第2章 逃れもののオニ。(全19話)
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第17話 異能の鍛錬法。
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朝日が昇る中、四人は荒れ果てたひさの孫の墓を綺麗に調整し終えて、一息ついているところだった。
炭治郎と善逸はげっそりとした様子で木にもたれかかり、伊之助は墓場で大の字になって大いびきをかいている。
「想像以上に過酷だった……」
「俺もう墓場一人じゃ行けそうにないよお」
土の中に引きずりこまれそうになれば仕方ない反応か。がくぶるしながらめそめそ泣いている善逸を見ていると申し訳なくなってくる。
けれど、ひさの孫に対する悪意は消えたから、もうこんな怪異は起きないだろう。
「これ、ひささんのお孫さんへのやっかみが原因だったんだろう。その人たちはまだ、生きているんだよな?」
ティアが桑島たちと会う数ヶ月前のこと。
瀕死の重傷を負った少年を伴って教会にやって来たのは、ひさを含めた家族だった。彼らは子供の全快を祈り、ティアは彼らのお願い事を叶えた記憶があった。
どうして少年が死にかけていたのか、ティアにはわからなかったが、どうやら子供たちの仲間内での悪ふざけが原因だったらしい。
全快した少年とその仲間たちは、遊ぶうちに自分たちと少年の間に決定的な違いがある事を無意識に感じ始めたのだろう。
我慢比べのために、高いところから飛び降りても、一人だけ怪我をしなかったり。川で溺れても必ず少年がみんなを助け出せたり。火遊びをしていて煙に巻かれた時、いの一番に火傷を負いながら逃げ道を確保してみんなで生還したり。
ある時から強運に恵まれた少年を、みんな称賛したし頼りにした。そして、羨ましいと思われた。良くも悪くも、悪目立ちしたひさの孫。
「流行病で、お孫さんと同世代の子たちはほとんど亡くなりました。でも彼は咳すらしなかった。羨望と渇望の的だったでしょう」
そして、数年前にティアはひさの孫から“死の克服”を取り上げて。ただの風邪で、ころんと逝ってしまった。
幼かったティアは大雑把な願いの叶え方をしてしまっていて、ひさの孫には死を回避するような珍妙な能力を渡してしまっていた。
こういうことが、他にあといくつあるのか。記憶があるものなら対処もしやすいが、自我が芽生える前ともなると途方もない。
「あああ……私は今もどれだけの方に迷惑をかけているのか……」
「言ったって仕方ないでしょ。赤子のティアを食い物にしてた大人が悪いんだから」
記憶にも残らないくらいの頃から、人の欲に反応しては手当たり次第にざっくばらんに対処していたティアは、ラシードと同じように記憶を重ねられる異能持ちの癖に、記憶する前に死んでいたから一人分の記憶しかない。
多分ティアの記憶は、覚えているものでも数世代分の幼子の時の積み重ね。桑島たちに会うまでの記憶は、ティアとして生きている頃のものなのかどうかも怪しい。
極楽云々とかいう宗教団体だった気がする。なんにしても、善逸が言ったようにティアには選択権はなく、倫理観も道徳観も一切与えられなかった。
振り返ってみればあれは、軟禁──いや、飼われていたようなもの。
「後悔してごろんごろんしたくなる気持ちはわからないでもないけど、爺ちゃんたちの努力の結果、ティアがいる事の方が大事なんだからね! そこのところ忘れちゃダメだからな!」
「なんだ、それ。どういうことだ?」
純粋な疑問を口にした炭治郎に、善逸が泣き出しながら弾丸並の勢いでティアの過去を暴露した。
例えば任務から帰ってきた傷だらけの桑島を見ればぱっと傷を治し、食料に困れば動物たちが自らや果物を調達してきて、嵐の季節なのに程よい雨風、ティアがいれば真冬も寒くない。
