第2章 逃れもののオニ。(全19話)
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第13話 鋼色の髪。
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「──善逸くん、善逸くん!」
頭から落ちた善逸を、正一と二人で呼び起こす。
なんとか目を覚ましてくれた少年は、自分が頭から落ちたことに気付いて驚いたようだが、さすがだなとティアは苦笑してしまった。
自分を過小評価し過ぎているこの少年は、それでもなんとかしなければといつも思っていて一生懸命で、つまりは本番に弱いタイプといえるのかもしれないけれど。
気絶したりすると気負っている意識から実力が解放されて、本来の才能を遺憾なく発揮する──ちょっと難しい、心優しい男の子だった。
「ティアは大丈夫なの、足はまだ?」
「ええ。それより、鼓の音が消えたのですけど中の様子はどうなっていそうですか?」
正一に木陰にある荷物を示し、持ってきてほしいと頼む。
あれは荷物を置いた場所から、医療道具だけを鳥たちが運んできてくれたものだ。
「炭治郎──あ、一緒に行動していた同期の隊員ね。そいつが倒したみたいだ。あいつ、足とか骨折れてるみたいだから、診てやってよ」
「まあ……相変わらず無茶をする子ですね」
「猪突猛進、猪突猛進!」
あれ、知り合いなの? と首を傾げる善逸に応えようとしたら、鬼の屋敷の中から頭が猪の、上半身裸の少年が飛び出してきた。
この元気のいい声──あの時自分のこと跨いでいた子だ!
思い至ったティアと同じように、藤襲山の最終選別で同期だったやつだ! と叫んだ善逸が、慌てて駆け出した。
そして、厨子に飛びついて猪頭の少年の刃を遮る。「この箱に手出しはさせない!」
突然どうしたのだろうとティアがおろおろしていると、箱を抱えながら善逸が叫ぶ。「炭治郎の大事なものなんだ!」
炭治郎の大切なもの。猪頭の少年の刀が向かう先──思い至って、ティアは体を起こす。
「オイオイオイ、何言ってんだ! その中には鬼がいるぞぉ、わからねえのか?」
「そんなことは最初からわかっている‼︎」
あの厨子の中には禰豆子がいるのだ。きっと鱗滝が拵えてくれたのだろう。
鬼の首を切ることが鬼殺隊の大前提。匿うことなんて言語道断。
ティアはなんかしなければと、身を起こすのだが、片足の筋肉は分断されてせっかく手当てしてもらった場所からは血が滲む。正一が無理するなと押し留めてきた。
一触即発の状況下、善逸は刀を抜くことなく、無防備な状態で相手に対峙し続ける。
「俺が、直接炭治郎に話を聞く! だからお前は、引っ込んでろ!」
善逸は、炭治郎の事情を一切知らないのだ。
恐らくはその優れた聴覚で、炭治郎が鬼を連れていて、炭治郎の人となりを汲んで、信じようと思ってくれた。
身内を鬼に殺されたり、脅かされたり──そういった過去を一切持たない我妻善逸にとって、鬼は憎悪の対象ではない。恐怖、または──悲しい存在だとわかっている。
おそらく彼はティアの扱うような現象の方が身近だっただろう。考え方が柔軟過ぎた。
猪頭の少年が刀を振り上げた時、ティアは両手を地面に叩きつけた。すぐそばにいたはずの子供が、ひっと息を飲むのを知覚する。
善逸に迫っていた強靭は、高速で滑空してきたカラスによって阻まれた。弾き飛んだのは刀の方で、カラスの方は体勢を少し崩した程度でまた空へ舞い上がっていく。
驚いた顔の善逸が、ティアに礼を寄越した──鋼色の髪をした相手を見れば、何をしたのか連想してくれたのだろう。
「なんだ、あの鳥──すげえ固えぞ!」
「ティアが岩の特性を一瞬与えてくれたんだよ! うちの姉弟子なめんなよ!」
けれど、善逸の目は責めるようなものだった。これ以上無茶をしてくれるなと訴えてくる。
猪頭の少年は、悔しそうに雄叫びをあげたと思ったら、善逸のことを殴ったり蹴ったりし始めた。箱を庇うよう善逸はされるがままだ。
隊員同士の敵対は御法度──きちんと、それを守っている。
「善逸さん……善逸さんが、どうしようティアさん!」
異様な光景に、正一がついに泣き出してしまう。刀をぬけばいいのだ。けれども、相手は鬼ではない。正一も刀と刀の戦いがどんなに危険なものかわかっているから、どうしていいかわからなくなったのだ。
無茶をしたせいで、ティア自身も身動きが取れなくなった。体をこうして起こしていることしか出来ない。善逸自身に岩の特性を付与することもできるが、その後の跳ねっ返りはどんなものになるかわからない。
ただでさえ善逸には釘を刺された。相手の心を無視したら──。「炭治郎……俺、守ったよ──」
譫言のような声に、ティアが真っ青になった顔を上げると、屋敷の玄関に炭治郎と清たちがいた。驚愕の表情で固まっている。
その後は、炭治郎が止めに入って──骨の折れる音やら、骨の折れる音やら、頭蓋骨が凄い音を立てたりとか──見ていて開いた口が塞がらないような光景が続き。
「炭治郎くんのいうように、脳震盪ですね。二人の羽織、貸していただいてもいいですか?」
炭治郎の頭突きを食らった猪頭の少年、伊之助が目を回して倒れた後。
頭を高くして、彼の体に羽織をかけて──善逸の手当てをして、炭治郎の具合を診る。
清の手当ては炭治郎がしてくれていたので、問題なさそうだ。
「一緒に攫われた女の人って、やっぱりティアのことだったんだな」
「匂いで分かりましたか?」
うん、と頷いた炭治郎は、改まった様子で姿勢を出した。
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「──善逸くん、善逸くん!」
頭から落ちた善逸を、正一と二人で呼び起こす。
なんとか目を覚ましてくれた少年は、自分が頭から落ちたことに気付いて驚いたようだが、さすがだなとティアは苦笑してしまった。
自分を過小評価し過ぎているこの少年は、それでもなんとかしなければといつも思っていて一生懸命で、つまりは本番に弱いタイプといえるのかもしれないけれど。
気絶したりすると気負っている意識から実力が解放されて、本来の才能を遺憾なく発揮する──ちょっと難しい、心優しい男の子だった。
「ティアは大丈夫なの、足はまだ?」
「ええ。それより、鼓の音が消えたのですけど中の様子はどうなっていそうですか?」
正一に木陰にある荷物を示し、持ってきてほしいと頼む。
あれは荷物を置いた場所から、医療道具だけを鳥たちが運んできてくれたものだ。
「炭治郎──あ、一緒に行動していた同期の隊員ね。そいつが倒したみたいだ。あいつ、足とか骨折れてるみたいだから、診てやってよ」
「まあ……相変わらず無茶をする子ですね」
「猪突猛進、猪突猛進!」
あれ、知り合いなの? と首を傾げる善逸に応えようとしたら、鬼の屋敷の中から頭が猪の、上半身裸の少年が飛び出してきた。
この元気のいい声──あの時自分のこと跨いでいた子だ!
