第2章 逃れもののオニ。(全19話)
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第11話 鼓の音。
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普段ならば獣たちに頼ってしまうところだが、彼らもこの辺りの状況を把握していた。鬼に食われたらひとたまりもないし、ティアだって彼らを犠牲にすることになったら嫌だ。
その時、頭上を滑空して来た梟が囁く──近くに、人の子がいる。
ティアは荷物を木陰に置いた。すぐにその荷物に虫がたかって隠してくれる。梟を追って道を少し戻り、けもの道を降って──低い位置を照らしている提灯を見つけた。
小さく梟に礼を言って、怖がらせないように手を振りながら存在を示せば、三人の子どもたちが、きょとん、とした顔で足を止めて。
「ちょっとお使いを頼まれて、用事が長引いてしまったんです」
「お家まで道をまっすぐ行けばいいだけだから、迷ってるわけじゃないですよ」
一番背の高い男の子と、すぐ後ろで女の子と手を握っている男の子が朗らかに笑いながら応えてくれた。兄妹だろうか。
それでも、安心できる状況ではない。
「そうなんだね。で……っでも、ここ最近、この辺り変な噂あるみたいだし、早くお家に帰ろう?」
変な噂といえば、と呑気に子供たちが指折りながらあげたのは、隣の集落の若者が駆け落ちした、出稼ぎに行った友達の父親の帰りが予定より遅れている──など。
それ食べられちゃってるんじゃあ、なんて言ったら彼らは怖がるだろうか、呆れるだろうか。
ティアはどう危険を伝えるべきか分からず、三人をなんとか急かしたいと思い──だが、強烈な欲望が迫ってくるのを察知して、慌てて子どもたちを突き飛ばす。
強く首を掴まれて、くぐもった声が漏れた。加えて血の匂い、どこか怪我したようだ。
木々が騒いで、子どもたちの悲鳴をかき消す。今更恐怖に硬直している子どもの一人に、もう一方の鬼の手が伸びた。
「清兄ちゃん!」
「稀血だ……稀血──お前もだったのか」
くん、と鼻を鳴らす音。相手の意識はティアに向いていなかったのに、ハッとしたように興味を示される。
けれど、返事や抵抗をする間もなく、突然男の子共々横抱きにされた。そのまま凄まじい勢いで鬼が走り出すものだから、舌を噛まないようにぐっと堪えることに専念せざるを得なくなる。
だが──ティアは、鬼にとって莫大な養分を含むとされる稀血を持ってはなかった。
稀血と錯覚されやすい血の匂いと味をしているらしく、普段はなんともないが怪我をするとよく鬼に狙われた。
とは言っても、鱗滝たちと出会った時と、時々彼らの任務にどうしても着いていかなければならない時などの積み重ねでわかったことだが。
けれど、共に捕らえられた男の子の方は本当に稀血であるらしい。
他の二人の子供には一切手を出すことなく、その場を後にした鬼の行動には少々驚かされたが。
なんとか、男の子を食べる前に自分に食らいついてくれればいい。
ティアを食べようとした鬼たちは決まって酷い食中毒を起こす。なんの要素がそうさせるのかは不明だが、定期的にこの血を鬼殺隊の研究先に提供していた。
どん、と地を大きく蹴った鬼が、どこかの屋敷の二階へ飛び込む。
重圧からくる吐き気に耐えながら、ティアは着地の振動を利用して、鬼の腕からすり抜け男の子を抱えたまま距離をとった。
派遣されると言う鬼殺隊員たちは、いつ来るだろうか。今来てくれたらどんなに助かるか。
「うわあああああぁぁぁっ⁈」
背中にかばっていた男の子が悲鳴をあげたから、何事かと振り返ると、少し離れたところに食い散らかされた男女の死体があった。
同じように悲鳴をあげながら、男の子を引っ張って後退。ひしっと抱き合った頃、なにやら目の前で増えた鬼たちによる喧嘩が始まった。
稀血の匂いに誘われて、周辺の鬼が集まったのだろう。こんなにいたのか。獣たちが寄り付かないのもわかる。