不自由のない生活。元水柱が根気強くティアに訴え、やっと理解した彼女自身もそれを“みんな”に訴えてやめてもらう。
「爺ちゃんは片足が無いんだけどさ。ティアは治そうとして譲らないし、けど本来そんなことあっちゃいけないだろ。もう、説得するの大変だったって!」
「〜〜〜〜穴が欲しい……っ」
もちろん、今となっては人としての当たり前を尊重することをティアも覚えた。泣きながら、桑島と喧嘩越しで言い合いをしたのを覚えている。
何がつぼにハマったのか、炭治郎はお腹を抱えて笑っていた。
「鱗滝さんを困らせるって、さすがだなティアにしか出来ないよ。あははははっ!」
「だって誰も教えてくれなかったんです〜〜〜〜!」
やっちゃいけないことなんか一度も言われたことはなかった。
怒られたのなんて、当時右京として生きていたラシードが初めてだったくらい。右京は異国の言語がわかるから、ティアと会話ができたのだ。
どうやら赤子であっても言語中枢というのは勝手が違うようで、“ティアになる前の世代”の用いていた言語が理解共有に関係していたらしい。
まだ笑っている炭治郎と善逸に、ティアは真っ赤になりながら、言った。
「来週からにしようと思ったけど、ラシードからの助言の通り、元気そうなのであなたたちの周りだけ空気薄くしてやります!」
「「えっ」」
ついでに重力も少し強くしてやる。
口には出さないが、ティアは禰豆子の入った箱を担いで、ふんっと踵を返した。
お腹すいた。早く戻ってひさの作ったご飯を平らげるのだ。
「あっアアアアアおもっ重いよおおおっ薄いよお死ぬ死ぬ死ぬ死んじゃうこれダメなやつ炭治郎おおおっ」
「落ち着け善逸。本当に酸欠になってしまうぞ? おい、伊之助起きろ。下山するぞ!」
わたわたと動き始める三名を横目に、ティアは密かに舌を出した。
実は昨晩から既にその状態だ。今に始まったことではない。単に三人に付き合っていたティアへの負荷だけ除いただけだ。
そんなことは教えてあげないけれども──。
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朝日が昇る中、四人は荒れ果てたひさの孫の墓を綺麗に調整し終えて、一息ついているところだった。
炭治郎と善逸はげっそりとした様子で木にもたれかかり、伊之助は墓場で大の字になって大いびきをかいている。
「想像以上に過酷だった……」
「俺もう墓場一人じゃ行けそうにないよお」
土の中に引きずりこまれそうになれば仕方ない反応か。がくぶるしながらめそめそ泣いている善逸を見ていると申し訳なくなってくる。
けれど、ひさの孫に対する悪意は消えたから、もうこんな怪異は起きないだろう。
「これ、ひささんのお孫さんへのやっかみが原因だったんだろう。その人たちはまだ、生きているんだよな?」
ティアが桑島たちと会う数ヶ月前のこと。
瀕死の重傷を負った少年を伴って教会にやって来たのは、ひさを含めた家族だった。彼らは子供の全快を祈り、ティアは彼らのお願い事を叶えた記憶があった。
どうして少年が死にかけていたのか、ティアにはわからなかったが、どうやら子供たちの仲間内での悪ふざけが原因だったらしい。
全快した少年とその仲間たちは、遊ぶうちに自分たちと少年の間に決定的な違いがある事を無意識に感じ始めたのだろう。
我慢比べのために、高いところから飛び降りても、一人だけ怪我をしなかったり。川で溺れても必ず少年がみんなを助け出せたり。火遊びをしていて煙に巻かれた時、いの一番に火傷を負いながら逃げ道を確保してみんなで生還したり。
ある時から強運に恵まれた少年を、みんな称賛したし頼りにした。そして、羨ましいと思われた。良くも悪くも、悪目立ちしたひさの孫。
「流行病で、お孫さんと同世代の子たちはほとんど亡くなりました。でも彼は咳すらしなかった。羨望と渇望の的だったでしょう」