思い至ったティアと同じように、藤襲山の最終選別で同期だったやつだ! と叫んだ善逸が、慌てて駆け出した。
そして、厨子に飛びついて猪頭の少年の刃を遮る。「この箱に手出しはさせない!」
突然どうしたのだろうとティアがおろおろしていると、箱を抱えながら善逸が叫ぶ。「炭治郎の大事なものなんだ!」
炭治郎の大切なもの。猪頭の少年の刀が向かう先──思い至って、ティアは体を起こす。
「オイオイオイ、何言ってんだ! その中には鬼がいるぞぉ、わからねえのか?」
「そんなことは最初からわかっている‼︎」
あの厨子の中には禰豆子がいるのだ。きっと鱗滝が拵えてくれたのだろう。
鬼の首を切ることが鬼殺隊の大前提。匿うことなんて言語道断。
ティアはなんかしなければと、身を起こすのだが、片足の筋肉は分断されてせっかく手当てしてもらった場所からは血が滲む。正一が無理するなと押し留めてきた。
一触即発の状況下、善逸は刀を抜くことなく、無防備な状態で相手に対峙し続ける。
「俺が、直接炭治郎に話を聞く! だからお前は、引っ込んでろ!」
善逸は、炭治郎の事情を一切知らないのだ。
恐らくはその優れた聴覚で、炭治郎が鬼を連れていて、炭治郎の人となりを汲んで、信じようと思ってくれた。
身内を鬼に殺されたり、脅かされたり──そういった過去を一切持たない我妻善逸にとって、鬼は憎悪の対象ではない。恐怖、または──悲しい存在だとわかっている。
おそらく彼はティアの扱うような現象の方が身近だっただろう。考え方が柔軟過ぎた。
猪頭の少年が刀を振り上げた時、ティアは両手を地面に叩きつけた。すぐそばにいたはずの子供が、ひっと息を飲むのを知覚する。
善逸に迫っていた強靭は、高速で滑空してきたカラスによって阻まれた。弾き飛んだのは刀の方で、カラスの方は体勢を少し崩した程度でまた空へ舞い上がっていく。
驚いた顔の善逸が、ティアに礼を寄越した──鋼色の髪をした相手を見れば、何をしたのか連想してくれたのだろう。
「なんだ、あの鳥──すげえ固えぞ!」
「ティアが岩の特性を一瞬与えてくれたんだよ! うちの姉弟子なめんなよ!」
けれど、善逸の目は責めるようなものだった。これ以上無茶をしてくれるなと訴えてくる。
猪頭の少年は、悔しそうに雄叫びをあげたと思ったら、善逸のことを殴ったり蹴ったりし始めた。箱を庇うよう善逸はされるがままだ。
隊員同士の敵対は御法度──きちんと、それを守っている。
「善逸さん……善逸さんが、どうしようティアさん!」
異様な光景に、正一がついに泣き出してしまう。刀をぬけばいいのだ。けれども、相手は鬼ではない。正一も刀と刀の戦いがどんなに危険なものかわかっているから、どうしていいかわからなくなったのだ。
無茶をしたせいで、ティア自身も身動きが取れなくなった。体をこうして起こしていることしか出来ない。善逸自身に岩の特性を付与することもできるが、その後の跳ねっ返りはどんなものになるかわからない。
ただでさえ善逸には釘を刺された。相手の心を無視したら──。「炭治郎……俺、守ったよ──」
譫言のような声に、ティアが真っ青になった顔を上げると、屋敷の玄関に炭治郎と清たちがいた。驚愕の表情で固まっている。
その後は、炭治郎が止めに入って──骨の折れる音やら、骨の折れる音やら、頭蓋骨が凄い音を立てたりとか──見ていて開いた口が塞がらないような光景が続き。
「炭治郎くんのいうように、脳震盪ですね。二人の羽織、貸していただいてもいいですか?」
炭治郎の頭突きを食らった猪頭の少年、伊之助が目を回して倒れた後。
頭を高くして、彼の体に羽織をかけて──善逸の手当てをして、炭治郎の具合を診る。
清の手当ては炭治郎がしてくれていたので、問題なさそうだ。
「一緒に攫われた女の人って、やっぱりティアのことだったんだな」
「匂いで分かりましたか?」
うん、と頷いた炭治郎は、改まった様子で姿勢を出した。