第2章 逃れもののオニ。(全19話)
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第7話 珠世とこや。
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「おかえりなさ──こや?」
鬼でありながら医者としても生活していた珠世は目を丸くした。
視線の向かう先がラシードだと気づいた炭治郎たちの目の前で、片手を上げて「ラシードだ」と応じる。
すると、心得たと言わんばかりに、珠世はひとつ頷いて。
「ラシード、この人と知り合いなのか?」
「ああ。でも、鬼と協力関係にあるとか鬼殺隊だとご法度だからな。気をつけろよ」
何やら外野から嫉妬と憎悪のこもった眼差しの圧が酷いのだが、ラシードは気にせず壁にもたれる。
その動作で、この場では昔馴染みの会話は無理と判断したのか、珠世は炭治郎と会話を続けた。
その流れで、ここまで案内してくれた鬼の少年・愈史郎は珠世が鬼にした人間であること。その成功に至るまでに二百年かかっていることが明かされる。
そして、少量の血だけで生きながらえる体質になっていることも。
「うそ、すごい! 頑張ったじゃない、たま!」
「うふふ、こやの助言のお陰なのよ」
思わず身を乗り出すと、珠世も嬉しそうに手を合わせる。
そこで三方向からじろじろと向けられた視線に気づき、両手で口を押さえた。口調が女になってた気がする。
視界の端に笑いを堪えている女性の姿。おのれ、たまめ。
それから、珠世は炭治郎に協力を願い出た。ひとつは、禰豆子の血の鑑定。そしてもうひとつは、これから遭遇していくだろう鬼たちの血の採取──。
「珠世さんがたくさんの鬼の血を調べて薬を作ってくれるなら。禰豆子だけじゃなく、もっとたくさんの人が助かりますよね?」
話が落ち着きかけたその時、ラシードは刀を抜いて後輩二人の前へ。同時に、愈史郎が珠世に覆いかぶさって突然の襲撃を避けた。
ラシードの刀が片腕ごと落ちる。炭治郎が叫んだ。
衝撃のまま二人を背中で壁に押しやる。千切れた二の腕からぼたぼたと血が滴った。
「珍しいな。鬼同士で連携するなんて」
「そんな悠長なこといってる場合じゃないだろう!」
止血しようと手を伸ばしてくる炭治郎を振り払い、ラシードは残った方の腕で胸ぐらを掴む。
「俺の腕はちょん切れました! さあ、ここには一般人も入院してるんですが誰が守るんでしょうかね竈門炭治郎くん?」
一瞬の逡巡の後、炭治郎は禰豆子に奥で眠っている女性──無惨に鬼にされた夫に襲われた奥方──の避難を指示、自らは襲撃してきた鬼の前に立ちはだかる。
「さすがに再生速度は普通の鬼より落ちるんだな」
「ええ……それより、こや。私の後ろへ」
刀を握ったままの自分の腕を拾い、お言葉に甘えて珠世の背後に着く。
初撃を凌いだまではいいが、まさか力の向きが変わるとは思っていなくてやられてしまった。
鋭利なものでやられたのならまだ、珠世の手術でくっつけられたかもしれないが。ここで片腕を失ったのは痛い。
「たま、ちょっと止血だけ手伝って」
「わかったわ。愈史郎、あなたも手を貸してちょうだい」
「何故男の手当てをしなければならないのか……」
まだ頭部の半分も再生できていない愈史郎が文句を言いながら手を貸してくれる。二人に処置を頼みながら、ラシードは片腕から刀を取り外し残った方の腕に握った。
ラシードとしての利き腕は失ったが、そうでなかった時の動きも記憶にある。それを一気に引き出して、体に感覚を振り分ける。
ちょうど鞠が三つ飛んできた。ラシードは刃先を返す。
「炎の呼吸、伍の型──炎虎!」
様々な方向から飛んでくる鞠を、ラシードは破壊した。その破壊力に、炭治郎だけでなく鬼たちも目を剥く。
けれどそのまま膝をついて、激しく咳き込んだ口から鮮血が飛び出した。
