第2章 逃れもののオニ。(全19話)
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第8話 なり損ない。
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「たま、禰豆子見てあげて。後は、自分でなんとかする」
「……わかった。愈史郎、もう少しの間だけ、こやをお願い」
口調がこやになってて自分キモい。
頭の片隅でそんなことを考えながら、ラシードは自身の腕を抱え込みつつ痛みに耐える。
「珠世様の願いだからもう少しついててやるが、いいか! 俺は五分もしたら珠世様のところへ行くからな!」
「お気遣いどうも。でも意識逸らしたいからすぐ行って。こっちに攻撃来させないで」
ぐったりしながら言うと、気配が無くなった。逡巡もせずにここを離れていきましたよ愈史郎のやつ。
まあ、その方が助かるけど。
炭治郎は、気づいていて知らないふりでもしているのだろうか。
──起き上がり、離れていた腕がきちんとくっついて、動くのを確認する。
「ああ、痛かった。あの鬼たち容赦ないな、ほんとヤダ」
涙を袖で拭いて、吐血した口元も拭って、よいしょと立ち上がる。
鬼の特性は、鬼殺の剣士として生きていた昔の自分が、ある時相打ち覚悟で無惨を押さえて一緒に仲間に斬り殺された時に手に入れた。
まあ、基本的には人間そのものなのだけど。
生まれてみたら鬼の特性を持っていたものだから当時は大変たまげたものだ。その異能を使う分、ただでさえ短い寿命が減るのが難点だ。
此度も痛みに負けてくっつけてしまった。腕を失ったところは炭治郎にしっかり見られてしまったし、どうやって誤魔化そう。記憶のことも含めてきれいさっぱり話しちゃう?
「十二鬼月のお嬢さん。貴女は鬼舞辻の正体をご存知ですか」
悩んでいる間に、珠世が畳み掛けに入ったようだ。
ラシードは邪魔にならないようにちょろちょろと壁にくっつきながら移動して、這いつくばりながらも刀を咥え前に進もうとしていた炭治郎に駆け寄った。
彼が受け持っていた面倒な術を使う鬼は倒せた様だが、どこか骨をやられていそうだ。変わってあげられればいいのだが、痛いのは嫌だなぁ。
炭治郎を抱えあげてやると、その視線がくっつけたばかりの腕に向けられた。まあ、普通にそういう反応になりますよねぇ。
珠世は血気術を使っているようだから、炭治郎はこれ以上先には行かせない方がよさそうだ──自分には影響あるかわからないのだけど。
「ギャアアアッお許し下さい、お許し下さい、どうかっ‼︎」
無惨の名前を思わず口にしてしまい、許しを請いながら逃げ惑う鬼の体内から、腕が幾重も飛び出した。そして、そのうちの一つが鬼の頭を握りつぶしたのを皮切りに、鬼の自滅が始まる。
「無惨の名を口にしたら死ぬ──あいつは自分の情報が漏れるのを許さない。自尊心、恐怖心からなのかはわかんないけどな」
「……それにしたって、こんな……っ」
愕然としている炭治郎の目の前で、先程まで戦っていた鬼がぐずぐずに潰れていく凄惨な光景。無惨の名を聞いて怯え狂った忍の鬼が頭を過っているはずだ。
珠世は無惨のそういった操作を逃れ、呪いを外した。だから、その名を口にしてもあんな悲惨なことにはならない。
そもそも、無惨は彼女を捉えることができないから。
口枷をしている禰豆子はそもそも口にすることはできない。すでに呪いを外し切っているから、名前を口にしても問題ないかもしれないが。
そう言う点で、ラシードも例外枠に入る。
「──最初は、禰豆子のことで余裕なくて、ちっともわからなかった」
その後、日が昇る時間が迫っていることから、珠世たちは地下へと潜っていった。ラシードは、鬼の最期を看取りたいと言う炭治郎に付き合いつつ、手当てしてやる。
最終選別から戻った時。
鬼の匂いの充満する環境にいた炭治郎は、ラシードと禰豆子の共通性に気づいたと言う。
「よく鬼のこと、聞いてこなかったな」
「もし俺の知りたいことを知っていたら、きっとラシードはとっくに教えてくれてるよ」
悲しげに笑う炭治郎を、視界の端に留めるだけに努める。本当に、水の呼吸の連中というのはどうしてこうも敏いのだろう。
志半ばで倒れていく、どの時代の友人たち。記憶だけ重ねられる自分に色んなことを託してくれた。けれど──鬼をヒトに戻す方法だけは、未だにわからないままだ。
少しでも手がかりがあれば良かったのだが。鬼の特性を得たのに、ラシード自身では“化け物枠”だから上手くいかなくて。
「オヤジから何も聞いてなかったのか? 俺とか、右京のこと」
「いや、何も? 右京って日本名なんじゃないのか?」
きょとん、と首を傾げられた。ラシードは思わず呻く。伊之助と違った意味で扱いやすいなこいつ。
鱗滝も余計なことを言うような質ではないし。
よし。そういうことにしておこう。
「俺は鬼のなり損ないなんだ。太陽の下を歩けるし、人間食べなくても平気で、こうやって腕をくっつけたり再生できる──けど、」
朝日が昇り、絶命した鬼の亡骸が塵となって消えていく。
それに手を合わせながら、ラシードは続けた。
「俺の体は鬼になり損なった時のままでな。鍛えても“あの時以上には成長できない”んだ」
強い技を使えば体の方がもたず、肺や筋肉がズタズタになる。そして、再生する分寿命が縮んで、そのうち死ぬ。
炭治郎たちの鍛錬に付き合う程度なら問題ないが、無惨と戦うなんてことしたら、勝負が着く前に自滅するのだ。
だから、ラシードは柱にはなれない。
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「たま、禰豆子見てあげて。後は、自分でなんとかする」
「……わかった。愈史郎、もう少しの間だけ、こやをお願い」
口調がこやになってて自分キモい。
頭の片隅でそんなことを考えながら、ラシードは自身の腕を抱え込みつつ痛みに耐える。
「珠世様の願いだからもう少しついててやるが、いいか! 俺は五分もしたら珠世様のところへ行くからな!」
「お気遣いどうも。でも意識逸らしたいからすぐ行って。こっちに攻撃来させないで」
ぐったりしながら言うと、気配が無くなった。逡巡もせずにここを離れていきましたよ愈史郎のやつ。
まあ、その方が助かるけど。
炭治郎は、気づいていて知らないふりでもしているのだろうか。
──起き上がり、離れていた腕がきちんとくっついて、動くのを確認する。
「ああ、痛かった。あの鬼たち容赦ないな、ほんとヤダ」
涙を袖で拭いて、吐血した口元も拭って、よいしょと立ち上がる。
鬼の特性は、鬼殺の剣士として生きていた昔の自分が、ある時相打ち覚悟で無惨を押さえて一緒に仲間に斬り殺された時に手に入れた。
まあ、基本的には人間そのものなのだけど。
生まれてみたら鬼の特性を持っていたものだから当時は大変たまげたものだ。その異能を使う分、ただでさえ短い寿命が減るのが難点だ。
此度も痛みに負けてくっつけてしまった。腕を失ったところは炭治郎にしっかり見られてしまったし、どうやって誤魔化そう。記憶のことも含めてきれいさっぱり話しちゃう?
