運命編ハロウィン令和版(手直し中)
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
# 起:台詞の代償①
待機場所に用意されているソファにどっかり腰掛けながら、ラシードは台本をめくっていた。
予習はしてきたし、台詞は自分の言葉に置き換えていいわけだから、流れと要点のみ押さえておけばなんとかなる。
こんなアバウトな撮影など、この番組企画くらいだろう。「機動戦士ガン○ムSEED DESTINY」。
「早いじゃないか、ラシード」
「はよー、アスラン」
まだ誰も来ていない待機室にやってきたのはアスランだった。彼は私物ロッカーに手をかけながら、「そういえば」と切り出す。
「今日はティアやキラたちとは撮影場所が違うそうだぞ」
えー、とラシードは眉を寄せた。
せっかく夜鍋してお菓子を作って来たというのに、それでは振る舞えないではないか。お菓子が大好きなステラには彼女仕様の味付けまでしてきたというのに。
渋るような顔をする姿に、アスランは苦笑する。
「おはよーお前ら」そこへ、大きな欠伸をしながら入って来たのはミゲルだった。目に涙をうっすらさせながら、中の二人に挨拶をしてくる。もちろん、ラシードたちもそれに答えて。
そんなミゲルの背中を、「みっともない!」とどついたのはヴォルトだ。身長差があるというのに、ミゲルの方が尻に敷かれている。
とはいっても、ミゲルは好きで相手のペースに乗ってやっているのだが。SEEDが始まる時間軸より前。アスランたちよりひと世代前の士官アカデミーの舞台で活躍する二人。
SEED運命編ではミゲルは回想シーンのみの登場だか、主題歌や挿入歌で相変わらず活躍している。ヴォルトはシンたちの士官アカデミーの教官として続投したりしているが、やはり物語開始前の話。
外伝的な部分の主軸とは言え、作品の脇を固める重要な役回りだ。
「アスランのいうことが本当なら、シンはあっちかな。クッキー作ってきてあげたのに」
「なら、それはオレの腹が責任をもってやアアアァ」
ミゲルの独占欲に、教官様の回し蹴りが決まった。顔面に痣ができても問題ない役どころだとは言え、なかなかにバイオレンス。
倒れ伏すミゲルを見下ろしてから、ヴォルトは呆れたため息を吐きながら紙袋を差し出してくる。
「僕は明日、別の撮影で移動になるから。悪いけどラシード預かってよ」
「おう。フラガんとこ寄るつもりだったから別にいいぞ」
親元から離れて仕事をしているステラたちを、フラガの事務所が預かっており大所帯なのだ。お菓子を持っていけば貰い手に困ることはないが、目当てがいるかは別問題。
最悪、フラガの胃袋に収まるだろうが。「マリューさんのお茶請けにしてもらえると考えればいいかな」残念そうにしながらもヴォルトは了承する。
そのうち、わらわらと今日のメンバーがそろい始めた。このスペースは男性陣しかいないが、別室に女子の溜まり場もあり、時間になったら各自大部屋へ移動することになっている。
一足先に移動しようと、ラシードが重い腰をあげたところで、しっかり着替え終えたイザークが呼び止めた。
「ラクスとニコルは演奏会の関係で遅れるそうだぞ」
「じゃあ、カーグもいないわけな」
カーグ・リンドヴォーグは雑誌モデルだったのだが、清楚系アイドルであるラクスが幼馴染であることを公言したあたりから最近引っ張りだこである。
普段は寡黙なのに様々なジャンルの歌を完璧に歌ってしまうそのギャップにやられる女性陣が多いのだ。本人はラクスからの無茶振りに答えていただけなので困惑しているが。
「そういえば、チャリティーコンサートが近いとかニコル言ってたよなー?」
「ああ。撮影中でなければ応援に行ってやりたかったが、仕方あるまい」
衆目の前で自分の幼馴染の歌うまを披露するのでご機嫌だろうラクスのことを思うと笑ってしまう。でも彼女はわかっているのだろうか。その幼馴染が人気者になったらなったで、その恋路が前途多難であるということを。
まあ、知ったことではないか──ラシードは室内の顔ぶれを見回す。
ミゲルの服装がきちんとなっていないのを、文句をいいながら直してやっているヴォルト。
ぐずぐず支度をしているシャニの着替えを手伝ってやっているアスランに、読書中のオルガの後ろからそれを覗き込んで、ちょっかいを出しているアウル。
うむ。男性陣は一応そろっているようだ──いや、後一人足りない、か。
「おーい、アスラン! お前のオトンはまだ来ないのか?」
地球軍の軍服を片手に、顔だけ振り返ったアスランは首を振った。一緒にここまでは来めたらしいが、以降の動向は掴めないという。
パトリック・ザラは役者というわけではなく、映像のチェックなど政策──もとい、制作スタッフ側なので控え室が違う。