炭治郎が青ざめる。
「な──ラシード、血が!」
「構うなっ前、向け! 力の道をちゃんと見ろ!」
なんとか言いきると、そのまま噎せ返った。珠世がその背を撫で、その最中に愈史郎は自らの視覚を炭治郎に貸してやる。そこへ、禰豆子も参戦し、襲撃してきた鬼の注意が自分たちから外れた。
血鬼術の連携なんて、いきなりハードルが高すぎた。これは、炭治郎も無惨に目をつけられたことを意味しているだろう。
「技の負荷に体がついていかないのは、相変わらずなのね」
「それもあるけど今回のは寿命の方が原因。いろいろやってたからガタがくる周期が早まってて」
そういえば、今日は何月何日だっけ。そろそろくたばっても頃合いとしてはいいのかな。遅いかな。遅いならもう一年頑張らないと。
頭の中がクルクルしてきた。貧血だろう。
「珠世様、こいつは何者なのですか」
「今は男の子だけど、かつては私の恩人で、親友だったのよ」
なんか、たまが懐かしい話してる。
まだ無惨の元に居た頃の珠世が、他の鬼たちとちょっと違うことに気づいた“こやだった頃のラシード”は、何度か彼女と接触していた。
そして、その頃は女だったから、いつの間にか茶飲友達になって、女の子らしく恋話に話を咲かせたりしていたのだ。勿論、その頃もう刀は握っていた。
「うぁ……気持ち悪いよぉ」
「大人しくしていて。本当に全く、いつも、こやは無茶をするのだから」
手を伸ばすと握り返してくれる。先ほどまでグサグサ刺すように睨んできていた愈史郎からの視線がない。かつて女でした話のおかげだろうか。
本格的にぐわんぐわんして辛くなってきた。ラシードは、半ば自棄になりながら離れてしまった片腕に手を伸ばす。
こう、本来あったはずの手足を失った時、ないはずなのに脳があると錯覚して痛みを覚えるのだ。いま、正に貧血だけでなくその痛みもラシードを襲っている。
数分前にあったのだし、止血しただけの応急処置というのも大きいが、実は前からこの痛みだけは慣れないし克服できない。
そして、結局根負けしてしまう。
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「おかえりなさ──こや?」
鬼でありながら医者としても生活していた珠世は目を丸くした。
視線の向かう先がラシードだと気づいた炭治郎たちの目の前で、片手を上げて「ラシードだ」と応じる。
すると、心得たと言わんばかりに、珠世はひとつ頷いて。
「ラシード、この人と知り合いなのか?」
「ああ。でも、鬼と協力関係にあるとか鬼殺隊だとご法度だからな。気をつけろよ」
何やら外野から嫉妬と憎悪のこもった眼差しの圧が酷いのだが、ラシードは気にせず壁にもたれる。
その動作で、この場では昔馴染みの会話は無理と判断したのか、珠世は炭治郎と会話を続けた。
その流れで、ここまで案内してくれた鬼の少年・愈史郎は珠世が鬼にした人間であること。その成功に至るまでに二百年かかっていることが明かされる。
そして、少量の血だけで生きながらえる体質になっていることも。
「うそ、すごい! 頑張ったじゃない、たま!」
「うふふ、こやの助言のお陰なのよ」
思わず身を乗り出すと、珠世も嬉しそうに手を合わせる。
そこで三方向からじろじろと向けられた視線に気づき、両手で口を押さえた。口調が女になってた気がする。
視界の端に笑いを堪えている女性の姿。おのれ、たまめ。
それから、珠世は炭治郎に協力を願い出た。ひとつは、禰豆子の血の鑑定。そしてもうひとつは、これから遭遇していくだろう鬼たちの血の採取──。
「珠世さんがたくさんの鬼の血を調べて薬を作ってくれるなら。禰豆子だけじゃなく、もっとたくさんの人が助かりますよね?」
話が落ち着きかけたその時、ラシードは刀を抜いて後輩二人の前へ。同時に、愈史郎が珠世に覆いかぶさって突然の襲撃を避けた。
ラシードの刀が片腕ごと落ちる。炭治郎が叫んだ。
