第1章 オニの妹。(全18話)
夢小説設定
この章の夢小説設定男女主人公にて展開しますが、
別に男の子でも女の子でも好きにお読みください。
両者ともに来日した異国人です。
炭治郎たちと肩を並べて戦えるスタイルではない、
予定(それはほかのサイト様に任せたいな)
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第8話 兄と弟。
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結局、ぼろぼろになった少年──我妻善逸というらしい──は、炎柱でもある煉獄杏寿郎も交えて更にそのまま扱かれることになった。
考え直した方がと手を伸ばしたのだが、食事の準備を頼まれてしまい縋るような視線を見送ることしかできず。
実際生活の場が少々荒れ始めていたのでそこをまず整え、気づいたら夕食の支度に時間をかけられないような時間となり、申し訳程度の簡単な食事で間に合わせた。
あの様子だと善逸の方は食事は無理だろうと思い、薬湯を別に用意しておく。それと、傷の手当ての準備だ。
思った通り、善逸は薬湯をなんとか飲み干してそのまま倒れこむように眠ってしまう。
「桑島様は、彼に随分と熱を入れておられるようだ!」
風呂の準備をしていると、杏寿郎が手伝ってくれた。
火加減を調整していたティアの脇、水を桶に入れて軽々運ぶ青年は楽しそうに笑っている。
「あれが通常の修行風景かと思っていましたが、特別なのですか?」
「彼の脱走はほとんど毎晩だと思う。それを、桑島様は徹底的に阻んでいるようだからな!」
鬼殺隊の隊員は少ない。生存率の方が圧倒的に低いからだ。
補充しようとしても技術が未熟なものを任ずるわけにはいかないから、どんどん育てなければならない。
厳しい修行を前に逃げ出す者など日常的に発生すること。己の上達具合で心が折れて諦めてしまう者だっている。
「結局のところ、自身の心が一番重要なのだ。逃げるものを無理やりやらせ続けることにも限界はある」そ
それならば、新しい気概のある人間を探した方がいい。
ましてや桑島は元柱だ。その指導を受けたい弟子や、出稽古をお願いしたい隊員とて少なからずいる。
その桑島が、逃げの姿勢を崩さない一人の子供をまったく手放すそぶりを見せない。
それが、我妻善逸──杏寿郎はそのことが、とても嬉しいようだ。
その姿が彼自身の弟を見ている時のように見えて、ティアも笑う。
「お兄ちゃんの顔になってますよ、杏寿郎」
「私からすると後輩たちはみな、千寿郎のように可愛い弟のようなものだからな!」
弟をとても大事にしている杏寿郎だが、柱になってからは滅多に帰宅できていないそうだ。過ごすうちに生活も落ち着くのだろうが、柱に割り当てられる任務の難易度は高い。
「千寿郎くん、最終選別に向けて熱心にしていましたよ」
杏寿郎が残した教本を日夜手がかりにして。
炎に目を向けたまま、青年はうん、と頷く。けれど、どこか思うことでもあるのか、元気がないように感じられる。
最終選別は最初の難関だ。やはり、送り出す側としてみれば不安なのだろう。
「人はそれぞれ、身体的な個性がある。兄弟であっても同じ素養を持つわけではない──周りのものからは、私は教導は上手いと言われるが、継子を続けられる者はいないかもしれないと言われてな」
ぱちぱちと、炎から不思議なくらいに涼やかな音。時々驚かせるように爆ぜる音もあるが、今はおとなしい。
杏寿郎は、自分の存在が大切な弟に精神的な不安や焦りを与えているのではないかと思っているようだ。
「自分にできること、やらねばならないことをやってきただけなんだ」
結果、柱にまで上り詰めた。
後進の者に求めるものも、自分のできる事を精一杯やって欲しいという思いだけ。千寿郎にだってそう。
けれども、人と言うのは難しいから、余計なことを考えてしまう。欲、といえば聞こえは悪いかもしれない。ありのままが難しいのだ。
「ティアから見て、千寿郎はどうだ。辛く見えるか」
困った顔で尋ねられて、ティアは思わず笑った。
杏寿郎は素直だから、自分の非をすぐに改めたり──省みる姿勢が微笑ましい。男の子はこういうところは意固地になりやすいし、特に異性の前では隠したい者は多いから。
「あの子は賢い子だから、あなたのようにはなれないとしても努力を惜しまない。あの子の性格上、あなたに対して申し訳ないと思うのは仕方のないことでしょう。──けど、」
じっと聞いている杏寿郎に、うん、と大きく頷いてやる。
「千寿郎くんに先日言っちゃったのです! 杏寿郎も、きっと同じこと思ってますよ〜って! もう、力一杯言い切りまして‼︎」
杏寿郎の目がまん丸になった。
千寿郎も、ティアに相談していたのだとわかったはすだ。兄ができの悪い自分に対して、申し訳なさを抱いたりしていないかと。
固まっている青年の隣で、ふふふ、とティアは悪戯っぽく笑う。
「本当に妬けますね、お互い大好きなんだから!」
「……よもや、ティアに教えられるとは」
「よもや?」
はにかみを見せる杏寿郎の用いた言葉、ティアは聞き覚えがなくて首をかしげる。よもや、とは何だろう。
こういう時はすぐに解説してくれるのに、杏寿郎はただスッキリしたような顔でにこにこして。
「話を聞いてくれてありがとう、ティア! 千寿郎もすっかり世話になっているな!」
「力になれたのなら何よりです!」
すっかり良い湯加減になった風呂に浸かってもらおうと、知らせに行ってしまった大きな背中。
もうすぐ十八年の年を重ねる頃合、立派な成人だが人生経験は多くない。相談する相手も彼の立場となると限られてくるだろう。
鬼殺隊と同じような目的を持ち、隊員というわけではないティアの立場だから話せたのかもしれない。
杏寿郎を見送りかけたティアは、体を拭くものを用意していないのに気づいて慌てて後を追うのだった。