命している隊員を下ろしてやりながら、進んでいると、はたと、顔馴染みに遭遇した。
左右で違う羽織の──水柱、冨岡義勇。
向こうも目を丸くして驚いている。
「あれえ、義勇。早いな、もう少しかかるかと思った!」
「ティアの連絡で待機していたから声がかかった。お前は麹町にいたはずだろう。門を使ったのか?」
「仕事中だったらな。使わなかったら数日かかるし」
飛びつきながら答えると、小さくため息をつかれる。相変わらず、可愛い反応をしてくれる男だ。
体格もすっかり差がついてしまった。頼もしい限りだ。
離れろと言わんばかりに肩を押し戻される時、義勇の手から伊之助の匂いを感知する。
「怪我の程度も弁えられない未熟者を、無闇矢鱈と放り込んでくるな」
「そんな後輩を現場で育てるのも柱の仕事だよ」
表情で察してくれたらしい義勇からの憎まれ口に応じつつ、ラシードは進む方角を少し変える。
義勇が来た方向と自分が来た方向。それぞれ気配を察知できる範囲から振り返るに、炭治郎のいる方向を絞ることができる。
「んじゃあ、俺は左手寄り行くね。そっちは任せた!」
大手を振れば、こくりと頷いた義勇は反対方向へ向けて走ってくれる。
あんなにボロボロだった少年が、自分を叩き上げてここまでの実力を手にする。あんなに泣いていた子供が。
嬉しいような、悲しいような──この気持ちをいつの時代も、ラシードは抱いている──。
進みながら、強烈な刺激臭から離れ始めていることに気づき、これは当てが外れたなぁと走る速度を落とした。加勢に行く為に引き返すべきか迷う。
けれど、今の義勇と自分の力量差を考えればむしろ足手まといかな。行ったら行ったで手間をかけさせる予感がしたので、そのまま様子を伺うことにした──ところ。
ぴょん、と小さな影が上から現れた。目が合う。思わずラシードはキャッチして、その場を飛び退いた。
禰豆子だ。五歳児程度まで小さくなった彼女を抱え、今さっきまでいた場所に日輪刀が刺さっているのに気付く。