第2章 逃れもののオニ。(全19話)
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第2話 代償。
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ラシードにはない感覚に触れる為に貸してもらっていた禰豆子の食の記憶。それを返さずにいることも出来た。
けれど、それでは本当の意味で鬼の本能に打ち勝つことにはならない。
記憶を奪ったところで、記憶というものは情報だ。なかったものは、新しく覚えることでまた記憶となる。
目の前で炭治郎が食事をとるのを見れば、禰豆子は食べるということを覚える。何がきっかけで“人を食べる”鬼の本能が動き出すかわからない状態の方が危険だ。
だから、ラシードはこうやって、禰豆子の理性を鍛える為に毎晩付き合っていた。
足がほとんど止まってしまった禰豆子に合わせて、猟師の家の前でラシードも足を止める。
じっと、よだれを垂らして人家を見つめる禰豆子。
その様子を、ラシードはただ静かに見つめた。
──数刻が経ち、禰豆子がふらふらと歩き出すまで、ずっと待つ。
そうやって七回目の夜を迎える頃には、禰豆子が足を止める回数は減っていた。鱗滝の家に帰るのも、夜明けギリギリではなくなる。
余裕を持って辿り着き、炭治郎の寝ている布団の中に禰豆子が潜り込んでいくのを見守るまでが、ラシードの仕事だった。
「……禰豆子に何が起きているのか、わかっているのか」
「ぜーんぜん! でも、ティアの言ってたのは当たってるな。預かってる最中、無惨は時々見てたから」
禰豆子の食の記憶を持っていたラシードは、とある山の中で何者かの目を感じ取っていた。といっても、擬似的に禰豆子と同化したような状況であり、ラシードの目を通して何者かが目の前のものを見ているのを把握した程度だが。
「炭治郎の家で試してみたから、向こうさんもネズの異変には気づいてないよ。一応、偽造もしてネズは狩られたと錯覚できるようにもしたから、上弦や本人とかち合わなければ誤魔化せると思う」
雲取山でやることをやってから、そのまま東に移動して伊之助と出会うことになった。
伊之助とは、結局彼が最終選別に向かうまで仕事の合間に鍛錬に付き合っていた。彼に合うと思っていた風の呼吸。それをそっくり体得してしまうのかと思えば、完全なる我流で獣の呼吸だとかいうのを編み出してしまう辺り天才的な素質であろう。
鱗滝に紹介しようかなーと思ってはいたけど、恐らく水の呼吸だと伊之助は才能を開花できなかったかもしれない。
「たまには、布団でお前も休め」
終始、横になったまま話していた鱗滝に、並べて用意された布団をぺんぺんと叩かれて促される。何やらむずがゆい気持ちを背中に感じながらラシードは潜り込んだ。
「たまにはいいな。オヤジと並んで寝るの」
「今世、やっと使ってもらえて報われた」
返す言葉が見つからず、ラシードは天井を見上げた。少しだけ──必死で考えたが、やはり何も思い浮かばず、困って首を傾ける。
鱗滝は安らかに寝息を立てていた。報われたという気持ちのまま、どこか安心したような顔だ。
先日ティアが言っていたことを思い出す。けれど、鱗滝の元を去ることを決めて、彼にそれを強いたのはラシードの一世代前の存在だ。
必要なことだったとしても、その時の彼らの決断だった。
「前の俺は、随分罪作りだな」
口の中で転がすようにぼやいて、目を閉じる。
炭治郎の為の日輪刀が届き、続いて初めての任務が下った。
出立の日、ラシードもまた、それに同行することに決める。
「ラシードにも任務がそろそろくるんじゃないか?」
「来るかもしんないけど、まだ来てないし。いいっしょ」
なんちゃって鬼殺隊員であるラシードに任務なんて来ない。それがわかっている鱗滝も、ラシードの言葉に頷いていた。
よくわかっていない炭治郎は、そういうものなのかと納得してくれた。素直な奴でよかった。
炭治郎の鎹烏は、なんだこいつ、という目でラシードを見てきたが。
別に産屋敷に知らされても彼らだってどうこうできるものでも無いし。
「ただ、俺はお前の手伝いはしないよ。自分でまずはやってみな」
「もちろん! あ、でもできたら稽古はこれまで通りつけてもらいたいな」
その任務にひと段落ついたらなー、とデコピンする。
毎晩少女が行方不明になっているならば、早急に対処すべきだ。三日待っても解決できなかったら手を出そう。
「それじゃあオヤジ。元気でな」
「ああ、二人のことを頼む。それと、禰豆子の事を改めて、包み隠さず報告しようと思う」
炭治郎が身支度を整えている間に、別れの挨拶を交わす。
鱗滝から決意を明かされ、ラシードはこくりと頷いた。
「それなら、俺のことも──」
「それは私の領分の話ではないな。お前はもう、右京ではない」
「こんの石頭っ」
ラシードのことも添えてしまえば、もしもの時の保険になるのに。
まあ確かに、右京と右京だったものでは立場は違う。外見は一緒なのにこの点はややこしい。
ふう、と息をついて、天狗面を見上げた。
随分としわくちゃになったものだ。
「どうせ義勇もおんなじこと考えてんだろうな。お前ら二人の墓なんかまだ掘りたくないからさ。その辺りは何が何でも回避してやるよ」
「それが聞けただけでも儲けものだな!」
途端に、嬉しそうな匂いをして鱗滝が笑い出すから、どうしたのかと炭治郎が驚いて飛び出してきた。
この男──ラシードが無惨にちょっかいを出しに行くことを読んでいたのだろう。そして、きっと以前のように食われて死ぬんだと。
