第2章 逃れもののオニ。(全19話)
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第9話 別離。
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「だから、さっき血を吐いたのか」
「肺が破裂したからな。普通は衝撃でほぼ即死なんだろうけどさ」
ラシードは半分鬼だから、死ねない分本来は感じないでぽっくり逝けるはずの苦痛を味わう。
寿命が尽きるまで、死ぬ時の痛みを味わい続けなければならない。
炭治郎は難しい顔で黙りこくってしまった。もしかすると、禰豆子もそうなのではないかと察知したのかもしれない。
このままだと、少なくとも彼女だって死ぬことのできない苦痛を味わい続けてしまう──首を切り落とされるまで。太陽の光を、浴びるまで。
「禰豆子さんは、私たちがお預かりしましょうか?」
しばし身を隠すことを明かした珠世たちが、鬼を連れて鬼を狩り続けることへの限界を見越して名乗り出た。
炭治郎に鬼殺隊の隊律の説明してたっけ──ラシードは今更ながらにそんなことを考えながら、逡巡する兄の手を迷いなく握った妹の姿を見守る。
まあ、二人が理不尽な扱いをされることがないようにしてやろう、とは思っているのだが、それまで寿命が持つか少々不安だ。
日本に戻ってくる前は安静にしていたが、それでも数年費やしてしまったし。戻ってきてから昔馴染みの鬼にたまたま遭遇して結構寿命を持っていかれたし。
「俺たちは一緒に行きます。離れ離れにはなりません──ただ、ラシードを連れて行って貰えませんか」
「は?」
きりっとした顔で言い切る炭治郎に、ラシードは思わず声を漏らした。
あれれ、俺の方が炭治郎より今のところは強いし、兄弟子的な立場だったはずなのになんだろう。手のかかる問題児の手綱を握ってやれと言わんばかりの提案。
おかしくない?
「ちょ、や、俺が突然姿くらましたら任務とかヤバくない?」
「まだ来ていないんだからいいじゃないか! その分俺が頑張る!」
任務なんて来ないけどね──なんて頭の片隅で思いながら、提案を破棄すべく言葉を連ねようとしたのだが、数日前に自分で言った言葉を返されてしまい初っ端から挫かれる。
くわっと言い切って先輩を黙らせた炭治郎に、珠世がすごく綺麗な笑顔で手を叩いて。
「わかりました。ではこの子は私が責任を持ってお世話しましょう。あなた方の武運長久を祈ります」
「あれえ、私の意思は?」
「あなたの血も調べたいのよ。これまでの研究の成果で、少しは役に立てることもあるかもしれないし、少し付き合って頂戴」
しどろもどろで訴えると、心底心配してくれているのか、切実な匂いしかしない。これを無碍にするのは男が廃る。
不思議なことに、愈史郎は微妙な顔はしているが、嫌そうな匂いはさせなかった。
思いがけずこの場で別れることになった炭治郎の治療を簡単にして、禰豆子の箱を届けてやる。
箱に入る前に、禰豆子はラシードにひしっと抱きついてきた。
「今の禰豆子には、ラシードのこと誰に見えてるんだろうな」
炭治郎が立ち上がって、手当てされた骨の折れた箇所の具合を確かめている。早めにちゃんとした治療をすべきだろうが、最悪このまま任務が続いても変なふうに治癒しないようには固定したつもりだが。
「珠世たちが落ち着いたら、追いつくようにするからな」
「いや、ダメだ! ラシードは、もう少し自分のことを大事にしろ!」
よく言われます。
けれど、ラシードにだって事情があるのだ。記憶を引き継いで次に生まれた時、どれ程死ぬ間際の出来事の、その結果がどうなったのか、気になって仕方がない。
仲間たちはどうなったのか。
誰か生き延びてくれただろうか。
痛みで苦しんでいないだろうか。
後悔の記憶から始まる生は、ひどい苦痛だ。
だからラシードは、死に際を選ぶようにしてきた。少しの時も無駄にしないために。
「俺は俺が一番大事だからな。今回はお前の決断に従ってやるけど、元来俺は約束や信頼を破れる男だ、とだけ言っておく」
見送る背中に投げると、炭治郎はきょとん、とした後に満面の笑みを浮かべて手を振って。
「でも、裏切ることは出来ない人だ、と付け加えさせてもらう!」
水の呼吸の使い手はみんなこんな感じだ。
口下手で、真っ直ぐで、素直だ。
一番、ラシードは覚えるのに時間がかかった型でもある。
「ボサッとしてないでお前も手伝え、居候」
「なあ。どこか逃れる場所に宛はあるのか?」
屋敷中を回って、一先ず日差しが入らないようにして周り、珠世たちが支度をしやすいようにしてから地下へ降りる。
問われた珠世が、少し返答に詰まった。あるにはあるのだろうが、突然実行するには難しい、という不安があるのだろう。
それを匂いで察知したラシードは、にやりと笑った。
「それなら、俺の屋敷に来いよ。隠蓑に打ってつけだし、ここから近いし、荷物運ぶの仲間が手伝ってくれるからさ」
「こやのお屋敷? 仲間?」
不思議そうな珠世と、胡散臭そうな視線を向けてくる愈史郎。
先日帰った時に自分の身の振り方について話しておいたから、身を隠す程度ならばさして問題にもならないだろう。