それでも、本日の指針については律儀に毎回声掛けに来てくれる時間は当に過ぎていた。ティアたちが突如撮影場所が変わったのも何か関係があるのだろう。
「ちょっと先に行くわ。イザーク、点呼任せた!」
イザークから了承の返事を受けながら、廊下を出る。集合場所である大広間に行けば、誰かしら居場所を把握しているだろう。
総監督としてはギルバート・デュランダル。助監督にムルタ・アズラエルとロード・ジブリールがいる。
SEED時代はシーゲルが総監督、パトリックが助監督を務めていた。その頃の縁で、ラシードとティアはことあるごとにユニットを組んで歌手活動やらタレント活動やらを続け、SEED仲間たちを巻き込んでお茶の間を楽しませている。
特殊技能持ちの自分達を役者世界に引き込んでくれたシーゲルたちには頭が上がらないから、今回も引き受けたのだけど。この三人のメンツがまた濃いのだ。
パトリックの心労が毎回気になってしまう。シーゲルは現在病気療養中だから監督の任を降りてしまっており、まともに現場をとりしきれるのはパトリックただ一人なのだ。
何も監督連中たちだけの問題というわけではないのだが──角を曲がったところで、ラシードは思わず足を止めていた。しまった、油断した。
「あ、おっはよー! ラシード!」
甲高い声をあげて、大きく手を振るのはミーア・キャンベルだった。彼女の隣にはルナマリア・ホーク。彼女はミーアに比べれば低いテンションで「おはよう」と朝の決まり文句。
朝から元気すぎるミーアに気後れしながら、ラシードは二人に挨拶を返す。ルナマリアの妹であるメイリンがいないから、本日はティアの方にいっているんだろうか。
「一昨日のアスランの誕生日はよく盛り上がったよね! わたしってば、次の日危うく寝過ごしちゃうところだったんだから~」
「感謝してよねぇ。私がモーニングコールしてあげたんだから」
女子トークにはついていけません。耳を両手で思い切り塞ぎながら、ラシードはため息を我慢する。と、そこへちょうど別室から出て来たパトリックの姿。天の助け!
「ぱと──ぐえ」すかさず男の背中を叩こうとしたのだが、「ちゃんと聞いてよラシード!」と飛びついてきたミーアに首を締め付けられて声も出せない。
けれども、その声に含まれていた名前に反応したパトリックが、ばっと振り返ってくれた。ありがとうデコッパチ!
ただ、相手のその顔色は、どこか悪い。
なんか、嫌な予感──。
その場で告げられたのは監督3名の不慮の事故。
それぞれ別々にこの場所へ向かっていたはずなのに、3人が事故にあった時刻はほぼ同時刻だった。
もしかしなくても胡散くさい。
「なんだそれ、陣頭指揮取るやつらがボイコット?」
あの三人ならやりかねない。
アズラエルだったら「飽きちゃった」で片付けそうだし、ジブリールは「やっぱり変形型ロボットをもっと出しましょう! 大きければ大きいほどいいですね!」とか言い出して、またメカニックデザイナーを泣かし始めそうだし。
デュランダルは「親睦を深めるためにこれからハイキングににいかないか!」など思いつきばかりの行動をする上、なんだかんだ自分のわがまま通す話術を繰り返され続けたため、あのステラですら最近は引き気味だ。
これは何かを起こす前振りにしか思えない。しかもここまで考えて気づいてしまった。
アズラエルが一番まともだ!!
「さすがにそれは……」パトリックは、とても自信がなさそうに言葉を発しながら尻切れトンボ。こめかみをおさえながら、改めて確認してくるといって足早に外へ出ていった。
まともな大人っていまパトリック以外にいるのかな──そう思うと頭痛が。いや、物理的にこめかみを襲う鋭い痛みに、ラシードは悲鳴をあげながらその場に膝をついた。目の前にはミーアたちの足。
「お……お前らな、紛らわしいタイミングでぐり○り光線はやめろっ」
「だって、ラシードが話聞いてくんなんだもーん!」
両手を腰にやって唇を尖らせるミーアの脇。
肩幅の位置で両拳を軽く握り、それぞれの人差し指の第二間接外側を、交互に他者のこめかみに押し付けることで生み出す破壊力をお見舞いしたルナマリアが、したり顔で見下ろしてくる。
「私ひとりにこの子の相手させるからいけないのよ」
「厄介そうな話を、いま、聞いてたよな?」
口元を引き攣らせながら理不尽を訴えたのだが、ルナマリアはぷんとそっぽ向いてしまった。ミーアの弾丸トークがBGMだ。
とりあえず、ラシードは仲間たちを集めて、パトリックが戻ってくるのを待つことにする。ひとまず考えなければならないのは、撮影をいるメンバーで続行するか、否かなのである。
それによって撮影スケジュールも延びるのだ。ラシードたちとて種の撮影だけではないのだから。
(つづく)
1/2ページ