雪の消える朝に


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「私の運命は--冬と共に…」


吹雪に消える間際に粉雪が呟いた言葉が、頭から離れない。

あの後、どこを探しても粉雪が見つからなかった。

広大な雪山のどこにも彼女の気配が無かったのだ。

恐らくは雪の下に隠れてしまったのだろうが、いったい何故?

贈り物を喜んでくれたはずなのに。

粉雪を捜すのを諦め、仕方なく自分の里に帰り着いた緋翼だが、彼女の事がいつも以上に頭から離れなかった。

熔岩の川が流れる灼熱の草原に背中を預けて横たわり、見上げるのは赤い空。

粉雪が手にした曼珠沙華とよく似た色で、なのに全く違うもの。

「粉雪…」

胸に抱く愛情の一部を口にした途端の出来事。

拒絶のような彼女の悲しげな表情を思い出し、不安と苛立ちに苛まれた。

嫌われている気配など無かったはずなのに。

何故突然姿を隠したのか、何故あんな悲しい表情を見せたのか…なら何故、花を捧げた時に、恋をしているかのように頬を朱に染めて微笑んだのか。

「…」

このままでは気が休まらない。

決心を固めるかのように、緋翼は立ち上がり、再び空に舞い上がる。

このままなど許さない。

もう一度自分の気持ちを伝えようと、再び彼女の元へ向かう。

炎は雪に恋をした。


その結末を知りに行く。


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白い白い世界に、赤い染みが一つ。

血を散らせたように咲く曼珠沙華。

緋翼から捧げられた花を胸に抱きながら、粉雪は積もった雪の中に身を沈めていた。

力強いその花は緋翼の香りがするようで、胸が痺れるような疼きを持ち続ける。

でも…逃げてしまった。


『私の運命は--冬と共に…』


それが粉雪の生涯だ。

冬と共にある、その理由は…いずれ、わかること。

かつても、人と恋に落ちた雪の聖霊達はいた。

だが雪の聖霊は皆、死んだ。

悲劇ばかりの感情だと、記憶の底で息づく心。

特に、炎に身を委ねることなど有り得ない。

--もう逢わないでおこう…

曼珠沙華を胸に抱きしめながら、粉雪は一滴涙を零した…その時だった。

「----っ!?」

山の一角で雪の崩れる音が聞こえて、粉雪は慌てて雪の中から姿を現す。

雪の止んだ雪山に、日の光が眩しい。

雪が崩れたのは本当に端の方ではあった。が、

「…どう…して?」

粉雪は気付いてしまう。

澄んだ空気に、直接熱を与えるように降り注ぐ太陽光。

風の向きもいつの間にか変わっている。

それは冬の終わりを告げる合図。

雪はもう降らない。

早すぎる終わりに、粉雪はただ呆然と膝を付いた。

冬の季節は、まだ続くはずなのに。

そう考えて、ふと気付く。

自分の姿。

‘娘’の姿に。

元来、人の子に‘雪女’などと畏れられるように、冬の聖霊の姿は美しい人の姿に留まるはずなのだ。だが粉雪は‘娘’の姿で成長を終えてしまった。

「私…は」

今年の冬は例年よりも早くに春が訪れ、温かな陽射しがじきに眠る生命達を起こしに来る。

そして粉雪の役目が終わる。

「緋翼…様」

気付いてしまった早すぎる‘来るべき未来’に、粉雪は口元を強く押さえ、知らぬうちに緋翼の名前を呟いていた。

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幾度目かの雪山を照らす温かな太陽の光に、緋翼は一種の違和感を感じていた。

何かがいつもと違う…はたして美しい雪はいつまた降るのだろうか?

そして辺りを探れど肝心の娘はいない。

「…粉雪、どこにいるのですか?」

強い口調で呼びかけてみるが、やはり返答は無かった。

静かな山に緋翼の声が響くだけ。

虚しく、苦しく。

「粉雪!」

もう一度呼ぶが、また静寂が訪れる。

苛立ちがつのるようだった。

気配は感じるのに、どこにもいない。

何故そこまで拒絶されるのかもわからない。

--愛しているのに

「いい加減姿を見せてください!」

焦りが胸を苛み、大声を発したその時だった。

荒くなる口調に、雪山の一角が轟音と共に崩れ落ちた。

「っ!?」

緋翼は目を疑う。

一体どういう事だ?