ラシードは懐に手を入れて、南京錠の鍵のようなものを取り出した。
「さ、招待しましょう──ようこそ、我が城へ」
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「だから、さっき血を吐いたのか」
「肺が破裂したからな。普通は衝撃でほぼ即死なんだろうけどさ」
ラシードは半分鬼だから、死ねない分本来は感じないでぽっくり逝けるはずの苦痛を味わう。
寿命が尽きるまで、死ぬ時の痛みを味わい続けなければならない。
炭治郎は難しい顔で黙りこくってしまった。もしかすると、禰豆子もそうなのではないかと察知したのかもしれない。
このままだと、少なくとも彼女だって死ぬことのできない苦痛を味わい続けてしまう──首を切り落とされるまで。太陽の光を、浴びるまで。
「禰豆子さんは、私たちがお預かりしましょうか?」
しばし身を隠すことを明かした珠世たちが、鬼を連れて鬼を狩り続けることへの限界を見越して名乗り出た。
炭治郎に鬼殺隊の隊律の説明してたっけ──ラシードは今更ながらにそんなことを考えながら、逡巡する兄の手を迷いなく握った妹の姿を見守る。
まあ、二人が理不尽な扱いをされることがないようにしてやろう、とは思っているのだが、それまで寿命が持つか少々不安だ。
日本に戻ってくる前は安静にしていたが、それでも数年費やしてしまったし。戻ってきてから昔馴染みの鬼にたまたま遭遇して結構寿命を持っていかれたし。
「俺たちは一緒に行きます。離れ離れにはなりません──ただ、ラシードを連れて行って貰えませんか」
「は?」
きりっとした顔で言い切る炭治郎に、ラシードは思わず声を漏らした。
あれれ、俺の方が炭治郎より今のところは強いし、兄弟子的な立場だったはずなのになんだろう。手のかかる問題児の手綱を握ってやれと言わんばかりの提案。
おかしくない?
「ちょ、や、俺が突然姿くらましたら任務とかヤバくない?」
「まだ来ていないんだからいいじゃないか! その分俺が頑張る!」
任務なんて来ないけどね──なんて頭の片隅で思いながら、提案を破棄すべく言葉を連ねようとしたのだが、数日前に自分で言った言葉を返されてしまい初っ端から挫かれる。
くわっと言い切って先輩を黙らせた炭治郎に、珠世がすごく綺麗な笑顔で手を叩いて。
「わかりました。ではこの子は私が責任を持ってお世話しましょう。あなた方の武運長久を祈ります」
「あれえ、私の意思は?」
「あなたの血も調べたいのよ。これまでの研究の成果で、少しは役に立てることもあるかもしれないし、少し付き合って頂戴」
しどろもどろで訴えると、心底心配してくれているのか、切実な匂いしかしない。これを無碍にするのは男が廃る。
不思議なことに、愈史郎は微妙な顔はしているが、嫌そうな匂いはさせなかった。
思いがけずこの場で別れることになった炭治郎の治療を簡単にして、禰豆子の箱を届けてやる。
箱に入る前に、禰豆子はラシードにひしっと抱きついてきた。
「今の禰豆子には、ラシードのこと誰に見えてるんだろうな」
炭治郎が立ち上がって、手当てされた骨の折れた箇所の具合を確かめている。早めにちゃんとした治療をすべきだろうが、最悪このまま任務が続いても変なふうに治癒しないようには固定したつもりだが。
「珠世たちが落ち着いたら、追いつくようにするからな」
「いや、ダメだ! ラシードは、もう少し自分のことを大事にしろ!」
よく言われます。
けれど、ラシードにだって事情があるのだ。記憶を引き継いで次に生まれた時、どれ程死ぬ間際の出来事の、その結果がどうなったのか、気になって仕方がない。
仲間たちはどうなったのか。
誰か生き延びてくれただろうか。
痛みで苦しんでいないだろうか。
後悔の記憶から始まる生は、ひどい苦痛だ。
だからラシードは、死に際を選ぶようにしてきた。少しの時も無駄にしないために。
「俺は俺が一番大事だからな。今回はお前の決断に従ってやるけど、元来俺は約束や信頼を破れる男だ、とだけ言っておく」
見送る背中に投げると、炭治郎はきょとん、とした後に満面の笑みを浮かべて手を振って。
「でも、裏切ることは出来ない人だ、と付け加えさせてもらう!」
水の呼吸の使い手はみんなこんな感じだ。
口下手で、真っ直ぐで、素直だ。
一番、ラシードは覚えるのに時間がかかった型でもある。
「ボサッとしてないでお前も手伝え、居候」
「なあ。どこか逃れる場所に宛はあるのか?」
屋敷中を回って、一先ず日差しが入らないようにして周り、珠世たちが支度をしやすいようにしてから地下へ降りる。
問われた珠世が、少し返答に詰まった。あるにはあるのだろうが、突然実行するには難しい、という不安があるのだろう。
それを匂いで察知したラシードは、にやりと笑った。
「それなら、俺の屋敷に来いよ。隠蓑に打ってつけだし、ここから近いし、荷物運ぶの仲間が手伝ってくれるからさ」
「こやのお屋敷? 仲間?」
不思議そうな珠世と、胡散臭そうな視線を向けてくる愈史郎。
先日帰った時に自分の身の振り方について話しておいたから、身を隠す程度ならばさして問題にもならないだろう。
ラシードは懐に手を入れて、南京錠の鍵のようなものを取り出した。
「さ、招待しましょう──ようこそ、我が城へ」