第2章 逃れもののオニ。(全19話)
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
第6話 繋ぐこと、留めること。
________________________________
「次ハ東京府浅草ァ!」
鬼が潜んでいるとの噂──立て続けの任務に驚いている炭治郎が、ラシードを不思議そうに振り返る。
「予想してた?」
「いや。予想の斜め上すぎてビックリした」
匂いの変化で尋ねられ、苦笑いしながら返す。
ラシードが禰豆子から食の記憶を借りている最中に把握していた無惨の居場所と同じだ。
なぜ鬼殺隊の情報網にかかったのか。これまで一度もそんなことはなかったのに。
それとも、別の鬼と生息圏がかち合っただけか。
何にしても、まだ今の鬼殺隊の人員では無惨に遭遇したところで無駄死にするしかない。
ここは鱗滝との約束を反故にするしかないか──。「ダメだ!」
炭治郎が、責めるような眼差しでラシードを睨む。「よく分からないけど、ダメだ! 俺はダメと言わなきゃいけない気がする!」
若い頃の鱗滝と、それよりずっと昔──今のラシードになるずっと前の記憶の主が、鬼殺の剣士から離れるきっかけとなった男の眼差しとよく似ていた。
明確な理由は何にもないのに、ラシードは思わず頷く。「わかった。止める」
炭治郎は怒りの為に鼻息荒く、仁王立ちで呼吸を使う。
「なんか危なっかしい! 俺と禰豆子ともう少し一緒に行動する事!」
ずびしっ! と命令口調で宣言され、ラシードはもはや降参のポーズ。
その様子を見て、炭治郎はいつものような穏やかな匂いに戻った。すごく怒った匂いをさせた瞬間、これヤベェやつだ、とラシードは白目を剥きかけたが。
「オヤジに怒られた気分だわ」
「多分ラシードが悪いんだ。俺は謝らないからな! 禰豆子だって起きたら怒るぞ!」
ぎゃあぎゃあと元気に喚く後輩の様子に、連想したことから引き出されてくる他人の記憶がぞわぞわ染みて来た。
この感覚に、だいたいふつうの人間は壊れる。もちろん、そんな記憶だってあった。気味悪がられて迫害されて酷い目にあう人生も残っている。
──けれど、“ラシードと今は名乗っている最初の記憶の主”になってからは、壊れなくなった。
無惨がいつの時代からいるのかは不明だが、少なくとも“今の自分”が生まれる前だ。それだけははっきりしている。
“前の自分”なら、何か知っていたかもしれないが。
ふと、固い皮の感触にラシードは視線を落とす。炭治郎が、手を繋いでいた。
「鱗滝さんに言われた意味が何と無くわかったよ。ラシードは捕まえていないと消えてしまいそうで怖いって」
「………………え、扱いひどくない?」
大きい迷子扱いかよ。思わず吹き出すラシードの隣で、炭治郎も声を出して笑った。
深く考えるやつじゃなくて良かった。
ラシードは頭を振る。無惨のことは忘れよう。今のラシードは、炭治郎の兄弟子のようなものだ。元より力が弱いから無惨のところへ行っても殺されるだけ。
寿命の問題は迫っているけれど、急ぐようなものでもない。
炭治郎が無惨に近づかないよう、気をつけていればいい。
「キャアアアアアアッ」
──なんて甘いことを考えていたら、炭治郎が見事に無惨の匂いを嗅ぎつけて、あっぱれ遭遇してしまった。
禰豆子を屋台に置いて駆け出していくものだから、ラシードはその場を動かなかった。
いくら無惨でも、こんな場所で無闇に血鬼術などを使ったりしない。
というより、ラシードが炭治郎たちと一緒にいるのを無惨に見つかることの方が事態を悪化しかねなかった。
それ程、ちょっと浅からぬ因縁がある。
「山かけうどん、出来たよ! あの失礼な坊主はまだ戻らないのかい」
「厠探して急いで走ってったからねぇ。社会的に抹殺される案件手前だったんだ、大目に見てやってよ」
うどんの器を割ってそのまま駆け去ってしまった後輩を浅くフォローしつつ、ラシードはゆったりとうどんをすする。
懐かしい匂いだ。こんな場所に潜伏していたのだなぁ。炭治郎のことだから敵対することはなさそうだし、再会するのも簡単そうだ──なんか知らない匂いもあるけど。
ふと、背後からぎゅうっと抱きしめられて、ラシードはうどんを啜り終えてから首を傾ける。禰豆子が腰のあたりにひっついて、ラシードを見上げていた。
「どうした、ネズ。炭治郎なら、すぐ戻るって──ああ、俺の心配してくれてるのか」
ラシードになる前の、その前の前の──ずっと前。その頃に出会った鬼の女だ。
先日炭治郎に叱られた時に連想した人物が生きた時代の知人でもある。その知人のお陰で、色々と変わったことがいくつもあったから。分岐点と言えたかもしれない。
「お前らにしばらくついてろって、炭治郎のお達しだろ。だから無茶しないよ。どこも行かないからさ」
言い聞かせるように片手で頭を撫でると、禰豆子はこくりと頷きつつへばりついたまま目を閉じてしまった。まだ眠いのだろう。
それから暫くして、炭治郎が戻ってきてうどん屋の店主に叱られ、無事うどんを平らげて。