そして、数年前にティアはひさの孫から“死の克服”を取り上げて。ただの風邪で、ころんと逝ってしまった。
幼かったティアは大雑把な願いの叶え方をしてしまっていて、ひさの孫には死を回避するような珍妙な能力を渡してしまっていた。
こういうことが、他にあといくつあるのか。記憶があるものなら対処もしやすいが、自我が芽生える前ともなると途方もない。
「あああ……私は今もどれだけの方に迷惑をかけているのか……」
「言ったって仕方ないでしょ。赤子のティアを食い物にしてた大人が悪いんだから」
記憶にも残らないくらいの頃から、人の欲に反応しては手当たり次第にざっくばらんに対処していたティアは、ラシードと同じように記憶を重ねられる異能持ちの癖に、記憶する前に死んでいたから一人分の記憶しかない。
多分ティアの記憶は、覚えているものでも数世代分の幼子の時の積み重ね。桑島たちに会うまでの記憶は、ティアとして生きている頃のものなのかどうかも怪しい。
極楽云々とかいう宗教団体だった気がする。なんにしても、善逸が言ったようにティアには選択権はなく、倫理観も道徳観も一切与えられなかった。
振り返ってみればあれは、軟禁──いや、飼われていたようなもの。
「後悔してごろんごろんしたくなる気持ちはわからないでもないけど、爺ちゃんたちの努力の結果、ティアがいる事の方が大事なんだからね! そこのところ忘れちゃダメだからな!」
「なんだ、それ。どういうことだ?」
純粋な疑問を口にした炭治郎に、善逸が泣き出しながら弾丸並の勢いでティアの過去を暴露した。
例えば任務から帰ってきた傷だらけの桑島を見ればぱっと傷を治し、食料に困れば動物たちが自らや果物を調達してきて、嵐の季節なのに程よい雨風、ティアがいれば真冬も寒くない。
不自由のない生活。元水柱が根気強くティアに訴え、やっと理解した彼女自身もそれを“みんな”に訴えてやめてもらう。
「爺ちゃんは片足が無いんだけどさ。ティアは治そうとして譲らないし、けど本来そんなことあっちゃいけないだろ。もう、説得するの大変だったって!」
「〜〜〜〜穴が欲しい……っ」
もちろん、今となっては人としての当たり前を尊重することをティアも覚えた。泣きながら、桑島と喧嘩越しで言い合いをしたのを覚えている。
何がつぼにハマったのか、炭治郎はお腹を抱えて笑っていた。
「鱗滝さんを困らせるって、さすがだなティアにしか出来ないよ。あははははっ!」
「だって誰も教えてくれなかったんです〜〜〜〜!」
やっちゃいけないことなんか一度も言われたことはなかった。
怒られたのなんて、当時右京として生きていたラシードが初めてだったくらい。右京は異国の言語がわかるから、ティアと会話ができたのだ。
どうやら赤子であっても言語中枢というのは勝手が違うようで、“ティアになる前の世代”の用いていた言語が理解共有に関係していたらしい。
まだ笑っている炭治郎と善逸に、ティアは真っ赤になりながら、言った。
「来週からにしようと思ったけど、ラシードからの助言の通り、元気そうなのであなたたちの周りだけ空気薄くしてやります!」
「「えっ」」
ついでに重力も少し強くしてやる。
口には出さないが、ティアは禰豆子の入った箱を担いで、ふんっと踵を返した。
お腹すいた。早く戻ってひさの作ったご飯を平らげるのだ。
「あっアアアアアおもっ重いよおおおっ薄いよお死ぬ死ぬ死ぬ死んじゃうこれダメなやつ炭治郎おおおっ」
「落ち着け善逸。本当に酸欠になってしまうぞ? おい、伊之助起きろ。下山するぞ!」
わたわたと動き始める三名を横目に、ティアは密かに舌を出した。
実は昨晩から既にその状態だ。今に始まったことではない。単に三人に付き合っていたティアへの負荷だけ除いただけだ。
そんなことは教えてあげないけれども──。