いくら炎の纏う声だとしても、離れた場所から影響を及ぼすとは思えないのに。

「---…」

嫌な汗が頬を伝う。

温かな太陽と、雪を降らす気配を見せない雲。

風の流れも異なっていることくらい緋翼でも気付いている。

「--粉雪!今すぐ姿を見せなさい!」

まさか、そう思った。

まだ雪の止む時期ではないはずだ。

まだ春は訪れないはず。

「粉雪!」

叫んで、また雪山の一角が崩れ去った。

それでも堪えられず、緋翼は再々度彼女の名前を叫ぼうとして

「---緋翼、様…」

ようやく姿を現す、愛しい娘。

白い雪の上に浮かぶ白い粉雪。雪に紛れてしまうほどはかない姿に、今更ながら背筋を奮わせた。

否、それ以上に…

俯く粉雪は緋翼を見ようとはしない。

今すぐ抱きしめて無理矢理にでもその瞳に自分を映したいのに、見えない境界線に阻まれて近付くことすら叶わない。

炎が雪を溶かさないギリギリの境界線。

それを越えれば、全てが終わってしまう。

愛しい娘を殺すことになってしまう。

どうすることも出来ず、緋翼が唇を噛んだその時だった。

「---…もう…来ないでください」

静寂の中をこだまする、鈴を転がしたような清廉の声。

紡がれた意味は、拒絶。

緋翼は返答する為に何か言葉を発そうとしたが、声にはならなかった。

喉の奥が重力に押し潰されているかのような錯覚。

同時に胸の奥も潰してしまったかのような、悲しい痛み。

緋翼が真っ直ぐに見つめる粉雪は俯いたまま両手で顔を隠し、緋翼を見ないようにしていて。

「私、は…」

掠れる声を捻り出して、緋翼がようやく言葉にする内容は

「私は貴女が…」

こちらを向かない娘へ、切実な思いを。

「…貴女を、愛しています」

焦がれる思いに囚われた心を口にする。

それでも…

「お気付きのはずです…じきに春が訪れます」

捧げる愛を拒まれる。それがどれだけ苦しいかを、初めて知る。

緋翼は、今まであらゆる‘悪’人の魂を地獄へ届けてきた。

そこには多くの愛も、愛から生まれた憎しみもあった。

最愛の者の名を叫び続ける魂も見てきた。

それを、ずっと理解出来なかった。

だが今なら理解出来る。

心の奥底から、魂から叫ぶ思い。

それはどうしようもないほど肥大した恋心。

「私は、貴方様を愛することは出来ません…どうか私の事など忘れてください…」

肥大しすぎて、受け入れられないほどの。

「ならまた次の冬を待つ!貴女に出会えるなら、私はいくらでも待ち続けられる!」

身体を取り巻く炎の渦が強くなるほどの絶叫じみた言葉。

どうか知って、受け入れて。

「私が生きる冬は‘今’だけなのです!!」

だが、粉雪の苦しい心も悲鳴を上げた。

理解出来ずに眉をひそめる緋翼に、絶望は囁かれる。

「な、に?」

「冬山を守る使命が終われば、私の生きる意味もありません。私は…春の訪れと共に消える運命なのです。…次の冬に生まれる‘雪’は、私ではありません」

軋む魂が二つ。

ようやく粉雪が緋翼を見上げた。

見上げて、見下ろして。

互いに絡ませ会う瞳に、未来が見えない。

緋翼の表情が引き攣るのが粉雪には見え、粉雪が涙を零すのを緋翼は見た。

「だからどうかお願いです…私の事は忘れてください…」

震え、かすれる言葉。

切実な姿。

それが、近い将来に消え失せる。

「…嫌です…貴女を失うなど」

そんな未来は受け入れない。

「今年は例年よりも春が早く訪れるだけ。そうでなかったとしても、私はどのみち無くなるのです」

「ならば春など殺してしまえばいい!夏も秋も!貴女が生きられる冬だけをこの山にもたらせばいい!」

幾度目かの叫びにまた雪が崩れた。

ビクリと怯えるように粉雪の肩が震え、その姿に緋翼は我に返る。

怯えさせるつもりなど無いのに、通じない思いに苛立ちが溢れ出して止まらないのだ。

どうあがいても、触れる事すら叶わない雪に恋をした事実を変えられない。

なら、せめて見つめ続けていたいと、言葉を交わしたいと願うのに。それすら無くなる事実が憎い。

「私にとって…貴女は奇跡です…貴女と出会い、あらゆる喜びを知りました。…貴女以上の奇跡など…有り得ない!」

叫ばなければ、この身が持たなくなっている。

冬を押し退け訪れる春が憎い。

粉雪に触れられ、抱かれて眠る冬山の生命達が憎い。

何よりも、炎として生まれた自分が憎い。

火車の長命が憎い、雪が冬の間しか生きていられないよう造った神が憎い。全てが憎くてたまらない。

「愛して…います……」

どれだけ伝えても通じることを許さないこの‘世界’が憎い。

あれほど美しいと思っていた世界が、愛一つで一変した。

「…緋翼様…」

空中に留まり身体を震わせる緋翼の心を、粉雪は受け入れない。

緋翼が火車としての使命を果たさなければならないように、粉雪も春が雪を押し退けるその日まで、眠る生命達を守り続ける使命がある。

「御慕い申しております…私にとっても、貴方様は奇跡そのものでした。白い世界に色を燈してくださったのですから。私は幸せです。だから…貴方様はまだ生きていくのですから…有り得ないなど言わないで…」