ポン、と鼓の音がしたと思ったら、隣の部屋がぐるっと回転した。二間続きで別の部屋にいたティアたちは巻き込まれなかったが、鬼たちが倒れたり転んだりしているのを見てびっくりする。
その後も、縦に横に回転していくから──こちらの部屋までそんなことになったらひとたまりもないと思い至る。
ティアは、慌てて男の子の怪我の容体を見た。後遺症などが出るような傷ではないのを確認して、手早く手当てをする。
けれど、足を負傷しているから子ども一人で逃げ出すのは難しいか。介助の必要があるかもしれない。
薬は殆ど置いてきてしまったし、今出来るのは出血を止める程度。
そのうち、体から鼓をいくつか生やした鬼から、楽器が一つが落ちた。
ころころとこちらまで転がってきて、男の子が縋るように手を伸ばし、ポンとそれを打つと、鬼たちが消えてしまう。
しん、と静まり返る室内。隣の部屋の様相がごそっと変わっている。別の部屋のようだ。
まるで空間転移でもしたかのよう。魔法陣とかそういうのなしに、血鬼術とはそんなことも可能なのか、とティアはびっくりした。
それから、あちこちから悲鳴が時々聞こえて来て──自分たち以外にも人がいるのだろう。
けれども、助けようにも遭遇できなくてどうしようもなかった。清は稀血で鬼は間違いなく彼を目掛けて寄ってくる。一人にしては置けない。
「正一とてる子、大丈夫かな……襲いに戻ったりとか……っ」
「大丈夫です、二人はここにいませんから……」
時間が経つにつれて、清は、自分が逃げたことで標的が弟妹に向いていないか、とても不安そうにしていた。
それを否定しながら、ティアは冷や汗を拭う。日が指し始めた頃、近くに二人が来てしまったのだ。この屋敷の外。既に日は登って、今のところ彼らに脅威はないけれど。
このまま夜になれば、危険だ。
「えええーーーッ! 何折ってるんだよ骨! 折るんじゃないよ骨! 折れてる炭治郎じゃ俺を守りきれないぜ!」
途端に響き渡る懐かしい叫び声に、ティアは思わず飛び上がった。
善逸だ。それに、炭治郎もいるようだ。
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普段ならば獣たちに頼ってしまうところだが、彼らもこの辺りの状況を把握していた。鬼に食われたらひとたまりもないし、ティアだって彼らを犠牲にすることになったら嫌だ。
その時、頭上を滑空して来た梟が囁く──近くに、人の子がいる。
ティアは荷物を木陰に置いた。すぐにその荷物に虫がたかって隠してくれる。梟を追って道を少し戻り、けもの道を降って──低い位置を照らしている提灯を見つけた。
小さく梟に礼を言って、怖がらせないように手を振りながら存在を示せば、三人の子どもたちが、きょとん、とした顔で足を止めて。
「ちょっとお使いを頼まれて、用事が長引いてしまったんです」
「お家まで道をまっすぐ行けばいいだけだから、迷ってるわけじゃないですよ」
一番背の高い男の子と、すぐ後ろで女の子と手を握っている男の子が朗らかに笑いながら応えてくれた。兄妹だろうか。
それでも、安心できる状況ではない。
「そうなんだね。で……っでも、ここ最近、この辺り変な噂あるみたいだし、早くお家に帰ろう?」
変な噂といえば、と呑気に子供たちが指折りながらあげたのは、隣の集落の若者が駆け落ちした、出稼ぎに行った友達の父親の帰りが予定より遅れている──など。
それ食べられちゃってるんじゃあ、なんて言ったら彼らは怖がるだろうか、呆れるだろうか。
ティアはどう危険を伝えるべきか分からず、三人をなんとか急かしたいと思い──だが、強烈な欲望が迫ってくるのを察知して、慌てて子どもたちを突き飛ばす。
強く首を掴まれて、くぐもった声が漏れた。加えて血の匂い、どこか怪我したようだ。
木々が騒いで、子どもたちの悲鳴をかき消す。今更恐怖に硬直している子どもの一人に、もう一方の鬼の手が伸びた。
「清兄ちゃん!」