「十二鬼月のお嬢さん。貴女は鬼舞辻の正体をご存知ですか」
悩んでいる間に、珠世が畳み掛けに入ったようだ。
ラシードは邪魔にならないようにちょろちょろと壁にくっつきながら移動して、這いつくばりながらも刀を咥え前に進もうとしていた炭治郎に駆け寄った。
彼が受け持っていた面倒な術を使う鬼は倒せた様だが、どこか骨をやられていそうだ。変わってあげられればいいのだが、痛いのは嫌だなぁ。
炭治郎を抱えあげてやると、その視線がくっつけたばかりの腕に向けられた。まあ、普通にそういう反応になりますよねぇ。
珠世は血気術を使っているようだから、炭治郎はこれ以上先には行かせない方がよさそうだ──自分には影響あるかわからないのだけど。
「ギャアアアッお許し下さい、お許し下さい、どうかっ‼︎」
無惨の名前を思わず口にしてしまい、許しを請いながら逃げ惑う鬼の体内から、腕が幾重も飛び出した。そして、そのうちの一つが鬼の頭を握りつぶしたのを皮切りに、鬼の自滅が始まる。
「無惨の名を口にしたら死ぬ──あいつは自分の情報が漏れるのを許さない。自尊心、恐怖心からなのかはわかんないけどな」
「……それにしたって、こんな……っ」
愕然としている炭治郎の目の前で、先程まで戦っていた鬼がぐずぐずに潰れていく凄惨な光景。無惨の名を聞いて怯え狂った忍の鬼が頭を過っているはずだ。
珠世は無惨のそういった操作を逃れ、呪いを外した。だから、その名を口にしてもあんな悲惨なことにはならない。
そもそも、無惨は彼女を捉えることができないから。
口枷をしている禰豆子はそもそも口にすることはできない。すでに呪いを外し切っているから、名前を口にしても問題ないかもしれないが。
そう言う点で、ラシードも例外枠に入る。
「──最初は、禰豆子のことで余裕なくて、ちっともわからなかった」
その後、日が昇る時間が迫っていることから、珠世たちは地下へと潜っていった。ラシードは、鬼の最期を看取りたいと言う炭治郎に付き合いつつ、手当てしてやる。
最終選別から戻った時。
鬼の匂いの充満する環境にいた炭治郎は、ラシードと禰豆子の共通性に気づいたと言う。
「よく鬼のこと、聞いてこなかったな」
「もし俺の知りたいことを知っていたら、きっとラシードはとっくに教えてくれてるよ」
悲しげに笑う炭治郎を、視界の端に留めるだけに努める。本当に、水の呼吸の連中というのはどうしてこうも敏いのだろう。
志半ばで倒れていく、どの時代の友人たち。記憶だけ重ねられる自分に色んなことを託してくれた。けれど──鬼をヒトに戻す方法だけは、未だにわからないままだ。
少しでも手がかりがあれば良かったのだが。鬼の特性を得たのに、ラシード自身では“化け物枠”だから上手くいかなくて。
「オヤジから何も聞いてなかったのか? 俺とか、右京のこと」
「いや、何も? 右京って日本名なんじゃないのか?」
きょとん、と首を傾げられた。ラシードは思わず呻く。伊之助と違った意味で扱いやすいなこいつ。
鱗滝も余計なことを言うような質ではないし。
よし。そういうことにしておこう。
「俺は鬼のなり損ないなんだ。太陽の下を歩けるし、人間食べなくても平気で、こうやって腕をくっつけたり再生できる──けど、」
朝日が昇り、絶命した鬼の亡骸が塵となって消えていく。
それに手を合わせながら、ラシードは続けた。
「俺の体は鬼になり損なった時のままでな。鍛えても“あの時以上には成長できない”んだ」
強い技を使えば体の方がもたず、肺や筋肉がズタズタになる。そして、再生する分寿命が縮んで、そのうち死ぬ。
炭治郎たちの鍛錬に付き合う程度なら問題ないが、無惨と戦うなんてことしたら、勝負が着く前に自滅するのだ。
だから、ラシードは柱にはなれない。