消えてしまいそうな声で囁いて、苦痛を我慢するように粉雪は涙が再びこぼれてしまうのを堪える。

胸が苦しい。どうしようもないほど、えぐり取りたくなるほど。

「なら…せめて貴女が消えてしまうまで…ここにいさせてください…」

互いの心が軋んでいた。

粉雪が欲しくて、

緋翼を拒絶出来なくて。

「ですが…」

「お願いです…もし粉雪も私を好いてくれているのなら…一人置き去りにされる私の願いを聞き入れてほしい」

悲しい微笑みを浮かべ、それでも諦められずに願う緋翼に、粉雪が否と答えられるはずがなかった。

肩を小さくして、震えるようにわずかに頷く。

「私も愛しております…緋翼様…」

互いに触れられず、互いの別れを知りながら。

炎と雪が苦しみを胸に抱いて、触れられぬままに結ばれる。


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頭のどこかでは気付いていた。

炎が度々雪に逢いに行けばどうなってしまうのかを。

だか考えないようにしていた。

否、考える時間など無かった。

それほどまでに粉雪に夢中になってしまっていたから。

炎の里と雪山までの長すぎる距離に阻まれて数度しか逢えなかったとしても、心は雪山に囚われ、いつも共にあったといってもいいほど。


頬を朱に染めて笑う姿が好きだった。

灰色の瞳に赤い自分が映っているのが嬉しかった。

耳に心地良い声が幸せだった。

出会えた事が奇跡であると心から思えるほど、愛しかった。

だから考える時間など無かった。

炎が冬を裂きながら雪山に進む。その軌道に乗って春も共に訪れていた事実を。


もう、ここから離れない。

粉雪の傍を離れない。

それが、心を歪ませた緋翼にとっての最良の選択。

粉雪には伝えないまま、聞こえないように囁く。


 「--共に果てよう--」

と。

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毎日のように日の出があり、日の入りで終わっていく。

じわりじわりと温もりを燈していく太陽と風の熱に、雪解け水が川を作って少しずつ生命達を起こしていった。

麗らかな日々。

人の子達は元気にはしゃぎまわり、残る雪の冷たさに霜焼けを作りながら遊び続ける。

粉雪と出会う前の緋翼ならそんな春の訪れも素敵で、世界が輝いて見えたはずだ。

しかし今は、ただの灰色にしか映らない。

日増しに粉雪が弱まっていく。

呼びかけみても、返答すら苦しげで。

何故、春は訪れるのだろう?

あらゆる生命が春を求める。

春を願い、その訪れを心待ちにする。

緋翼の愛する娘が死ぬ春を。

憎くて、やるせなくて。

それなのに…憎みきれない自分もいた。

‘あの日’以来、緋翼は己の仕事も手にしようとはしなかった。

ただ静かに、粉雪の傍に。

そうすると、どうなるか?

