第1章 オニの妹。(全18話)
夢小説設定
この章の夢小説設定男女主人公にて展開しますが、
別に男の子でも女の子でも好きにお読みください。
両者ともに来日した異国人です。
炭治郎たちと肩を並べて戦えるスタイルではない、
予定(それはほかのサイト様に任せたいな)
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第16話 雷の申し子。
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「──なんだこいつ、ボロボロじゃん」
金髪の少年の胸元を懸命に押している老人の背後でラシードは呟く。
そろそろ雨も降って来そうだ。
「おお、これは良いところに! 今しがた雷に打たれたのです、まだ措置を続けねばなりませぬ!」
訴えられて、ぷすぷす煙を発している古木を見上げる。木に雷が落ちた──ではなく、少年に落ちて木が燃えた模様。
雷に打たれても、呼吸の介助をしてやったりすれば蘇生することもあるから諦める必要はない。見たところ火傷などの外傷はないようだから、雷はまっすぐ抜けたのだろう。
臓腑がびっくりして、動きを止めているだろうけど。
胸に体重をかけて圧迫し、肺と心臓を刺激し続けること四半刻。
なんとか自発呼吸を始めてくれた少年を抱えて、桑島と共に屋敷に戻る。
改めて衣服を全て取っ払い、異常はないか確認した。
落雷の直撃を受けたとあっては、記憶だけでなく身体障害が起きる可能性がある。最悪人格だって変わるし。
「見たところ問題なさそうだな。あとは起きてみて、男として大事な機能に支障きたしてないかとか、耳を始め神経とか、探ってみないと」
「雷に打たれたご経験が?」
「あるけどそん時は付いてなかったから。聞いた話な」
布団をかぶせて、眼を覚ますまでは呼吸が再び止まったりしないか見ておかないと。
ホッとしたのか完全に脱力している桑島に、ラシードは休むよういった。
「何か私に用件があってこちらへ来たのではないのですか」
「様子見に来るのに理由なんているもんか。いやあ、タイミングは良かったみたいだけどなぁ!」
あははと笑ってやると、桑島は困ったように笑った。
そして、お言葉に甘えて──と布団を少年の隣に二つ並べて、本当に眠ってしまう。素直な良い子は育つものだ。もうジジイだが。
本業に戻る前に立ち寄ってみたのだが、まさかこんな大騒動に出くわすとは。人間生きてみるものである。
一晩経って眼を覚ました少年──善逸は、驚くべきことに雷に打たれたことも覚えていた。男としての機能も問題ないようだし、桑島から聞いていた優れた聴力への影響もなく。
本当にどこにも、異常がなかった。
雷の呼吸は彼の体に合っていたのだろう。
強靭な肉体であったが故に、凌げたのかもしれないし、たまたま奇跡的なものだったのかもしれない。
「もしかして、ティアと一緒にいた期間が長かったからかなぁ」
「うーむ。確かに、それも一理ありそうだな」
大体の超常現象の原因の名前を出されると酷く納得できる。
ラシードは考えるのをやめた。
「髪の色が変わったところも、まあティアっぽいもんな」
「あんたも彼女と同じような体質なんじゃないの? 似た音が……」
興味を向けて来た善逸の表情が強張る。
桑島が押し黙り、ラシードは感心しながら反応を見守った。
嗅覚で感情や正体を察知できるのだから、聴覚でも同じようなことはできるのだろう。
なるほど、桑島はよい拾い物をした。
というより、炭治郎にしても伊之助にしても、今後が楽しみな恵まれた世代だ。
その才能が早々に摘み取られないよう、今後は動いてやる必要がありそうだ。
「いや……うん、ティアと同じ音がするから、あんたも神様に力を貸してもらったり出来るんだろ?」
「俺はちょっと違うな」
強張っていた表情はなりを潜めて、心底不思議そうな様子で善逸が尋ねてくる。桑島も緊張を解いているところを見ると、善逸もまた、考え方が柔軟なのだろう。
ティアは戦う力がないと自分を決めつけているが、彼女がその力を猛然と駆使すれば戦力的には申し分ない。
申し分ないのだけれど、そうしたならば彼女自身に負荷は返っていく。そうして潰れていくのがティアの背負った力の本質だった。
対して、ラシードは一個体に終始する為、他人に大きく影響を及ぼすような能力や特性を持たない。
「俺は日記帳が人の皮を被って歩いてるようなもんだからさ」
「日記帳? なんだよ、なぞなぞか?」
意味わかんない、と首をかしげる善逸。
その隣で、どうなっても知りませんぞ、と一言肩を落としながらぼやいた桑島が続ける。「その人はな、少なくとも二世代前辺りに私のお師匠だった方だ」
目をぱちくりさせた善逸が、老人と、初対面の少年を見比べる。
この二人が師弟? と言いたげに。
けれども、桑島が過去形で言い放った一言が大きかったのか、一気に青ざめて悲鳴をあげた。
「イヤアアアァアッ死んで生まれ変わって出て来たってこと?! 輪廻転生ってマジであったの?! てか前世の記憶って持ってられるもの?」
「なんだこいつ、すっげーピンピンしてんな」
「自己評価が残念なくらい低いのですが、実際打たれ強い子です」
真っ青になってひいひい言いながら這って逃げようとする少年の首に、投げ縄の要領で足止めをした桑島が苦笑いする。
頬杖をついて、ふうん、と眺めていたラシードは、よいしょと声に出して立ち上がった。
「慈悟郎、悪いけど数日こいつ貸してよ。本業の手助けして貰うからさ〜」
「最終選別に出したいと思っているので、ある程度であれば」
「大丈夫大丈夫、長くて二週間程度だから!」
イヤアアアァアお化けえええっと叫ぶ善逸を麻袋に頭から突っ込んで、軽々と背負ったラシードは桑島に見送られて、いざ麹町へと向かうのだった──。