第2章 逃れもののオニ。(全19話)
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第12話 肉を食った末路。
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「──清くん、よく聞いてください」
ティアは、同じく善逸の声を聞いて戸惑っている清の両肩を掴む。
「私はこれから、この部屋を出ます。君が狙われる原因は血の匂いです。わたしも、同じような体質ですから、廊下に出て鬼を誘い出します」
「そんな事したら!」
この部屋の中──鼓のある場所──にいる限り、鼓を打てば他の部屋同士が出鱈目に入れ替わる事はこの数時間で把握していた。
清は自殺行為に走ろうとするティアの袖を掴む。
けれど、彼が心配するほどティアには身の危険はない。痛い思いはするが、鬼はそれ以上の苦痛を味わうからだ。
死ぬ事はない。
「これでも彼らとはよくかち合ってますので。鬼を倒せる方々が邸に入って来ました。私もあなたも助かります。他の方も救えるかもしれない機会を私は逃せません」
あえて断定的な言い方をして、清を安心させる。もう屋敷内からは生きている人の気配は少ないのだけど、弟と妹を気にかけることのできる清ならば、屋敷に連れ込まれた他の人たちも気にかけられるだろう。
怯えた様子でありながら、ティアを掴んでいた手を解いてくれる。
いくつか注意をした後、ティアは廊下に飛び出した。幸い鬼は近くには居ないようで、暗い廊下が続く。
締め切られていた雨戸を開けると、太陽の日が眩しかった。見下ろした先に、厨子のようなものが置いてある。異様な存在感だ。
誰かの持ち物だろうか。二階の雨戸を開け放ちながら考えていたティアは、日の差し込まない場所に潜んでこちらを伺っている子供の鬼に気づいた。
階下に降りるためには、小鬼のいる方にいかねばならない。
「一応お願いしておきますが──強く噛みすぎない方がいいですよ」
食中毒で済みたいならば。あまり痛くしないでほしい。
これから受け入れなければならない痛みを覚悟して、ティアは暗がりに足を踏み出した。
途端に小鬼はティアに飛びかかってきて、前転でそれを避けながら階下に降りる階段に飛び降りる。数段抜かしで階下に降りたところで、背に飛びかかられてそのまま転倒──足を噛まれた。
激痛に悲鳴を噛み殺せば、前方からドタドタという勢いある足音が迫ってくる。小鬼が素早くティアから離れたのと、影がティアを跨いだのがほぼ同時。
「猪突猛進! 猪突猛進! アッハハハハ──ああ?」
元気のいい男の子だ。噛みつかれて抉り取られたろう足肉の痛みに耐えながら、ティアは顔を上げて背後を振り返る。
誰かの足の向こうに見える小鬼は、困惑した様子を見せ、そのままもがき苦しむような苦痛を見せた後──崩壊した。
骨だけ溶けてしまったかのようにその場に潰れた鬼は、身動きを取ろうにもとれず、軟体類のような動きで苦しんでいる。ティアを、食ったからだ。
「なんだ、こいつ。気持ち悪いな」
「角、を、折ってください。それで、倒せますので」
ティアの肉を食った鬼は、必ず角を見せる。首の判別がつかなくなる一方で、骨とは成り立ちが違うのか、その角を折って仕舞えば首を切ったのと同じこと。
ぐったりしながら伝えた言葉は届いたようで、小気味いい音が響いたと思ったら、鬼の苦しそうな声も消えた。目の前の脅威は去ったらしい。
と、同時にティアを跨いでいた男の子も消えてしまった。元気のいい子である。
弱い鬼ならば、肉を喰らった鬼の骨が溶けたり──足止めはできる。まだ遭遇した事はないが強い鬼相手だとどんな結果になるのか不明だ。もとより異形の鬼にどこまでこの体質が通じるかのか、試した事はない。
鼓の音が何度かした後──雷のような音の後に善逸の声が響いてきた。
「ありがとう、助かったよ! この恩は一生忘れないよ! こんなに強いなら最初に言っといてよー!」
また、こじらせている……。ティアは思わず笑ってしまった。
途端に、足音がこちらに二つ、真っ直ぐ近づいてくる。
「ティア! やっぱり、ティアの音 だった!」
「お姉さん!」
笑い声で気づいてくれたらしい。善逸は真っ青になってティアを助け起こしてくれた。
清の弟、正一も、手伝ってくれて──足に食いちぎられたような傷があることに気付いて、息を飲む。
「清くんは、大丈夫ですよ。あの時の怪我だけですからっ」
「囮になったのか? そういうことは辞めろって、俺も爺ちゃんも言ったよな!」
怒りながら泣いている善逸が、ティアの足の手当てをしてくれた。正一も包帯を巻いてくれる。
二人のおかげで痛みも引いているから何にも問題がないのに。その真心がとても心地よかった。
「正一くん、俺たちはとにかく外に出よう! 清くん? たちと遭遇できたなら抱えてとにかく外に出るよ!」
せっせとティアをおぶった善逸に、正一も素直に頷いて屋敷内部をめぐり出した。開けられる戸は全て開け放っていくが、外に通じる道がない。
それを見て、ティアはあれ?と思う。二階では、雨戸は雨戸だった。戸を開けたら別の空間なんて──。
「善逸くん、私に開けさせてもらっていいですか?」
事情を話したら、さすがティアだよおおと喜んでくれた。
庭に出られそうな戸に手を伸ばしたのだが──ひょこっと、別の鬼が顔を覗かせて存在を主張してくれた為、反射的に二人が逃げ出してしまいお預けとなり。
手当たり次第に開けまくった先に飛び出したところ──二階から外に放り投げられる結果に。
