第2章 逃れもののオニ。(全19話)
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第5話 失っても。
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「手伝いってどんなことをしてるの、動物を手なずけたりするやつ?」
一緒に行動していた時、彼の周りだけ空気を薄くしたり、引力を強くしたりさせて山の中を歩いたことがある。もちろん、産屋敷からの依頼ではあったのだが、それだけでは面白みがないので時々、息抜きに山の動物たちを引き合わせたりしていた。
その頃のことを覚えているのだろうか。ティアは照れる。
「それも時々ありますけれど、だいたいは競技の審判やお持て成しの為の給仕ですね。天元と杏寿郎は参加者で時々出ますよ」
「柱が参加って、なんか物騒な感じだね」
実際物騒なことをしているのだから否定できない。
けれど、この事は“口に出すことはできない”ので、実際目で見てもらうしかなかった。この仕事の制約だから、この仕事がなくならない限りは言の葉に乗せることができない。
そういう部類のものだった。
「普通に鍛錬するよりも成果は出ると、天元たちは言っていますね。人を選びますから、他言無用でお願いします」
「そこは問題ないと思う。多分俺、忘れちゃうし。ティアに会いに行った時にまた教えてよ」
興味のなさそうな様子で、無一郎はまた歩き出した。
手首を掴むその力が、いつの間にかゆったりとした加減になっている。先ほどまでは、正直痛かった。
落ち着いたのだろう。
「あの月の形、なんて言うんだっけ」
「うーんと、右側が欠けているから……」
いつも通りの問答を繰り返し。
夜が明けるまで、二人はのんびりと──。
「言えないんだよおおおおおっ!!!」
恐怖心に塗れた鬼の首が飛ぶのを、ラシードは屋根の上から見下ろしていた。
炭治郎からは悔しげな、哀しそうな匂い。
鬼舞辻無惨の居場所を知ることがどんなに困難なのか。
それは、柱を始め知る者はよく知っている。だから、なかなか元凶の元に辿り着けないのだ。
「あの鬼、無惨の名に怯えていた。鬼達にとって、無惨は主人のようなもの──なんじゃないのか? あそこまで恐れるものなのか?」
「口にしたら死ぬからな」
炭治郎の疑問に答えながら、ラシードは彼らの側に飛び降りる。一般人の男が小さく悲鳴を上げたが、聞かなかったことにした。
初任務であるから、ギリギリで手出しするつもりはなかった。彼らに危険が迫りそうだったら加勢するつもりだったけど、禰豆子がそれを担ってくれたから本当に見守っているだけで良かった。
よく出来た後輩たちだ。
「無惨ってのは、鬼たちに取っては絶対的な存在だ。けど、無惨は誰のことも信用していない。目的のために利用してるだけだ」
「無惨の、目的?」
炭治郎から怒りの匂いが染み出してくる。鬼たちの悲しみを感じ取ることのできる彼からしたら、鬼とて被害者だ。その元凶が、自分の私欲のために鬼を増やしているとしたなら。
「鬼は夜しか動けない。そこがヒトと比べて唯一の絶対の縛りだ。無惨はその制約下にある現実が許せない」
「太陽を克服する方法を探すために、禰豆子たちは鬼に──?」
大事な妹を、鬼に変えられた炭治郎。
すべて無惨のいいように配されている現実を前に、今しがた始末した忍の鬼の断片を見下ろした。
微妙に柱たちもよく分かっていないだろう無惨の行動についてちょろっと明かしてしまった。やり過ぎたかなぁ、と思いつつ、ラシードは鬼の遺物に手を伸ばす。
無惨の気配は遠い。居場所が変わっていないか確かめたかったが、まあ仕方がない。気長に行こう。
「婚約者を失って、大丈夫だと思うか……っお前に何がわかるんだ‼︎ お前みたいな子供に‼︎」
一通り喚いた後、打ちひしがれた男は炭治郎に浴びせた酷い言葉を詫びた。炭治郎は、一言も言い返さない。
そんな後輩を先導しながら、ラシードもまた、何も言わなかった。ただただ、足取りが重い少年の歩幅に合わせて進む。
『失っても、失っても、生きていくしかないんです。どんなに、打ちのめされようと』
自分に言い聞かせるような言霊。ティアがここにいたなら、炭治郎の力に変えてやれたのだろうが、残念ながらラシードには側についていてやることしかできない。
「鱗滝さんもそうだったけど、ラシードからも同じ匂いがする」
内心ギクリとしながら促すと、炭治郎は小さく笑う。
「いっぱい大事な人がいて、それを見送ってきたような、固い絆の匂いがするよ。俺はまだまだ駆け出しだけど……やっぱり、これ以上、失いたくないなぁ」
鱗滝は生きてる年の分だけ仲間たちを見送っているし、助けられなかった人たちが多かったろう。ラシードの場合は引き継いでる記憶のせいだからちょっと別問題だが。
本当は──記憶があるだけで生きているのは別人だし、別の人生を歩んで仕舞えばいいのだろうが。
「俺もお前たちの墓はまだ掘りたくないよ。だから、簡単に死なないでくれよなー?」
「うん! 禰豆子を人間に戻すまでは死んでられないさ。ずっと一人で生き続けるなんて、寂しいじゃないか」
まあ最悪自分がなんとかしますよー、と内心思いながら、ラシードは炭治郎の背中を強めに叩く。そうされた少年は、どこか照れたようにしながら笑った。