歩きながら無惨と出会ったことなどを報告されていたところで、迎えの鬼の少年──といっても鬼なので中身はおっさんかもしれない──の案内の元、“診療所”に行き着く。
________________________________
「次ハ東京府浅草ァ!」
鬼が潜んでいるとの噂──立て続けの任務に驚いている炭治郎が、ラシードを不思議そうに振り返る。
「予想してた?」
「いや。予想の斜め上すぎてビックリした」
匂いの変化で尋ねられ、苦笑いしながら返す。
ラシードが禰豆子から食の記憶を借りている最中に把握していた無惨の居場所と同じだ。
なぜ鬼殺隊の情報網にかかったのか。これまで一度もそんなことはなかったのに。
それとも、別の鬼と生息圏がかち合っただけか。
何にしても、まだ今の鬼殺隊の人員では無惨に遭遇したところで無駄死にするしかない。
ここは鱗滝との約束を反故にするしかないか──。「ダメだ!」
炭治郎が、責めるような眼差しでラシードを睨む。「よく分からないけど、ダメだ! 俺はダメと言わなきゃいけない気がする!」
若い頃の鱗滝と、それよりずっと昔──今のラシードになるずっと前の記憶の主が、鬼殺の剣士から離れるきっかけとなった男の眼差しとよく似ていた。
明確な理由は何にもないのに、ラシードは思わず頷く。「わかった。止める」
炭治郎は怒りの為に鼻息荒く、仁王立ちで呼吸を使う。
「なんか危なっかしい! 俺と禰豆子ともう少し一緒に行動する事!」
ずびしっ! と命令口調で宣言され、ラシードはもはや降参のポーズ。
その様子を見て、炭治郎はいつものような穏やかな匂いに戻った。すごく怒った匂いをさせた瞬間、これヤベェやつだ、とラシードは白目を剥きかけたが。
「オヤジに怒られた気分だわ」
「多分ラシードが悪いんだ。俺は謝らないからな! 禰豆子だって起きたら怒るぞ!」
ぎゃあぎゃあと元気に喚く後輩の様子に、連想したことから引き出されてくる他人の記憶がぞわぞわ染みて来た。
この感覚に、だいたいふつうの人間は壊れる。もちろん、そんな記憶だってあった。気味悪がられて迫害されて酷い目にあう人生も残っている。
──けれど、“ラシードと今は名乗っている最初の記憶の主”になってからは、壊れなくなった。
無惨がいつの時代からいるのかは不明だが、少なくとも“今の自分”が生まれる前だ。それだけははっきりしている。
“前の自分”なら、何か知っていたかもしれないが。
ふと、固い皮の感触にラシードは視線を落とす。炭治郎が、手を繋いでいた。
「鱗滝さんに言われた意味が何と無くわかったよ。ラシードは捕まえていないと消えてしまいそうで怖いって」
「………………え、扱いひどくない?」
大きい迷子扱いかよ。思わず吹き出すラシードの隣で、炭治郎も声を出して笑った。
深く考えるやつじゃなくて良かった。
ラシードは頭を振る。無惨のことは忘れよう。今のラシードは、炭治郎の兄弟子のようなものだ。元より力が弱いから無惨のところへ行っても殺されるだけ。
寿命の問題は迫っているけれど、急ぐようなものでもない。
炭治郎が無惨に近づかないよう、気をつけていればいい。
「キャアアアアアアッ」
──なんて甘いことを考えていたら、炭治郎が見事に無惨の匂いを嗅ぎつけて、あっぱれ遭遇してしまった。
禰豆子を屋台に置いて駆け出していくものだから、ラシードはその場を動かなかった。
いくら無惨でも、こんな場所で無闇に血鬼術などを使ったりしない。
というより、ラシードが炭治郎たちと一緒にいるのを無惨に見つかることの方が事態を悪化しかねなかった。
それ程、ちょっと浅からぬ因縁がある。
「山かけうどん、出来たよ! あの失礼な坊主はまだ戻らないのかい」
「厠探して急いで走ってったからねぇ。社会的に抹殺される案件手前だったんだ、大目に見てやってよ」
うどんの器を割ってそのまま駆け去ってしまった後輩を浅くフォローしつつ、ラシードはゆったりとうどんをすする。
懐かしい匂いだ。こんな場所に潜伏していたのだなぁ。炭治郎のことだから敵対することはなさそうだし、再会するのも簡単そうだ──なんか知らない匂いもあるけど。
ふと、背後からぎゅうっと抱きしめられて、ラシードはうどんを啜り終えてから首を傾ける。禰豆子が腰のあたりにひっついて、ラシードを見上げていた。
「どうした、ネズ。炭治郎なら、すぐ戻るって──ああ、俺の心配してくれてるのか」
ラシードになる前の、その前の前の──ずっと前。その頃に出会った鬼の女だ。
先日炭治郎に叱られた時に連想した人物が生きた時代の知人でもある。その知人のお陰で、色々と変わったことがいくつもあったから。分岐点と言えたかもしれない。
「お前らにしばらくついてろって、炭治郎のお達しだろ。だから無茶しないよ。どこも行かないからさ」
言い聞かせるように片手で頭を撫でると、禰豆子はこくりと頷きつつへばりついたまま目を閉じてしまった。まだ眠いのだろう。
それから暫くして、炭治郎が戻ってきてうどん屋の店主に叱られ、無事うどんを平らげて。
歩きながら無惨と出会ったことなどを報告されていたところで、迎えの鬼の少年──といっても鬼なので中身はおっさんかもしれない──の案内の元、“診療所”に行き着く。