第2章 逃れもののオニ。(全19話)
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第3話 黒刃の日輪刀。
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「鱗滝さんって、ラシードとは親子みたいだよな!」
厨子のような箱を背負った炭治郎と、ずんずん目的地へ進む。
ぷんすかしている兄弟子の隣で、笑いを懸命に堪えるようにしながらの評価。
ラシードは、むう、と口をへの字にする。
「よく言われる。昔っからオレの考えてることバレるんだよ、そんでもって先手打ってくんの。諦めざるを得ないようなやり方で」
「俺の母さんもそういうところあったなぁ。まあ、そんなに叱られたりすることなんてなかったけどさ」
懐かしそうにしていたかと思えば、炭治郎があっと声を上げて。
「そういえば、ラシードの日輪刀も俺と同じ漆黒だろ。鱗滝さんたちはあんな風に言っていたけど、実際どうなんだ。不吉じゃないのか?」
問われて、ラシードはすっと刀を抜いてみせる。
もし、色が変わらないならば刀鍛冶から渡された時のまま、黒にもならない。けれど、二人の日輪刀は墨をぶちまけたかのように真っ黒。
炭治郎には言わないが、ラシードの刀なんてずっと昔からだ。折れないのはラシードの使い方が上手いからというのもあるが、柱になれるほどの力を“会得できないから”というのも大きい。
「そんな縁起を担ぐようなもんでもないよ。使ってる時に色が変わるやつもあるし。切れればなんぼ、使えればなんの問題もない」
「おお、確かに!」
基本ポジティブな考え方の二人。日輪刀の話は簡単に終わった。
何より誰もいないのを確認してはいたが、このご時世こんな刃物を持っていたら変な風に見られる。
特に炭治郎は全集中の呼吸を日常的に扱えるわけでもない初心者。気配を殺すとか、まだ普通の人間の注意をそらす術すら備わっていない。
全集中・常中について教えてもいいのだが、任務が入ってしまってはそうも言っていられない。時間を費やしている場合ではないのだ。
付け焼き刃でも、行かねば。
「今日中に目的地の近くまで走るぞ。恐らく今晩も一人消える」
うん、と威勢のいい返事を聞いて、ラシードは走り出した──勿論、炭治郎の技量に合わせた速さで──。
「もう無理ですううう〜〜っ!」
甘味処の机に突っ伏すティアを見て、桜餅を思わせる髪の色の少女が、まあ、と声を上げた。
「もう限界なのティア? それなら、残りはわたしが貰っちゃうね!」
「すみません店員さ……お茶を……苦いのください」
同席している相手と比べれば、二皿目で音をあげるティアの方が甘さに耐性がないのだろう。
けれど、視界に入る皿の山と、平らげられている様を目にしていれば食欲は落ちる。
「甘露寺さん、すごいなぁ」
向かいの席で、ぼんやりと積み上げられている皿の山を見上げるのは声変わりを迎える頃合いの少年だった。
彼は店員から渡された渋めのお茶を、そっとティアの方に差し出してくれる。
「ねえ、ティアはお腹いっぱいなんでしょ。なら、俺の任務について来てよ」
「ごめんなさい、まだ動けそうにないです……」
なんとか訴えるも、込み上げてくるなにかを必死で抑える事しかできない。こんな場所で粗相など絶対できない。
「ええー、無一郎くん、任務入っていたの? それなら早く行かないとダメじゃない。さ、ティア持ってっていいから、早く行って?」
「いいの? それじゃあ、遠慮なく」
恋柱の甘露寺蜜璃に促された少年──霞柱・時透無一郎は、すぐに席を立って対面で座っていたティアを背負って、店を出る。
ティアの方がまだ背丈はあるはずなのだが、軽々と背負われているのを認識しながらも気持ち悪さが先立って身じろぎすら危うい。
「出しちゃった方が楽なんじゃない? 手伝うよ」
「いえ、ちょっと……そこの、河原で休ませてくださいごめんなさい」
食べすぎたわけではない、ただ目に毒な光景を見ただけだ。
蜜璃との食事は気をつけていたはずなのだが──いつもは炎柱がいたから気がそれていたのだろう。
恐るべし、甘露寺蜜璃。
「行先は品川の宿場町だから、そんなに遠くないし、急がないよ」
「でも。被害が出ているんでしょう?」
落ち着くまでの間、河原で休ませてもらう。思わず謝ったら、無一郎は気にした様子もなくぼんやりと川面を眺めた。
腹部を圧迫しないように体勢を整えながら、ティアは横顔を覗き込む。
「すぐに終わらせるから、平気だよ」
その少年は、瀕死の重傷で産屋敷の元で保護されていた。
三峯詣でからの帰り道に呼び出しを受けたティアは、その有様に真っ青になったものだ。
なんとしても、この少年を生かしてほしいと依頼された。
なんでも、鬼殺の剣士の歴史において、重要な血筋の末裔だとわかったからだとかで、とにかく絶やしたくないのだと。
産屋敷が何代もかかって探し当てたのならば、喉から手が出るほどほしかった逸材なのだろう。
「ティアは今までどこに行ってたの?」
「長い休暇をいただいていました。西の方ですね」
目の前で苦しんでいる人間がいたら、持てる力を駆使するのは人として当然のこと。もちろんティアは全力で治療した。
けれど、彼の回復力は尋常ではなかった。まるで桑島や鱗滝たち柱並の速さで癒えていく。