「稀血だ……稀血──お前もだったのか」
くん、と鼻を鳴らす音。相手の意識はティアに向いていなかったのに、ハッとしたように興味を示される。
けれど、返事や抵抗をする間もなく、突然男の子共々横抱きにされた。そのまま凄まじい勢いで鬼が走り出すものだから、舌を噛まないようにぐっと堪えることに専念せざるを得なくなる。
だが──ティアは、鬼にとって莫大な養分を含むとされる稀血を持ってはなかった。
稀血と錯覚されやすい血の匂いと味をしているらしく、普段はなんともないが怪我をするとよく鬼に狙われた。
とは言っても、鱗滝たちと出会った時と、時々彼らの任務にどうしても着いていかなければならない時などの積み重ねでわかったことだが。
けれど、共に捕らえられた男の子の方は本当に稀血であるらしい。
他の二人の子供には一切手を出すことなく、その場を後にした鬼の行動には少々驚かされたが。
なんとか、男の子を食べる前に自分に食らいついてくれればいい。
ティアを食べようとした鬼たちは決まって酷い食中毒を起こす。なんの要素がそうさせるのかは不明だが、定期的にこの血を鬼殺隊の研究先に提供していた。
どん、と地を大きく蹴った鬼が、どこかの屋敷の二階へ飛び込む。
重圧からくる吐き気に耐えながら、ティアは着地の振動を利用して、鬼の腕からすり抜け男の子を抱えたまま距離をとった。
派遣されると言う鬼殺隊員たちは、いつ来るだろうか。今来てくれたらどんなに助かるか。
「うわあああああぁぁぁっ⁈」
背中にかばっていた男の子が悲鳴をあげたから、何事かと振り返ると、少し離れたところに食い散らかされた男女の死体があった。
同じように悲鳴をあげながら、男の子を引っ張って後退。ひしっと抱き合った頃、なにやら目の前で増えた鬼たちによる喧嘩が始まった。
稀血の匂いに誘われて、周辺の鬼が集まったのだろう。こんなにいたのか。獣たちが寄り付かないのもわかる。
ポン、と鼓の音がしたと思ったら、隣の部屋がぐるっと回転した。二間続きで別の部屋にいたティアたちは巻き込まれなかったが、鬼たちが倒れたり転んだりしているのを見てびっくりする。
その後も、縦に横に回転していくから──こちらの部屋までそんなことになったらひとたまりもないと思い至る。
ティアは、慌てて男の子の怪我の容体を見た。後遺症などが出るような傷ではないのを確認して、手早く手当てをする。
けれど、足を負傷しているから子ども一人で逃げ出すのは難しいか。介助の必要があるかもしれない。
薬は殆ど置いてきてしまったし、今出来るのは出血を止める程度。
そのうち、体から鼓をいくつか生やした鬼から、楽器が一つが落ちた。
ころころとこちらまで転がってきて、男の子が縋るように手を伸ばし、ポンとそれを打つと、鬼たちが消えてしまう。
しん、と静まり返る室内。隣の部屋の様相がごそっと変わっている。別の部屋のようだ。
まるで空間転移でもしたかのよう。魔法陣とかそういうのなしに、血鬼術とはそんなことも可能なのか、とティアはびっくりした。
それから、あちこちから悲鳴が時々聞こえて来て──自分たち以外にも人がいるのだろう。
けれども、助けようにも遭遇できなくてどうしようもなかった。清は稀血で鬼は間違いなく彼を目掛けて寄ってくる。一人にしては置けない。
「正一とてる子、大丈夫かな……襲いに戻ったりとか……っ」
「大丈夫です、二人はここにいませんから……」
時間が経つにつれて、清は、自分が逃げたことで標的が弟妹に向いていないか、とても不安そうにしていた。
それを否定しながら、ティアは冷や汗を拭う。日が指し始めた頃、近くに二人が来てしまったのだ。この屋敷の外。既に日は登って、今のところ彼らに脅威はないけれど。
このまま夜になれば、危険だ。
「えええーーーッ! 何折ってるんだよ骨! 折るんじゃないよ骨! 折れてる炭治郎じゃ俺を守りきれないぜ!」
途端に響き渡る懐かしい叫び声に、ティアは思わず飛び上がった。
善逸だ。それに、炭治郎もいるようだ。