第1章 オニの妹。(全18話)
夢小説設定
この章の夢小説設定男女主人公にて展開しますが、
別に男の子でも女の子でも好きにお読みください。
両者ともに来日した異国人です。
炭治郎たちと肩を並べて戦えるスタイルではない、
予定(それはほかのサイト様に任せたいな)
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第13話 見取り稽古。
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「人殺し! 悪い奴はどっか行け! 捕まって流されろ!」
「人食いに言われたかないわ!」
ひどい言われようにラシードは思わず言い返した。そして、肺に空気を引き入れる。
「風の呼吸、弐の型──爪々・科戸風」
雲霧を吹き払うが如く、風の爪で引き裂くような技。驚愕の表情でその場に蹲る老婆をすれすれで避ける形となったが、ラシードはそのまま刀を鞘に収めた。
戦意喪失しているし、むやみに痛めつけるのは可哀想だ。
砂埃の中で、頭を抱えて蹲っていたのは──幼い幼女だった。恐れのせいで老婆の変化が解けたのだろう。本人にその自覚があるのかは不明だが。
「お前、どっから来た。俺は西から来たんだが」
「わかんないっお婆ちゃんたちがいなくなっちゃったんだもん、ひとりぼっちなんだもん!」
記憶が混濁しているようだが、言葉遣いや態度からして子供だ。寂しさから姿形が老婆に変わり、家族の影を探しながら彷徨って、人を食らいながらここまで来た。
逃げて来たというよりは、たまたま、鬼狩りにも会わずにたどり着いただけのようだ。知識が乏しいのが、こういう結果を招いたのか。
「お婆ちゃんは目が見えないから、一緒にいなきゃなのに……お前、お前がお婆ちゃんのこと殺したのか!?」
突然の敵意に、ラシードは目を丸くした。
もしかして、老婆も鬼になっていて、はぐれたのか。それにしては、恋慕の情が強いように思える。はぐれたというよりは、先に鬼化した老婆を追って来た──というのが正解か。
けれど、そんな鬼は切っていない。老婆は別のところにいるか、別の鬼狩りに狩られたか。
雄叫びをあげながら襲いかかってくる子鬼は、激情に支配された苛烈な顔をしていた。鋭い爪が容赦なく迫ってくる。
それでも、ラシードは両手をだらりと下げたまま。
「俺様にもお前と同じことが出来るんだからなぁ‼︎」
頭上からの咆哮に、子鬼がビックリしたようにその場で固まった。
刃こぼれだらけの刀を振りかざし、伊之助が腕をブンブン振り回す。柔軟な筋肉がよくしなり、斬撃が子鬼を細切れにしていく。
離れたところからでも、ラシードの繰り出した技を見て感じ取ったのだろう。見取り稽古で我流にしてはよく出来ていた。
下手なことはせずに好きにやらせておいた方が伊之助は伸びそうだ。
「見ろや! 俺にだって刀は扱えるんだぜ!」
「最初に言ったの根に持ってんのか……」
初対面の頃に、馬鹿にしたわけではないが刀を返してもらおうとした下りでそんなことを言った気がする。
えっへん、と胸を張る様子に苦笑いしながら、ラシードは指差した。
「鬼の急所は首だ。首を切らなければ、そうやって再生する」
伊之助が振り返ると、まだ身動きの取れない状況で固まった子鬼が青ざめていた。
普通ならば、鬼に身内を殺されたりでもしていなければ、ここで躊躇するのかもしれない。
けれども、伊之助はぶんと刀を振って、子鬼の首を凪いでいた。「たかはるのガキの夜泣きが落ち着いたってのに、騒がしくすんじゃねえ!」
お前の方がうるせえよ、とぼやきつつ、ラシードは骨も残さず霧散していく子鬼の額に手をやった。
やはり老婆も鬼になっていて、匂いをたどって追いかけて来たのだとわかる。布田の天神に毎年お参りしていたようだから、山は不慣れだったろう。
「本当に首を切ったら死ぬんだな」
跡形もなく消えた鬼の、着物だけ転がっている光景に驚いたようだ。伊之助は薄汚れた着物を掴んで、ひらひらと揺らしてみせる。
「骨もなんも残らないんだよ。包丁やただの斧で切ってもこうはならない。お前や俺の持ってる日輪刀でない限り再生しちまうんだ」
あとは、陽の光に弱いことを告げる。伊之助は、ふうん、とだけ言って刀をブンブン振って突き出して来た。
「お前のさっきの技、面白いな! 他にもあんだろ、見せろ!」
「ほんとお前育てんの楽だわー」
子鬼の着物を丁寧に畳んで、ラシードははしゃぐように騒ぎ立てる伊之助に続いた。
その煩さに人家から青年が飛び出して来て、子供の泣き声が響き渡る。
けれども、青年はラシードの抱えた着物を見て、表情を変えた。
もしかすると、彼は鬼が出ることを知っていたのかもしれない。
「たかはる、うっせえぞ!!」
「お前の方が煩いわっ!」
すぐ様伊之助に食ってかかったが、恐ろしいものがすぐそばまで来ていた事実と、それが消えた事実とで心穏やかではないだろう。
奥に見える女と子供の存在があるから、青年は目に見えて取り乱さずにすんだか。
「奥さん、ちょっとその童貸してごらん」
なかなか泣き止まない子供が、真っ赤になって声を枯らしている。尋常ではない様子におろおろしている奥方に声をかけ、ラシードは小脇に着物を抱えたまま赤子を受け取った。
手慣れた様子で抱え直し、庭先をゆったりとうろつくうちに、ぴたり、と泣き声がやむ。親の不安が伝播した結果だから、それを打ち消すくらい“ここは安心できる場所だ”と呼吸で分からせてやればいい。
ポカンとしている若夫婦にそれを告げると、二人は恥ずかしそうにぺこぺこ頭を下げて。
いくつか助言をしてやって、伊之助とともにそこを後にする。
子供が泣き止んだ時から、少年はなぜか大人しくなっていた。
「どうした、伊之助。疲れたか?」
「お前、すげえやつだな」
「は? なんだよ急に」
訝しんで尋ねてみたものの、猪頭の表情はわからない。
とりあえず付いてくるし、不満というわけではないようだ。日々の追いかけっこで手抜き──伊之助に合わせていた──していたことに関しても文句を言ってくる様子はない。
はて、と首を傾げながら、ラシードは元いた伊之助の寝床に向けて歩を進めるのだった──。