第1章 オニの妹。(全18話)
夢小説設定
この章の夢小説設定男女主人公にて展開しますが、
別に男の子でも女の子でも好きにお読みください。
両者ともに来日した異国人です。
炭治郎たちと肩を並べて戦えるスタイルではない、
予定(それはほかのサイト様に任せたいな)
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第10話 猪頭と食欲と。
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「──お前なんか嫌いだ」
頭上からの声に、ラシードはふう、とため息をついた。
あんまりにも騒がしかったから縛り上げて吊るしていたのだが、口数が減って行ったと思ったらこんな調子。
被り物を取り上げてから、特に敵意を向けられるようになった。
大切なんだろうなぁと思ったから、大切にお預かり中である。
「人のものを捕ったりするからだ。剣術出来ないのに刀持っててもしょうがないだろ──ほれ、返しなさい!」
「あれは勝負した上で俺様が手に入れたんだ! もう俺のもんだ!」
鱗滝のもとを追い出されてから特にやることもなく、仕方なしに山の中をうろついていたのだが。
その途中で刀を持っていない鬼殺隊員を発見。話を聞いてみたところ猪頭の人間に勝負を挑まれて負け、刀を奪われたという。
鱗滝には文句を言ってしまったが、もしかして鬼殺隊員の力量水準が落ち過ぎているのかもしれない。炭治郎の今後のことを考えると、あれくらい厳しく鍛えられている方が彼のためなのかも。
情けなさに消沈していた隊員を一先ず街へ追い払い、こうしてラシードが様子を見にきたわけだ。
「勝負の結果なら、負けたこっちが悪いわな」
というより、刀はもう刃こぼれだらけ。返してもらってもあの隊員だって困るだろうし、刀鍛冶が卒倒しそう。
ラシードの反応に気を良くした野生児が、パアッと笑顔を見せる。
「やっとわかったか!」
「じゃ。俺とも勝負しよう」
女子のような綺麗な顔なのに、野性味溢れる凄みを見せていた少年がきょとん、となった。
下から見上げながら、ラシードは両手で抱えた猪頭を掲げる。
「これ、俺から取り返してみせろよ。俺が勝ったんだから、これはいま俺のもんだからな」
「俺は負けてねえ!」
追い抜きざまにひょいっと拝借したものだから、勝負なんてしていない。少年の悔しそうな顔を見上げながら、我ながら無理のある提案だなぁとは思った。
けれども、彼は宝物を取り返したいはずだ。勝負と言わずともこの後のことは想像に容易い。
「その縄には細工がしてあってな。そのうち自然と千切れて自由に動けるようになるよ。暫くはお前の住んでるこの山からは出ないと約束する」
なんせ、暇人ですし。
それだけ言って、背を向けて歩き出す。ぎゃあぎゃあ騒ぎ立てる少年が再び暴れ出した。縄が千切れる時間も短縮する。
あの様子だと、人との交流が一切なかったわけではなさそうだ。けれども、人間社会よりは自然界での生き方に偏った体幹をしていた。
鬼との遭遇もまだだろう。例の鬼殺隊員は、刀を奪われた際に色々と情報を垂れ流している。
山の王を名乗る少年は、力ある者との戦いを楽しんでいた。
彼の周りに、優れたものがいなかった。だから、彼の小さな世界で構成された強さのまま、最終選別や鬼との戦いに臨めば、稀有な才能をみすみす手放すことになる。
実に、勿体ない。
かといって、柱でもない自分にできることは高が知れている。
何よりも、あの少年は独特だ。一先ず追いかけっこなどで叩き上げて、ラシード自身の動きを見せていれば自然と自分の力にするだろう。
「とりあえずは、ひと月──かな」
体重を後方にかけて飛びのくと、怒りの形相の少年の飛び蹴りが宙を切った。うん、やっぱり体の使い方が独特だ。なのにしなやかな筋肉の動き。鱗滝に紹介してあげたい。
「返しやがれ!」
「だから、奪ってみなさいってー」
追いかけてくる相手に合わせた速度で逃げ出す。
思わぬところで暇つぶし──もとい、鍛錬をつける相手を見つけられたことに、ラシードは喜びのあまり拳を高く掲げていた。
──ごっ、と鈍い音と衝撃。
顎に一発食らった少年が白眼を剥いて伸びてしまう。
やっちまった。
物言わぬ相手を見下ろしながら、ごめんね、とラシードは謝る。
仕方がないのでそのまま介抱してやり、火を起こし、川で魚を獲って、山菜もあぶって串焼きにする。
そうこうしていると、匂いで食欲を刺激されたのか、少年が目を覚まして起き上がった。
食うか──と問いかけると無言で寄ってきてかぶりつく。そのまま、もっもっと盛り盛り食べ始めるから、どんどん焼いた。
竹筒に用意していた水を入れ、火の通りやすい山菜を入れてから熱した石を放ると、簡易的な汁物が出来上がる。
様子をしげしげと見ていた少年に頃合いになってから手渡せば、興味深そうに覗き込んでからゴクゴク飲んで、おかわりを所望された。
どうしよう、作るのが楽しくなってきた。いいお嫁さんになれるんじゃないかな自分。
「なんだ、この飲み物! なんか、うめえ!」
「お前が寝てる間に、椎茸で出汁とっといた汁使ってるからな。冷めても熱い石入れればあっためられるわけ。下拵えは肝心なんだよ」
「下拵えすげえな!」
いやお前の方がすげえわ。世話のしがいあるよまったく──がつがつ貪る相手を苦笑いで見つめていたラシードは、猪頭を差し出す。
「強くなってくれるんなら、暫く世話してやるよ。これも返すし」
「あ? 俺が取り返すっつってんだろ! 勝負はまだ着いてないんだぜ!」
だが、飯はよこせ! ──びしっと指差してくるものだから、声を出して笑ってしまう。
そのあとお互い名前を名乗って、一緒に夜空の下ぐーぐー寝て。
ラシードと嘴平伊之助の、突然の共同生活が始まった──。