衝撃のまま二人を背中で壁に押しやる。千切れた二の腕からぼたぼたと血が滴った。
「珍しいな。鬼同士で連携するなんて」
「そんな悠長なこといってる場合じゃないだろう!」
止血しようと手を伸ばしてくる炭治郎を振り払い、ラシードは残った方の腕で胸ぐらを掴む。
「俺の腕はちょん切れました! さあ、ここには一般人も入院してるんですが誰が守るんでしょうかね竈門炭治郎くん?」
一瞬の逡巡の後、炭治郎は禰豆子に奥で眠っている女性──無惨に鬼にされた夫に襲われた奥方──の避難を指示、自らは襲撃してきた鬼の前に立ちはだかる。
「さすがに再生速度は普通の鬼より落ちるんだな」
「ええ……それより、こや。私の後ろへ」
刀を握ったままの自分の腕を拾い、お言葉に甘えて珠世の背後に着く。
初撃を凌いだまではいいが、まさか力の向きが変わるとは思っていなくてやられてしまった。
鋭利なものでやられたのならまだ、珠世の手術でくっつけられたかもしれないが。ここで片腕を失ったのは痛い。
「たま、ちょっと止血だけ手伝って」
「わかったわ。愈史郎、あなたも手を貸してちょうだい」
「何故男の手当てをしなければならないのか……」
まだ頭部の半分も再生できていない愈史郎が文句を言いながら手を貸してくれる。二人に処置を頼みながら、ラシードは片腕から刀を取り外し残った方の腕に握った。
ラシードとしての利き腕は失ったが、そうでなかった時の動きも記憶にある。それを一気に引き出して、体に感覚を振り分ける。
ちょうど鞠が三つ飛んできた。ラシードは刃先を返す。
「炎の呼吸、伍の型──炎虎!」
様々な方向から飛んでくる鞠を、ラシードは破壊した。その破壊力に、炭治郎だけでなく鬼たちも目を剥く。
けれどそのまま膝をついて、激しく咳き込んだ口から鮮血が飛び出した。
炭治郎が青ざめる。
「な──ラシード、血が!」
「構うなっ前、向け! 力の道をちゃんと見ろ!」
なんとか言いきると、そのまま噎せ返った。珠世がその背を撫で、その最中に愈史郎は自らの視覚を炭治郎に貸してやる。そこへ、禰豆子も参戦し、襲撃してきた鬼の注意が自分たちから外れた。
血鬼術の連携なんて、いきなりハードルが高すぎた。これは、炭治郎も無惨に目をつけられたことを意味しているだろう。
「技の負荷に体がついていかないのは、相変わらずなのね」
「それもあるけど今回のは寿命の方が原因。いろいろやってたからガタがくる周期が早まってて」
そういえば、今日は何月何日だっけ。そろそろくたばっても頃合いとしてはいいのかな。遅いかな。遅いならもう一年頑張らないと。
頭の中がクルクルしてきた。貧血だろう。
「珠世様、こいつは何者なのですか」
「今は男の子だけど、かつては私の恩人で、親友だったのよ」
なんか、たまが懐かしい話してる。
まだ無惨の元に居た頃の珠世が、他の鬼たちとちょっと違うことに気づいた“こやだった頃のラシード”は、何度か彼女と接触していた。
そして、その頃は女だったから、いつの間にか茶飲友達になって、女の子らしく恋話に話を咲かせたりしていたのだ。勿論、その頃もう刀は握っていた。
「うぁ……気持ち悪いよぉ」
「大人しくしていて。本当に全く、いつも、こやは無茶をするのだから」
手を伸ばすと握り返してくれる。先ほどまでグサグサ刺すように睨んできていた愈史郎からの視線がない。かつて女でした話のおかげだろうか。
本格的にぐわんぐわんして辛くなってきた。ラシードは、半ば自棄になりながら離れてしまった片腕に手を伸ばす。
こう、本来あったはずの手足を失った時、ないはずなのに脳があると錯覚して痛みを覚えるのだ。いま、正に貧血だけでなくその痛みもラシードを襲っている。
数分前にあったのだし、止血しただけの応急処置というのも大きいが、実は前からこの痛みだけは慣れないし克服できない。
そして、結局根負けしてしまう。