そこへ、鎹烏が伝令を伝えに降りてくる──その行き先に、ラシードは危うく足を止めかけたのを何とか踏みとどまった。
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「手伝いってどんなことをしてるの、動物を手なずけたりするやつ?」
一緒に行動していた時、彼の周りだけ空気を薄くしたり、引力を強くしたりさせて山の中を歩いたことがある。もちろん、産屋敷からの依頼ではあったのだが、それだけでは面白みがないので時々、息抜きに山の動物たちを引き合わせたりしていた。
その頃のことを覚えているのだろうか。ティアは照れる。
「それも時々ありますけれど、だいたいは競技の審判やお持て成しの為の給仕ですね。天元と杏寿郎は参加者で時々出ますよ」
「柱が参加って、なんか物騒な感じだね」
実際物騒なことをしているのだから否定できない。
けれど、この事は“口に出すことはできない”ので、実際目で見てもらうしかなかった。この仕事の制約だから、この仕事がなくならない限りは言の葉に乗せることができない。
そういう部類のものだった。
「普通に鍛錬するよりも成果は出ると、天元たちは言っていますね。人を選びますから、他言無用でお願いします」
「そこは問題ないと思う。多分俺、忘れちゃうし。ティアに会いに行った時にまた教えてよ」
興味のなさそうな様子で、無一郎はまた歩き出した。
手首を掴むその力が、いつの間にかゆったりとした加減になっている。先ほどまでは、正直痛かった。
落ち着いたのだろう。
「あの月の形、なんて言うんだっけ」
「うーんと、右側が欠けているから……」
いつも通りの問答を繰り返し。
夜が明けるまで、二人はのんびりと──。
「言えないんだよおおおおおっ!!!」
恐怖心に塗れた鬼の首が飛ぶのを、ラシードは屋根の上から見下ろしていた。
炭治郎からは悔しげな、哀しそうな匂い。
鬼舞辻無惨の居場所を知ることがどんなに困難なのか。
それは、柱を始め知る者はよく知っている。だから、なかなか元凶の元に辿り着けないのだ。
「あの鬼、無惨の名に怯えていた。鬼達にとって、無惨は主人のようなもの──なんじゃないのか? あそこまで恐れるものなのか?」
「口にしたら死ぬからな」
炭治郎の疑問に答えながら、ラシードは彼らの側に飛び降りる。一般人の男が小さく悲鳴を上げたが、聞かなかったことにした。
初任務であるから、ギリギリで手出しするつもりはなかった。彼らに危険が迫りそうだったら加勢するつもりだったけど、禰豆子がそれを担ってくれたから本当に見守っているだけで良かった。
よく出来た後輩たちだ。
「無惨ってのは、鬼たちに取っては絶対的な存在だ。けど、無惨は誰のことも信用していない。目的のために利用してるだけだ」
「無惨の、目的?」
炭治郎から怒りの匂いが染み出してくる。鬼たちの悲しみを感じ取ることのできる彼からしたら、鬼とて被害者だ。その元凶が、自分の私欲のために鬼を増やしているとしたなら。
「鬼は夜しか動けない。そこがヒトと比べて唯一の絶対の縛りだ。無惨はその制約下にある現実が許せない」
「太陽を克服する方法を探すために、禰豆子たちは鬼に──?」
大事な妹を、鬼に変えられた炭治郎。
すべて無惨のいいように配されている現実を前に、今しがた始末した忍の鬼の断片を見下ろした。
微妙に柱たちもよく分かっていないだろう無惨の行動についてちょろっと明かしてしまった。やり過ぎたかなぁ、と思いつつ、ラシードは鬼の遺物に手を伸ばす。
無惨の気配は遠い。居場所が変わっていないか確かめたかったが、まあ仕方がない。気長に行こう。
「婚約者を失って、大丈夫だと思うか……っお前に何がわかるんだ‼︎ お前みたいな子供に‼︎」
一通り喚いた後、打ちひしがれた男は炭治郎に浴びせた酷い言葉を詫びた。炭治郎は、一言も言い返さない。
そんな後輩を先導しながら、ラシードもまた、何も言わなかった。ただただ、足取りが重い少年の歩幅に合わせて進む。
『失っても、失っても、生きていくしかないんです。どんなに、打ちのめされようと』
自分に言い聞かせるような言霊。ティアがここにいたなら、炭治郎の力に変えてやれたのだろうが、残念ながらラシードには側についていてやることしかできない。
「鱗滝さんもそうだったけど、ラシードからも同じ匂いがする」
内心ギクリとしながら促すと、炭治郎は小さく笑う。
「いっぱい大事な人がいて、それを見送ってきたような、固い絆の匂いがするよ。俺はまだまだ駆け出しだけど……やっぱり、これ以上、失いたくないなぁ」
鱗滝は生きてる年の分だけ仲間たちを見送っているし、助けられなかった人たちが多かったろう。ラシードの場合は引き継いでる記憶のせいだからちょっと別問題だが。
本当は──記憶があるだけで生きているのは別人だし、別の人生を歩んで仕舞えばいいのだろうが。
「俺もお前たちの墓はまだ掘りたくないよ。だから、簡単に死なないでくれよなー?」
「うん! 禰豆子を人間に戻すまでは死んでられないさ。ずっと一人で生き続けるなんて、寂しいじゃないか」
まあ最悪自分がなんとかしますよー、と内心思いながら、ラシードは炭治郎の背中を強めに叩く。そうされた少年は、どこか照れたようにしながら笑った。
そこへ、鎹烏が伝令を伝えに降りてくる──その行き先に、ラシードは危うく足を止めかけたのを何とか踏みとどまった。