第1章 オニの妹。(全18話)
夢小説設定
この章の夢小説設定男女主人公にて展開しますが、
別に男の子でも女の子でも好きにお読みください。
両者ともに来日した異国人です。
炭治郎たちと肩を並べて戦えるスタイルではない、
予定(それはほかのサイト様に任せたいな)
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第11話 思いの体現
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三峯詣での為に登山をすると言っても、まずはそこまで歩いていかねばならない。
平坦な道ばかりでは修行にならない──ということで、桑島の先導の元、ティアと善逸は山を登っては降り、谷を越え、崖を越え、着々と前に進んでいた。
「善逸くん、大丈夫ですか? 意識ありますか?」
最初は騒がしくしていた少年は、疲労困憊というのもあって口数が減っていた。山道にも慣れていないからか、転んだり転げ落ちたりひっくり返ったりとあちこち体も痛めている。
その度にティアが手当てするのだが、いよいよ本格的な休息が必要そうだ。
「白髭の社でしばし休むとしよう。善逸、辛抱だぞ!」
大きな壁のような岩のあるお社だ。日が暮れるまでには着けるだろう。
無言で頷く善逸を気にかけながら、ティアは桑島に駆け寄る。
「そろそろ、数日程度休息してはどうですか?」
桑島が唸った。
試練と言えば試練だが──彼にしてみても予想外だった。善逸は泣き言を喚きながらも、そろそろ休もう、との一言だけは自ら決して言わなかったのだ。
恐らくは、山の中で休むことをよしと思わなかったのだろう。獣に襲われたら、自分だけでなくティアや桑島にも危険が迫る。更に、この場で危機察知能力に秀でているのは桑島で、戦力も彼だけだから。
負担をかけたくなかったのだ。
「頑張りを見ていると、ついな。つい、もう少しもう少し──と限界を見たくなってしまうのは私の悪い癖だな」
「というか、善逸くんが的確な判断と行動が出来るってわかって、実は嬉しいんでしょう?」
善逸は殊に危機的状況においては、とにかく判断が早い。基本的に自己評価が低いことからくる後ろ向きな理由が大部分を占めるのだが、その決断が悪い方に転ぶことは無さそうだ。
まず、他人を見捨てない。彼はこの先、自分一人だけ逃げる──そんな態度は取れないだろう。踏み出すのは遅いだろうが、見捨てることはできない。
そして、自分以外の人間への気遣いが出来る。善逸は今、本当にボロボロだ。これまで街で過ごしていた孤児の少年は、逞しく生きてきただろう。
けれども今いるのは山奥で、山道で。空気も薄かったり、足場が悪かったりする。怪我だってしていた。体力だって限界だ。
それでも、桑島とティアのことを第一に考えている──辛抱強くて意地らしいのだ。
「どうして俺、こんなに情けないんだろ」
足の歩幅を狭め少年に並ぶ頃、ふらふらになりながら発せられた言葉。
それを聞いて、ティアは善逸の冷たくなった手を握った。
「それでは、今のところ余裕のある私があなたに追い抜かれるまでは、こうして手を引いてあげなきゃですね!」
びっくりして顔を上げた少年は、だがそれ以上反応できるほど体力も残っていないのだろう。何も言わずにまた俯いてしまった。
けれども、冷え切った掌で握り返してくれる。
そして夕暮れ時になって社まで辿り着き、境内の隅で野営の準備に入った。既に人気はなく、管理している人間の姿も見えない。
明日の朝早いうちにここを離れて、どこか落ち着けるところを探さなければ。
「では、ここからはティアに本領を発揮してもらうとするか」
「本領?」
木の幹にもたれかかって今にも失神しそうな善逸が、興味をなんとか示してくる。
桑島に促されたティアは、ちょっと照れながら神木にそっと触れた。
ティアには戦う力はないのだが、知らずのうちに“みんなが助けてくれる”。寒いと思う前には暖かいし、重いと思う前には軽くなる。獣に襲われたこともないし、毒物を食べても異常がない。
基本的に、“みんながティアには危害を加えないから”だ。
「隅っこの方だけでいいんです。少しの時間だけ、休ませてください」
途端に、善逸が勢いよく立ち上がった。両耳にそれぞれの手を添えて、困惑したように辺りをキョロキョロして。
それを見て驚くティアとは違い、桑島はにやりと笑って。
「お前の耳ならわかっただろう、変わったことを」
「う、うん……刺すような音がしなくなった。むしろ、歓迎するような暖かな──嬉しそうな音しかしない?」
すっかり気の抜けたような顔で、善逸がティアをマジマジと見る。
これは炎柱にも音柱にも、隠たちにも同様の反応をされた。桑島たちだってそうだ。幼い頃は無意識に無条件で恩恵を受けすぎて、鬼子だと騒がれてしまった。
けれども今は、必要最低限の恩恵で勘弁してもらっている。目の前で話している人と、同じ世界で生きたかったから。
「この辺りで鬼が出るから、それを退治してくれるならば好きなだけいていいそうです」
「こちらの領分の仕事か。善逸にも良い機会だ、わしが狩るのを見ているといい」
二人のそばまで駆け寄って伝えると、桑島が気合十分と刀を鳴らす。
善逸はというと、ティアのことを相変わらずぽかんと見つめて。
「ティアの髪の色、なんか……あ、夕焼けのせいかな……?」
指摘されて、ティアは自分の髪の毛を摘んだ。見慣れない色になっているから、恐らく目の色も変わっているだろう。
力を貸してもらっている間、ティアは相手の影響を強く受けて外見の色が変わる。昔はころころ人前で変わってしまっていたから気味悪がられることもあった。
今は、よっぽど強引な相手でない限りはそんなことは起きないが。
「それって、巫女みたいだな。神様に奉仕する女の人は、特別な力があるっていうし」
「神様は私たちの思いの形、力を体現するといいますから、確かにそうなのかもしれないですね。亡くなった方の思いが体現になって助けてくれることもあります」
みんなが気づいていないだけで、何処にでもそんなモノたちはいる。もちろん、いいことだけではないのだけど。悪いモノに関わると、悪いことが続く。そちらの方が目立ってしまうけれど。