第1章 オニの妹。(全18話)
夢小説設定
この章の夢小説設定男女主人公にて展開しますが、
別に男の子でも女の子でも好きにお読みください。
両者ともに来日した異国人です。
炭治郎たちと肩を並べて戦えるスタイルではない、
予定(それはほかのサイト様に任せたいな)
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第12話 機能停止
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「司掌の方の夢枕で伝えて下さるそうですから、追い出されたり無碍に扱われることはないと思います」
白髭の社を管理する人間への伝達も問題ないから、ティアは社殿の中へ二人を導いた。錠は既に“厚意”で解かれており、入室も簡単に済んでしまう。
「この辺りに藤の紋の屋敷はないからな。明朝、川で身を清めねば」
隅の方の板間に腰を下ろした桑島が、へたり込んだ善逸の頭を撫でながらティアを見上げた。
すると、耳元でこの地の主が返答してくれたので、伝える。
「もう少し西に行った方に温泉があるそうです。今はとにかく休んで、明日行きなさいって」
「おんせん……て、なに?」
町育ちの善逸が、既に横になりながら虚ろな目で問うてくる。
銭湯はわかっても、温泉のことは知らないのかもしれない。
「地中から湯が湧き出ている場所があってな。ちょうど川の水も引き入れて程よい温度にした風呂だと思えばいい」
「焚かなくてもお風呂、入れるんだ……すごいなぁ……」
それっきり、善逸は懇々と眠り込んでしまった。これまでの野営では、ちょっとしたことで目を覚ましていたが。桑島が先ほど、耳がどうとか言っていたから、聴力が優れていたのかもしれない。
ここには完全に危険はないとわかったから、完全なる無防備な眠りに身を委ねたのだろう。
眠りは体の機能を必要最低限に引き下げる。人間は活動し続ける限り、どこかしらが機能し続けるものだが、起きている時とそう出ない時の機能稼働の差は違うのだ。
「では、我々もここの主の厚意に甘えて、休むとしようか」
「はい! あ、そのまえに──」
桑島も身を横たえかけたところで、ティアが慌てて扉を開けた。すると、ぬっと獣が数匹入ってきて、さすがの老人もギョッと目を剥く。
大きな狼たちだが、獣臭がしない。ちょうど水に入って清めてきたような、無臭──とまではいかないが、小綺麗だった。
ぱたぱたと尾を振った獣たちに囲まれながら、ティアがにこにこする。
「こんなこともあろうかと、暖をとるのに準備してくれてたそうです」
三峯まで行くことも行き渡り済みらしく、いつでもどこでも頼れ! との大歓迎っぷり。もちろん、修行の一環だというのもわかっているから山の怖さなどこれまで通りに手を抜くことはない。
──とはいうが、いざとなったらティアのことは守るのだろうなぁ、と思いながら、桑島は困ったように神前に頭を下げるのだった──。
「──悪い伊之助、これ不味いわ」
何も口にしていないのにそんなことを言われた猪頭が、わけがわからないとばかりに首を傾げた。
月明かりの下、毎日恒例の追いかけっこの途中、突然立ち止まったかと思えば、ラシードは動かなくなった。
その機会を逃さず捕まえて仕舞えばよかったろうに、伊之助はそうしなかった。その様子に、ラシードは思わず苦笑いする。
「悪い。仕事だ、ちょっと勝負はお預けな!」
「仕事ってなんだ? なんでわかった?」
辺りをキョロキョロしながら、ラシードが何をもって仕事が入ったと言い出したのか──そのきっかけを探る。けれども、伊之助にはそれがわからないようだ。
「鬼が山に入ってきたからな」
「なに? 入ってきたのがわかるのか! 俺にもやり方、教えろ!」
鼻息荒く、伊之助が身を乗り出す。
まあ、本気で走れば人に襲いかかる前に助けに入れるし、そのくらいの時間はいいか。
ラシードは伊之助に向き直る。
「お前はこの山のことならなんでも知ってるだろ。どれがなんの気配だとか、わかるか?」
「兄弟の位置とか、たかはるとか、わかるぜ!」
たかはる? 思わず首を傾げかけたラシードは、どこか納得して頷く。なんだ、こいつ、もうほとんど出来てんじゃん。楽だわー。
「たかはるの側に、何がいる?」
「ああ? ジジイは死んだから、いるなら──」
ぴたり、と伊之助が固まった。途端に、彼の全身に鳥肌がたつのが見て取れる。
鬼の気配がどこにあるのかわかっただけでなく、初めての気配に衝撃を受けたのだろう。
「先に行く。お前、鬼のこと斬ってみろ」
それだけ言って、ラシードは急いで移動を開始した。遅れて伊之助が動き出したが、速度が違いすぎる。
これで手を抜いていたことがバレてしまったわけだが、文句は後で聞くとする。
もとからこの山の人間の気配は少ないから、何かあったら守ってやらねばとは思っていたが、思いのほか早かった。この山へ辿り着くまでの間鬼は狩って来たから、別のところから流れてきたのだろう。
鬼狩りに見つからぬよう、山の中をずっと進んで、猟師などを食って来たのか。
もしかすると伊之助には荷が重いかもしれない。痛めつけすぎて飢餓状態に拍車がかかったら危険か。足止め程度に相手をして待とう。
人家の庭を駆け抜け、ラシードは刀を抜いた。
老婆の鬼が泡を食ったように飛び退いて剣閃を避け、来た道を引き返す。
そんなに腹が減っている様子はない。というよりも、ここに来るまでの間に人家の気配が数戸あったから、下見のつもりだったか。
「なあ、ばあちゃん。痛くしないから首斬られてくれない?」
「やだ! 私、もっと食べたい!」
外見は老婆なのに、声は幼女だ。
変化しているのか、それとも──無意識にその姿に成り代わったのか。
考えても仕方ないか、とラシードは再び刀を振った。老婆の結った髪だけが切り落とされ、鬼の表情に怖れが宿る。
それはそうだろう、首を狙われたのだから。