──産屋敷が必死になるのも、わかった気がした。
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「鱗滝さんって、ラシードとは親子みたいだよな!」
厨子のような箱を背負った炭治郎と、ずんずん目的地へ進む。
ぷんすかしている兄弟子の隣で、笑いを懸命に堪えるようにしながらの評価。
ラシードは、むう、と口をへの字にする。
「よく言われる。昔っからオレの考えてることバレるんだよ、そんでもって先手打ってくんの。諦めざるを得ないようなやり方で」
「俺の母さんもそういうところあったなぁ。まあ、そんなに叱られたりすることなんてなかったけどさ」
懐かしそうにしていたかと思えば、炭治郎があっと声を上げて。
「そういえば、ラシードの日輪刀も俺と同じ漆黒だろ。鱗滝さんたちはあんな風に言っていたけど、実際どうなんだ。不吉じゃないのか?」
問われて、ラシードはすっと刀を抜いてみせる。
もし、色が変わらないならば刀鍛冶から渡された時のまま、黒にもならない。けれど、二人の日輪刀は墨をぶちまけたかのように真っ黒。
炭治郎には言わないが、ラシードの刀なんてずっと昔からだ。折れないのはラシードの使い方が上手いからというのもあるが、柱になれるほどの力を“会得できないから”というのも大きい。
「そんな縁起を担ぐようなもんでもないよ。使ってる時に色が変わるやつもあるし。切れればなんぼ、使えればなんの問題もない」
「おお、確かに!」
基本ポジティブな考え方の二人。日輪刀の話は簡単に終わった。
何より誰もいないのを確認してはいたが、このご時世こんな刃物を持っていたら変な風に見られる。
特に炭治郎は全集中の呼吸を日常的に扱えるわけでもない初心者。気配を殺すとか、まだ普通の人間の注意をそらす術すら備わっていない。
全集中・常中について教えてもいいのだが、任務が入ってしまってはそうも言っていられない。時間を費やしている場合ではないのだ。
付け焼き刃でも、行かねば。
「今日中に目的地の近くまで走るぞ。恐らく今晩も一人消える」
うん、と威勢のいい返事を聞いて、ラシードは走り出した──勿論、炭治郎の技量に合わせた速さで──。
「もう無理ですううう〜〜っ!」
甘味処の机に突っ伏すティアを見て、桜餅を思わせる髪の色の少女が、まあ、と声を上げた。
「もう限界なのティア? それなら、残りはわたしが貰っちゃうね!」
「すみません店員さ……お茶を……苦いのください」
同席している相手と比べれば、二皿目で音をあげるティアの方が甘さに耐性がないのだろう。
けれど、視界に入る皿の山と、平らげられている様を目にしていれば食欲は落ちる。
「甘露寺さん、すごいなぁ」
向かいの席で、ぼんやりと積み上げられている皿の山を見上げるのは声変わりを迎える頃合いの少年だった。
彼は店員から渡された渋めのお茶を、そっとティアの方に差し出してくれる。
「ねえ、ティアはお腹いっぱいなんでしょ。なら、俺の任務について来てよ」
「ごめんなさい、まだ動けそうにないです……」
なんとか訴えるも、込み上げてくるなにかを必死で抑える事しかできない。こんな場所で粗相など絶対できない。
「ええー、無一郎くん、任務入っていたの? それなら早く行かないとダメじゃない。さ、ティア持ってっていいから、早く行って?」
「いいの? それじゃあ、遠慮なく」
恋柱の甘露寺蜜璃に促された少年──霞柱・時透無一郎は、すぐに席を立って対面で座っていたティアを背負って、店を出る。
ティアの方がまだ背丈はあるはずなのだが、軽々と背負われているのを認識しながらも気持ち悪さが先立って身じろぎすら危うい。
「出しちゃった方が楽なんじゃない? 手伝うよ」
「いえ、ちょっと……そこの、河原で休ませてくださいごめんなさい」
食べすぎたわけではない、ただ目に毒な光景を見ただけだ。
蜜璃との食事は気をつけていたはずなのだが──いつもは炎柱がいたから気がそれていたのだろう。
恐るべし、甘露寺蜜璃。
「行先は品川の宿場町だから、そんなに遠くないし、急がないよ」
「でも。被害が出ているんでしょう?」
落ち着くまでの間、河原で休ませてもらう。思わず謝ったら、無一郎は気にした様子もなくぼんやりと川面を眺めた。
腹部を圧迫しないように体勢を整えながら、ティアは横顔を覗き込む。
「すぐに終わらせるから、平気だよ」
その少年は、瀕死の重傷で産屋敷の元で保護されていた。
三峯詣でからの帰り道に呼び出しを受けたティアは、その有様に真っ青になったものだ。
なんとしても、この少年を生かしてほしいと依頼された。
なんでも、鬼殺の剣士の歴史において、重要な血筋の末裔だとわかったからだとかで、とにかく絶やしたくないのだと。
産屋敷が何代もかかって探し当てたのならば、喉から手が出るほどほしかった逸材なのだろう。
「ティアは今までどこに行ってたの?」
「長い休暇をいただいていました。西の方ですね」
目の前で苦しんでいる人間がいたら、持てる力を駆使するのは人として当然のこと。もちろんティアは全力で治療した。
けれど、彼の回復力は尋常ではなかった。まるで桑島や鱗滝たち柱並の速さで癒えていく。
──産屋敷が必死になるのも、わかった気がした。