ティアのことは風が拾ってくれたから問題なかったが、同じように放り出された正一を庇って善逸が頭から落ちた。
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「──清くん、よく聞いてください」
ティアは、同じく善逸の声を聞いて戸惑っている清の両肩を掴む。
「私はこれから、この部屋を出ます。君が狙われる原因は血の匂いです。わたしも、同じような体質ですから、廊下に出て鬼を誘い出します」
「そんな事したら!」
この部屋の中──鼓のある場所──にいる限り、鼓を打てば他の部屋同士が出鱈目に入れ替わる事はこの数時間で把握していた。
清は自殺行為に走ろうとするティアの袖を掴む。
けれど、彼が心配するほどティアには身の危険はない。痛い思いはするが、鬼はそれ以上の苦痛を味わうからだ。
死ぬ事はない。
「これでも彼らとはよくかち合ってますので。鬼を倒せる方々が邸に入って来ました。私もあなたも助かります。他の方も救えるかもしれない機会を私は逃せません」
あえて断定的な言い方をして、清を安心させる。もう屋敷内からは生きている人の気配は少ないのだけど、弟と妹を気にかけることのできる清ならば、屋敷に連れ込まれた他の人たちも気にかけられるだろう。
怯えた様子でありながら、ティアを掴んでいた手を解いてくれる。
いくつか注意をした後、ティアは廊下に飛び出した。幸い鬼は近くには居ないようで、暗い廊下が続く。
締め切られていた雨戸を開けると、太陽の日が眩しかった。見下ろした先に、厨子のようなものが置いてある。異様な存在感だ。
誰かの持ち物だろうか。二階の雨戸を開け放ちながら考えていたティアは、日の差し込まない場所に潜んでこちらを伺っている子供の鬼に気づいた。
階下に降りるためには、小鬼のいる方にいかねばならない。
「一応お願いしておきますが──強く噛みすぎない方がいいですよ」
食中毒で済みたいならば。あまり痛くしないでほしい。
これから受け入れなければならない痛みを覚悟して、ティアは暗がりに足を踏み出した。
途端に小鬼はティアに飛びかかってきて、前転でそれを避けながら階下に降りる階段に飛び降りる。数段抜かしで階下に降りたところで、背に飛びかかられてそのまま転倒──足を噛まれた。
激痛に悲鳴を噛み殺せば、前方からドタドタという勢いある足音が迫ってくる。小鬼が素早くティアから離れたのと、影がティアを跨いだのがほぼ同時。
「猪突猛進! 猪突猛進! アッハハハハ──ああ?」
元気のいい男の子だ。噛みつかれて抉り取られたろう足肉の痛みに耐えながら、ティアは顔を上げて背後を振り返る。
誰かの足の向こうに見える小鬼は、困惑した様子を見せ、そのままもがき苦しむような苦痛を見せた後──崩壊した。
骨だけ溶けてしまったかのようにその場に潰れた鬼は、身動きを取ろうにもとれず、軟体類のような動きで苦しんでいる。ティアを、食ったからだ。
「なんだ、こいつ。気持ち悪いな」
「角、を、折ってください。それで、倒せますので」
ティアの肉を食った鬼は、必ず角を見せる。首の判別がつかなくなる一方で、骨とは成り立ちが違うのか、その角を折って仕舞えば首を切ったのと同じこと。
ぐったりしながら伝えた言葉は届いたようで、小気味いい音が響いたと思ったら、鬼の苦しそうな声も消えた。目の前の脅威は去ったらしい。
と、同時にティアを跨いでいた男の子も消えてしまった。元気のいい子である。
弱い鬼ならば、肉を喰らった鬼の骨が溶けたり──足止めはできる。まだ遭遇した事はないが強い鬼相手だとどんな結果になるのか不明だ。もとより異形の鬼にどこまでこの体質が通じるかのか、試した事はない。
鼓の音が何度かした後──雷のような音の後に善逸の声が響いてきた。
「ありがとう、助かったよ! この恩は一生忘れないよ! こんなに強いなら最初に言っといてよー!」
また、こじらせている……。ティアは思わず笑ってしまった。
途端に、足音がこちらに二つ、真っ直ぐ近づいてくる。
「ティア! やっぱり、ティアの
「お姉さん!」
笑い声で気づいてくれたらしい。善逸は真っ青になってティアを助け起こしてくれた。
清の弟、正一も、手伝ってくれて──足に食いちぎられたような傷があることに気付いて、息を飲む。
「清くんは、大丈夫ですよ。あの時の怪我だけですからっ」
「囮になったのか? そういうことは辞めろって、俺も爺ちゃんも言ったよな!」
怒りながら泣いている善逸が、ティアの足の手当てをしてくれた。正一も包帯を巻いてくれる。
二人のおかげで痛みも引いているから何にも問題がないのに。その真心がとても心地よかった。
「正一くん、俺たちはとにかく外に出よう! 清くん? たちと遭遇できたなら抱えてとにかく外に出るよ!」
せっせとティアをおぶった善逸に、正一も素直に頷いて屋敷内部をめぐり出した。開けられる戸は全て開け放っていくが、外に通じる道がない。
それを見て、ティアはあれ?と思う。二階では、雨戸は雨戸だった。戸を開けたら別の空間なんて──。
「善逸くん、私に開けさせてもらっていいですか?」
事情を話したら、さすがティアだよおおと喜んでくれた。
庭に出られそうな戸に手を伸ばしたのだが──ひょこっと、別の鬼が顔を覗かせて存在を主張してくれた為、反射的に二人が逃げ出してしまいお預けとなり。
手当たり次第に開けまくった先に飛び出したところ──二階から外に放り投げられる結果に。
ティアのことは風が拾ってくれたから問題なかったが、同じように放り出された正一を庇って善逸が頭から落ちた。