第1章 オニの妹。(全18話)
夢小説設定
この章の夢小説設定男女主人公にて展開しますが、
別に男の子でも女の子でも好きにお読みください。
両者ともに来日した異国人です。
炭治郎たちと肩を並べて戦えるスタイルではない、
予定(それはほかのサイト様に任せたいな)
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第14話 月日は流れ。
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「──相変わらず、ここの空気は薄いですねぇ」
ティアが感嘆のため息をつくと、鱗滝がうん、と頷いた。
狭霧山に来るのは、一年と半年が過ぎようかという頃だった。久々になんの気兼ねもなく羽を伸ばせるのも随分とご無沙汰だ。
桑島と善逸との三峯詣では簡単には終えられなかった。
珍しいことにティアの仕事が道中で多発。二人には助力を請うような形になってしまい、善逸の鬼殺の剣士としての修行は随分と遅れてしまったのだ。
その後は、産屋敷からの依頼で保護した瀕死の少年の介護。全快した後は体力が戻るまで彼を連れて行動して欲しいと頼まれた。
そうして過ごして気づいたら──こんなに時間が経過していた。
「お弟子さんの様子はどうですか? 桑島さんのところの子は、頑張り屋さんでとても優しい子でした!」
「炭治郎も優しい子だ。鬼にも同情心を見せているくらいにな」
義勇からの手紙を見ていたティアは、口をつぐむ。
確か、少年の妹が鬼になってしまっているのだ。義勇はその兄妹に何かを感じて、首を切ったりせずに鱗滝に預けた。
あ、とティアは相棒のことを思い出す。かれこれ、あれ以来ラシードとも会えていない。
「ラシードは、その炭治郎くん? とは会いましたか?」
「ああ、右京も認めている……お館様は、静観なされているようだな」
産屋敷の家では何も言われなかった。
まあ、もとよりそれ以前からラシードの件を黙っている鱗滝や桑島だから、こんなこと程度では気にしないのだろうが。
「その様子では、右京とも会っていないのか。あやつも本業の仕事があるだろうに」
「まあ、あの人の場合は人材育成上手いですから、最悪数年くらい不在にしていても皆さんがなんとかやってくれますよ」
困ったものだ──と肩を落とす天狗面。
二人は狭霧山の頂上から、ゆっくりと降りた。途中で剣戟が聞こえてくるから、ティアは足を止める。
自主稽古か、頑張っているなぁ。
「お邪魔してしまいましたね、一人で降りられますから行ってあげてください」
「あの子には教えるべきことは全てやった。あとは、自身で乗り越えられるかどうかの過程にある」
善逸と違い、炭治郎という少年は修行から逃げ出すとかいうことはないのだろう。その辺りの違いだけでこうも対応が変わるのだなぁ、と感心しながら、ティアは鱗滝に続いて山を下る。
そして、自分が簡単な下処理だけしていた熊の毛皮に気づいて、自分の頑張りが目に見えて役立っているのを目にして心が踊った。
鱗滝が畑から山菜を採ってくる間に、てきぱきと夕食の準備を進める。
「──はじめまして。竈門炭治郎です」
泥だらけになって帰ってきた少年は、人懐っこい笑顔を向けてくれた。
ちょうど井戸のそばにいたティアは、用意していた手ぬぐいを濡らして、差し出してやる。
「義勇くんの紹介の方ですね。はじめまして、わたしはティアと申します」
「ああ! あなたがラシードの言っていた祓の方ですか!」
驚いた。ラシードは、そこまで話していたのか。
目を丸くしたティアにすぐ気づいたのか、炭治郎が照れ臭そうに自身の鼻を指して。
熊の毛皮に、ラシード以外の優しい匂いがした。それを尋ねたら、ティアのことを教えてくれたのだという。
ティアは神様──というよりは、森とか川とかの概念と交信できる能力がある。だから、人に良くない概念にも干渉が出来る。
彼女の能力を知る者は、祓だとか聖なる力だとか、そんな呼び方をしてくれるのだが、日本国内でいうところ、そのうちのほんの一握りはティア自身が振りまいてしまったものであることも事実。
だから、聖なる力と言われるよりは祓と言われる方が気が楽だった。
「炭治郎。汗を流したら入ってこい、ティアは先に夕餉を頂きなさい」
「あ……そうですよね、すみません思い至りませんでしたっ」
鱗滝に声をかけられて、自分だけ異性なのだと気づいたティアは気遣いに照れてしまう。着替えとか別に気にしないが、本当に気にしないかといえばそんなことはない。恥ずかしい。
恐縮しながら食べ始め──自分で作ったが鱗滝の作った野菜はやっぱり美味しい──充足感に舌鼓を打っていると、炭治郎もさっぱりした様子で向かいの席に着く。
「いただきます。今日はティアさんが作ってくださったんですね、ありがとうございます!」
礼を言われてびっくりしたティアに、鱗滝がすかさず説明する。そういえば、炭治郎は毛皮から彼女の匂いを察知していた。
味付けは味覚だけでなく、嗅覚でもわかるのか──と改めて認識すると深く納得してしまう。
「すみません、炭治郎くん。わたし、しばらくこちらに滞在させて貰うのですが」
「自分は居候の身なのでお気になさらずに。──あ、寝床が」
静かに談笑しながら夕餉を終えたところで断りを入れると、炭治郎がハッと思い至った様子。ティア自身は別にどこでも休むことができるのだが、なんとなくこの少年はそういうことを許してくれなそうだ。
なので、慌てて付け加える。「許していただけるならば、妹さんの隣で寝起きしても宜しいでしょうか?」びっくりした顔で、少年はティアを凝視してきた。
「え……っと、あの、俺の妹は──」
「ティアも義勇からの手紙を読んで以前から知っている。それに、禰豆子に何が起きているのか、彼女ならばわかるかもしれん」
びくっと体を震わせて、炭治郎は鱗滝とティアを交互に見やった。
炭治郎の妹が目を覚まさないことは、下山の際に聞いていた。ティアは医師としての職業を持ってもいるが、それは体質のせいで必要だったから身につけた知識でもあった。
──他人の病気や不安といった消極的なモノは、ティアの体質にとって好物だったから。