それを阻止してきやがった。相変わらず食えない狐野郎だ。
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ラシードにはない感覚に触れる為に貸してもらっていた禰豆子の食の記憶。それを返さずにいることも出来た。
けれど、それでは本当の意味で鬼の本能に打ち勝つことにはならない。
記憶を奪ったところで、記憶というものは情報だ。なかったものは、新しく覚えることでまた記憶となる。
目の前で炭治郎が食事をとるのを見れば、禰豆子は食べるということを覚える。何がきっかけで“人を食べる”鬼の本能が動き出すかわからない状態の方が危険だ。
だから、ラシードはこうやって、禰豆子の理性を鍛える為に毎晩付き合っていた。
足がほとんど止まってしまった禰豆子に合わせて、猟師の家の前でラシードも足を止める。
じっと、よだれを垂らして人家を見つめる禰豆子。
その様子を、ラシードはただ静かに見つめた。
──数刻が経ち、禰豆子がふらふらと歩き出すまで、ずっと待つ。
そうやって七回目の夜を迎える頃には、禰豆子が足を止める回数は減っていた。鱗滝の家に帰るのも、夜明けギリギリではなくなる。
余裕を持って辿り着き、炭治郎の寝ている布団の中に禰豆子が潜り込んでいくのを見守るまでが、ラシードの仕事だった。
「……禰豆子に何が起きているのか、わかっているのか」
「ぜーんぜん! でも、ティアの言ってたのは当たってるな。預かってる最中、無惨は時々見てたから」
禰豆子の食の記憶を持っていたラシードは、とある山の中で何者かの目を感じ取っていた。といっても、擬似的に禰豆子と同化したような状況であり、ラシードの目を通して何者かが目の前のものを見ているのを把握した程度だが。
「炭治郎の家で試してみたから、向こうさんもネズの異変には気づいてないよ。一応、偽造もしてネズは狩られたと錯覚できるようにもしたから、上弦や本人とかち合わなければ誤魔化せると思う」
雲取山でやることをやってから、そのまま東に移動して伊之助と出会うことになった。
伊之助とは、結局彼が最終選別に向かうまで仕事の合間に鍛錬に付き合っていた。彼に合うと思っていた風の呼吸。それをそっくり体得してしまうのかと思えば、完全なる我流で獣の呼吸だとかいうのを編み出してしまう辺り天才的な素質であろう。
鱗滝に紹介しようかなーと思ってはいたけど、恐らく水の呼吸だと伊之助は才能を開花できなかったかもしれない。
「たまには、布団でお前も休め」
終始、横になったまま話していた鱗滝に、並べて用意された布団をぺんぺんと叩かれて促される。何やらむずがゆい気持ちを背中に感じながらラシードは潜り込んだ。
「たまにはいいな。オヤジと並んで寝るの」
「今世、やっと使ってもらえて報われた」
返す言葉が見つからず、ラシードは天井を見上げた。少しだけ──必死で考えたが、やはり何も思い浮かばず、困って首を傾ける。
鱗滝は安らかに寝息を立てていた。報われたという気持ちのまま、どこか安心したような顔だ。
先日ティアが言っていたことを思い出す。けれど、鱗滝の元を去ることを決めて、彼にそれを強いたのはラシードの一世代前の存在だ。
必要なことだったとしても、その時の彼らの決断だった。
「前の俺は、随分罪作りだな」
口の中で転がすようにぼやいて、目を閉じる。
炭治郎の為の日輪刀が届き、続いて初めての任務が下った。
出立の日、ラシードもまた、それに同行することに決める。
「ラシードにも任務がそろそろくるんじゃないか?」
「来るかもしんないけど、まだ来てないし。いいっしょ」
なんちゃって鬼殺隊員であるラシードに任務なんて来ない。それがわかっている鱗滝も、ラシードの言葉に頷いていた。
よくわかっていない炭治郎は、そういうものなのかと納得してくれた。素直な奴でよかった。
炭治郎の鎹烏は、なんだこいつ、という目でラシードを見てきたが。
別に産屋敷に知らされても彼らだってどうこうできるものでも無いし。
「ただ、俺はお前の手伝いはしないよ。自分でまずはやってみな」
「もちろん! あ、でもできたら稽古はこれまで通りつけてもらいたいな」
その任務にひと段落ついたらなー、とデコピンする。
毎晩少女が行方不明になっているならば、早急に対処すべきだ。三日待っても解決できなかったら手を出そう。
「それじゃあオヤジ。元気でな」
「ああ、二人のことを頼む。それと、禰豆子の事を改めて、包み隠さず報告しようと思う」
炭治郎が身支度を整えている間に、別れの挨拶を交わす。
鱗滝から決意を明かされ、ラシードはこくりと頷いた。
「それなら、俺のことも──」
「それは私の領分の話ではないな。お前はもう、右京ではない」
「こんの石頭っ」
ラシードのことも添えてしまえば、もしもの時の保険になるのに。
まあ確かに、右京と右京だったものでは立場は違う。外見は一緒なのにこの点はややこしい。
ふう、と息をついて、天狗面を見上げた。
随分としわくちゃになったものだ。
「どうせ義勇もおんなじこと考えてんだろうな。お前ら二人の墓なんかまだ掘りたくないからさ。その辺りは何が何でも回避してやるよ」
「それが聞けただけでも儲けものだな!」
途端に、嬉しそうな匂いをして鱗滝が笑い出すから、どうしたのかと炭治郎が驚いて飛び出してきた。
この男──ラシードが無惨にちょっかいを出しに行くことを読んでいたのだろう。そして、きっと以前のように食われて死ぬんだと。
それを阻止してきやがった。相変わらず食えない狐野郎だ。