第2章 逃れもののオニ。(全19話)

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女主人公の名前(異国人名でもそう出なくても可)
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第14話 お帰りなさい。
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「ただいま帰りました──ティアには、言ってなかったからな!」



照れたように笑う炭治郎に、ティアは思わず涙ぐんだ。禰豆子のことを見てると約束したのに彼が帰ってくる前に仕方がないとはいえ、本部に戻ってしまって。

思えば、善逸とだって久しぶりだ。ラシードから聞いていたとはいえ、こうして無事再会出来たことを今さら実感する。

「……っう、炭治郎くん、善逸くん、お帰りなさい〜っ」
「〜〜〜〜ぅぅうわあああん、ただいまだよおぉぉ!」

並んでいた二人に飛びついて抱き寄せると、苦笑いする炭治郎とは別に善逸が泣き出した。一人っ子と兄弟の多い炭治郎だと何か違うのか。二人よりは年上のはずのティアは恥ずかしいのも手伝ってなかなか泣き止めなかった。

それから、伊之助と共に木陰に移動させられたティアは、炭治郎たちが犠牲者たちを弔う為に行動を始める中体を休めた。
子供たちも炭治郎たちも、真剣にその作業に没頭している。ティアは少しずつ伸びてきた髪をまとめ上げながら、ぼんやりとそれを眺めていた。

こんな光景はよく見るのだけど──何か、これとは違うものも見たことがある気がするのだ。思い出したいとは思えないのだけど。



そのうち、伊之助も覚醒して、色々言葉の取り違えはあったが、協力して埋葬を終える。



「本当にありがとうございました。家までは自分たちで帰れます」

清、正一、てる子と道の途中で別れる時、稀血の持ち主である清には藤の花の香り袋が鎹烏から渡された。
それを手に持った清が、ティアを見上げる。

ティアさんは、持たないんですか」
「私も持ってますよ。たまたま、昨晩は別のところにおいてあった荷物の中に入れっぱなしだっただけで」

三人の背中を見送る中で、清は二度ほど振り返ってきた。多分、意図が彼にはわかってしまったのかもしれない。
その過程で、正一に命を救われた、と勘違いしたままの善逸を昏倒させた炭治郎が責任を持って彼を背負おうとした。

それを留め、ティアが森の向こうに声をかける。のそのそとやってきたのは熊。
伊之助と炭治郎がポカンとなる中、ティアはその背に乗せてもらい、善逸を抱き込むようにして支えてやる。

「狼はよく見たけど、熊まで協力してくれるのか」
「今夜の肉の調達とは、気の利くやつだぜ!」
「食べませんよ、食べたら怒りますからね」

伊之助にきちんと釘を刺して、ティアたちは鎹烏の案内する藤の花の家紋の家にたどり着いた。
炭治郎たちは初めてのようで勝手がわからないのか、ティアは熊を返した後に鬼殺隊を支援してくれる家であることを伝える。

中から出てきた老婆に案内され、ティアは三人と分かれて別室に案内された。

「お久しぶりです。その後、いかがですか?」
「お陰様で、随分と調子がいいですよ。まだまだ、お役に立てそうでございます」

老婆は、しわしわの手をティアに伸ばして、両手でティアの顔を撫でた。

「貴女がこうして成長した姿を見せて下さる。身に余る光栄なのでございますよ──貴女は、自分を許せないのでしょうけれど」

溢れそうな笑顔でお盆にハサミと剃刀を置いて、老婆が部屋を出て行った。
障子は閉められることなく、月明かりを遮るものはない。

四つん這いになって、縁側に足を投げ出して座りながら、ティアはハサミで自分の髪を切った。
鬼の屋敷から出た直後に纏めあげた髪を、ひと房ずつ手にとっては、チョキンチョキンと切っていく。
切った先から月明かりのような色に変わる“自分の抜け殻”。毎度毎度不思議な感覚だった。

明日の朝になれば、髪は昨日までの元の長さに戻ってしまう。
切ったこの髪は、隠に渡して加工してもらうと鬼殺隊の助けになる。特にティアが怪我をした時は治るまでの間伸び続ける為、重宝されるのだ。



「──やる時は言いなって、いつもいつも言ってるよね」



気付いたら、善逸が廊下の角にいた。
ハサミの音が聞こえたのだろう。

「そんなざっくばらんに……全然揃ってないじゃないか」

眉を釣り上げながらやってきた善逸が、ティアの後ろに座ってハサミを取り上げ、剃刀も使いながら綺麗に整えてくれる。
朝起きたら元に戻るのに──そう言っても、寝るまではこのままなんだろう! 女の子なんだから、綺麗にしたいだろう! といつも気遣ってくれた。

ティアは、炭治郎が鬼を連れてる理由、知ってるんだな」
「ええ。でもそれは、直接聞くんでしょう?」
「ああ、そういうつもりじゃなくてさ」

教えてあげませんよ──とそっぽ向くが、善逸の目当てはそこではなかったらしい。
促してみると、少年はティアの髪に櫛を通しながら続ける。

「鬼なのに人間みたいな知り合い知ってるからさ。そんなに嫌悪感はないんだよな、怖くないしさ」
ラシードから聞きましたよ。お手伝いさせられたそうですね」

話を思い出してくすくすと笑えば、善逸は、ひどい目にあったんだよ、笑い事なんかじゃなかったよ、と涙目だ。
社交界で信用できる人間の見分けを手伝わされ、鹿鳴館内での雑務を押し付けられ、ラシードは掘り出し物だとにこにこしていたが対処した善逸からしてみるとよっぽどの体験だったろう。



三峰詣で多少耐性がついていたとしても、鹿鳴館内部の案件はまた状況が異なるのだから。



「一つ訂正を。ラシードは鬼の特性を“覚え損なった”から鬼舞辻無惨のような鬼にはなっていません。その点ではあくまでも人間です」
「歩く日記帳とか本人言ってたけど、本当にそういうもんなのか」

善逸がどこまで話を知っているのかわからないので、ティアはこれ以上の話をして良いのか迷った。けれど、鹿鳴館に彼自身が連れて行き、しかも日記帳と自分を例えたのならば問題ないか。

 
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