己の使命を全うしない存在に、世界は力を与えない。

緋翼の身体もまた、粉雪と同様に力を、炎を失いつつあった。

緋翼から完全に炎が失われれば、緋翼は死ぬ。

しかし、緋翼はそれを選んだ。

それでいいと思えた。

愚かだと嘲笑う者もいるだろうが、それでも緋翼には幸福だった。

聖霊と、またはもののけと呼ばれる自分達が向かう死後の世界でなら、きっと粉雪に触れられるはずだから。


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「…粉雪」

日の沈み、満月の月が照らし出す山の下。

両手いっばいに春の花を摘んだ緋翼は愛しい少女の名前を呼んだ。

花は山から少し離れた場所に咲き始めていた可愛らしいもので、かつて緋翼が贈った曼珠沙華のような強い姿とは別の、粉雪に似た淡い存在。

力の弱まった緋翼だからこそ燃やせずに摘み取れた花達だ。

「…粉雪?」

山はすでにほとんどの雪を失っている。

粉雪の存在がかすれてしまうほどに。

「粉雪、見てください…とても綺麗な花が咲いていましたよ…」

嗚呼、視界が霞む。

力を無くし始めてから、極端に視力も低下した。

もう空も飛べないだろう。

「こ、」

「緋翼、様…」

薄闇のせいでよく見えなくて手探りをする緋翼の耳に、ようやく届く娘の声。

ひどく弱まってしまった粉雪の声。

その姿も、幽鬼のように見るも無残に変わり果てた。

「…よかった…まだ、生きてくれていた…」

心からの安堵の言葉。

しかし粉雪の表情は悲しげだった。

緋翼にはもう確認できない表情だが。

「…ごめんなさい……」

その粉雪が、今にも消えてしまいそうな声で謝罪をする。

「粉雪?」

「ごめんなさい…緋翼様…」

静かに降り積もる雪のように微かな声。

聴覚も擦り切れ始める緋翼には、きちんと聞き取ることが難しかったが。

緋翼はただ嬉しかったのだろう。

触れられないにしても、力を失っていく身体のお陰で、本当に近くまで傍に寄れるようになったのだから。

…粉雪を苦しめている事にも気付けないまま。

「ごめんなさい…」

何度も何度も呟かれる謝罪。

緋翼の炎が弱まっている事実に気付いてから、ずっと。

「---あ…」

どうやら、時が来たようだった。

ふわりと羽が舞い落ちるように、粉雪の右腕が落ちて消えていく。

「粉雪…?」

霞む視界の中で、緋翼は粉雪の身体が淡く発光するのを見た。

それは、消えていく腕が月の光を浴びて輝く様子。

「粉ゆ…」

「緋翼様…」

綺麗だ、そう思った直後に感じるのは消えゆく気配。

嫌だ、まだ、離れたくなどない。

花を受け取って

また愛らしい微笑みを見せて

愛していると言って


「こなゆきっ…」

よろめく足で駆け寄る。

まだ嫌だ

もっと

もっと一緒に


「--お願いです…どうか生きて下さい…」

緋翼の目に映る、輝きに包まれる粉雪。

強く両腕を伸ばして、その身体を捕らえようとして


「―……‥・・ ・ 」


消えた雪の娘

雪解けの土の上、緋翼は腕を伸ばした姿のまま倒れ伏して。

見上げる、夜明けの月明かり

淡い輝きが春の空に溶け消えた。


「あ、ああ…っ」


身体に力が入らない

「ああああああああっっ!!!」

立ち上がれない。

何かが胸を引き裂き続ける

痛い 痛い 痛い痛い痛い痛い

絶叫が喉を焼く

涙が嵐のように零れて、

緋翼は幼子のようにがむしゃらに泣いた。


『 どうか生きて 』


どうやって?

生き方なんて知らない

ここには粉雪がいない


もう 心に生きる術は無い

身体に力は入らなくて

ただ、願う

誰か、この潰れた心臓にとどめを刺して

何もかも いらない

彼女以外 何も必要無い


虚無が全身を襲い、緋翼は静かに目を閉じる。

瞼の裏に張り付いた粉雪を思い返して


『 どうか生きて 』


残された、最期の言葉に…

思い出すのは、嬉しすぎた出来事と、悲しすぎた出来事。

花を贈った時に見せてくれた、愛らしい姿。

初めて逢った時からの短すぎた恋。

長命の緋翼にとって、ほんの刹那の恋。

別れを知り何もかもに絶望しながら、何もかもを憎みながら…それでも美しかった‘世界’

――…そうだ

粉雪と初めて出会った時も、初めて恋心を理解した時も、悲しみに苛まれた時も

世界は輝いていた。

粉雪も見上げた夜空

受け取ってくれた曼珠沙華

愛してくれた娘が守り抜いた、冬山の命達。

皆みんな、憎いほどに美しかった。



開いた視界

春の訪れを告げるかのような朝日は‘綺麗’すぎた――


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「――う、わっ…」

吹雪が全てを飲み込む雪山で、雪の聖霊である少女が一人、つるりと凍った岩に足を取られてしたたかに腰を打ち付けた。

痛くてたまらなかったが、少女はぐっとこらえてすぐに立ち上がる。

じくじくと鈍く痛む腰を押さえていると、ふと頭上を一瞬だけ温もりが通りすぎるのに気付いた。

「…?」

何だろう、と吹雪の空を見上れば、雪とは異なる赤い花が一本、少女の元に落ちてきて。

それは、見たことのある花だった。

強い見た目とは裏腹に、優しい温もりに包まれているかのような花。

少女が産まれたこの雪山のずっと深くに、同じ花が飾られているのだ。

おそらくは歴代の聖霊の誰かがもらった大切な花。

少女は花を胸に抱いて、もう一度空を見上げた。

そうすれば、ずっとずっと遠い空を飛ぶ炎の聖霊の軌跡を見つけて。

雪にとって恐ろしいはずの炎。

なのに恐怖など微塵も感じなかった。

ただ、その花は何かとても大切な意味を秘めているような気がして。

少女は花を離さないようにしっかり胸に抱くと、背中から雪にもたれかかり、同じ花が飾られている場所まで沈んだ。

赤い花。

ひっそりと寂しく飾られた花の隣。

少女は花が寄り添い合えるように隣に並べる。

一本だった花を一つに。

一人ぼっちだった存在を二人に。


すると、何故か二つの花が幸せそうに笑った気がして


少女、胸が温かくなるような優しい気持ちを、ただ静かに感じたのだ。
 


 
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