第1章 オニの妹。(全18話)
夢小説設定
この章の夢小説設定男女主人公にて展開しますが、
別に男の子でも女の子でも好きにお読みください。
両者ともに来日した異国人です。
炭治郎たちと肩を並べて戦えるスタイルではない、
予定(それはほかのサイト様に任せたいな)
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第17話 旅立ち、そして。
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「──もう、よいのですか」
無言で鱗滝が出て行って、少し後。
山を眺めていたティアが問いかけると、少し強めの風が吹く。
炭治郎は、今日までずっと兄弟子たちに稽古をつけてもらっていた。
彼らは最終選別で命を落とした子供たちだ。鱗滝のことを慕っている。
そんな彼らは、鱗滝に会わないことを条件に、ティアに助けを求めた。とはいっても、事後承諾だったが。
風が吹き抜けて──花の匂いがふわりと、舞った気がした。
「ティアの顔色、なんか良くなったね」
帰ってきた炭治郎は、どこか精悍な雰囲気を纏わせていた。
毎日顔を合わせていたはずなのだが、急に大人びたような感じでティアはどぎまぎしてしまう。
豪華な夕餉の後、鱗滝は炭治郎に鬼について説明を始める。
人を食べた分だけ、鬼は強くなること。体が変化し、不可思議な力を使うこと。
「体が変化──禰豆子が大人の女の人になったり、小さくなったりしたのがそうなのかな?」
「他人に化けたりするんですよ。例えば大人の姿で蹲っているより、可愛らしい子供だとか弱々しいご老婆の方が、助けたくなるものでしょう?」
散髪を終えた炭治郎が、禰豆子の様子を見に部屋に入ってきた。
彼の疑問に答えながら、ティアは眠る禰豆子をじっと覗き込む少年を見据える。
眠ったままの彼女を連れて最終選別に行くことなど出来ない。
不安そうな顔の炭治郎は、目を覚まさない妹のことを置いて行かねばならないことに納得しながらも、踏ん切りがつかないのだ。
「あなたがわかっているように、禰豆子さんは他の鬼とはきっと違いますよ──起きたら、ちゃんと褒めてあげて下さいね」
背中を押すような言葉しか送ることの出来ない自分に落ち込んでしまう。
ここ半年ほど、憑かれながら色々調べたのだが、監視するような目は日を追うごとに頻度を無くし、この数日は音沙汰がなかった。
監視から外れたならば朗報だが、その辺りの仕組みについてティアも鱗滝も詳しくはない。下手なことはまだ、炭治郎には黙っておくしかなかった。
「禰豆子のこと、いつも面倒見てくれてありがとう。俺が戻るまで、頼みます」
泣きそうな顔で、大きく頷いて返してくれた言葉は力強かった。
そうして炭治郎は、最終選別の行われる藤襲山へ向けて、旅立って行く。
「お前に憑いていたのは、あの子達だったのか」
並んで見送っていたティアに、静かな問いかけ。
その質問に答えることは、ルール違反だった。ティアは何も言わず、肯定も否定もしない。
旅立つ炭治郎が残した兄弟子たちの存在を示す言葉。
事実を知らない少年だけが、ルール外にあって唯一口に出すことが許された存在だったから。
「炭治郎くんもラシードも、鱗滝さんのこと大好きなんです。私だって負けてないですから、そこのところお忘れなく!」
ちょっとした対抗心で声を張り上げて、でも恥ずかしさから顔が赤くなっているのも自覚したティアは、お部屋のお掃除してきます! と踵を返した。
その場を動くことのない鱗滝を振り返らずに。
からからと戸を開け、暗闇に支配されていた室内に足を踏み入れると、上半身を起こした禰豆子と目が合った。
なんという入れ違い。いや、どちらにしろ連れて行けなかったろうから良かったのかもしれないが。
まじまじと見上げられて、ティアは思わず鱗滝を呼んだ。呼ばなくても良かったのだろうが、なんか呼びたくなったのだ。
「はじめまして、禰豆子さん。わたし、ティアっていいます。あなたのお兄ちゃんの、お友達。──で、こちらが鱗滝さん。お兄ちゃんの先生です!」
自己紹介のあと、入ってきた天狗面のことも紹介する。
わかっているのかいないのか、禰豆子は幼子のような反応だ。けれども敵意は感じられない。
「体痛いところはないですか? とりあえず診察しましょうねー」
はい、バンザーイと促すと、いう通りに動いてくれる。鱗滝に手伝ってもらって色々調べてみたが健康体だ。床擦れとかもない。当たり前だが。
一応、時々体勢も変えていたし。
それからは、夜型生活になった。心配してはいないのだが禰豆子の観察が主だった理由だ。時々寝ている最中にごにょごにょ二人の枕元で鱗滝が何か言っていたが、ティアにはよくわからなかった。
「まるで姉妹みたいだよなぁ」
何度目かの夕暮れを迎えようという頃合。起きたらラシードがいた。スーツを着ているから、恐らく本業の仕事からの帰りにそのまま寄ったのだろう。
「むー、むー!」
「ひっさしぶりだな〜ネズ! おーなんか成長し過ぎてね?」
そろそろ、最終選別も終わる頃か。そこから戻ってくる期間を考えるともう数日はかかるかもしれない。
禰豆子──炭治郎とは年子だという──を軽々と持ち上げて高い高いしているラシードを放って、ティアは荷物だらけの室内に唖然とした。
こんなに持ち込んで何をしたいのか。
「宴会でもしないとダメなる量の食材……」
「日持ちするもの以外は配らないと不味いな。夕飯時も急がねば過ぎてしまう」
炭治郎にも帰ってきて沢山食わせてやりたいじゃんケチー、と不満を垂れるラシードも部屋から引きずり出し、鱗滝と二人で麓の集落へ走ってもらう。
その間、ティアと禰豆子で留守番しながら、荷物の整理と夕餉の支度をした。
戻ってきたラシードから、善逸もこの度の最終選別に参加していることを知らされる。
雷に打たれた話を聞いた時は泣きそうになったものだが、障害なども残らず済んだようなので安心し、逆に涙腺が決壊した。
禰豆子に励まされながら寝て、夜が明けたら、鎹烏がやってきて──無情にも炭治郎を迎えるより前に、ティアはここを離れなければ成らなくなって。
「お前の見解は、必ず炭治郎に伝えておく。道中、気をつけてな」
「慌ただしくてすみません──禰豆子ちゃん、また会いましょう!」
布団の中から伺ってきていた禰豆子に手を差し伸べると、日が当たらないように位置を調整しながら指先をしっかり握ってくれた。
「むーむー!」と元気付けてくれる少女を、布団の上から撫でてやる。
「今は恋柱なんているんだなぁ、どんな技なんだろ」
「蜜璃ちゃんは可愛らしい女の子ですよ。杏寿郎の元継子です」
「あいつの継子続けられるやついたんだなぁ」
見送りがてら町の外れまで付いてきてくれたラシードがからからと笑った。
鬼殺隊のフリをしてふらふら活動している彼は、普通に隊員との交流もしている。